代理意思決定から意思決定支援へ 中條レポートNo233

認知症等で意思能力が衰えた方(以下「本人」という)を支援する成年後見制度。
この制度のキーワードは「本人のため」です。「本人のために」を実現するための理念のひとつが「自己決定の尊重」です。

それでは後見人等の支援者が、本人にとってよいと思うことを決め(代理意思決定といいます)、決めたことを本人の代わりに実行していくことは「自己決定の尊重」になるでしょうか。

自分のことを自分で決められないのです。自分らしく生きていくことにはならないでしょう。しかし成年後見の現場では多く行われているように思います。

代理意思決定でなく、意思決定を支援することが大切だと言われています。
意思能力が衰えると、自分で決めることが億劫になったり、困難になってきます。そんな時、意思決定が出来るよう手助けをするのです。

「自分で決めたことを実行していく」このことが本人らしく暮らす源となります。
もちろん、本人にとって危険があったり、本人の生活を脅かすことは阻止していかなければなりません。

意思決定支援の必要度が高いのは、意思能力の衰えの初期段階の人で、該当者は相当数いると言われています。(もちろん衰えが進んでいる人も必要です)しかしこの段階の人は後見制度を利用しなくても暮らせていけるので、普及が進んでいないのが現状です。国はこの段階の人たちに後見制度を普及させようとしています。

但し、意思決定支援では下記事項の注意が必要です。
1、本人の言葉をそのまま本人の自己決定と捉えていないか。本人が決めたのだから、本人の自己責任だと支援者の責任を逃れていないか。
2、支援のしやすさを優先していないか。支援のための根拠付けになっていないか。3、サービス先にありきの既存サービスを当てはめるだけの検討に終わってないか。4、結論が先にありきになってないか。後付けの根拠資料として使われていないか。

どれも陥りやすい事項ばかりです。代理意思決定に慣れた現場で、自己決定支援を実行していくことは並大抵のことではありません。
支援する者の意識改革が必要です。

高齢者と成年後見制度 野口レポートNo289

高齢になると判断能力が衰えてきます。そこにつけ込み、必要のない作業をし、高額な請求をする悪質業者、あの手この手の特殊詐欺など、もし自分の親が同じことをやられたらどう思うのか!

以前、友人から電話がありました。夜中なのに一人暮らしのおばあちゃんのところへ業者が出入りしている。おかしいからきてほしいとのことでした。かけつけてみるとシロアリ業者が床下に10個近い換気扇を取り付けようとしています。おばあちゃんは言われるがまま、費用は150万円とのことです。

業者に床柱の補修で十分ではと迫ると、契約書を盾に「あんた部外者でしょう、うちは本人と合意しているんだ」と強引に作業を進めようとします。訪問販売にはクーリングオフもあるし、取りあえず息子さんに連絡し了解をとってくれと頼みました。

騒ぎに気づき近所の皆さんも集まってきました。あきらめた業者は契約書を破棄し去っていきました。友人の機転がなかったら、おばあちゃんは悪質業者の被害者になっていたでしょう。

こちらも一人暮らしのおばあちゃんです。不要な訪問販売や某団体などの勧誘が後をたちません。嘘も方便、家族と本人の同意を得て門の内側に「成年後見人がついています」と張り紙をしました。それ以後は訪問販売や勧誘はピタリと止まりました。

判断能力の衰えに対し民法は「成年後見制度」を設けています。判断能力が全くない人には成年後見人をつけることができます。

ある父の相続手続きです。相続人は母と同居の長女です。母は数年前に足を骨折し、要介護の認定を受け車イスの生活をしています。5日後に介護施設に入所の予定です。

近くの司法書士へ行きました。書類を全部取ってきてくれたらやると言われました。次は法律事務所へ相談に行きました。弁護士からは施設に入ってしまうと、コロナで面会ができない、分割協議もできないから成年後見人をつけると言われました。一度後見人をつけると死ぬまで外せません。毎月の後見人の費用もかさみます。

途方にくれた母娘は人をたよりに、女性で相続コーディネーターのMさん(運がよかった)にたどりつきました。

母の判断能力は足りると確信し、翌日介護タクシーを予約し、車イスの母と長女と役所回りをし、戸籍などの必要書類を集めました。

コロナ禍ゆえ登記をお願いする司法書士には、リモート等で本人の意思確認をしてもらい、分割協議書に母の署名押印をいただきました。これで母の対応は済みました。あとは順次手続きを進めるだけです。入所する1日前でした。「これで安心ですよ」と、母娘に言ったら「ありがとうございます」と泣かれてしまったそうです。

相続人から心より感謝され報酬を頂戴する、これぞ相続実務の神髄です。Mさんは「いい仕事」をしてくれました。話を肴に美味しいお酒をのみながら労をねぎらってあげました。