相続と「10年」ルール 中條レポートNo289

近年の相続法の改正により、「10年」という期間が重要な意味を持つようになりました。相続に関係する制度は複雑に見えますが、基本的なルールを理解することで、将来のトラブルを防ぐことができます。今回は、この「10年ルール」のポイントを分かりやすくご説明します。

■ 相続法の改正で「10年」が分かれ目に
令和元年の民法改正により、相続開始後10年が経過すると「寄与分」や「特別受益」の主張ができなくなりました。

たとえば、長年、親の介護をしてきた相続人が、「自分には寄与分がある」と主張する場合。

生前に他の相続人が多額の贈与(特別受益)を受けていたことを考慮して、遺産を公平に分けたい場合

これらはいずれも、相続開始から10年以内に主張しなければなりません。10年を過ぎると、こうした公平調整の請求は法律上認められなくなります。

■ 遺留分請求でも「10年前」までが限界
遺留分とは、相続人の最低限の取り分です。遺言などによって不公平な分け方がされた場合でも、遺留分を侵害された相続人は一定の金額を請求できます。

しかし、このとき相手の受けた「特別受益」(生前贈与)を主張して取り分の調整を求めるには、原則その贈与が相続開始前10年以内のものでなければなりません。

つまり、「10年以上前に渡された贈与」については、他人の特別受益としては考慮されないのです。

■ 自分が受けた特別受益は10年を超えても対象に
一方で、自分自身が受けた贈与については、何年前であっても「特別受益」として持ち戻して計算される可能性があります。たとえば、20年前に親から住宅購入資金をもらっていた場合、これも遺産分割の際に考慮されることがあります。

つまり、他人の贈与には期限があるのに、自分の贈与には期限がないという、少し不公平に感じるかもしれませんが、これが現在のルールです。

■ 相続税では「7年」が持ち戻し期間
税法上も注意が必要です。令和6年の相続税法改正により、生前贈与が相続税の課税対象に戻される期間が延長されました。以前は「3年以内」でしたが、現在は**「7年以内」**の贈与について、相続財産に加算されることになりました。

したがって、贈与によって相続税を軽くしようと考えても、7年以内の贈与は原則として相続税の計算対象となります。

■ おわりに
このように、民法と税法でそれぞれ異なる「年数のルール」が存在します。
民法:10年で権利主張に制限
税法:7年で課税対象に持ち戻し

贈与や相続に関しては、「いつ」「誰に」「どのような目的で」行ったかを記録しておくことが重要です。制度の理解と早めの対策が、将来の相続トラブルを未然に防ぐ鍵になります。

借地の建物登記は必須 野口レポートNo345

借地借家法が適用される土地賃貸借契約には大前提があります。それは「建物所有を目的とする」こと、「建物所有者と借地契約者が一致している」ことです。資材置場や駐車場のような土地賃貸借契約は、借地借家法の適用はなく、契約にもとづき事前に通告しておけば土地を明け渡してもらうことができます。

以前ある地主さんから相談を受けました。地方(栃木)にある土地を資材置き場として貸してあるが、無断で上げ床を作られてしまった。このままにしておいてよいのかとの相談です。

栃木まで現状を確認に行きました。土地の中央に上げ床があり、柱まで立っています。屋根をかけられ壁で囲まれてしまったら建物とみなされる可能性があります。まずいことに契約書は「建物所有を目的とする」との記載がある市販の土地賃貸借契約書を使っています。構築物が建物とみなされ借地借家法が適用されてしまったら、簡単には出ていってもらえません。

幸いに借主が悪質な人ではなく、土地賃貸借の知識に欠けていたがためであり、数回のやりとりのあと撤去してくれました。

遠隔地の不動産は目が届きません。地場の不動産業者に管理を委託しておくか、隣の住人へあいさつし、盆暮れには中元歳暮を贈っておくことです。もし何かあったら電話をくれるでしょう。

借地権の登記は地主に協力義務がないため普通は登記をしません。登記がなければ借地人の権利は不安定となります。地主が底地を第三者に売ってしまったら、借地人は新たな土地所有者に借地権を対抗(主張)できません。出ていけと言われたら、家を取り壊し出ていくしかありません。それではあまりにも理不尽です。そこで借地上の建物を登記することを対抗要件とし、新たな土地所有者に対し借地権を主張することができるのです。借地人にとって建物の所有権保存登記は必須です。

相続で建物が未登記であることもよくあります。当然に登記簿謄本はありません。遺産分割協議書には固定資産税の物件表示を明記し、未登記であること、〇〇年度固定資産税評価証明書記載の通りと添え書きしておくとよいでしょう。

借地上の建物が未登記なのは、あまりに無防備で怖いことです。借地人には登記の必要を説明し、土地家屋調査士を紹介しています。

相続での借地取得の名義変更承諾料は不要です。が、地主への礼儀として、手土産に相続登記を済ませた建物登記簿謄本の写しを添えて、借地を相続したことを伝えておきましょう。

親の借地の底地を子が買い取りました。税務署へ所定の届け出を怠ると贈与税が課税されます。また、親の借地上に子名義の家を建てました。地主の承諾を得なければ、親から子への借地権無断譲渡となってしまいます。借地権の法務や税務は複雑です。対応を誤らぬよう、実行する前に専門家に相談をすることが大切です。