濃紺の背広との別れ 野口レポートNo334

人生には出会いもあれば別れもあります。10数年間苦楽をともにしながら、私の生き様を見てきてくれたパートナーがいます。それは1着の濃紺の背広です。捨てがたく、もう1年、もう1年と、つい着込んでしまいました。さすがに色あせ、ほころびも目立ち、いよいよ限界となりました。

あるおばあちゃんが相談にみえました。数10年前に父親が亡くなり、その後に母親が亡くなりました。まだ相続手続きをしていません。名義を変えてほしいとの相談です。母親は父親(夫)の相続人の立場と、被相続人の立場を持つことになります。遺産分割協議書での母親の表示は「相続人兼被相続人」となります。

遺産は約40坪ほどの土地です。相続人は妹が1人とのこと、妹からは姉が相続する同意を得ているとのことです。司法書士をセットして相続登記をすれば済む話と思われました。が、このおばあちゃんは1人暮らしです。いわゆる独居老人です。話を傾聴していくうちに、ご主人と離婚をしているとのこと、父親の土地の上にある建物は別れたご主人とおばあちゃんの共有になっていること、2人の子供は事情があり、おばあちゃんの面倒を見るのは難しいことが分かりました。この相続問題の本質は何かを考えました。ひとり暮らしをしているおばあちゃんが頼りになるのはお金です。

相続した土地を将来換金し、老人ホームなどの費用にあてる必要があります。ここで問題が出てしまいました。相続する土地上の建物は元ご主人との共有です。土地を売るには建物の解体の承諾を取っておくか、おばあちゃんの単独所有にしておく必要があります。

元ご主人のところへ行きました。丁寧に事情を説明し、建物の持分を贈与してくれるようお願いしました。こちらの誠意が通じ贈与契約書にハンコを押してくれました。建物は築年数も経過し持分も半分なので評価も低く贈与税の負担はありません。

これでこの土地をいつでも売却し、老人ホームの費用にあてることができます。その時は私が仲介することを約束し一件落着です。おばあちゃんからは「神様だよ」と言われました。

相続アドバイザーは弁護士や税理士などの専門家ではありません。士業でない者が、相続の世界で生きていくには「問題点を感じ取る感性」と「本質を見抜く目」そして「思いやりの心」を、知識以上に身につけておく必要があります。

小さな仕事だとお思いでしょうが、相談者にとって荷物の大きさは違ってもその重みは同じです。どんな小さな仕事でも相手のために全力で取り組む気持ちがなければ大きな仕事はできません。

よい仕事をした後は心地よいものです。この相続案件が長く連れ添ってきたパートナー(背広)との最後の仕事になりました。シワを伸ばし丁寧にたたんで、長い間お世話になったパートナーに別れを告げました。「ありがとう」の言葉が自然と出てきました。

生命保険の性質を知る 野口レポートNo333

生命保険受取金は契約形態により、税法上での扱いが異なります。大きく分けて次の3パターンがあります。契約者が保険料を払っていることが前提です。被保険者とは亡くなった人のことです。

《パターン1》 契約者(父) 被保険者(父) 受取人(子・母)、ここでお金の流れを見てみましょう。お金は保険会社から支払われます。が、保険料を払ったのは父です。亡くなった父から子や母が受け取ったことになるので「相続税」の課税です。

受け取った保険金は、500万円×法定相続人の数=非課税となります。非課税の枠を超えた保険金は相続財産に取り込まれ課税の対象となります。この受取金は民法上の相続財産になりません。よって遺産分割は不要です。指定された受取人が取得できます。相続放棄した相続人でも受け取ることができます。

《パターン2》 契約者(子) 被保険者(父) 受取人(子)、子が保険料を払い、自分が受け取るので「所得税」の課税です。

一時所得の1/2に課税です。お金持ちの納税対策に使われます。

《パターン3》 契約者(母) 被保険者(父) 受取人(子)、

保険料は母が払っています。存命している母からお金を受け取ったことになるので「贈与税」の課税です。いちばん悪い契約パターンです。専門家と相談し契約の変更を検討してください。

ある母親が亡くなりました。父親はすでに他界しており、相続人は兄と妹の2人です。母親には生前に某銀行に2000万円の普通預金がありました。取引先の銀行マンにすすめられ、パターン1の契約で、500万円の一時払いの生命保険(受取人兄)に加入しました。これを年間1回、4年繰り返し、2000万円の普通預金が、2000万円の生命保険に入れ替わりました。

高齢の母親には何の意図もありません。昔から知っていた銀行マンの成績稼ぎのために言われるままです。この生命保険がどういう保険なのか受取人の兄に説明しました。

ここからが私のアドバイスです。「法律ではこの受取金は民法上の相続財産にはなりません。指定されている兄が受け取れます。しかし、4年前までは銀行預金です。本来は兄が1000万円、妹が1000万円を相続することができたはずです。ここは法律でなく常識で考えてみましょう。」このまま2000万円を外し、遺産分割したら妹は納得しないでしょう、兄には一歩譲り1000万円を代償金として妹に払うことをアドバイスしました。兄は素直に聞き入れてくれ、妹も納得し遺産分割協議は1回で完了しました。

また、パターン1の契約は、自宅と預金少々の庶民には、預金を生命保険に置き換えることで相続財産を減らし(遺留分も減る)、受取金で遺留分侵害額請求への対応もできる遺留分対策も可能です。

生命保険はその性質を理解し、上手に活用したらシンプルで安全な相続対策として効力を生じます。

心に残る相続案件《1》 野口レポートNo331

この仕事を30年もやっていると、良い悪いは別として、いつまでも心のなかに残る相続案件があります。

祖母、父母、長女、長男、二男が同居している家族がいます。長女のA子さんが小学生の時に両親が離婚しました。母親は2人の男の子を連れて家を出ていきました。父親も再婚し家を出ていってしまいました。祖母は残された小学生のA子さん(孫)を自分の養子にし、立派に育てあげました。

やがて成長したA子さんは、祖母の食事の世話や家事、病院への送り迎え、散歩の付き添いなど、かいがいしく世話をしました。

20歳になったA子さんは、祖母の晩年を介護し、最後を看取りました。父親や伯母は母親の介護をA子さんへ押しつけ、自分達は一切かかわりませんでした。

縁あってこの相続のお手伝いをすることになりました。祖母は自筆の遺言を残していました。遺言の検認で相続人全員が家庭裁判所(家裁)に呼ばれ、私もA子さんに付き添いました。

開封した遺言の大まかな内容です。「あまり財産は残らないと思いますが、幾らかでも残りましたら孫のA子にあげてください。A子は私の食事から家事、お医者さんへの送りむかえ、散歩など、本当に良くしてくれました。何より一緒に暮らしてくれて寂しい思いをしないですみました。もし財産が残ったら全部A子にあげたい。

長女のB子は遺留分として取るでしょうが、贅沢もせず旅行にもいかず、一所懸命働いて貯めたお金です。私につくしてくれた者にあげたい。長男のC男はもう十分お金をかけたつもりです。」自筆で書いた遺言からは祖母の心情が切々と伝わってきます。

祖母が思いを込め一生懸命に書いた自筆証書遺言です。が、不備があり法的要件を満たしておらず無効と思われます。

しばらくしてC男さんとB子さんの代理人を名乗る弁護士(O先生)から、A子さんへ遺留分減殺請求(現在は遺留分侵害額請求)の内容証明が届きました。弁護士は遺言が無効であろうが、有効であろうが、時効を止めるため取りあえず減殺請求をしてきます。

A子さんには弁護士に依頼するお金がありません。私は相続で代理人にはなれません。相手方のO先生に会いにいきました。当方の事情を説明し、私がA子さんのメッセンジャー(使者役)としてO先生との間を取りもつことはできるかと聞きました。当時のことです、使者ならいいでしょうと受け入れてくれました。

3年が経過し何とか決着にこぎつけました。祖母(実母)の切なる願いを踏みつぶし、義務を果たさず権利だけは満額主張する父親や伯母からは、人として思いやりを感じることはありませんでした。

数年後、試練をのりこえ頑張っているA子さんから、うれしい知らせをいただきました。結婚をするとのことです。A子さんの人生の一部に、ほんの少しお付き合いさせていただいた一人として、幸せを願わずにはいられません。

得るは捨つるにあり(パート2) 野口レポートNo331

人は長い人生のなかで窮地に立ったり、決断を迫られることがあります。それがいつ来るか分かりません。財産や地位や見栄など思い切って捨てる覚悟ができれば光がさしてきます。

いま国会が裏金問題で揉めています。何か不祥事があると議員辞職が話題になります。いさぎよくバッジを捨て、心を改め精進すれば「みそぎ選挙」で勝機も出てくるというものです。

相続で譲った人が幸せになる、この不思議な事実も「捨てる(譲る)から得られる」のではないでしょうか。

地主の貸宅地の経営は、雨漏りやリフォームの必要もなく、適切な地代や更新料を取っていたら悪い商売ではありません。が、相続税を考えると、資産のように見える負債です。貸宅地の相続税を地代から取り戻すには何年かかるでしょうか、やっと取り戻したと思ったら次の相続が忍び寄っています。思い切って生前に整理をしておけば結果として財産を残すことができます。

〇〇製薬のサプリメントが社会問題になっています。お金を使い美味しい物をたくさん食べる。コレステロールが上がる。お金を使いサプリで下げる。スリムな身体や健康を得るには「腹八分目」、飽食を捨てることです。「あんな思いをするなら太ったままでいい」数年前に無理なダイエットで九死に一生を得た女性の言葉です。

近年、世の変遷はすさまじいものがあります。我々高齢者は時代の変化に心がついていきません。心にも「老眼鏡」をかけ、古いものを捨て、新たなものを受け入れる心構えが必要です。

朝ドラ「ブギウギ」が終わりました。最終回の東京ブギウギは圧巻でした。主演を務めた俳優の趣里さんは、「笠置シヅ子」を見事に演じてくれました。俳優と歌手を両親に持つ天性の血筋を感じます。

戦後の世の中を歌と踊りで明るくしてくれた大スター歌手の笠置シヅ子さん、40歳の若さで歌を捨てることを決断し歌手を引退しました。惜しまれてやめる見事な引き際でした。

時は平成5年になります。30年間続けてきたG S(ガソリンスタンド)も老朽化が目立ち、大改装を施しこのまま続けるか、閉店するか、苦渋の決断を迫られました。

自分の歳(48歳)からして転業するにはラストチャンス、思い切って閉店を決断しました。まだ惜しまれてやめられた時期でした。もし5年遅かったらこの決断はできなかったでしょう。

当時はこの狭い地域に8店舗ものG Sがひしめいていました。最初に閉店を決断したのは私のところでした。30年の間に歯が抜けるように7店舗が閉店し、かろうじて1店舗が残っています。

あのまま続けていたら自分の人生はどうなっていたか、考えるとゾッとします。思い切って捨てたから今があるのです。

人生で決断を迫られた時、にっちもさっちも行かなくなった時、「得るは捨つるにあり」この言葉を思い出してください。

相続と少子化を考える 野口レポートNo330

私が相続の仕事に就いたのは平成6年です。この時代は遺産分割協議で揉めてしまう相続が少なくありませんでした。が、ここ近年は分割協議で揉めることは減ってきています。

旧家や資産家は別にして、一般的には相続は法律通り(法定相続分)との考えが定着しつつあること、加え相続人の数が少なくなってきたことに原因があるような気がします。

以下は最近扱った相続案件10件の相続人の数の内訳です。

相続人が1人…4件、②相続人が2人…3件、③相続人が3人…

2件、④相続人が15人…1件。

☆相続人が1人⇒10件のなか40%も占めています。そのほとんどは一人っ子です。親より先に他の兄弟姉妹が亡くなり、代襲者がいなければ、子は1人なんてこともあります。相続人がお一人様なら分割協議は不要です。余計な神経と気は使わなくて済みます。

 税理士と司法書士をコーディネートし、相続税の申告、不動産の相続登記、銀行等の預貯金の解約など、ひとつずつ手続きを進めていけばいい話です。こんな楽な相続案件はありません。

☆相続人が2人⇒相続人の意見は2通りしかありません。同じ意見なら問題はありません。もし意見や考えが違ったら、どちらかに少し譲ってもらうことができるかがポイントになります。

☆相続人が3人⇒配偶者(母親)がいるか、いないかで状況は変わってきます。母親は大きな説得力があります。子ども達も従わざるを得ないでしょう。配偶者がすでに他界し、子が3人の場合でも、多数決ができる数なので何とかまとまります。

子が親より先に亡くなっていたら代襲者がいます。良好な関係を保っているオイやメイならば伯父さんや伯母さんには逆らいません。それなりの代償金で納得してくれます。が、代襲者が疎遠の場合、なかには「自分の権利は当然だ」と、1円たりとも譲らず真っ向から権利を主張してくる強者もいます。

☆相続人15人⇒第3相続順位のレアーケースです。本来もらえない「棚ボタ財産」です。故人を世話した人や面倒をみた人がいなければ均分が公平です。何人いようが法定相続分でほぼ決まります。

少子化の話になります。団塊の世代が「後期高齢者」となる時代に入りました。理想の人口構成はピラミッド型です。下にいる現役で元気印の多くの人達が、上の三角部分にいる高齢者を支える。

ところが今の日本は少子化です。このままでは将来は逆ピラミッドになってしまいます。100歳時代をむかえ、高齢者は増え続けています。はたして子が支えられるでしょうか。

遅まきながら国も子育て支援等の少子化対策を打ち出しています。しかし少子化は単なる経済問題ではなく、もっと奥深いところに根本的原因があるような気がします。相続人の数が減り相続は楽になりました。が、少子化は国の根幹を揺るがす大問題です。

売買と贈与の契約 野口レポートNo329

私達が日常さりげなく行っている行動ですが、その多くが契約という法律行為になります。

契約の最たるものである不動産の売買を例にとってみましょう。買主のこの土地を「売ってください」との意思表示(申込)に対し、売主の「売りましょう」という意思表示(承諾)がありました。買いましょう、に対し売りましょう。買主と売主の意思が合致し売買契約が成立します。なお契約は口頭でも成立します。

売主には売買代金をもらう権利(債権)と、土地を引き渡す義務(債務)が生じます。買主には土地を引き渡してもらう権利(債権)と、売買代金を払う義務(債務)が生じます。契約は約束事です。約束は守らなければなりません。

契約のなかに「履行に着手するまでは、買主は手付金を放棄し契約を解約ができる。売主は手付金を倍にして返すことで契約を解約できる」とあります。分かりにくいのは「履行に着手するまでは」この条項です。魚屋さんに例えてみましょう。

「この魚をください」お客さんの申込みに対し、「毎度ありがとうございます」魚屋さんの承諾があり、売買契約が成立しました。  お客さんが財布を開けた時が履行に着手です。魚屋さんの包丁が魚に入った時が履行に着手です。

次は贈与契約について考えてみましょう。贈与契約で一番大事なことは、贈与を受ける側にもらう意思があるかどうかです。贈与者の「あげます」との一方通行では贈与契約は成立しません。

例えば、親が毎年100万円を贈与として子に振り込みます。子はこのお金を10年間一度も手をつけていません。子にもらう意思がないとみなされたら、贈与は無効になってしまいます。もらったお金は一部でもよいから使うことです。

「いつもお世話になっています。ほんの気持ちですが」このあげますとの意思表示に対し、「ご丁寧にありがとうございます」もらいますとの意思表示がありました。普段さりげなく行っている中元歳暮ですが、これも立派な口頭での贈与契約です。

贈与には年間110万円までは非課税の「暦年贈与」と、相続時に贈与を相続財産に戻す「相続時精算課税制度」があります。この贈与に大きな改正が入りました。暦年贈与は相続開始前3年以内の贈与は相続財産に戻すとあります。3年が7年となり、対策は親の長生きが前提となります。精算課税は2500万円の特別控除とは別に、基礎控除の創設で年間110万円以下までは非課税となり、この部分は贈与税申告と相続財産への持ち戻しが不要です。

精算課税には一定の要件があります。また一度選んだら暦年贈与は生涯使えません。選択は税理士や専門家と十分協議してください。精算課税を選んでいる人は、相続税申告の時には必ず税理士に伝えてください。ここを誤ると後で余計な手間がかかります。

二度二度童子 野口レポートNo328

老いて意思能力を失った人のことを、今では認知症とよんでいます。東北地方のある地域では、このようなお年寄りのことを「おじいちゃん・おばあちゃんは、子どもにかえってしまったんだなぁ~」というので、二度童子(にどわらし)といっているところがあります。何とも温もりのある言葉ですね。

認知症を発症したお年寄りの行動は赤ちゃんと似ています。赤ちゃんは、おしっこを漏らしても、ミルクをこぼしても、誰からも文句をいわれません。成長過程だからニコニコして見ていられます。

ところがお年寄りの「二度童子」となると、実際に直面する現実の厳しさが心での受け容れを難しくしてしまいます。

在宅介護の現場は、すさまじいものがあります。実際に親を介護し、体験した人でなければその苦労は分かりません。

Aさん夫婦が寝たきりの父親を在宅介護しています。下着を換えシーツを換えます。息つくまもなく父親はまた便意を訴えます。「ビニールビニール早く」ご主人が声を荒げます。が、間に合いません。素手で受けた下痢便が指の間から滴り落ちます。これが現場です。

介護の先には必ず相続が待っています。この相続を引き受けました。Aさん夫婦に感謝し、介護の労をねぎらう兄弟姉妹は誰もいません。遺産分割協議では当然のように権利を主張してきました。

野口塾に、NPO法人相続アドバイザー協議会理事長の平井利明さんがいます。認知症を発症し、排尿、排便、徘徊をする父親を、在宅で介護し最後を看取った人です。ご本人はこの体験が相続アドバイザーとして成長する大きな糧になったと言っています。

最初は「何で自分がこんな目に」と思ったそうですが、介護を続けていくうちに「ありがたい」と思えてきたそうです。

平井さんからある詩を教えていただきました。「手紙~親愛なる子供たちへ~」です。詩を聞いた時、涙が止まらなかったそうです。

「年老いた私が 今までの私と違っていたとしても どうかそのまま私のことを理解してほしい」こんな書き出しで始まります。

子は親になり、親はいずれ老いていきます。健康寿命が尽きれば、いずれ「二度童子」となるでしょう。

食べ物をこぼすこともあるでしょう。下着を濡らすこともあるでしょう。足も衰えてくるでしょう。そんなとき叱らないでください。あなたが赤ちゃんの時と同じです。そんなあなたを親は愛情こめて付き添ってくれました。

今度はあなたが付き添う番です。親の恩に気付いてください。あなたの人生の始まりにしっかりと付き添ってくれたように、親の人生の終わりに少しだけ付き添って差し上げてください。

賞味期限が終わり、枯れていく自分にも「二度童子」となる日がくるかも知れません。健康が保たれてこそ、初めて長寿の意味があります。長生できるなら健康寿命を願うばかりです。

第3相続順位とその対応 野口レポートNo327

☆被相続人に子がいる。子が相続人となる第1順位の相続です。父母や祖父母の直系尊属や兄弟姉妹は相続人にはなりません。養子は実子と同じ権利義務を有します。

認知した非嫡出子も先般の民法改正で、実子と同じ相続分を有するようになりまた。

☆被相続人に子がいない。が、父母がいる。父母がいなくても祖父母がいる。これは父母等が相続人となる第2順位の相続です。

☆被相続人に子も父母や祖父母もいない。これは兄弟姉妹が相続人となる第3順位の相続です。兄弟姉妹が亡くなっていてもオイメイまでは1代限りで代襲相続人となります。

☆配偶者は、第1順位、第2順位、第3順位であれ、順位により相続分は違っても、常に相続人となります。

◎Aさんの伯母さんが亡くなりました。ご主人はすでに他界しており、子どもがいないので相続人は伯母さんの兄弟姉妹です。

5人のうち2人はすでに他界しオイメイに枝分かれしています。相続人はオイのAさんを含め全部で10人になります。

近くに住んでいるAさんが葬儀を仕切り、相続もまかされました。私が載っていたタウン誌を見て相談に見えたそうです。他の相続人からは一任を取り付けているとのことでした。

主な遺産は自宅の土地建物、それに預貯金が少々です。葬儀費用を差し引き、自宅売却の諸費用を見積もり、手取り残額を算出し代償金を決めます。相続人が兄弟姉妹の場合は残額を法定相続分で按分することが多いです。一度全ての財産をAさんが相続し、そのあと自宅を売却し他の相続人に代償金を払います。

Aさんが翌年に払う費用は、①譲渡所得税、②社会保険料等、③確定申告税理士報酬です。直近で払う費用は、④葬儀費用、⑤確定測量費用、⑥建物解体費用、⑦相続登記費用、⑧遺品処理費用、⑨土地売買仲介手数料、⑨相続アドバイザーへの報酬、⑩雑費です。

全ての段取りが整ったら遺産分割協議書に署名押印です。第3相続順位の相続は相続人が多く、しかも北海道から沖縄まで全国に散らばっていることがよくあります。

相続人全員が一堂に集まるのは不可能です。遺産分割協議書を人数分(10枚)つくり全員に送ります。署名押印し返送されてきた遺産分割協議書を10枚束ねて初めて効力が生じます。

遺産分割は多数決では成立しません。例え1枚でも署名押印がもらえなければ、受け取った他の9枚の遺産分割協議書は無駄になってしまいます。これがリスクです。

このリスクを避けるため、相続分譲渡証明書(有償でも無償でも可)をもらう方法もあります。返送されてきた8人の相続分は取りあえず自分の相続分として確保しておき、あとは相続分10分の9と10分の1での遺産分割協議になります。

円満相続の心構え 野口レポートNo327

財産に人の欲と心が複雑に絡んでくる相続は、どうしてもネガティブに考えがちです。今まで多くの相続に立ち会ってきましたが、人生いろいろ 相続いろいろ 相続人もいろいろです。

「明るく、楽しく、清々しく」そんな相続あるわけないだろうとお思いでしょう。が、そんな相続があることも知ってください。

以前に手掛けた2つの相続案件をご紹介したいと思います。

《その1》A家の相続です。父親はすでに他界しており、二男夫婦が母親の世話をし、最後を看取りました。二次相続の遺産は全て預貯金です。相続人は子である兄弟姉妹が5人です。

墓守をしている二男から「遺産は取りあえず自分が相続し、母親の供養に使いたい」との提案がありました。5人で分けてしまえば1人当たり、そんな大きな額にはなりません。

他の兄弟姉妹に異議は無く、全員が二男の提案を受け入れました。最初の法要は49日です、次は1周忌そして3回忌と続きます。

法要に出席する参加者は、交通費、宿泊費、飲み食いの費用は負担する必要はなく、身ひとつで参加します。費用は二男が相続でストックしている遺産から出します。この時ばかりは、5人の兄弟姉妹、子、孫、ひ孫までA家の一族全員が集まります。

法要後は寿司屋を貸し切って食べ放題で飲み放題です。ひ孫も大はしゃぎ、盛り上がる様子が目に浮かびます。一族の絆もさらに深まり、故人も雲の上からよろこんで見ていることでしょう。

全員が次の法要を楽しみに待っています。そして遺産を使い切ったなら通常に戻り、実質の「遺産分割」は終了します。まさに「明るく、楽しく、清々しい」相続ではありませんか。

《その2》次は旧家であるB家の相続です。これも二次相続での母親の遺産分割の話です。母親(配偶者)は一次相続でそれなりの預貯金を相続しています。相続人は子である兄弟姉妹が4人です。

長男が口火を切りました。「自分は父親の相続でそれなりに遺産を相続したので、今回は均分で分けよう。」それに対し二男が反論します。「均分はおかしいよ、兄貴は墓守や親戚付き合いなどもある、自分達より多く相続してほしい。」互いが譲り合い、結局は長男が半分取得し、残り半分を3人の兄弟姉妹が均分で取得することになり、話し合いはわずか30分で終了しました。

これも清々しい相続でした。終わった後お話しをさせていただきました。「ご両親は皆様を“感謝の気持ちと譲る心”を持った人間に育ててくれました。ありがたいことです。これは皆さんが相続した“何にも勝る無形の財産”ですよ。」思わず出た言葉です。

円満相続の心構えです。①素直であれば⇒感謝ができる ②感謝ができれば⇒譲ることができる ③譲ることができれば⇒円満相続ができる ④円満相続ができれば⇒幸せになれる。

これからがスタート 野口レポートNo326

野口塾の塾生に、福岡からくる女性のMさんがいました。難病を克服し、次は途上国に子ども達の学校を建てる夢の実現です。

もう1人は介護のエキスパートSさんです。モンブランの登頂や、今でも大型バイクに乗っているスポーツウーマンです。

8年ほど前、Mさんから「心臓を病んだ時の私と同じ仕草をしていますよ」と言われました。「時折咳き込んだり、無意識に背中をさすったりしている、1度診てもらってください」と先生を紹介されました。Mさんは数年前に心臓の手術をしています。

Mさんへ生返事を繰り返していると、突然Sさんが訪れ「私が予約を入れるので診察に行ってください」と、携帯を取り出しました。Sさんに背中を押され重い腰をあげました。

精密検査の結果は心臓の冠動脈が2か所狭窄しているとのことでした。このまま放っておくと「心筋梗塞」を起こすとのことです。

 「ステント手術」をしました。血管の内側は神経がないそうです。麻酔をしないので、カテーテルが、心臓に向かって血管のなかをズズと進んでいくのが分かります。ステントを2本入れました。

翌年に別の狭窄が見つかり、合計4本のステントが入っています。その後は快調です。もし「心筋梗塞」を起こしたら命にかかわることもあります。2人の塾生は命の恩人です。

地元にかかりつけの医院があります。先代のお父さん先生のころから長くお世話になっています。今は息子さんのY先生が1週間に数回時間を割いて診察してくれています。

心臓など循環器内科の名医です。某大学病院の特任教授と副院長も務めています。大学病院で教授先生に診てもらうのは大変なことです。それが地元で気軽に診てもらえる、こんなありがたいことはありません、患者さんは幸せ者です。

月1回は定期検診に行っています。いつも適切な診断で薬を処方してくれます。おかげで、血圧も正常、糖尿病もなし、血液検査も95点です。が、最近不整脈が出るのが気になるところです。

 お医者様には名医がいます。相続の世界も同じです。名医と普通の先生の違いは「見たて」です。素人にはその違いは分かりません。病気も相続も誰に診てもらうかで運がわかれます。

私も77才になりました。建物なら築年数77年です。あちらこちらが痛んでくるのは当たり前の話です。この歳になれば誰もが病気のひとつやふたつは持っています。病気を受け入れ、上手に付き合っていくことが長生きの秘訣ではないかと思います。

この仕事も来年で30年になります。勉強と経験を30年間積んできて、相続がようやく見えてきました。人間としても少しは成長し、これからが本当の意味でのスタートかも知れません。

Y先生のお世話になり、もう少し長生きし、1人でも多くの相続人を円満相続へと導くお手伝いができたならと思います。