遺言必須 野口レポートNo302

子供がいないから、財産は全て配偶者にいくと思い込んでいる夫婦のなんと多いことか。とんでもない間違いで、夫(妻)が遺言を作ってなかったら妻(夫)は辛い思いをします。

夫が亡くなり、子供がなく父母等の直系尊属も他界していたら、妻と夫の兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹が亡くなっていたら、甥・姪が一代限りで代襲相続人となります。妻はこの義兄弟姉妹と夫の遺産分割の話し合いをしなければなりません。

Bさん夫婦がいます。子供がいません。Bさんは妻より10歳年上です。年上の自分が先に亡くなると思い、世話になってきた感謝の証として、自分の預貯金を全て妻の通帳に移しました。

生計一ですから、互いが自由に使え特に問題はありません。が、予期せぬことに妻が先に亡くなってしまいました。

預貯金は凍結され、生活費も下ろせません。相続人はBさんと妻の兄弟姉妹です。銀行に「これは自分のお金だ!」と言ってもそんな話は通用しません。Bさんは途方にくれています。

何代も続いてきた旧家があります。「栄枯盛衰」栄える時もありますが、衰えてしまう時もあります。道楽者が出たためにこの旧家もすっかり衰え昔の面影はありません。母親はすでに他界し父親が残った自宅で一人暮らしをしています。

高齢の父親は寝たきりとなり介護が必要となりました。隣に住んでいるAさん(長男)夫婦が在宅介護をすることになりました。

介護は、食事や下の世話など心身ともに大きな負担を強いられます。実際に経験した人でなければその苦労は分かりません。

そして3年後に父親は亡くなりました。Aさんの依頼でこの相続案件を引き受けました。相続人はAさんと5人の姉達です。

弟夫婦に介護を押しつけ、親の世話を一切しなかった姉達は全員が法定相続分を主張してきました。介護をしてくれた弟夫婦へ「ありがとう」の感謝の言葉もありません。

それどころか自宅を売却しお金に換えろと言ってきました。Aさんは旧家としての面子もあり、せめて3回忌が終わるまで売るのは待ってほしいと嘆願しました。が、姉達は聞く耳を持ちません。

Aさん夫婦には子供がいません。Aさんは自分が亡くなったら、全財産は妻へ行くと信じて疑っていませんでした。

今回の相続で姉達の正体は見えました。もしAさんが亡くなったら権利を主張してくるでしょう。5人のしたたかな義姉達に奥様はとても太刀打ちできません。遺産分割協議は理不尽な内容で合意させられてしまう可能性があります。

「絶対に遺言が必要だ!」とAさんを説得しました。すぐ資料を揃えAさんと公証役場に出向き、公正証書遺言を作成してもらいました。姉達に遺留分の権利はありません、これで奥様は安心です。遺言必須の典型的な事例でした。

遺産分割は法定相続分の時代へ 野口レポートNo301

民法では相続人になれる人と相続分が決められています。法律で決まっているのなら、法律通りに確定してしまえば済む話です。相続争いなど発生する余地はありません。

ところが遺産分割協議で相続人全員が法定相続分で合意する必要があります。また相続人全員が合意したならば、どんな分け方をしても有効となるからやっかいです。

遺産分割協議が成立しなければ、家庭裁判所へ調停申し立てをします。調停が不成立となれば審判(裁判)に移ります。

審判官(裁判官)は、全ての事情を総合的に考慮し判決を出しますが、法律で決まっている法定相続分を変えることはできません。

父親が亡くなりました。相続人は母親を看取り父親を介護した長男、借金(ギャンブル)の肩代わりをしてもらい、勘当状態になっている二男、嫁いでいる長女の3人です。

49日の法要も終わり、次は遺産分割協議です。疎遠であった二男がこの時ばかりとやってきました。長男は両親の世話や介護への寄与と、本家としての墓守や親戚付き合いを考慮し、本家に厚めの分割案を提案しました。長女は兄の提案にしたがいました。親の見舞いにもこない、葬儀にもこなかった二男が法定相続分(1/3)を主張し譲りません。遺言がなかったことが悔やまれます。

遺産分割協議はまとまらず、家庭裁判所の調停から審判に移りました。通常の親の介護では長男の相続分を増やすことはできません。見舞いや葬儀にもこなかったと、二男の相続分を減らすこともできません。常識と法律は違います。そして常識は法律に勝てません。長男には不本意ですが二男の法定相続分は確定するでしょう。

何代も続いてきた旧家なら、家督相続思考が文化として残っており、本家以外が法定相続分を主張することはまずありません。が、普通の家庭では、揉めるのはいやだし、相続は平等だから法定相続分との言葉が、違和感なく出てくるようになりました。

1980年頃、「新人類」と言う言葉が流行りました。従来とは異なった感性や価値観、行動規範を持った若者のことです。

その若者達も親が亡くなり、相続人の立場になる歳になりました。異なった感性や価値観、行動規範を持った相続人の出現です。この年代は権利意識が強く、義務をはたさなくても権利だけはしっかりと主張してきます。

審判官ですらできない、法定相続分を変えられる人が一人だけいます。それは被相続人となる人です。方法は遺言です。法定相続は平等相続です。平等のなかに不平等(公平)を持ち込むのは遺言にしかできません。近年、遺産分割は法定相続分との考えが増えてきています。法定相続が当たり前の時代がくるかもしれません。

法定相続は平等ですが公平とは限りません。これからは相続で公平を保つ唯一の方法である遺言の必要性が増してきます。

正義と腹八分目 野口レポートNo300

「腹八分に医者いらず」満腹まで食べず、八分目、七分目ぐらいにしておくと、健康を保ち医者の世話にならないとの話です。

腕に違和感をおぼえました。見ると一匹の蚊がとまっています。腹いっぱい血を吸ったとみえ、まるまると膨らんでいます。重くて飛ぶことができません。ポトリと下に落ちつぶされてしまいました。満腹でなく腹八分目にしておけば助かったものを……。

相続問題や借地借家問題は話がこじれてしまうと、弁護士に依頼し法律で裁かなければ解決できない場合があります。弁護士にお客様を紹介するときは次のことを考えます。

◎飛び込みや、知らない人には地域の弁護士会の電話番号を教えてあげます。パートナーの弁護士は私を信用し、どんな案件でも断わらずに引き受けてくれます。人を紹介することは自分が保証していることを意味します。案件とお客様をよく吟味し紹介します。

◎依頼者側に正義があるのか、弁護士を紹介する前に一番大切なことは、ここを見極めることだと思っています。

◎丸投げをしない。弁護士は法律のプロ中のプロです。依頼者は素人です。どうしても段差が生じます。面談の時は必ず同席しサポートします。依頼者も安心し話が円滑に進み、弁護士も仕事がやりやすくなります。結果として依頼者の利益につながります。

依頼者側に正義があるか、満腹でなく腹八分目でよしとできるか、ここは大事なところです。あとは長年の経験と雰囲気で勝てるかどうか分かります。敗戦処理は別として、ここを判断し弁護士に紹介すれば依頼者が勝利する確率は高いでしょう。

飲食店を35年続けているAさん夫婦がいます。夫婦も高齢となりました。建物も老朽化してきており、家主は建替えを考えています。建築会社の営業マンが来て立退きを迫られました。

相手は立退きのプロです。夜討ち朝駆けで迫ってきます。夫婦は精神的に追い込まれ相談に見えました。素人のAさんでは対応は無理です。弁護士にお願いするのがベストと判断しました。お客様を弁護士に紹介した時は、丸投げでなく最後までサポートします。

Aさんは35年間一度も家賃を滞納したことはありません。家主には立退きの「正当事由」がありません。正義はAさんにあります。夫婦は私のアドバイスを聞いてくださり、立退料も腹七分目でよしとし短期間に立退きを合意することができました。

それから2年が過ぎコロナ禍です。飲食店は時短を強いられお酒の提供もできません。立退料を満額取ろうと欲を出し、営業を続けていたら、コロナで廃業せざるをえなかったと思います。借主から賃貸借契約の解除を申し出たら一銭も要求できません。

正義はAさんにあったこと、早い決断と腹七分目でよしとしたことが勝因でした。コロナになる前でよかったです。立退料はAさん夫婦にとって老後の貴重な糧となるでしょう。

ちょっと待った!その賃貸併用住宅 野口レポートNo299

借金をしてアパートを建てると相続対策になると多くの人は思っています。たしかに1億円の借金をしたなら、資産から1億円が債務控除されます。これで相続税が安くなると誤解してしまいます。

借金は返済しなければなりません。ひとくちに35年といっても気が遠くなる時間です。相続税が安くなったと錯覚しますが、相続税が借金と入れ替わったことに気がつく人はいるでしょうか。

借金しても相続税を減らす節税効果は生じません。仮に、資産が2億円で負債が0円とします。2億円―0円=2億円(課税価格)です。この課税価格に対し相続税が課税されます。

銀行から1億円の借金をします。手元にあるうちは資産が1億円増えます。が、借金も1億円あるので、資産と負債が行って来いで借金しても課税価格は変わらず相続税も変わりません。

ならば、借金で得た1億円でアパートを建てたならどうなるか、建築費1億円のアパートの相続税評価額は約70%です。さらに借家権割合が減額され、約5,000万円の評価となります。1億円の借金に対し、資産は5,000万円しか増えません。この差に節税効果が生じます。相続税が安くなるのは借金ではなく、借金で得た現金でアパートを建てるからです。借金しないで手持ち資金でアパートを建てれば、シンプルで確実な相続税対策になるでしょう。

築する建物を区分所有登記にしたいと、顔見知りのAさんが相談に見えました。この登記のメリット・デメリットを話しました。

Aさんの賃貸併用住宅の事業プランを聞いて耳を疑いました。

◎1階フロアが自宅部分(自分達の居住エリア) ◎2階3階が賃貸部分で4室(1室賃料12万円) ◎キャシュフロー(返済後の手取り)10万円 ◎建築費8,000万円、全額借入35年返済。

あまりにも無謀な事業計画です。手漕ぎボートに家族全員を乗せ外洋に出ていくようなもので、転覆したら万事休すです。

新築物件なので取りあえず満室になるでしょう。が、新築の雰囲気など5年がいいところです。キャシュフローが10万円しかありません。もし、1室でも空室が発生したら「持ち出し」です。2室空いたらさらに持ち出しです。手持資金が底をついたら返済不能、銀行に抵当権を実行(競売)され自宅まで失うことになります。

相手は建てることしか考えていません。途中で行き詰まっても助けてくれません。最後は全て自己責任です。

冷静に考えれば賃貸併用住宅の居住部分は、生涯において空室をかかえるのと同じです。仮に全部が賃貸だとしても、全額借入35年返済のアパート経営など綱渡りをするようなものです。

その気になっていたAさんですが、私の話を聞いて冷静さを取り戻し、家族会議をひらきこの事業計画を白紙に戻しました。

 登記の相談に見えたおかげで間一髪セーフ、Aさんと家族の人生を守ることができました。

兄弟 野口レポートNo298

兄が死んだ。姉から電話でそのことを知らされ時、私は思わず小さな声で「万歳!」と叫んだ。16年待った。長い16年だった。

なかにし礼さんの著書「兄弟」の冒頭の一節です。

中西一族は満州から引き揚げ小樽に住んでいました。兄が家を担保に借金し、ニシンの網に賭けて全てを失います。

年月が過ぎ礼さんは石原裕次郎さんと出会いました。これが作詞家なかにし礼を生んだ原点です。最初の作品は菅原洋一さんの「知りたくないの」でした。作詞家、作家としても大活躍します。

一方の兄は、博打好き、見栄っ張り、会社を設立しては倒産し借金が残る。この繰り返しで倒産させた会社は10数件に及び、その度に礼さんが尻ぬぐい、肩代わりした借金は計り知れません。

この「底無しの甘ったれの怪物」が、ゴルフ場の開発に手を出しました。礼さんは知らぬ間に社長にされていました。違法が発覚し会社は倒産、兄は姿を消しました。兄の借金2億円を加えると、全財産を処分しても、5億5,000万円の負債が残りました。

礼さんは生活にも困窮する借家住まいとなりました。が、めげずにヒット作品を連発し、この借金を返すことができました。

絶縁してから16年、兄の死を知り思わず「万歳!」と叫びました。尋常でない兄の「呪縛」から解き放された瞬間でした。

 相続での遺産分割協議は、人間の本性が表に出てきます。自分に嘘がつけません。この時の姿が「本当の自分の姿」です。                                                          

◎ある母親が亡くなりました。兄夫婦が母の最期を看取りました。遺産は自宅と預貯金で、相続人は兄と弟の2人です。

母は弟を溺愛し、ほしいものは何でも与えました。弟は「はしっこい」が、兄は「とろい」と、よく言っていたそうです。

「とろい」と言われた兄は、長男ゆえに我慢と苦労を強いられ、思いやりと人望ある人間に育ちました。

「はしっこい」と言われた弟は、甘やかされ、ずるくて身勝手な人間に育ちました。未だ結婚できず独身です。

この兄弟の遺産分割協議に立ち会いました。兄が口火を切ります、

墓守や親戚付き合いなどを考慮し分割案を出しました。が、弟は聞く耳を持ちません。兄に対し言いたい放題です。兄はこぶしを握りジッと耐えています。よく我慢していると思いました。

弟は1円単位までこだわります。兄は自宅を相続し、あとは譲り預貯金のほとんどを弟が持っていってしまいました。

世の中には礼さんの兄やこの弟のように、人格がまるで違う兄弟もいます。同じ親から生まれてきたとはとても思えません。

親の財産もらうのは当たり前、有り難いとの気持ちがない、感謝がないから譲れない、相続争いをする兄弟の共通点です。

多くを見てきましたが、相続は子育ての集大成です。相続争いや、兄弟仲が悪いのは、親の子育ての失敗だと思います。

二兎を追う者は一兎をも得ず 野口レポートNo297

相続対策には大きくわけて次の三つの対策があります。

(1)遺産分割対策

 親の財産を円満かつ円滑に分ける対策です。生前に不良資産などを整理し分けやすい財産にしておく、不公平感のないバランスの取れた遺言公正証書を作成し、親の気持ちを付言に託しておく、盆や正月など集まる機会あるごとに、子供達に遺言の内容を言い含め相続争いや兄弟姉妹に絶縁が生じないようにしておく。

(2)相続税納税対策

 相続開始10ケ月以内に相続税を現金一括納付できるようにしておく対策です。財産構成は主に土地で預貯金が少ない、億単位の納税をする地主にとって、何より優先しなければならない対策です。

(3)相続税節税対策

相続税をいかに減らすかの対策です。対策のなかでは一番報酬を取りやすい分野です。相続の専門家と言われている人達には、節税対策を優先する人が多いのも事実です。

が、これらの対策が同じ方向を向くとは限りません。真逆の方向を向いてしまうこともあります。このお客様にはどの対策を優先すべきか、三つの対策のうち優先する一つの対策が決まったら、その対策を確実に実行することです。

新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。政府は感染対策と経済対策を両立させるとの方針を続けてきました。

極めつけは「GoToトラベル」「GoToイート」のキャンペーンです。これで感染が一気に広がりました。感染対策と経済対策の2兎を追ってしまった結果です。

自粛生活の長期化やコロナ慣れにより、当初に比べ国民の意識も低く、「緊急事態宣言」も以前のような効果があるかは疑問です。

最近は会合もありません。講演もオンラインで臨場感がありません。友人との会食や飲み会も一切ありません。

相続は心と神経を使うストレスのたまる仕事です。週末には近くのソバ屋のカウンターで一人お酒を飲みながら、疲れた神経を癒しリフレッシュするのが、コロナ禍のなかで唯一の楽しみです。が、酒を出してはならぬ、とのお達しでこれもできなくなりました。

「おもてなし」の言葉のもと、カードを返したら「TOKYO」です。オリンピック招致に成功し、関係者は涙しよろこびました。まさか貧乏クジを引いたなど誰が思ったでしょうか。

政府は二兎でなく三兎を追うつもりです。このような感染状況のなかでオリンピックを開催できるのでしょうか、IOCや政府は国民の健康を最優先し、判断してほしいものです。

「二兎追う者は一兎をも得ず」今はこの言葉をかみしめ、円滑なワクチン接種や感染拡大を抑えることに、エネルギーを集中すべきだと思います。

相続と所有者不明土地 野口レポートNo297

不動産登記簿を見ても、現在誰が持っている土地なのか分からない。所有者不明土地は全国の土地の20%を占めるそうです。

原因は相続登記の不備が最も多く、次は住所が変わっても住所変更の手続きをしていないことです。

遺産分割協議が整わなければ、土地も相続登記ができません。次から次へと枝分かれしていきます。

孫の子⇒     ひ孫・曾孫(そうそん)
孫の孫⇒     やしゃご・玄孫(げんそん)
玄孫の子⇒    来孫(らいそん)
来孫の子⇒    昆孫(こんそん)
昆孫の子⇒    仍孫(じょうそん)

ある土地と建物があります。すでに50年前には空家になっていたそうです。老朽化し屋根が落ちています。近隣住民の訴えで役所も放っておけず所有者の調査をしました。

所有者200人、93人が存命しており、相続登記をしないままに「来孫」まで枝分かれしています。

「全国の土地の20%が所有者不明土地である」この憂しき問題を何とかしなければと、民法・不動産登記法の改正法案が国会に提出されました。いくつか流れを紹介したいと思います。

◎土地の相続登記の申請義務化
相続によって土地の取得を知った者は、知った日から3年以内に登記をしないと10万円以下の過料が課せられます。また、所有者の住所が変更になった場合は、正当な理由なく住所変更から2年以内に登記の変更申請をしなければ5万円以下の過料が課せられます。

◎遺産分割に期限が定められる
現行民法には遺産分割に期限の定めがありません。何年経っても遺産分割協議が整わない、世間にはよくある話です。改正法が成立し施行されると、相続開始時から10年が経過し、遺産分割協議が整はない時は、遺産は法定相続分で強制分割されることになります。土地も法定相続分で登記されます。つまり遺産分割に10年の期限が定められることになります。

◎土地所有権の国庫への帰属が可能となる
土地の所有権は放棄することができません。この制度は結果として「土地を捨てることができる」画期的な制度だと思います。

一定の要件(物納要件に近い)を満たした土地の所有者は、その土地の所有権を放棄し国庫に帰属させることに対し、法務大臣の承認をもとめることができるようになります。相続でまったく価値のない土地(負動産)を所有し、困っている人はたくさんいます。この制度の創設が一筋の光になればよいのですが。

思いきった改正ですが、所有者不明土地が、国土の5分の1になるまで、放っておいた政府の対応はいかがなものかと思います。

お一人様と相続人 ➂ 野口レポートNo296

疎遠の相続人には3通りのタイプがあります。①亡くなった人とは面識もなく「遺産を頂く筋合いはないから」と相続分の放棄を申し出てくれる人。②代表相続人の提案をほぼ受け入れてくれる人。③権利意識が強く「自分も相続人である」と権利を主張する人。

遺産分割は全員が納得し、すんなり合意することなどめったにありません。何度かキャッチボールをして落としどころを探っていきます。苦労しましたが最後は何とかまとまりました。

遺産分割協議書は原本(全財産が記載)が人数分と、不動産登記用(不動産のみ記載)が1通、銀行用(預貯金のみ記載)が1通、全部で3種類作成します。

原本で相続登記をしてしまうと法務局に写しが残り、利害関係人は閲覧できてしまいます。

原本で銀行手続きをすると、その家の全財産を銀行にさらけ出すことになります。遺産分割協議書の原本はトップシークレットです。

不動産登記用の分割協議書は、相続登記ができるか、調印の前に事前に司法書士にチェックをお願いします。

銀行の預貯金の解約手続き等を円滑に行うため、Bさんが預貯金と全財産を1人で取得し、協議で決まった金額を他の相続人に代償金として支払う代償分割の形を取りました。

Bさん親子に上京いただき、いよいよ預貯金の相続手続きです。手続きに2時間以上かかることもあります。全部で7カ所を回ります。金融機関の相続手続きは肉体労働のようなものです。

必要な書類は私が一切揃えます。Bさんには銀行専用の依頼書に行員の指示にしたがって記入し、署名捺印をしてもらうだけです。私は隣に座って必要に応じてサポートします。

各銀行の手続きも円滑に進み、次は鬼門である某信金です。遺産分割協議書があるので、専用の依頼書は代表相続人1人の署名捺印で足ります。が、相続人全員の署名捺印をもらってくれと言われました。今度ばかりは譲れません。本部に聞いてくれと食い下がりました。本部の答えはそれでよしでした。

預貯金の解約も終わり、Bさん親子に再度上京いただき、最後は相続税の申告です。税理士と打ち合わせをし、あとは郵送と電話でやりとりしてもらい無事に相続税申告も終わりました。

他の相続人は何もしないで、ただ上からお金(代償金)が下りてくるのを待っているだけです。Aさんに子供や養子がいたなら、急逝しないで長寿を全うしたなら、もらえるお金ではありません。

まして疎遠の相続人には棚ボタ財産です。お一人様のAさんは兄弟姉妹に迷惑をかけたくないと、贅沢をせず質素な生活を続け老後に備えてきました。残された遺産は重いお金です。Aさんと動いてくれたBさん親子に感謝し、大切に使っていただきたいものです。

  おわり    

お一人様と相続人 野口レポートNo293

父母等の直系尊属はすでに他界し、配偶者がいない、子供もいない、ひとり身の「お一人様」が亡くなると、第3相続順位の兄弟姉妹が相続人になります。すでに亡くなっている人がいれば、その子供が1代限りで代襲相続人になります。

岩手から川崎に出てきて40数年、高齢のAさんが急逝しました。お一人様のAさんには兄弟姉妹が4人います。3人は存命で岩手に在住しています。1人に代襲相続が発生しています。代襲者の姪は疎遠でどこにいるのか分かりません。

岩手からは一番若い末弟(73歳)のBさんと息子のCさんが上京し、川崎で葬儀をすませお骨は故郷に持ち帰りました。Bさん親子は再度上京し、Aさんが借りていたアパートの解約や明け渡し、遺品整理などの後始末をしました。

遺品整理を扱った業者が知り合いだったので、私をBさんに紹介してくれました。フットワークの良い息子のCさんが相続人の窓口になってくれることになりました。

最初にやることは司法書士に依頼し相続人の確定です。Aさんが生まれた時からの全戸籍を取得します。高祖父母など生きているわけがないのに、上の上までさかのぼり戸籍を取得し直系尊属が誰もいないことを証明し相続人が兄弟姉妹に確定します。

次は預貯金通帳等から銀行を特定します。そして残高証明の取得です。Bさん親子は岩手にいるので銀行回りはできません。

Bさんの委任を受け代理人として残高証明を取得することになりました。都銀・地銀・ゆうちょ、残高証明は全て取得できました。

最後は某信金です。信金「代理人では駄目です。相続人本人の署名捺印をもらってください。」 野口「他の銀行は代理人の署名捺印で取得できたんですよ。それでは委任状の意味がありませんよ。」

信金「うちの決まりです。」ここは100歩譲りました。

 野口「残高証明は私のところへお願いします。」 信金「相続人に送るので送り返してもらってください。」全く話になりません。相続の円滑な対応も大事な顧客サービスではないかと思いますが……。

 戸籍も揃い相続人の確定ができました。疎遠であった代襲者の住所も判明し相続人は4人です。姪に手紙を書きました。

疎遠の相続人や前婚の子に最初に出す手紙は細心の注意と気遣いが必要です。これで相手に与える印象が決まります。

◎突然に手紙を出す非礼を詫びる ◎弁護士ではないことを伝える ◎法律用語は使わない ◎相続人であると判明したことを伝える ◎遺産は調査中にしておく ◎とりあえず連絡をくださるようお願いする。 ◎ダイレクトメールとまちがえられゴミ箱へ捨てられないように、宛名の下に「〇〇様相続の件」と書き添えます。

はたして連絡はくるかどうか、祈るような気持ちで投函しました。

次号へつづく

コロナ禍と相続実務 野口レポートNo292

コロナは人から大切な時間を奪い、多くの仕事や生活に影響を与えています。相続や不動産も例外ではありません。

◎一昨年の11月に父親がなくなりました。母はすでに他界しており、相続人は長男を含め4人です。遺産は自宅とアパート、預貯金株式なのどの金融資産がそれなりあります。

長男はお金をかけてもらい一流大学を出て一流企業に就職し、現在は自分で起業し業績も順調です。

遺産分割に際し「自分はハンコ代でいいよ。あとは3人で話し合ってくれ」と腹の太いところを見せていました。心が広いお兄さんだなと感心していました。

遺産分割の話会いも順調にすすみました。ところが年が明け3月になると、長男の会社がコロナの影響をまともに受け業績が急激に悪化してしまいました。

当初は「ハンコ代でいいよ」と言っていた長男の態度が一変しました。遺産分割は最初からやり直しです。父親が亡くなるのがあと1年早かったら円滑な分割で済んでしまったでしょう。

◎同じく一昨年の話です。老朽化した収益物件の売却の依頼を受けました。何とか売り抜けましたが、年が明けてしまったら買う人はいなかったと思います。わずか1年の差で運が分かれます。

コロナの影響で昨年の3月頃から相談者の来店が減っています。感染対策はとっていますが面談を控えていると思われます。コロナが終息してからと問題を先送りにしている人もいます。

代わりに遺言作成など一般家庭の相続対策の相談が増えてきました。コロナに背中を押され相続が現実味をおびてきたのでしょう。財産が自宅と預貯金が1000万円~2000万円、この層の優先すべき相続対策は遺産分割対策です。

配偶者が自宅敷地を取得するか、または小規模宅地特例の要件を満たせば、相続税の心配はまずないでしょう。ただし、10ケ月以内に申告が必要となるので税理士の費用はかかります。

遺産が相続税基礎控除を超えなければ、相続税の申告義務はなく遺産分割のみで済みます。こちらは期限の定めは特にありません。

また、相続争いの多くはこれらの層に発生します。主な財産が自宅では分けようがありません。遺言の作成は必須です。

兄弟姉妹の相続以外は遺留分の問題が絡んできます。先の相続法改正で遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権となりました。もし遺留分を請求されたら金銭で払わなければなりません。遺言作成と遺留分対策は一体で考える必要があります。

財産があれば遺留分を侵害しない遺言も可能です。が、上記の層ではそんなわけにはいきません。親の考えや思いを伝えておく、付言の工夫、生命保険の活用など準備が必要です。コロナ禍を機に相続対策の必要性が一気に顕在化してきた感があります。