実務家から見た相続法改正 野口レポートNo267

平成30年7月6日に相続法の改正が成立しました。平成31年1月13日から2年後の7月13日までに順次施行されていきます。法律家ではなく実務家として今回の改正の要点をお伝えしたいと思います。

《配偶者居住権の新設》
◎夫が亡くなったあと、自宅を配偶者が相続すれば住み続けることができます。だが配偶者の相続分は1/2です。一般家庭の財産構成は、自宅土地建物(約3000万円)、預貯金が3000万円位でしょう。
1/2の相続分で住居は確保できますが、他の相続人に権利を主張されたら預貯金は相続できず、生活費が確保できません。配偶者の目的は自宅の所有でなく生涯住めることです。居住権があれば目的は足ります。
所有権に比べ居住権の財産評価(推定余命で異なる)は低いです。余った相続分を預貯金の相続に回せます。この法律の裏には親子関係の希薄が存在します。普通の親子ならこんな法律は不要のはずです。

《自筆証書遺言に関する方式緩和》
◎自筆証書遺言の法的要件に「全文を自分で書く」とあります。土地などの財産が多く、まして高齢なら全部自分で書くのは至難の業です。
今回の改正で、財産目録はパソコンや、通帳の写し、不動産登記簿謄本の写しでもよし、ただし各ベージに自筆で遺言者の署名押印が必要となります。今までに比べ使い勝手が数段向上します。
申請すれば法務局が本人確認をし、かつ法律上の要件をチェックし(封印不可)保管します。保管すると家裁の「検認」を省略できます。検認不要はメリットが生じます。法的要件を欠き無効になるものや、要件を満たしていても受遺者や物件が特定できず、使えない自筆証書遺言は驚くほど多いです。法務局のチェックで無効の遺言は減るでしょう。

《預貯金債権の払い戻し》
◎預貯金は可分債権として、遺産分割協議を経ず法定相続分で相続人が払い戻しを受ける権利がありました。だが平成29年12月29日の最高裁の判例変更で、遺産分割を経なければ払い戻しができなくなりました。争ったら払い戻しはできません。相続人は当座のお金に困ってしまいます。そこで救済処置として、遺産分割を経ず銀行の各口座ごとに1/3までなら仮払いを受けられるようになります。 計算式⇒1口座ごとの相続開始時の預貯金×1/3×1/2(相続人2人の場合)=仮払金。
◎だが、遺言や死因贈与で指定されている預貯金は除くとあります。遺言の存在が分からない銀行は、保身を考え相続人全員の承諾を求めてくる可能性があります。それでは仮払いの意味がありません。この制度が目的通り機能すればよいのですが。

《特別寄与者による特別寄与料の請求》
◎民法には寄与分制度がありますが、相続人のみに適用され義父母の介護をしたお嫁さんには権利がありません。改正で被相続人の特別な介護をした一定の親族やお嫁さんは、各相続人に対し特別寄与者として特別寄与料を請求できます。ただし、介護に費した「肉体的」「精神的」な、大きな負担が相応に対価に反映するかは疑問です。

20年後にまさかの再会 野口レポートNo266

50歳で一念発起し、ガソリンスタンドから180度の転身をし、不動産業をベースに、相続に特化した仕事に就いて23年になります。

相続一筋ひたすら23年、今までに1000件近くの相続にかかわってきました。失敗した思い出深い相続案件もあります。

未知の世界に飛び込み、開業当時は不安と緊張の毎日でした。最初に相談を受けた相続案件です。父親が亡くなり(母親は他界)相続人は7人です。遺産は、自宅、アパート、預貯金です。相続人は互いに譲らず遺産分割はもめていました。

転業し最初のお客様です。前向きな気持ちで引き受けました。開業当時は専門家のネットワークも乏しく、実務の経験もありません。今まで学んできた机上の知識と相続人の幸せを願う心が支えでした。

今思えば無謀な受託でした。「感謝と譲る心」など通じません。頑張りましたが、遺産分割はまとまりませんでした。自分の手には負えないと、丁寧にお詫びしこの相続案件から手を引きました。

それから20年が経ち久々にご長男に会いました。20年も前の相続です。とっくにかたづいているものと思っていました。ところが未だに進展がなく未解決で、遺産も塩づけ状態とのことでした。

私も当時とは違います。今の自分ならできると確信し、20年前に挫折を味わった、この相続案件を再び引き受けることにしました。

 

当時は聞く耳を持たなかった相続人も、歳を重ね以前とは考えも変わり、自分達の代で解決したいという気持ちになっています。解決するにはラストチャンスと思いました。

ところが状況は20年前とは変わっていました。相続人の1人が亡くなり、1人娘が代襲相続人となります。娘は前婚の夫との間に2人、再婚の夫との間に1人、合計3人の子供がいます。

不幸にも交通事故で亡くなり、再代襲が生じ本来の相続人と合わせて9人に枝分かれし、80代と20代の相続人が混在しています。

長男が主な不動産を相続し、払える範囲の代償金を他の相続人に払うことで6人は合意しました。あとは3人の代襲者です。

会ってみると3人とも素直な子でした。今までの事情と経過を丁寧に説明しお願いしたところ、心を開いてくれました。代償金の3分の1ずつを受け取ることで承諾してくれました。

ここで新たな問題が生じました。相続人の1人(Aさん)が生活保護を受けています。代償金を受け取ったら保護を打ち切られてしまう可能性があります。Aさんは一時的な代償金を受け取るよりも、将来において安定した生活保護を受けることを望んでいます。

役所の担当部署に行き、正直に状況を話しアドバイスを受けました。受け取った代償金は受給してきた生活保護費の返還にあて、結果として従来通り保護を受けられることになりました。

一度挫折した最初の相続案件です。まさか20年後に再び引き受けるとは夢にも思いませんでした。無事に完了し相続人全員から「ありがとうございます」と感謝され感慨深いものがありました。

感謝して受け容れる 野口レポートNo265

釈迦は、この世の悩み苦しみの根元は、「思いどおりにならないこと」と見抜いた。だから「思いどおりにしようとしないで、受け容れよ」と言った。その最高の形は「ありがとう」と感謝することだったのです。
~釈迦の教えは「感謝」だった~ 著者小林正観より抜粋。

斎藤一人さんがCDで次のような話をしています。
お釈迦様は悩みをなくそうと思い修行をしました。滝に打たれ、 断食もし、極限まで自分を追い詰めました。難行苦行のあとに言った言葉は「無駄である」でした。

この二つの話は苦悩の根元を見抜いたお釈迦様の話です。

生きることは、思い通りにならないこということです。生きている人はここに気付くことです。「思い通りにしたいのに、それが叶わない」、だから人は悩み苦しみます。「思いどおりにしようとしないで、受け容れよ。」これができれば悩み苦しみは消滅します。

我の強い姑さんがいました。お嫁さんは大変だなと思いました。だが常に明るく振る舞っています。ここへ嫁いだから成長できたと感謝さえしています。思いどおりにしようとしないで、受け容れてしまったのです。家には波風も立たず、姑さんは寿命を全うし旅立っていきました。幸せなおばあさんでした。 

弁護士以外が遺産分割にかかわる場合は注意が必要です。司会進行役に徹し、交渉、説得、誘導をしない、報酬をもらわない、ここさえ気をつければ非弁行為にはならないと思います。

知人からの紹介で、ある相続のコーディネートを引き受けました。

問題点をまとめ、案件に見合った、税理士、土地家屋調査士、司法書士をセッティングし、コーディネートしていきます。

 不動産の価値をいかに遺産分割に反映させるか難しいところです。相続人は2人です。不動産をめぐり遺産分割はもめにもめました。ようやくまとまり、いよいよ明日は遺産分割協議書の調印です。

夕方、相続人の一人から突然電話が入りました。取引先の銀行員に「それでいいのですか」と言われたそうです。この行員に、不動産の価値や、これまでの経緯など分かるはずがありません。

ここで話が壊れたら今までの苦労が水の泡となります。想定外の出来事でした。だが、もう少し苦労をしろとの「天の声」と言い聞かせ、この事実を受け容れました。

本人を説得するには時間がありません。翌朝一番で他の相続人に連絡し、事情を説明し半歩譲っていただき、代償金の調整で何とか収まり、無事調印することができました。

なぜ余計なことを言ったんだ、どうしてくれるんだ、そんな気持ちになっていたらハンコは揃わなかったと思います。

ピンチに追い込まれても、冷静な判断と行動ができたのは、文句や愚痴を一切言わず、この事実を受け容れたからです。

チコちゃんに叱られる 野口レポートNo264

テレビを見る習慣はありませんが、朝ドラ、太河ドラマ、ニュースは見ます。最近は「チコちゃんに叱られる」にハマっています。

チコちゃんは「ぬいぐるみ」で5歳の女の子です。司会の岡村隆史さんとチコちゃんの絶妙なやりとりが何とも面白いのです。

普段は見過ごしている素朴な疑問を、「なぜ」とチコちゃんに質問され、改めて考えると答えが出てこないのです。「なぜ」と質問され大人達は誰も答えられません。だがチコちゃんは答えを知っています。

先日こんな質問がありました。「大人になると時が短く感じるのはなぜ」岡村さんやゲストも答えられません。チコちゃんの答えは「大人になると時が短く感じるのはトキメキが無くなるから」でした。妙に納得してしまいました。

還暦を過ぎると下り坂を転がるように時が過ぎていきます。「光陰矢の如し」たしかに歳をとるごとに時間がたつのが早く感じます。今回チコちゃんがその謎を解いてくれました。

歳をとると新鮮さを感じる感覚が鈍くなます。新しい感動や胸が躍ることも少なくなります。気づかぬうちに単調な日々を過ごしてしまう、だから時が経つのが早く感じるのです。歳を重ねるごとに時間は早く流れていくのだから、1日1日を悔いなく大切に過ごすことです。今の時間を大切にできない人は、将来の時間も大切にできません。

相続実務は、大変だ、いやだなと、気弱になったらそこで終わりです。仕事に対し常に気丈な気持ちと、揺るがぬ信念がなければできません。

ある相談を受けました。相続人は姉(Aさん)と弟です。弟はすでに亡くなり未成年の子が代襲相続人となります。不動産を甥に相続させるかいなか、Aさんは相続人と伯母の立場で悩んでいます。

話を傾聴していくと本人が問題の本質に気づきました。私のアドバイスを聞いて「今鳥肌が立っています」と言われました。気持ちが楽になったとスッキリした顔で帰りました。

遺産分割は普段隠れている人間の本性が表に出てきます。「この時の姿こそ本当の自分の姿」です。どんな相続でも大なり小なり揉めることはあります。だが相続争いはそんなに多くはありません。

大半は多い少ないと兄弟喧嘩のレベルです。相続アドバイザーなどの適切なサポートがあれば、まだ自分達の力で解決できる段階です。

単なる兄弟喧嘩なのに問題が「相続」だから、つい相続争いだと思ってしまいます。弁護士が入ったら本当の相続争いに進展します。

円満相続の秘訣は相続を法律問題にしないことです。難度の高い相続案件を完了し、頑張った自分にトキメキを感じることもあります。

相続は子育ての集大成です。感謝できる子に育てたら、親が残した何にも勝る財産です。相続争いをしたら子育ての失敗です。

古稀も過ぎアッという間の72年でした。だが、気持ちは青春のつもりです。源はトキメキを感じる感性にあるのかも知れません。

チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーぇよ!」と叱られぬよう、これからも大いにトキメキたいと思います。

子供の目を持つ 野口レポートNo263

某新聞に数年前まで連載されていた4コマ漫画「コボちゃん」は毎回楽しく読んでいました。作者の「植田まさし」さんは、自分の素直な感性を2人の子供(コボちゃん・ミホちゃん)に置き換え、物事の本質を4コマで見事に表現しています。相続問題の本質をつかむには固定観念にとらわれることなく子供の目を持つことです。

40歳独身の長女Aさんからの相談です。父親が亡くなり、相続人はAさんと母親の2人です。遺産は家族が住んでいる自宅の土地建物です。母親は重度の認知症で施設に入っています。相続税は基礎控除以下なので課税はありません。

友人から10ケ月以内に相続手続きをしなければと言われ、どこへ行ったらよいのか、誰に相談したらよいのか悩んでいました。どうも相続税申告期限と相続手続きを混同しているようです。

相続税は相続開始後10か月以内に申告し、現金一括納付が原則です。遺産が基礎控除以下であれば申告義務はありません。あとの遺産分割や不動産などの相続手続きに期限はありません。

固定観念を持った大人の目で見てしまったら、「認知症の母親に成年後見人をつけ遺産分割をし、相続手続きを進めましょう。」とアドバイスしてしまったかもしれません。

 

固定観念を捨てると、問題の本質が見えてきます。「このまま放っておきましょう」これが私のアドバイスでした。話を傾聴しAさんの目的はこの家に住み続けることだと分かったからです。

放っておくと2人の遺産未分割共有状態です。だが、今まで通り住み続けるには何の問題も影響もありません。

母親が亡くなれば相続人はAさん1人です。その時に相続手続をし、自宅を自分の名義にすれば済むことです。

この案件は相続税の課税がない、他に相続人がいない、預貯金がない、このような条件が揃っていたからのアドバイスです。

もし、状況が異なれば母親に成年後見人をつけ遺産分割を成立させ、10ケ月以内に相続税の申告をしなければなりません。

高齢社会も進展し被相続人は高齢です。被相続人が高齢なら配偶者相続人も高齢です。認知症を発症している人もいます。相続だけに後見人はつけられません。一度つけてしまうと生涯外すことができません。親族は配偶者の金銭を一切動かせなくなります。職業後見人に依頼したら生涯報酬を払い続けなければなりません。

こんな事態を防ぐためにも、遺言を作成してください。遺言で全ての財産を相続人に指定しておけば遺産分割は不要です。

こんな簡単な相続対策をしておけば、認知症の配偶者がいても後見人をつけることなく円滑な相続税申告が可能です。

相続問題は子供の目で本質をつかみ、大人の目で進めていくことが必要です。相続実務はふたつの目を持つことが大切です。

相続の目的は相続人の幸せ 野口レポートNo262

Aさん夫婦は数年にわたり、寝たきりの父親を在宅介護しました。父親のベッドにはナースコールがついています。尿意や不具合があると真夜中でも夫婦の部屋のブザーが鳴ります。24時間介護を強いられている夫婦の苦労は並大抵のものではありません。

父親の主な財産は自宅の土地建物です。父親は「全財産を長男Aに相続させる」との公正証書の遺言を作成していました。
父親は亡くなり、相続人はAさんと姉と弟の3人です。姉は嫁入り支度など生前贈与を受けています。弟も住宅資金の援助を受けています。

弟は「兄貴や義姉さんが親父の介護をしてくれた。自分と姉は何もしなかった。住宅資金の援助も親父から受けている。遺言は納得したから相続手続きを進めてほしい。」とのことでした。

ところが姉は「私にも権利がある」と、遺留分を主張してきました。遺言を執行したら遺留分減殺請求をすると言っています。Aさんは困ってしまい私のとこへ相談に見えました。

遺留分減殺請求の内容証明は宣戦布告と同じです。届いた瞬間に兄弟姉妹の縁は切れてしまいます。Aさんには遺言を放棄し、遺産分割の話し合いで自宅を相続することをアドバイスしました。こちらが一歩譲ったので姉も半歩引いてくれました。払える範囲の代償金で決着がつき、姉との関係も切れることなく今に至っています。

私の相続セミナーを受講し感動したBさんが、この先生ならと相談に見えました。推定相続人はBさんと姉の2人です。親の財産は預貯金と自宅、借金付アパート数棟です。

姉は何を思ったか親を取り込み、全財産を1人で相続すると言っています。父親に遺言を作る意思はありません。
Bさんは親の財産は相続しなければと思い込んでおり、姉のことで深刻に悩み、憂いた日々をモンモンと過ごしています。

話を聞いてみると、節税対策が優先され納税対策が置き去りにされています。このままでは相続税が払えません。難度の高い相続処理となります。姉は欲が邪魔して現実が見えません。

Bさんには子供がいません。固有財産もあり奥様と生活していく分には事足ります。独り占めすると言っているなら、あげてしまえば……。
相続から離脱し、相続人でなくなってしまえば一切の煩わしさから解放されます。選択肢に相続放棄がなかったBさんは目からウロコです。

Bさんの表情は、見るみる穏やかになりなりました。揉める相続から離脱してしまい、自分達の幸せを守ることも立派な相続対策です。
長年「禅」の修行を続けている司法書士N氏の言葉です。「譲ることは⇒問題が頭から離れ離脱することができる⇒離脱できれば穏やかな心でいられる⇒だから幸せになれる。」大いに納得しました。

相続の目的は「相続人の幸せ」です。相続で不幸になってしまったら意味がありません。相続は幸せになってナンボの世界です。相続人の幸せを心から考え、その相続問題の本質を見極め、相続人を幸せの道へ導いて差し上げる。相続実務で一番大切なことです。

物でなく価値を売る 野口レポートNo261

お客様からの紹介でおばあちゃん(85歳)の相談を受けました。自宅の土地が、25年前に亡くなった父親名義のままなので、相続の手続きをしたいとのことでした。

相続人は妹が1人だけです。妹は姉が土地を相続することで気持ちよく遺産分割に協力してくれました。

司法書士をコーディネートし、相続登記をすれば済む問題と思われました。しかし、話を聞いていくうちに相続する土地上の建物は、おばあちゃんと別れた元夫の共有名義であることが分かりました。

おばあちゃんにはお世話してくれる人がいません。唯一血縁の妹も高齢でお世話はできません。頼りになるのは「お金」です。

1人暮らしが困難になったなら、相続した土地を換金し、老人ホームに入るのがベストです。しかし、土地の上には他人名義(元夫)の建物がのっています。このままでは売ることができません。話を傾聴していくと元夫は近くに住んでいるとのことでした。

元夫を訪ね事情を丁寧に説明し、建物の持分を元妻へ贈与してくれるようお願いしました。すでにわだかまりも消えており、贈与を承諾してくれました。固定資産税評価は低く贈与税の課税はありません。

これで土地と建物はおばあちゃんの単独名義となり、いつでも不動産を売却し老人ホームの入居費用に充てることが可能となります。

相続コンサルで一番大切なことは、一度頭から法律・税金・財産を外し、相手の幸せを心から考えてみることです。すると問題の本質が見えてきます。本質が見えれば何をすればよいかが分かります。

おばあちゃんへ幸せの道筋をつけることができたのも、話を傾聴したこと、相談者の幸せを心から考えたことです。問題を全て解決し、おばあちゃんから「神様だよ」と言われ手を合わせられました。

知人を介し相談を受けました。相談者は高齢(83歳)の女性です。

18年前に母親が亡くなりました。まだ相続手続きをしていません。相続人は56年間疎遠で父親の異なる妹1人とのでした。

遠隔地に住んでいる妹へ会いにいきました。妹(72歳)は姉が56年間連絡をくれなかったこと、母親が亡くなったのを知らせてくれなかったこと、誤解も重なり何をいまさらと立腹しています。孫の代まで憂いが残ると説得を重ね、何とか合意することができました。

だが姉には会いたくない、ハンコは押すから野口さん1人で来てほしいとのことでした。それではこの相続を引き受けた意味がありません。目的は相続を機に疎遠であった縁を取り戻してあげることです。

何とか妹を説得し、姉と一緒に遠隔地に出向きました。こちらがお姉さんですよ、こちらが妹さんですよ、と紹介しました。

56年目の感動の再会です。姉はこれまでのことを詫びました。わだかまりはとけ、署名押印も無事に終わりました。単に相続手続きで終わったら物を売っただけ、縁を戻したことで価値を売ったことになります。

物を売るか、価値を売るかでは大きな違いです。これからの時代、いかに付加価値を売ることができるかが勝負です。

走れメロス 野口レポートNo260

「メロスは走った、無二の親友セリヌンティウスとの約束を守るために、死力を尽くして走った。刑場に突入したとき、まさに陽は一片の残光を残し消えようとしている。」多面的な人間の心を描いた「太宰治」の小説“走れメロス”です。

私がこの物語に出合ったのは高校一年生の国語の教科書のなかでした。身はボロボロになりながら最後は約束を守ったメロス、友を信じ待ち続けたセリヌンティウス。約束を守ること、人を信じることの大切さを学びました。

この物語の感想文のコンテストがありました。感動し、「信じることは人間としての愛である」など、生意気なことを書いて最優秀賞に選ばれたことがありました。

高校時代は電車通学でした。友人と約束し駅で待ち合わせをしたものです。あるときいくら待っても友人がきません。約束の時間は過ぎています。電車を数本送ってギリギリまで待ちました。おかげで駅から学校まで駆け足です。

息せき切って教室に入ると、なんと彼がいるではないか、「待っていたのに。」私も少々立腹です。「悪かったな、好きな女の子がいたので前の電車に乗ってしまった。」そんなことで約束を破るとは……。卒業後、彼が活躍しているとの話は聞きません。

家内の実家は信州のお寺です。毎年8月の上旬には最大のイベント、「施餓鬼」の大法要があります。当日はたくさんの檀家さんがみえます。家内は手伝いに行くのが恒例になっていました。ご無沙汰しているので私も一緒に行ってまいりました。

住職の義父は90歳をすぎて現役です。真夏の昼下がり大法要が始まりました。多くの僧侶にかこまれ、途切れながらも読経を続ける老師(義父)の姿はとても尊く、合掌しながら胸に熱いものがこみ上げてきました。

家内を嫁にむかえるとき、義父とひとつの約束をしました。「娘を川崎へ嫁がせてよかったと、必ず思っていただけるようにします。」この約束は一度たりとも忘れたことはありません。

あれから35年(平成17年)、紆余曲折はありましたが天職にめぐり会うことができました。相続の実務家として世間からも認めていただけるようになりました。感動を与えられる講師にもなりました。“感謝の気持ち”と“譲る心の大切さ”一貫しこの理念をつらぬき、相談や依頼を受けた相続案件も、争いをさせることなく解決に導けるようになりました。

義父との約束をようやく果たせた気がします。遅い歩みでしたが、約束を守るべく努力を積み重ね今の自分がいます。それを信じ待っていてくださった義父がいます。1年後に他界しましたが生前に約束を守ることができ、本当によかったと思っています。

約束を守ること、信じることの大切さ、改めて感じました。

「3ケ月」前と後では天国と地獄 野口レポートNo259

あるお母さんが債権者からの請求(督促状)を持って相談に見えました。離婚した夫が亡くなりました。母親は離婚により縁が切れ相続人とはなりません。だが子供は血がつながっているので相続人となります。債権者は子供達に父親の借金を請求してきました。

相続放棄は、死亡を知ってから3ケ月以内でなければ出来ません。亡くなってからではなく、亡くなったことを知った時から3ケ月です。このことは相続放棄の実務では大きな意味を持ちます。

離婚の原因はギャンブルです。別れた夫の生活を考えると他にも隠れた借金が出てくる可能性があります。すでに亡くなってから10ケ月が過ぎています。

子供達は債権者からの請求で父親の死亡を知りました。「死亡を知った時から3ケ月」つまり督促状の消印から3ケ月が勝負です。幸い子供達も成人しているので特別代理人の選任は不要です。

お母さんの相談が早かったので司法書士をコーディネートしセーフでした。もし督促状が届いてから3ケ月が過ぎてしまったら手遅れです。子供達は父親の全ての借金を背負わなければなりません。

隠れた借金や保証債務はいつ表に出てくるか分かりません。時限爆弾をかかえているようなものです。家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届いた時のお母さんの安堵の表情が印象的でした。

 相続の専門家も負債相続には積極的に取り組みません。資産家の相続の相談に乗っているほうがよほど儲かる、といったところが本音です。

塾長を務めている野口塾の塾生に司法書士の椎葉基史さんがいます。日本では数少ない負債相続に特化した専門家です。これまでに2500件以上の負債相続を解決した「相続放棄」のエキスパートです。

弁護士や税理士もほとんどが手掛けたことのない、限定承認にも積極的に取り組み、一昨年に全国で初めて限定承認専門の相談窓口「限定承認相談センター」を開設しました。

最近は著書「相続放棄が分かる本」をポプラ社から出版しました。負債相続の実務書はなかなかありません。貴重な一冊です。

相続対策で大きな借金をしてしまった人、連帯保証人になっている人、自社の個人保証をしている人、弁護士や税理士なども必読です。

 負債相続で悩んでいる人は数多くいます。3ケ月を過ぎてしまったからと玄関払いされ、ワラをもつかむ思いで相談に見えます。

3ケ月が過ぎてもあきらめないこと!彼のような専門家につながれば、状況によっては数年後でも相続放棄が認められるケースがあります。

著書の一節です。「社会の陰に光をあてる。これは司法書士としての私のモットーです。多くの人が苦しんでいるのにもかかわらず、世の中から置き去りにされている問題に正面から立ち向かっていくこと、それが私なりの社会貢献だと思っています。」いい言葉ですね。

17年をむかえた野口塾は、あらゆる分野の専門家が集まった、他にはない相続の実務家集団です。全員が資格と人格に相談者の痛みが分かる心を持っています。34名の塾生は私の誇りでもあります。

相続税の大バーゲン 野口レポートNo258

昭和22年に家督相続から均分相続に相続制度が変わりました。この頃は家制度思考が文化として残っており、長男が同居し親の面倒を見るのは当たり前の話しでした。

家族全員が円形の卓袱台(ちゃぶだい)を囲み夕げについたものです。衣食住にも事欠く貧しい時代でしたが、人の心は今とは比べものにならぬほど豊かでした。時代と共に核家族化が進み、親と同居している人は本当に少なくなりました。

相続税小規模宅地の特例があります。相続で取得した自宅の敷地330㎡までは、更地評価から80%減額してくれる特例です。

配偶者や親と同居している子が一定の要件を満たせば、自宅敷地の評価が330㎡を限度とし80%激減されます。路線価の高い地域では天と地の差になります。まさに相続税の大バーゲンです。

親が1人で住んでいる自宅敷地は、同居していない相続人が取得しても、相続開始前3年以内に自分の家を所有(配偶者も含む)し住んでいなければ、この特例が使えます。俗に言う「家なき子」の相続人です。なら、「持ち家を子に贈与してしまおう。」そして自分は「家なき子」になってしまう、こんなことを考える人が出てくるのは世の常です。租税回避の相続税対策を防ぐため、今年から「家なき子」の要件が厳格になりました。 

だが、通常の小規模宅地の特例のなかの特定居住用宅地等(自宅敷地)は健在ですので安心してください。

相続税には次の3通りがあります。
①相続税の課税されない人⇒ 財産が相続税基礎控除以下である。
②申告することで課税されない人⇒ 申告により各特例を使う。
③相続税の課税される人⇒ 特例を使ってもはみ出してしまう。

 財産は自宅と預貯金が3000万円前後、これらの層は基礎控除改正前には課税されませんでした。だが改正後は納税義務者が続出しています。課税される相続税は50万円~300万円位です。小規模宅地の特例が使えるかどうかが大きなポイントになります。要件を満たしているなら相続税の申告をし、特例を使うことにより相続税は0円です。ただし税理士の報酬はかかります。

 要件とは次の通りです。◎被相続人と同居している相続人が自宅敷地を相続し、申告期限の10ケ月まで引き続き所有し、住んでいること。10ヶ月以内に売却したら特例が吹っ飛ぶので注意が必要です。配偶者が相続したなら要件はありません。無条件です。

この特例は、長年夫を支えてきた配偶者や、同居し親の面倒をみている親孝行息子に与えられるご褒美です。これが小規模宅地の特例の本来の姿ではないかと思います。

特例を受けるには、相続開始後10ケ月以内に遺産分割を成立させ申告をすることが原則です。親孝行息子が自宅を相続し、円滑に申告ができるよう、公正証書遺言でサポートしておきましょう。