相続の目的は相続人の幸せ 野口レポートNo262

Aさん夫婦は数年にわたり、寝たきりの父親を在宅介護しました。父親のベッドにはナースコールがついています。尿意や不具合があると真夜中でも夫婦の部屋のブザーが鳴ります。24時間介護を強いられている夫婦の苦労は並大抵のものではありません。

父親の主な財産は自宅の土地建物です。父親は「全財産を長男Aに相続させる」との公正証書の遺言を作成していました。
父親は亡くなり、相続人はAさんと姉と弟の3人です。姉は嫁入り支度など生前贈与を受けています。弟も住宅資金の援助を受けています。

弟は「兄貴や義姉さんが親父の介護をしてくれた。自分と姉は何もしなかった。住宅資金の援助も親父から受けている。遺言は納得したから相続手続きを進めてほしい。」とのことでした。

ところが姉は「私にも権利がある」と、遺留分を主張してきました。遺言を執行したら遺留分減殺請求をすると言っています。Aさんは困ってしまい私のとこへ相談に見えました。

遺留分減殺請求の内容証明は宣戦布告と同じです。届いた瞬間に兄弟姉妹の縁は切れてしまいます。Aさんには遺言を放棄し、遺産分割の話し合いで自宅を相続することをアドバイスしました。こちらが一歩譲ったので姉も半歩引いてくれました。払える範囲の代償金で決着がつき、姉との関係も切れることなく今に至っています。

私の相続セミナーを受講し感動したBさんが、この先生ならと相談に見えました。推定相続人はBさんと姉の2人です。親の財産は預貯金と自宅、借金付アパート数棟です。

姉は何を思ったか親を取り込み、全財産を1人で相続すると言っています。父親に遺言を作る意思はありません。
Bさんは親の財産は相続しなければと思い込んでおり、姉のことで深刻に悩み、憂いた日々をモンモンと過ごしています。

話を聞いてみると、節税対策が優先され納税対策が置き去りにされています。このままでは相続税が払えません。難度の高い相続処理となります。姉は欲が邪魔して現実が見えません。

Bさんには子供がいません。固有財産もあり奥様と生活していく分には事足ります。独り占めすると言っているなら、あげてしまえば……。
相続から離脱し、相続人でなくなってしまえば一切の煩わしさから解放されます。選択肢に相続放棄がなかったBさんは目からウロコです。

Bさんの表情は、見るみる穏やかになりなりました。揉める相続から離脱してしまい、自分達の幸せを守ることも立派な相続対策です。
長年「禅」の修行を続けている司法書士N氏の言葉です。「譲ることは⇒問題が頭から離れ離脱することができる⇒離脱できれば穏やかな心でいられる⇒だから幸せになれる。」大いに納得しました。

相続の目的は「相続人の幸せ」です。相続で不幸になってしまったら意味がありません。相続は幸せになってナンボの世界です。相続人の幸せを心から考え、その相続問題の本質を見極め、相続人を幸せの道へ導いて差し上げる。相続実務で一番大切なことです。

物でなく価値を売る 野口レポートNo261

お客様からの紹介でおばあちゃん(85歳)の相談を受けました。自宅の土地が、25年前に亡くなった父親名義のままなので、相続の手続きをしたいとのことでした。

相続人は妹が1人だけです。妹は姉が土地を相続することで気持ちよく遺産分割に協力してくれました。

司法書士をコーディネートし、相続登記をすれば済む問題と思われました。しかし、話を聞いていくうちに相続する土地上の建物は、おばあちゃんと別れた元夫の共有名義であることが分かりました。

おばあちゃんにはお世話してくれる人がいません。唯一血縁の妹も高齢でお世話はできません。頼りになるのは「お金」です。

1人暮らしが困難になったなら、相続した土地を換金し、老人ホームに入るのがベストです。しかし、土地の上には他人名義(元夫)の建物がのっています。このままでは売ることができません。話を傾聴していくと元夫は近くに住んでいるとのことでした。

元夫を訪ね事情を丁寧に説明し、建物の持分を元妻へ贈与してくれるようお願いしました。すでにわだかまりも消えており、贈与を承諾してくれました。固定資産税評価は低く贈与税の課税はありません。

これで土地と建物はおばあちゃんの単独名義となり、いつでも不動産を売却し老人ホームの入居費用に充てることが可能となります。

相続コンサルで一番大切なことは、一度頭から法律・税金・財産を外し、相手の幸せを心から考えてみることです。すると問題の本質が見えてきます。本質が見えれば何をすればよいかが分かります。

おばあちゃんへ幸せの道筋をつけることができたのも、話を傾聴したこと、相談者の幸せを心から考えたことです。問題を全て解決し、おばあちゃんから「神様だよ」と言われ手を合わせられました。

知人を介し相談を受けました。相談者は高齢(83歳)の女性です。

18年前に母親が亡くなりました。まだ相続手続きをしていません。相続人は56年間疎遠で父親の異なる妹1人とのでした。

遠隔地に住んでいる妹へ会いにいきました。妹(72歳)は姉が56年間連絡をくれなかったこと、母親が亡くなったのを知らせてくれなかったこと、誤解も重なり何をいまさらと立腹しています。孫の代まで憂いが残ると説得を重ね、何とか合意することができました。

だが姉には会いたくない、ハンコは押すから野口さん1人で来てほしいとのことでした。それではこの相続を引き受けた意味がありません。目的は相続を機に疎遠であった縁を取り戻してあげることです。

何とか妹を説得し、姉と一緒に遠隔地に出向きました。こちらがお姉さんですよ、こちらが妹さんですよ、と紹介しました。

56年目の感動の再会です。姉はこれまでのことを詫びました。わだかまりはとけ、署名押印も無事に終わりました。単に相続手続きで終わったら物を売っただけ、縁を戻したことで価値を売ったことになります。

物を売るか、価値を売るかでは大きな違いです。これからの時代、いかに付加価値を売ることができるかが勝負です。

走れメロス 野口レポートNo260

「メロスは走った、無二の親友セリヌンティウスとの約束を守るために、死力を尽くして走った。刑場に突入したとき、まさに陽は一片の残光を残し消えようとしている。」多面的な人間の心を描いた「太宰治」の小説“走れメロス”です。

私がこの物語に出合ったのは高校一年生の国語の教科書のなかでした。身はボロボロになりながら最後は約束を守ったメロス、友を信じ待ち続けたセリヌンティウス。約束を守ること、人を信じることの大切さを学びました。

この物語の感想文のコンテストがありました。感動し、「信じることは人間としての愛である」など、生意気なことを書いて最優秀賞に選ばれたことがありました。

高校時代は電車通学でした。友人と約束し駅で待ち合わせをしたものです。あるときいくら待っても友人がきません。約束の時間は過ぎています。電車を数本送ってギリギリまで待ちました。おかげで駅から学校まで駆け足です。

息せき切って教室に入ると、なんと彼がいるではないか、「待っていたのに。」私も少々立腹です。「悪かったな、好きな女の子がいたので前の電車に乗ってしまった。」そんなことで約束を破るとは……。卒業後、彼が活躍しているとの話は聞きません。

家内の実家は信州のお寺です。毎年8月の上旬には最大のイベント、「施餓鬼」の大法要があります。当日はたくさんの檀家さんがみえます。家内は手伝いに行くのが恒例になっていました。ご無沙汰しているので私も一緒に行ってまいりました。

住職の義父は90歳をすぎて現役です。真夏の昼下がり大法要が始まりました。多くの僧侶にかこまれ、途切れながらも読経を続ける老師(義父)の姿はとても尊く、合掌しながら胸に熱いものがこみ上げてきました。

家内を嫁にむかえるとき、義父とひとつの約束をしました。「娘を川崎へ嫁がせてよかったと、必ず思っていただけるようにします。」この約束は一度たりとも忘れたことはありません。

あれから35年(平成17年)、紆余曲折はありましたが天職にめぐり会うことができました。相続の実務家として世間からも認めていただけるようになりました。感動を与えられる講師にもなりました。“感謝の気持ち”と“譲る心の大切さ”一貫しこの理念をつらぬき、相談や依頼を受けた相続案件も、争いをさせることなく解決に導けるようになりました。

義父との約束をようやく果たせた気がします。遅い歩みでしたが、約束を守るべく努力を積み重ね今の自分がいます。それを信じ待っていてくださった義父がいます。1年後に他界しましたが生前に約束を守ることができ、本当によかったと思っています。

約束を守ること、信じることの大切さ、改めて感じました。

「3ケ月」前と後では天国と地獄 野口レポートNo259

あるお母さんが債権者からの請求(督促状)を持って相談に見えました。離婚した夫が亡くなりました。母親は離婚により縁が切れ相続人とはなりません。だが子供は血がつながっているので相続人となります。債権者は子供達に父親の借金を請求してきました。

相続放棄は、死亡を知ってから3ケ月以内でなければ出来ません。亡くなってからではなく、亡くなったことを知った時から3ケ月です。このことは相続放棄の実務では大きな意味を持ちます。

離婚の原因はギャンブルです。別れた夫の生活を考えると他にも隠れた借金が出てくる可能性があります。すでに亡くなってから10ケ月が過ぎています。

子供達は債権者からの請求で父親の死亡を知りました。「死亡を知った時から3ケ月」つまり督促状の消印から3ケ月が勝負です。幸い子供達も成人しているので特別代理人の選任は不要です。

お母さんの相談が早かったので司法書士をコーディネートしセーフでした。もし督促状が届いてから3ケ月が過ぎてしまったら手遅れです。子供達は父親の全ての借金を背負わなければなりません。

隠れた借金や保証債務はいつ表に出てくるか分かりません。時限爆弾をかかえているようなものです。家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届いた時のお母さんの安堵の表情が印象的でした。

 相続の専門家も負債相続には積極的に取り組みません。資産家の相続の相談に乗っているほうがよほど儲かる、といったところが本音です。

塾長を務めている野口塾の塾生に司法書士の椎葉基史さんがいます。日本では数少ない負債相続に特化した専門家です。これまでに2500件以上の負債相続を解決した「相続放棄」のエキスパートです。

弁護士や税理士もほとんどが手掛けたことのない、限定承認にも積極的に取り組み、一昨年に全国で初めて限定承認専門の相談窓口「限定承認相談センター」を開設しました。

最近は著書「相続放棄が分かる本」をポプラ社から出版しました。負債相続の実務書はなかなかありません。貴重な一冊です。

相続対策で大きな借金をしてしまった人、連帯保証人になっている人、自社の個人保証をしている人、弁護士や税理士なども必読です。

 負債相続で悩んでいる人は数多くいます。3ケ月を過ぎてしまったからと玄関払いされ、ワラをもつかむ思いで相談に見えます。

3ケ月が過ぎてもあきらめないこと!彼のような専門家につながれば、状況によっては数年後でも相続放棄が認められるケースがあります。

著書の一節です。「社会の陰に光をあてる。これは司法書士としての私のモットーです。多くの人が苦しんでいるのにもかかわらず、世の中から置き去りにされている問題に正面から立ち向かっていくこと、それが私なりの社会貢献だと思っています。」いい言葉ですね。

17年をむかえた野口塾は、あらゆる分野の専門家が集まった、他にはない相続の実務家集団です。全員が資格と人格に相談者の痛みが分かる心を持っています。34名の塾生は私の誇りでもあります。

相続税の大バーゲン 野口レポートNo258

昭和22年に家督相続から均分相続に相続制度が変わりました。この頃は家制度思考が文化として残っており、長男が同居し親の面倒を見るのは当たり前の話しでした。

家族全員が円形の卓袱台(ちゃぶだい)を囲み夕げについたものです。衣食住にも事欠く貧しい時代でしたが、人の心は今とは比べものにならぬほど豊かでした。時代と共に核家族化が進み、親と同居している人は本当に少なくなりました。

相続税小規模宅地の特例があります。相続で取得した自宅の敷地330㎡までは、更地評価から80%減額してくれる特例です。

配偶者や親と同居している子が一定の要件を満たせば、自宅敷地の評価が330㎡を限度とし80%激減されます。路線価の高い地域では天と地の差になります。まさに相続税の大バーゲンです。

親が1人で住んでいる自宅敷地は、同居していない相続人が取得しても、相続開始前3年以内に自分の家を所有(配偶者も含む)し住んでいなければ、この特例が使えます。俗に言う「家なき子」の相続人です。なら、「持ち家を子に贈与してしまおう。」そして自分は「家なき子」になってしまう、こんなことを考える人が出てくるのは世の常です。租税回避の相続税対策を防ぐため、今年から「家なき子」の要件が厳格になりました。 

だが、通常の小規模宅地の特例のなかの特定居住用宅地等(自宅敷地)は健在ですので安心してください。

相続税には次の3通りがあります。
①相続税の課税されない人⇒ 財産が相続税基礎控除以下である。
②申告することで課税されない人⇒ 申告により各特例を使う。
③相続税の課税される人⇒ 特例を使ってもはみ出してしまう。

 財産は自宅と預貯金が3000万円前後、これらの層は基礎控除改正前には課税されませんでした。だが改正後は納税義務者が続出しています。課税される相続税は50万円~300万円位です。小規模宅地の特例が使えるかどうかが大きなポイントになります。要件を満たしているなら相続税の申告をし、特例を使うことにより相続税は0円です。ただし税理士の報酬はかかります。

 要件とは次の通りです。◎被相続人と同居している相続人が自宅敷地を相続し、申告期限の10ケ月まで引き続き所有し、住んでいること。10ヶ月以内に売却したら特例が吹っ飛ぶので注意が必要です。配偶者が相続したなら要件はありません。無条件です。

この特例は、長年夫を支えてきた配偶者や、同居し親の面倒をみている親孝行息子に与えられるご褒美です。これが小規模宅地の特例の本来の姿ではないかと思います。

特例を受けるには、相続開始後10ケ月以内に遺産分割を成立させ申告をすることが原則です。親孝行息子が自宅を相続し、円滑に申告ができるよう、公正証書遺言でサポートしておきましょう。

相続実務に99%はありません 野口レポートNo257

動物や植物は死んだり枯れたりしたらそれで終わりです。ところが人間は亡くなると相続が開始するからやっかいです。

相続は人生で何度も経験するものではありません。遺族はどこへ行ったらよいのか、誰に相談したらよいのか全く分かりません。葬儀で親身になって世話をしてくれた葬儀屋さんへ相談する人も少なくありません。ある顔見知りの葬儀社の社員さんからAさんの相談に乗ってやってくださいと頼まれました。

被相続人は独身の長兄です。相続人は次兄、妹のAさん、代襲者で姪の3人です。Aさんは亡き母と長兄と同居し2人の世話をし、最後を看取り葬儀も取り仕切りました。

財産は自宅しかありません。自宅を換金し分けることになりました。売ればAさんの住むところが無くなります。Aさんが自宅を相続し、売却したお金で中古マンションを購入し、残ったお金は3人で均分し、他の相続人には代償金として渡すことになりました。

中古マンションの購入価格は上限を2800万円と設定しました。

ところが次兄のお嫁さんが、私達の家はまだローンが残っているんだと、さかんに言ってきます。中古とはいえ無借金でマイホームを手に入れる妹への「ひがみ」です。

しかたなく購入価格の上限を1800万円に下げました。築年数43年で108戸が2棟の大規模中古マンションが見つかりました。大規模マンションはメンテナンスと管理組合がしっかりしているので安心です。築年数と価格を聞いて姉の「ひがみ」は収まりました。

 換価代償分割は各専門家をコーディネートし、相続の壁をひとつひとつ乗り越え、並行し不動産を売却していく難しい作業です。

(1)Aさんが自宅を相続する。(2)信頼できる買主の不動産業者を選ぶ。(3)マンション購入、測量、家財処分、引っ越し、解体、仲介料、譲渡税、住民税、申告報酬、健康保険など、全ての費用を事前に算出し、実質の残金を確定させる。⇒ここが換価代償分割の一番のポイントである。(4)残金が確定すれば代償金の額が確定でき、遺産分割協議書が作成できる。(5)分割協議書があれば登記前でも自宅の売買契約が可能。(6)代償金を受け取る相続人は相続税以外は一切の負担はない、ただ手を広げ待っているだけでよい。

ここで壁にぶち当たりました。中古マンション購入に際しAさんから手付金が無いと言われました。業者と交渉し1週間待ってくれるようにお願いしました。1週間で①代償金を確定させる。②遺産分割協議書に全員の判子をもらう。③自宅の売買契約を締結し手付金を受け取る。④その手付金でマンション購入契約を締結する。

ひとつつまずけば全てが振出に戻ります。相続実務に99%はありません。常に100%が求められます。冷や汗をかきながら綱渡りのような1週間でした。

相続の胴体着陸 野口レポートNo256

乗客・乗員60名を乗せた全日空の“ボンバルディアDHC8-Q400型機”の前輪が出ず高知空港に胴体着陸をしました。この時の様子は当時(2007年)テレビで生中継され、日本中が固唾をのんで見守りました。

原因はたった一本のボルトの脱落でした。機長は急旋回やタッチアンドゴーなどあらゆる手段を試み、何とか車輪を出そうと努力しましたが車輪は出ません。やむなく胴体着陸の決断をしました。

機長の沈着冷静な判断と技量、パニックを防いだ客室乗務員の対応、乗客の協力、天候も幸いし大惨事をまぬがれました。

機内の不安はいかほどか察するに余り有ります。ここで注目したいのは、機長が乗客に行なったアナウンスです。「何度も訓練をしているので安心してください」この一言で乗客の気持ちはどのくらい安らぎ救われたことでしょうか。

「製造元のカナダ・ボンバルディア社は、英国の老舗航空機メーカーが母体で、運行コストの安さが売りだった。近年、ライバル社との競争激化で、製造段階の品質管理や無理なコスト削減が部品の不良につながった可能性がある。」◇某新聞コラム◇

安全面のコスト削減とはいかがなものか…。常識ではとても考えられません。旅客輸送業は「命預り業」と心すべきです。

親が亡くなると相続が開始します。相続は人生のなかで何度も経験するもではありません。遺族は悲しみに浸る暇もなく、山積する手続きや諸問題に直面します。初めての経験で相続人は不安でいっぱいです。心配で眠れぬ夜もあります。

仕事の依頼を受けたとき、私は必ず相続人様へ言っている言葉があります。「心配しなくても大丈夫ですよ。安心してください。」この笑顔の一言で相続人の心は安らぎます。

相続はいくら悩んでも、心配しても、なるようにしかなりません。だから心配する必要はないのです。最後はなるようになるのです。つまり「大丈夫」なのです。

遺産分割も「感謝の気持ち」と「譲る心」この心の両輪が出れば軟着陸でき、相続人全員が幸せになります。「感謝と譲る心」は縄文の大昔から日本人が持っている独自の遺伝子です。

いかにこのDNAを引き出すか、機長(相続アドバイザー)は全力を尽くします。ところがこれがなかなか出てこない! 

もし出なければ胴体着陸しかありません。失敗すれば家族崩壊の大惨事を起し、相続人全員が不幸になります。相続の胴体着陸はパイロットの人間力と高い操縦技術が求められます。

飛行機はボルト1本の脱落で命取りになります。相続ビジネスも整備不良だとお客様を不幸にしてしまいます。安全面のコストを削減することなく、常に研修や勉強(整備)に励み、人間力(品質管理)の向上を怠らず、相続実務(飛行)に臨みたいと思います。

生産緑地と相続税納税猶予 野口レポートNo255

私が住んでいる地域も昭和30年代は田や畑も多く、我が家も父親が役所勤めの傍ら半農を営んでおりました。父親が引くリヤカーを母親と一緒に後押したのが懐かしく思い出されます。

田植えから脱穀まで米作りの苦労も一通り経験しました。八十八回の手を煩わし、脱穀してみればわずか数俵です。米の有り難さを子供心に感じたのをおぼえています。

昭和30年代後半から、次第に農地が宅地に転用され長屋や貸家に変わっていきました。農家にとって農作物の収入だけでは生活は楽ではありません。貸家経営は貴重な現金収入となりました。

だが、土地の所有面積の多い農家にとって固定資産税など税制面で優遇されている農地は捨てがたいものがありました。

ところが平成4年の生産緑地法改正で、三大都市圏の特定市の市街化農地については、「宅地化すべき農地」と「保全すべき農地」とを区分することになり、農家はその選択をせまられました。

「保全すべき農地」を選んだなら「生産緑地」の指定を受けることになります。「宅地化すべき農地」を選んだなら、いつでも農地を宅地に転用することができます。売るも貸すも賃貸マンションやアパート建設も可能です。だが、固定資産税は宅地並み課税です。

農作物の収益では宅地並みに課税される固定資産税など、とても払いきれません。「宅地化すべき農地」を選んだ農家は土地の売却や有効活用を迫られました。

「保全すべき農地」(生産緑地)を選んだ農家は、固定資産税はわずかで済み、相続税納税猶予も選択できます。要件を満たせば「生産緑地」に課税される相続税を納税猶予(免除ではない)するとの制度です。しかし目先の相続税だけに目がいってしまい、安易に受けてしまうと恐ろしい制度です。

「生産緑地」は、売れない・貸せない・担保にできない、農業以外は何もできません。もし納税猶予を受けている農業従事者が、高齢で後継者もなく営農が継続できなければ、猶予されていた相続税が相続開始時に遡り、利子税と共に一気に課税されてしまいます。

もう少し、もう少しで30年……。身体にムチ打ち頑張っても猶予されている相続税は免除されません。免除の条件は「生涯営農」です。免除に該当する事由が生じなければ死ぬまで営農です。

猶予で先送りしてきた「生産緑地」の相続税は、農業従事者の死亡で初めて免除となり、一定の手続きを経て宅地に転用できます。

「生産緑地」の指定を受けている人は2022年に30年の満期が到来し宅地転用が可能となります。だが、納税猶予を受けている人は要注意です。転用してしまうと猶予が打ち切られてしまいます。

今後、宅地化した大量の「生産緑地」が一気に市場に出てきます。既存宅地の価格への大きな影響は避けられないでしょう。

今求められる相続コーディネーター 野口レポートNo254

平成5年に家業のガソリンスタンドを廃業し、五十路を前に一念発起し180度の転身をしたことは以前お話しをしました。残りの人生をかけた大きな決断でした。

スタンド跡地に「借金してマンションを建てると相続税対策になる」からと、建設会社の営業マンと、ひも付き税理士に提案を受けていました。この提案が良いのか悪いのか、素人の自分には全く分かりません。この人達を信じるしかありませんでした。

相続のシミュレーションを見せられ税理士が説明してくれました。専門家の話は素人にはよく理解できません。これら相続コンサルを受けるなかで、「ひらめき」を感じました。

素人側に寄り添い専門家との間をコーディネートしてくれる仕事があってもよいのでは、相談者にとって心強い限りではないか、こんな職業が社会から求められる時代が必ずやってくる、「相続コーディネーター」これが自分の仕事だ! 直感的に感じました。

そして壁にぶつかりました。税理士でもない、弁護士でもない、そんな自分が相続のどこで報酬を頂くことがきるのか……。

相続で不動産が動くことに気づきました。そうだ! 不動産屋になればいい、不動産業をベースに相続に特化すれば飯が食える。宅建試験にも合格し、相続を幅広く徹底的に勉強しました。 

平成7年に相続専門の不動産屋として開業することができました。相続に特化した街の不動産業者など異色の存在でした。

当時の相続対策といえば、借金を背負わせマンションやアパートを建てる節税対策一色で、建築会社・銀行・税理士の独壇場でした。「借金しても節税効果は生じない」素人にはそんなこと分かりません。専門家の言われるままです。

また、相続を横断的に熟知し、大局的視点から相談にのってくれるコンサルタントもいませんでした。

バブル期に節税対策を提案され、大きな借金をして複数の賃貸マンションを建てた人は、バブル崩壊の影響をまともに受けました。

デフレする(価値が下がる)不動産、デフレしない(価値が下がらない)借金、気がつけば借金が資産を上回る「債務超過」です。

相続放棄せざるを得ない相続人もいました。◎提案した先生⇒こんなハズではなかった。◎貸し込んだ支店長⇒転勤でどこにいるか分からない。◎建てた建設会社⇒すでに倒産。この人達は節税対策の責任など取ってくれません。

あれから数10年、バブルの悲劇を知る人はいなくなりました。「歴史は繰り返す」近年また同じことが繰り返されています。提案された人は借金による安易な節税対策の怖さに気づいていません。

大局的視点から正しいアドバイスを差し上げ、お客様をHAPPY相続へと導くことのできる、資格と人格を持った相続コーディネーターが、今こそ求められているのではないかと思います。

6時間出汁昆布セミナー 野口レポートNo253

NPO法人:相続アドバイザー(SA)協議会の事業に「相続アドバイザー養成講座」があります。今回で第41期となります。

1講座2時間で全20講座あります。この養成講座の第1講座の講師を17年間務めていることは先のレポートでご紹介しました。

今でこそ余裕を持って講義をしていますが、講師になりたての頃は緊張し受講生の顔など見えませんでした。

場数を踏んでくると受講生の顔が見えてくるようになります。顔が見えてくると、居眠りをしている人が目につき、自分の話がつまらないのか、興味がないのか、気になってしまいます。

さらに場数を踏んでくると、居眠りをしている人をどうやって起こそうか、場に合わせ講義をアレンジできるようになります。

以前、SA上級アドバイザー受験対策講座の講師を担当していました。この講座で居眠りしている人を起こすのは簡単です。「ここは試験に出るかも知れませんよ。」この一言で、今まで寝ていた人がパッと起きるから不思議です。

受講生の居眠りは講師の器量に原因があります。話にメリハリをつけるとか、実例をうまく取り入れるとか、工夫次第では楽しく学べ、時間はあっというまに過ぎてしまいます。

SA協議会に「相続寺子屋」があります。会員による自主運営の勉強会で、北海道から九州まで全国14か所で活動しています。

先日、相続寺子屋:武蔵小杉で「6時間出汁昆布セミナー」の特別講演を行ないました。6時間セミナーはエネルギーを消耗するので多くはできません。川崎、九州、今回の武蔵小杉で、まだ3回です。会場は満席で学ぶ意欲と熱気につつまれます。

「出汁昆布は人の幸せのために、自分の全てを出し尽くし最後は空っぽになります。」相続の現場で苦労しながら培ってきた、経験・知識・ノウハウなど、6時間かけて出し尽くしました。

人には寿命があります。もし自分が死んでしまったら、これまでに蓄積してきたノウハウを伝える術はありません。あの世には相続などありませんから、持っていっても役に立ちません。

23年にわたり、学んできた知識、現場での体験、身についたノウハウ、本質の見抜き方など、自分が元気なうちに「世のため人のために出し尽くす。」天から課せられた最後の役目だと気付きました。出汁昆布セミナーを始めたきっかけです。

参加した皆様が学んだものを役立て、「相続を争い不幸になってしまう人」を、一人でも減らしてくれたならうれしい限りです。

6時間立ちっぱなし、しゃべりっぱなし、話すも方も聞く方も真剣そのもの、寝ている人は誰もいません。終わったあとは精根尽き果てます。だが、本気で伝えることができた満足感と、出し尽くした充実感、止まぬ拍手が疲れた身体を癒してくれます。