相続と少子化を考える 野口レポートNo330

私が相続の仕事に就いたのは平成6年です。この時代は遺産分割協議で揉めてしまう相続が少なくありませんでした。が、ここ近年は分割協議で揉めることは減ってきています。

旧家や資産家は別にして、一般的には相続は法律通り(法定相続分)との考えが定着しつつあること、加え相続人の数が少なくなってきたことに原因があるような気がします。

以下は最近扱った相続案件10件の相続人の数の内訳です。

相続人が1人…4件、②相続人が2人…3件、③相続人が3人…

2件、④相続人が15人…1件。

☆相続人が1人⇒10件のなか40%も占めています。そのほとんどは一人っ子です。親より先に他の兄弟姉妹が亡くなり、代襲者がいなければ、子は1人なんてこともあります。相続人がお一人様なら分割協議は不要です。余計な神経と気は使わなくて済みます。

 税理士と司法書士をコーディネートし、相続税の申告、不動産の相続登記、銀行等の預貯金の解約など、ひとつずつ手続きを進めていけばいい話です。こんな楽な相続案件はありません。

☆相続人が2人⇒相続人の意見は2通りしかありません。同じ意見なら問題はありません。もし意見や考えが違ったら、どちらかに少し譲ってもらうことができるかがポイントになります。

☆相続人が3人⇒配偶者(母親)がいるか、いないかで状況は変わってきます。母親は大きな説得力があります。子ども達も従わざるを得ないでしょう。配偶者がすでに他界し、子が3人の場合でも、多数決ができる数なので何とかまとまります。

子が親より先に亡くなっていたら代襲者がいます。良好な関係を保っているオイやメイならば伯父さんや伯母さんには逆らいません。それなりの代償金で納得してくれます。が、代襲者が疎遠の場合、なかには「自分の権利は当然だ」と、1円たりとも譲らず真っ向から権利を主張してくる強者もいます。

☆相続人15人⇒第3相続順位のレアーケースです。本来もらえない「棚ボタ財産」です。故人を世話した人や面倒をみた人がいなければ均分が公平です。何人いようが法定相続分でほぼ決まります。

少子化の話になります。団塊の世代が「後期高齢者」となる時代に入りました。理想の人口構成はピラミッド型です。下にいる現役で元気印の多くの人達が、上の三角部分にいる高齢者を支える。

ところが今の日本は少子化です。このままでは将来は逆ピラミッドになってしまいます。100歳時代をむかえ、高齢者は増え続けています。はたして子が支えられるでしょうか。

遅まきながら国も子育て支援等の少子化対策を打ち出しています。しかし少子化は単なる経済問題ではなく、もっと奥深いところに根本的原因があるような気がします。相続人の数が減り相続は楽になりました。が、少子化は国の根幹を揺るがす大問題です。

売買と贈与の契約 野口レポートNo329

私達が日常さりげなく行っている行動ですが、その多くが契約という法律行為になります。

契約の最たるものである不動産の売買を例にとってみましょう。買主のこの土地を「売ってください」との意思表示(申込)に対し、売主の「売りましょう」という意思表示(承諾)がありました。買いましょう、に対し売りましょう。買主と売主の意思が合致し売買契約が成立します。なお契約は口頭でも成立します。

売主には売買代金をもらう権利(債権)と、土地を引き渡す義務(債務)が生じます。買主には土地を引き渡してもらう権利(債権)と、売買代金を払う義務(債務)が生じます。契約は約束事です。約束は守らなければなりません。

契約のなかに「履行に着手するまでは、買主は手付金を放棄し契約を解約ができる。売主は手付金を倍にして返すことで契約を解約できる」とあります。分かりにくいのは「履行に着手するまでは」この条項です。魚屋さんに例えてみましょう。

「この魚をください」お客さんの申込みに対し、「毎度ありがとうございます」魚屋さんの承諾があり、売買契約が成立しました。  お客さんが財布を開けた時が履行に着手です。魚屋さんの包丁が魚に入った時が履行に着手です。

次は贈与契約について考えてみましょう。贈与契約で一番大事なことは、贈与を受ける側にもらう意思があるかどうかです。贈与者の「あげます」との一方通行では贈与契約は成立しません。

例えば、親が毎年100万円を贈与として子に振り込みます。子はこのお金を10年間一度も手をつけていません。子にもらう意思がないとみなされたら、贈与は無効になってしまいます。もらったお金は一部でもよいから使うことです。

「いつもお世話になっています。ほんの気持ちですが」このあげますとの意思表示に対し、「ご丁寧にありがとうございます」もらいますとの意思表示がありました。普段さりげなく行っている中元歳暮ですが、これも立派な口頭での贈与契約です。

贈与には年間110万円までは非課税の「暦年贈与」と、相続時に贈与を相続財産に戻す「相続時精算課税制度」があります。この贈与に大きな改正が入りました。暦年贈与は相続開始前3年以内の贈与は相続財産に戻すとあります。3年が7年となり、対策は親の長生きが前提となります。精算課税は2500万円の特別控除とは別に、基礎控除の創設で年間110万円以下までは非課税となり、この部分は贈与税申告と相続財産への持ち戻しが不要です。

精算課税には一定の要件があります。また一度選んだら暦年贈与は生涯使えません。選択は税理士や専門家と十分協議してください。精算課税を選んでいる人は、相続税申告の時には必ず税理士に伝えてください。ここを誤ると後で余計な手間がかかります。

二度二度童子 野口レポートNo328

老いて意思能力を失った人のことを、今では認知症とよんでいます。東北地方のある地域では、このようなお年寄りのことを「おじいちゃん・おばあちゃんは、子どもにかえってしまったんだなぁ~」というので、二度童子(にどわらし)といっているところがあります。何とも温もりのある言葉ですね。

認知症を発症したお年寄りの行動は赤ちゃんと似ています。赤ちゃんは、おしっこを漏らしても、ミルクをこぼしても、誰からも文句をいわれません。成長過程だからニコニコして見ていられます。

ところがお年寄りの「二度童子」となると、実際に直面する現実の厳しさが心での受け容れを難しくしてしまいます。

在宅介護の現場は、すさまじいものがあります。実際に親を介護し、体験した人でなければその苦労は分かりません。

Aさん夫婦が寝たきりの父親を在宅介護しています。下着を換えシーツを換えます。息つくまもなく父親はまた便意を訴えます。「ビニールビニール早く」ご主人が声を荒げます。が、間に合いません。素手で受けた下痢便が指の間から滴り落ちます。これが現場です。

介護の先には必ず相続が待っています。この相続を引き受けました。Aさん夫婦に感謝し、介護の労をねぎらう兄弟姉妹は誰もいません。遺産分割協議では当然のように権利を主張してきました。

野口塾に、NPO法人相続アドバイザー協議会理事長の平井利明さんがいます。認知症を発症し、排尿、排便、徘徊をする父親を、在宅で介護し最後を看取った人です。ご本人はこの体験が相続アドバイザーとして成長する大きな糧になったと言っています。

最初は「何で自分がこんな目に」と思ったそうですが、介護を続けていくうちに「ありがたい」と思えてきたそうです。

平井さんからある詩を教えていただきました。「手紙~親愛なる子供たちへ~」です。詩を聞いた時、涙が止まらなかったそうです。

「年老いた私が 今までの私と違っていたとしても どうかそのまま私のことを理解してほしい」こんな書き出しで始まります。

子は親になり、親はいずれ老いていきます。健康寿命が尽きれば、いずれ「二度童子」となるでしょう。

食べ物をこぼすこともあるでしょう。下着を濡らすこともあるでしょう。足も衰えてくるでしょう。そんなとき叱らないでください。あなたが赤ちゃんの時と同じです。そんなあなたを親は愛情こめて付き添ってくれました。

今度はあなたが付き添う番です。親の恩に気付いてください。あなたの人生の始まりにしっかりと付き添ってくれたように、親の人生の終わりに少しだけ付き添って差し上げてください。

賞味期限が終わり、枯れていく自分にも「二度童子」となる日がくるかも知れません。健康が保たれてこそ、初めて長寿の意味があります。長生できるなら健康寿命を願うばかりです。

第3相続順位とその対応 野口レポートNo327

☆被相続人に子がいる。子が相続人となる第1順位の相続です。父母や祖父母の直系尊属や兄弟姉妹は相続人にはなりません。養子は実子と同じ権利義務を有します。

認知した非嫡出子も先般の民法改正で、実子と同じ相続分を有するようになりまた。

☆被相続人に子がいない。が、父母がいる。父母がいなくても祖父母がいる。これは父母等が相続人となる第2順位の相続です。

☆被相続人に子も父母や祖父母もいない。これは兄弟姉妹が相続人となる第3順位の相続です。兄弟姉妹が亡くなっていてもオイメイまでは1代限りで代襲相続人となります。

☆配偶者は、第1順位、第2順位、第3順位であれ、順位により相続分は違っても、常に相続人となります。

◎Aさんの伯母さんが亡くなりました。ご主人はすでに他界しており、子どもがいないので相続人は伯母さんの兄弟姉妹です。

5人のうち2人はすでに他界しオイメイに枝分かれしています。相続人はオイのAさんを含め全部で10人になります。

近くに住んでいるAさんが葬儀を仕切り、相続もまかされました。私が載っていたタウン誌を見て相談に見えたそうです。他の相続人からは一任を取り付けているとのことでした。

主な遺産は自宅の土地建物、それに預貯金が少々です。葬儀費用を差し引き、自宅売却の諸費用を見積もり、手取り残額を算出し代償金を決めます。相続人が兄弟姉妹の場合は残額を法定相続分で按分することが多いです。一度全ての財産をAさんが相続し、そのあと自宅を売却し他の相続人に代償金を払います。

Aさんが翌年に払う費用は、①譲渡所得税、②社会保険料等、③確定申告税理士報酬です。直近で払う費用は、④葬儀費用、⑤確定測量費用、⑥建物解体費用、⑦相続登記費用、⑧遺品処理費用、⑨土地売買仲介手数料、⑨相続アドバイザーへの報酬、⑩雑費です。

全ての段取りが整ったら遺産分割協議書に署名押印です。第3相続順位の相続は相続人が多く、しかも北海道から沖縄まで全国に散らばっていることがよくあります。

相続人全員が一堂に集まるのは不可能です。遺産分割協議書を人数分(10枚)つくり全員に送ります。署名押印し返送されてきた遺産分割協議書を10枚束ねて初めて効力が生じます。

遺産分割は多数決では成立しません。例え1枚でも署名押印がもらえなければ、受け取った他の9枚の遺産分割協議書は無駄になってしまいます。これがリスクです。

このリスクを避けるため、相続分譲渡証明書(有償でも無償でも可)をもらう方法もあります。返送されてきた8人の相続分は取りあえず自分の相続分として確保しておき、あとは相続分10分の9と10分の1での遺産分割協議になります。

円満相続の心構え 野口レポートNo327

財産に人の欲と心が複雑に絡んでくる相続は、どうしてもネガティブに考えがちです。今まで多くの相続に立ち会ってきましたが、人生いろいろ 相続いろいろ 相続人もいろいろです。

「明るく、楽しく、清々しく」そんな相続あるわけないだろうとお思いでしょう。が、そんな相続があることも知ってください。

以前に手掛けた2つの相続案件をご紹介したいと思います。

《その1》A家の相続です。父親はすでに他界しており、二男夫婦が母親の世話をし、最後を看取りました。二次相続の遺産は全て預貯金です。相続人は子である兄弟姉妹が5人です。

墓守をしている二男から「遺産は取りあえず自分が相続し、母親の供養に使いたい」との提案がありました。5人で分けてしまえば1人当たり、そんな大きな額にはなりません。

他の兄弟姉妹に異議は無く、全員が二男の提案を受け入れました。最初の法要は49日です、次は1周忌そして3回忌と続きます。

法要に出席する参加者は、交通費、宿泊費、飲み食いの費用は負担する必要はなく、身ひとつで参加します。費用は二男が相続でストックしている遺産から出します。この時ばかりは、5人の兄弟姉妹、子、孫、ひ孫までA家の一族全員が集まります。

法要後は寿司屋を貸し切って食べ放題で飲み放題です。ひ孫も大はしゃぎ、盛り上がる様子が目に浮かびます。一族の絆もさらに深まり、故人も雲の上からよろこんで見ていることでしょう。

全員が次の法要を楽しみに待っています。そして遺産を使い切ったなら通常に戻り、実質の「遺産分割」は終了します。まさに「明るく、楽しく、清々しい」相続ではありませんか。

《その2》次は旧家であるB家の相続です。これも二次相続での母親の遺産分割の話です。母親(配偶者)は一次相続でそれなりの預貯金を相続しています。相続人は子である兄弟姉妹が4人です。

長男が口火を切りました。「自分は父親の相続でそれなりに遺産を相続したので、今回は均分で分けよう。」それに対し二男が反論します。「均分はおかしいよ、兄貴は墓守や親戚付き合いなどもある、自分達より多く相続してほしい。」互いが譲り合い、結局は長男が半分取得し、残り半分を3人の兄弟姉妹が均分で取得することになり、話し合いはわずか30分で終了しました。

これも清々しい相続でした。終わった後お話しをさせていただきました。「ご両親は皆様を“感謝の気持ちと譲る心”を持った人間に育ててくれました。ありがたいことです。これは皆さんが相続した“何にも勝る無形の財産”ですよ。」思わず出た言葉です。

円満相続の心構えです。①素直であれば⇒感謝ができる ②感謝ができれば⇒譲ることができる ③譲ることができれば⇒円満相続ができる ④円満相続ができれば⇒幸せになれる。

これからがスタート 野口レポートNo326

野口塾の塾生に、福岡からくる女性のMさんがいました。難病を克服し、次は途上国に子ども達の学校を建てる夢の実現です。

もう1人は介護のエキスパートSさんです。モンブランの登頂や、今でも大型バイクに乗っているスポーツウーマンです。

8年ほど前、Mさんから「心臓を病んだ時の私と同じ仕草をしていますよ」と言われました。「時折咳き込んだり、無意識に背中をさすったりしている、1度診てもらってください」と先生を紹介されました。Mさんは数年前に心臓の手術をしています。

Mさんへ生返事を繰り返していると、突然Sさんが訪れ「私が予約を入れるので診察に行ってください」と、携帯を取り出しました。Sさんに背中を押され重い腰をあげました。

精密検査の結果は心臓の冠動脈が2か所狭窄しているとのことでした。このまま放っておくと「心筋梗塞」を起こすとのことです。

 「ステント手術」をしました。血管の内側は神経がないそうです。麻酔をしないので、カテーテルが、心臓に向かって血管のなかをズズと進んでいくのが分かります。ステントを2本入れました。

翌年に別の狭窄が見つかり、合計4本のステントが入っています。その後は快調です。もし「心筋梗塞」を起こしたら命にかかわることもあります。2人の塾生は命の恩人です。

地元にかかりつけの医院があります。先代のお父さん先生のころから長くお世話になっています。今は息子さんのY先生が1週間に数回時間を割いて診察してくれています。

心臓など循環器内科の名医です。某大学病院の特任教授と副院長も務めています。大学病院で教授先生に診てもらうのは大変なことです。それが地元で気軽に診てもらえる、こんなありがたいことはありません、患者さんは幸せ者です。

月1回は定期検診に行っています。いつも適切な診断で薬を処方してくれます。おかげで、血圧も正常、糖尿病もなし、血液検査も95点です。が、最近不整脈が出るのが気になるところです。

 お医者様には名医がいます。相続の世界も同じです。名医と普通の先生の違いは「見たて」です。素人にはその違いは分かりません。病気も相続も誰に診てもらうかで運がわかれます。

私も77才になりました。建物なら築年数77年です。あちらこちらが痛んでくるのは当たり前の話です。この歳になれば誰もが病気のひとつやふたつは持っています。病気を受け入れ、上手に付き合っていくことが長生きの秘訣ではないかと思います。

この仕事も来年で30年になります。勉強と経験を30年間積んできて、相続がようやく見えてきました。人間としても少しは成長し、これからが本当の意味でのスタートかも知れません。

Y先生のお世話になり、もう少し長生きし、1人でも多くの相続人を円満相続へと導くお手伝いができたならと思います。

すりこ木 野口レポートNo325

 「身をけずり 人に尽くさん すりこ木の その味知れる 人ぞ尊し」親戚の法事に呼ばれ、会食した日本料理屋さんのグラスのコースターに書いてあった言葉です。この言葉に感動し、コースターは持ち帰りオフィスの机の前に飾ってあります。

 相続は法律と経済(お金)に人の心が複雑に絡んでくる難しい分野です。時には「身をけずる」覚悟も必要です。

 ◎行きつけのすし屋の大将から、常連の地主さんが飲んで酔うと、相続をお願いしている会計事務所の愚痴をいうので、一度地主さんの話を聞いてやってほしいと紹介されました。

 土地が多く数億単位の相続税と推測されます。4か月が過ぎているのに、相続人の確定や相続税の概算すら出ていません。相続に精通している税理士にかえることを進言しました。

 公正証書遺言があるが、先妻の子の遺留分を大きく侵害しています。また、不動産を考慮せず作成されています。遺産のなかに広大な土地(300坪)があり、建物が筆界のなかに収まっていません。遺言通りに登記してしまうと、多くの建物が境界を越境してしまいます。この土地の中央に道はあるのですが、不動産登記簿をみると単なる宅地です。このままでは建築基準法の接道を満たさず、周りの土地には家を建てることができません。

 この土地を一度合筆し(遺産分割前の未分割共有状態ならできる)、利用の実態に合わせ分筆しなおし、それを遺産分割する必要があります。中央にある道(宅地)を整備し、位置指定道路(セットバックが必要)の認定を受ければ、多くの土地が建築基準法の接道を満たし、家を建てることができます。

 皆が納得してくれましたが、ある亭主が出てきて、下がると面積が減るとの理由で拒まれました。位置指定道路がなければ皆が困ります。大きな効果を考えればセットバックなど小さなことです。

私の説明に納得できないと、提案した資料を持って弁護士のとこへ相談に行きました。弁護士からは「ここまでやってくれる人などいないよ」と逆に諭されて帰ってきました。

 遺言を使ったらこちらは楽です。しかし先妻の子から遺留分の請求をされる、合筆と新たな分筆ができない、位置指定道路もできない、家が建たない、土地は二束三文となり一族は相続で不幸になってしまいます。何でこんな遺言を作ったのか理解できません。

 先妻の子も誠意ある対応に心を開いてくれました。パートナーの、税理士・土地家屋調査士・司法書士も自分の仕事を確実にこなしてくれました。提案通りに完了し、思い出に残る仕事になりました。

 相続は大小に関係なく、身をけずる思いをすることがあります。その味を知れる人もいます。が、味すら分からぬ人もいます。

 後日、チームを組んだパートナーと大将の店で互いの労をねぎらいました。難しい仕事をやり遂げたあとのお酒の味は格別です。

一日体験入隊 野口レポートNo324

野口レポートNO.36号(当時54歳)の復刻版です。

まだ駆け出しですが相続に特化した不動産屋として色々な相談を受けるようになりました。多いのが相続問題と借地問題です。この二つは法律と経済に人の心が絡んでくるのでよく似ています。

相続は10か月以内に、①遺産分割を合意する。②相続税の申告をする。③相続税を現金一活納付する。億単位の相続税が課税される地主は、これらの資金を調達する土地換金作業が要となります。

この土地をめぐり蜜に集まる蜂のごとく不動産ブローカーが寄ってきます。なかには己の利益を優先しようとする輩もいます。そして商売にならぬと見るや潮が引くように一斉に去っていきます。

不動産業に転業し5年となります。不動産業になれることは必要です。だが、染まりたくありません。「汗をかき報酬を頂戴する」この原点に戻り、自分を見つめたく体験入隊をしてきました。

入隊と言っても自衛隊ではなく、電気工事会社の友人にお願いして一日入社です。条件は日当をいただくこと、雇用関係が成立し遊びではなくなります。

お盆休みの12日、むかえのトラックに乗り現場に到着、自分の分担は地下70センチ長さ5メートルを掘り返す仕事です。

しばらく肉体労働から遠ざかっており、最初はすぐ息切れです。息が整ったら穴を掘り、穴を掘ったら息が切れ、このくり返しです。頭の先から足の先まで汗がふき出します。

久々に体験する激しい労働です。そのうち足腰がいうことをきかなくなります。気力と腕の力は残っており、穴の淵に座り込み腕だけで堀りつづけ足腰の回復を待ちます。しばらく掘り下げていくと、前回工事をした業者の弁当のカスやペットボトルが出できました。この業者のモラルの低さにあきれます。

苦労しながらもひと段落、ようやく昼休み、空腹感はあるが暑さと疲労のため食欲がわかず弁当は多くを口にできません。

つかの間の休息で元気が戻り、午後の作業も何とか耐えました。社員の皆さんが無言で励ましてくれます。スコップにコツンと手応え、ヤッタネ!ついに地下70センチの配管に到達です。

他の仕事を終えた社員さんの応援もあり、穴を埋め戻し定刻には作業も終了し、与えられた仕事を無事やり遂げることが出来ました。

異業種一日体験でしたが、穴掘りを通し汗で得る報酬の尊さを再認識すると同時に、「千里の道も一歩から」着実な継続が勝利を得ることも身を持って感じました。汗を出し、美味しくのめるはずであったビールが疲労困憊で喉を通らなかったことが残念です。

己の生き方に迷うことなく、新しいスタイルの不動屋として精進し、少しでも皆様のお役に立てるよう頑張りたいと思います。

平成11年9月1日

一本の糸 野口レポートNo323

遺産分割協議は数ある相続手続きのなかでも一番ハードルが高い作業です。親が残してくれた財産に感謝し、互いが尊重し譲り合い、円満に収まるところに収まる、こんな相続は感動します。親は故人なので会うことはできませんが、子供たちを「感謝の気持ちと譲る心」を持った人間に育て上げた素晴らしい人だったと思います。

相手の話に聞く耳を持たず、昔のことをはじから持ち出し、自分のことばかりを主張し、相続を争いにしてしまう相続人もいます。こんな子供に育ててしまったら「親の子育ての失敗」です。相続は人生最後の仕上げ「子育ての集大成」と言えるでしょう。

遺産分割協議の立ち会いは気配り心配りのなか、緊張の糸が張り詰める世界です。終わるごとにエネルギーを消耗します。相続は十件十色、相続人も十人十色です。同じ親から生まれたのに人格が全く異なる兄弟姉妹もいます。遺言があればこの手間は省けます。

売り言葉に買い言葉、最初は口論から始まり争いに発展してしまうこともあります。家庭裁判所の審判になってしまったら兄弟姉妹の縁は切れ元に戻ることはありません。相続争いは家族が音を立て崩れ、相続人は勝っても負けても不幸になります。

私はいつも仕事で心がけていることがあります。例え糸1本でもよいから兄弟姉妹の縁を残しておくことです。

21年前の相続案件です。現場は大磯にあります。近くに勉強仲間のNさんがいます。地元なので土地勘もあり情報にも精通しています。一緒にこの案件を手伝ってほしいとお願いしました。

父親が亡くなり相続人は母親と兄と弟の3人です。知り合いを介し兄からの依頼です。弟夫婦が長年親と同居し世話をしています。兄夫婦はまかせっぱなしで自分達は一切係わっていません。

遺産である土地を分筆し2人で分けることになりました。分筆すると片方は公道に接しますが、もう片方は私道にしか接しません。兄は価値のある公道側の土地を取得したいと主張します。長い間、親の世話をしてきた弟は納得できません。

 激しい相続争いに発展してしまいました。「相続争いなどドラマのなかの話かと思っていた。が、まさか自分が遭遇するなど思ってもみなかった。」兄の言葉です。揉めに揉めましたが、最後は弟が1歩譲ってくれ何とかまとまりました。

 兄には、ある機会を通し弟と縁が戻るようにと1本の糸を残しておきました。その後この兄弟がどうなったかわかりません。

 突然、兄から電話がありました。相談があるとのことです。21年ぶりの再会です。最初に聞いたのは弟のことでした。「たぶん生きていると思うよ」でした。「一度こうなったら元には戻らないよ」とも言っていました。託しておいた1本の糸は切れていました。

寂しい話です。が、これが現実かも知れません。21年目にして相続の難しさを改めて感じさせられました。

法律と財産を頭から外す 野口レポートNo321

相続の実務でいつも心がけていることがあります。一度「法律と財産を頭から外し、相続人の幸せを心から考えてみる」ことです。

すると本質が見え目的がはっきりしてきます。

以前扱った案件です。知人の紹介でAさんが相談に見えました。Aさんは45歳独身の女性で父親と同居しています。

父親が亡くなりました。遺産は30坪ほどの自宅土地建物です。相続人は母親とAさんの2人です。母親は認知症で施設に入っています。10か月以内に相続手続きをしなければならないと言われ、どこへ誰に相談したらよいのか分からず、毎日悩んでいたそうです。遺産分割に法律上の期限や時効はありません。Aさんは相続税の申告と相続手続きを混同していると思われます。

多くの相談者は自分の目的が分かっていません。話を十分傾聴しこの問題の本質がどこにあるのかをつかみます。Aさんの目的は相続の手続きではなく、自宅に住み続けられることだと分かりました。遺産も相続税基礎控除以下なので申告の必要はありません。

相続問題の本質が分かれば方向が決まり、何をすればよいのか何をしなければならないかが明確になります。

Aさんの目的は、「この家に住み続ける」ことです。私の答えは「このまま何もしないで放っておきましょう」でした。

母親には意思能力がありません。法律は成年後見人をつけた遺産分割を求めています。母親を成年被後見人にしてしまうと、母親の財布は家族の手から離れ何をするにも後見人です。そして一度成年被後見人にしてしまうと生涯外すことができません。職業後見人を頼めば、報酬を払い続けなければなりません。

何もしなければ父親の遺産は、母親とAさんの遺産未分割共有状態になります。が、Aさんが自宅に住み続ける分には何の支障もありません。何もしなくても目的は十分達成できるのです。

いずれ母親が亡くなれば相続人はAさん1人です。ここで父親と母親の相続手続きを一緒にし、自宅の名義を自分に移せば済むことです。このアドバイスでAさんは安どの表情で帰られました。

318号で紹介した地主の息子に嫁いだBさんにしてもしかりです。法律と財産を頭から外し、相続人の幸せは何かと心から考えた時「財産でなく自分の幸せを取りましょう」この答えが出てきます。法律と財産が頭のなかに残っているうちは本質は見えてきません。

相続アドバイザーは目的(本質)をつかみ、相続人を幸せの道へ案内する相続の実務家です。

今まで多くの相続にかかわってきました。相続は幸せになってナンボです。私の相続に対する思いはたったひとつ「残されたすべての人を幸せにする相続」であってほしいのです。

この目的は微塵もブレたことはありません。明確な目的をもって、残りの人生を生きている自分に幸せを感じます。