不動産の共有解消法 中條レポートNo284

令和5年4月施行の改正民法第262条の2および第262条の3は、所在不明共有者の持分に関する新たな制度を規定しており、不動産の適切な利用と共有者間のトラブル解消を目的としています。この改正は、従来の「所有権絶対」の原則を見直し、共有物の管理や利用の円滑化を図り、不動産の実用性向上に大きく寄与するものといえます。

まず、第262条の2では、所在不明の共有者がいる場合に、その持分を他の共有者が取得できる仕組みが定められています。この制度は、共有物の利用や処分が所在不明共有者の存在によって妨げられる事態を解消するためのものです。具体的には、他の共有者が家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所が必要性や妥当性を審査した上で、その持分を取得する許可を出すことが可能となりました。

次に、第262条の3では、所在不明共有者の持分譲渡に関する規定が整備されました。裁判所の許可を得ることで、所在不明共有者の持分を他の共有者に譲渡することが可能になり、共有者間の合意形成や共有物の円滑な管理が進めやすくなります。

これらの改正は、共有状態の課題を解消し、不動産の有効活用を目指す制度的な進歩を示しています。裁判所の関与によって、共有者間のトラブルを公平かつ迅速に解決できる仕組みが整備されると同時に、共有者が所在不明共有者に縛られることなく、不動産を活用できる環境が整いました。また、共有者全員の利益を調整しながら、利用価値を損なうことなく共有物の管理・処分が行えるようになった点も画期的といえます。

この改正により、共有者は公平な手続を通じて合理的に持分を取得または譲渡できるため、共有状態が生む不便や不利益が軽減されることが期待されます。
また、不動産が共有のまま放置されることで生じる社会的損失や、トラブルが防止される意義も大きいです。

 

まとめると、改正民法第262条の2および第262条の3は、所有権の在り方を社会的責任や実用性の観点から再定義し、不動産の有効活用を推進するための重要な一歩といえます。

この改正を通じて、不動産の適切な管理と利用が促進され、共有状態による課題が緩和されることで、共有者全員にとってより公平で利便性の高い制度が実現しました。

最後のラブレター 野口レポートNo340

誰が相続人になるのか、相続分の割合はどうなのか、これは法律で決まっています。そして順番があります。先順位がいれば後順位の人は相続人にはなれません。第1順位⇒子と配偶者、第2順位⇒父母等の直系尊属と配偶者、第3順位⇒兄弟姉妹と配偶者。配偶者は相続分こそ違えどこの順位でも常に相続人となります。

相続分は法律で決まっていますが、遺産分割協議で相続人全員が合意すればどんな分け方をしても有効です。

また遺言があれば法定相続に優先します。だが、相続人には一定の遺留分が保障されています。遺留分を侵害している遺言や生前贈与に対し権利を行使すれば取り戻すことができます。ちなみに第3順位の兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。

遺留分は侵害されたことを知った時から1年、知らなくても相続開始から10年で時効となり請求権は消滅します。また期限内に遺留分侵害額の請求をすれば時効は中断します。

遺留分侵害額請求の内容証明は弁護士からきます。相手が弁護士を立てたなら、こちらも弁護士を立てるでしょう。相続が法律問題になってしまう所以です。この内容証明は宣戦布告にも等しく、相手に届いた瞬間に家族の絆を失います。ゆえに遺言と遺留分対策は一体で考える必要があります。

ご主人が亡くなり、相続人は奥様とご主人の兄弟姉妹です。兄弟姉妹は5人います。全員が健在で代襲相続人はいません。

相続人に回答書を送ります。①相続分を放棄します。②相続分を相続したい。③その他のご希望ご意見。この回答書に手紙を添えます。「〇〇様はご主人に先立たれ、これからの老後を一人で暮らしていかなければなりません。頼れるのは預貯金です。どうかそれらの事情もお察しいただき回答を頂戴できればありがたく思います。」全員から相続分を放棄するとの回答をいただきました。

このあと類似した案件の依頼をAさんから受けました。前案件と違うところは亡きご主人の兄弟姉妹はすでに全員が亡くなっており、Aさんとは疎遠のオイ・メイ(代襲相続人)が12人います。

代襲者には棚ボタ財産です。同じ手紙と回答書を送りました。全員から「相続分を相続したい」と回答がきました。譲ってくれる人はいませんでした。寂しい話ですがこれも相続の現実です。

Aさんの相続分は4分の3です。だが財産構成のなかで一番のボリュームを占める自宅を相続するので、老後の糧である預貯金は多くを相続できません。他の相続人にいってしまいます。

兄弟姉妹には遺留分の権利がありません。遺言があれば夫の財産は妻が全部相続できます。「もし遺言があったなら」相続の実務家は、こんな思いを何度もしていることでしょう。

長い間連れ添ってきた妻は、何よりも代えがたくありがたい存在です。遺言は夫から妻へ感謝を表す最後のラブレターです。