相続実務に99%はありません 野口レポートNo257

動物や植物は死んだり枯れたりしたらそれで終わりです。ところが人間は亡くなると相続が開始するからやっかいです。

相続は人生で何度も経験するものではありません。遺族はどこへ行ったらよいのか、誰に相談したらよいのか全く分かりません。葬儀で親身になって世話をしてくれた葬儀屋さんへ相談する人も少なくありません。ある顔見知りの葬儀社の社員さんからAさんの相談に乗ってやってくださいと頼まれました。

被相続人は独身の長兄です。相続人は次兄、妹のAさん、代襲者で姪の3人です。Aさんは亡き母と長兄と同居し2人の世話をし、最後を看取り葬儀も取り仕切りました。

財産は自宅しかありません。自宅を換金し分けることになりました。売ればAさんの住むところが無くなります。Aさんが自宅を相続し、売却したお金で中古マンションを購入し、残ったお金は3人で均分し、他の相続人には代償金として渡すことになりました。

中古マンションの購入価格は上限を2800万円と設定しました。

ところが次兄のお嫁さんが、私達の家はまだローンが残っているんだと、さかんに言ってきます。中古とはいえ無借金でマイホームを手に入れる妹への「ひがみ」です。

しかたなく購入価格の上限を1800万円に下げました。築年数43年で108戸が2棟の大規模中古マンションが見つかりました。大規模マンションはメンテナンスと管理組合がしっかりしているので安心です。築年数と価格を聞いて姉の「ひがみ」は収まりました。

 換価代償分割は各専門家をコーディネートし、相続の壁をひとつひとつ乗り越え、並行し不動産を売却していく難しい作業です。

(1)Aさんが自宅を相続する。(2)信頼できる買主の不動産業者を選ぶ。(3)マンション購入、測量、家財処分、引っ越し、解体、仲介料、譲渡税、住民税、申告報酬、健康保険など、全ての費用を事前に算出し、実質の残金を確定させる。⇒ここが換価代償分割の一番のポイントである。(4)残金が確定すれば代償金の額が確定でき、遺産分割協議書が作成できる。(5)分割協議書があれば登記前でも自宅の売買契約が可能。(6)代償金を受け取る相続人は相続税以外は一切の負担はない、ただ手を広げ待っているだけでよい。

ここで壁にぶち当たりました。中古マンション購入に際しAさんから手付金が無いと言われました。業者と交渉し1週間待ってくれるようにお願いしました。1週間で①代償金を確定させる。②遺産分割協議書に全員の判子をもらう。③自宅の売買契約を締結し手付金を受け取る。④その手付金でマンション購入契約を締結する。

ひとつつまずけば全てが振出に戻ります。相続実務に99%はありません。常に100%が求められます。冷や汗をかきながら綱渡りのような1週間でした。

相続の胴体着陸 野口レポートNo256

乗客・乗員60名を乗せた全日空の“ボンバルディアDHC8-Q400型機”の前輪が出ず高知空港に胴体着陸をしました。この時の様子は当時(2007年)テレビで生中継され、日本中が固唾をのんで見守りました。

原因はたった一本のボルトの脱落でした。機長は急旋回やタッチアンドゴーなどあらゆる手段を試み、何とか車輪を出そうと努力しましたが車輪は出ません。やむなく胴体着陸の決断をしました。

機長の沈着冷静な判断と技量、パニックを防いだ客室乗務員の対応、乗客の協力、天候も幸いし大惨事をまぬがれました。

機内の不安はいかほどか察するに余り有ります。ここで注目したいのは、機長が乗客に行なったアナウンスです。「何度も訓練をしているので安心してください」この一言で乗客の気持ちはどのくらい安らぎ救われたことでしょうか。

「製造元のカナダ・ボンバルディア社は、英国の老舗航空機メーカーが母体で、運行コストの安さが売りだった。近年、ライバル社との競争激化で、製造段階の品質管理や無理なコスト削減が部品の不良につながった可能性がある。」◇某新聞コラム◇

安全面のコスト削減とはいかがなものか…。常識ではとても考えられません。旅客輸送業は「命預り業」と心すべきです。

親が亡くなると相続が開始します。相続は人生のなかで何度も経験するもではありません。遺族は悲しみに浸る暇もなく、山積する手続きや諸問題に直面します。初めての経験で相続人は不安でいっぱいです。心配で眠れぬ夜もあります。

仕事の依頼を受けたとき、私は必ず相続人様へ言っている言葉があります。「心配しなくても大丈夫ですよ。安心してください。」この笑顔の一言で相続人の心は安らぎます。

相続はいくら悩んでも、心配しても、なるようにしかなりません。だから心配する必要はないのです。最後はなるようになるのです。つまり「大丈夫」なのです。

遺産分割も「感謝の気持ち」と「譲る心」この心の両輪が出れば軟着陸でき、相続人全員が幸せになります。「感謝と譲る心」は縄文の大昔から日本人が持っている独自の遺伝子です。

いかにこのDNAを引き出すか、機長(相続アドバイザー)は全力を尽くします。ところがこれがなかなか出てこない! 

もし出なければ胴体着陸しかありません。失敗すれば家族崩壊の大惨事を起し、相続人全員が不幸になります。相続の胴体着陸はパイロットの人間力と高い操縦技術が求められます。

飛行機はボルト1本の脱落で命取りになります。相続ビジネスも整備不良だとお客様を不幸にしてしまいます。安全面のコストを削減することなく、常に研修や勉強(整備)に励み、人間力(品質管理)の向上を怠らず、相続実務(飛行)に臨みたいと思います。

生産緑地と相続税納税猶予 野口レポートNo255

私が住んでいる地域も昭和30年代は田や畑も多く、我が家も父親が役所勤めの傍ら半農を営んでおりました。父親が引くリヤカーを母親と一緒に後押したのが懐かしく思い出されます。

田植えから脱穀まで米作りの苦労も一通り経験しました。八十八回の手を煩わし、脱穀してみればわずか数俵です。米の有り難さを子供心に感じたのをおぼえています。

昭和30年代後半から、次第に農地が宅地に転用され長屋や貸家に変わっていきました。農家にとって農作物の収入だけでは生活は楽ではありません。貸家経営は貴重な現金収入となりました。

だが、土地の所有面積の多い農家にとって固定資産税など税制面で優遇されている農地は捨てがたいものがありました。

ところが平成4年の生産緑地法改正で、三大都市圏の特定市の市街化農地については、「宅地化すべき農地」と「保全すべき農地」とを区分することになり、農家はその選択をせまられました。

「保全すべき農地」を選んだなら「生産緑地」の指定を受けることになります。「宅地化すべき農地」を選んだなら、いつでも農地を宅地に転用することができます。売るも貸すも賃貸マンションやアパート建設も可能です。だが、固定資産税は宅地並み課税です。

農作物の収益では宅地並みに課税される固定資産税など、とても払いきれません。「宅地化すべき農地」を選んだ農家は土地の売却や有効活用を迫られました。

「保全すべき農地」(生産緑地)を選んだ農家は、固定資産税はわずかで済み、相続税納税猶予も選択できます。要件を満たせば「生産緑地」に課税される相続税を納税猶予(免除ではない)するとの制度です。しかし目先の相続税だけに目がいってしまい、安易に受けてしまうと恐ろしい制度です。

「生産緑地」は、売れない・貸せない・担保にできない、農業以外は何もできません。もし納税猶予を受けている農業従事者が、高齢で後継者もなく営農が継続できなければ、猶予されていた相続税が相続開始時に遡り、利子税と共に一気に課税されてしまいます。

もう少し、もう少しで30年……。身体にムチ打ち頑張っても猶予されている相続税は免除されません。免除の条件は「生涯営農」です。免除に該当する事由が生じなければ死ぬまで営農です。

猶予で先送りしてきた「生産緑地」の相続税は、農業従事者の死亡で初めて免除となり、一定の手続きを経て宅地に転用できます。

「生産緑地」の指定を受けている人は2022年に30年の満期が到来し宅地転用が可能となります。だが、納税猶予を受けている人は要注意です。転用してしまうと猶予が打ち切られてしまいます。

今後、宅地化した大量の「生産緑地」が一気に市場に出てきます。既存宅地の価格への大きな影響は避けられないでしょう。

今求められる相続コーディネーター 野口レポートNo254

平成5年に家業のガソリンスタンドを廃業し、五十路を前に一念発起し180度の転身をしたことは以前お話しをしました。残りの人生をかけた大きな決断でした。

スタンド跡地に「借金してマンションを建てると相続税対策になる」からと、建設会社の営業マンと、ひも付き税理士に提案を受けていました。この提案が良いのか悪いのか、素人の自分には全く分かりません。この人達を信じるしかありませんでした。

相続のシミュレーションを見せられ税理士が説明してくれました。専門家の話は素人にはよく理解できません。これら相続コンサルを受けるなかで、「ひらめき」を感じました。

素人側に寄り添い専門家との間をコーディネートしてくれる仕事があってもよいのでは、相談者にとって心強い限りではないか、こんな職業が社会から求められる時代が必ずやってくる、「相続コーディネーター」これが自分の仕事だ! 直感的に感じました。

そして壁にぶつかりました。税理士でもない、弁護士でもない、そんな自分が相続のどこで報酬を頂くことがきるのか……。

相続で不動産が動くことに気づきました。そうだ! 不動産屋になればいい、不動産業をベースに相続に特化すれば飯が食える。宅建試験にも合格し、相続を幅広く徹底的に勉強しました。 

平成7年に相続専門の不動産屋として開業することができました。相続に特化した街の不動産業者など異色の存在でした。

当時の相続対策といえば、借金を背負わせマンションやアパートを建てる節税対策一色で、建築会社・銀行・税理士の独壇場でした。「借金しても節税効果は生じない」素人にはそんなこと分かりません。専門家の言われるままです。

また、相続を横断的に熟知し、大局的視点から相談にのってくれるコンサルタントもいませんでした。

バブル期に節税対策を提案され、大きな借金をして複数の賃貸マンションを建てた人は、バブル崩壊の影響をまともに受けました。

デフレする(価値が下がる)不動産、デフレしない(価値が下がらない)借金、気がつけば借金が資産を上回る「債務超過」です。

相続放棄せざるを得ない相続人もいました。◎提案した先生⇒こんなハズではなかった。◎貸し込んだ支店長⇒転勤でどこにいるか分からない。◎建てた建設会社⇒すでに倒産。この人達は節税対策の責任など取ってくれません。

あれから数10年、バブルの悲劇を知る人はいなくなりました。「歴史は繰り返す」近年また同じことが繰り返されています。提案された人は借金による安易な節税対策の怖さに気づいていません。

大局的視点から正しいアドバイスを差し上げ、お客様をHAPPY相続へと導くことのできる、資格と人格を持った相続コーディネーターが、今こそ求められているのではないかと思います。

6時間出汁昆布セミナー 野口レポートNo253

NPO法人:相続アドバイザー(SA)協議会の事業に「相続アドバイザー養成講座」があります。今回で第41期となります。

1講座2時間で全20講座あります。この養成講座の第1講座の講師を17年間務めていることは先のレポートでご紹介しました。

今でこそ余裕を持って講義をしていますが、講師になりたての頃は緊張し受講生の顔など見えませんでした。

場数を踏んでくると受講生の顔が見えてくるようになります。顔が見えてくると、居眠りをしている人が目につき、自分の話がつまらないのか、興味がないのか、気になってしまいます。

さらに場数を踏んでくると、居眠りをしている人をどうやって起こそうか、場に合わせ講義をアレンジできるようになります。

以前、SA上級アドバイザー受験対策講座の講師を担当していました。この講座で居眠りしている人を起こすのは簡単です。「ここは試験に出るかも知れませんよ。」この一言で、今まで寝ていた人がパッと起きるから不思議です。

受講生の居眠りは講師の器量に原因があります。話にメリハリをつけるとか、実例をうまく取り入れるとか、工夫次第では楽しく学べ、時間はあっというまに過ぎてしまいます。

SA協議会に「相続寺子屋」があります。会員による自主運営の勉強会で、北海道から九州まで全国14か所で活動しています。

先日、相続寺子屋:武蔵小杉で「6時間出汁昆布セミナー」の特別講演を行ないました。6時間セミナーはエネルギーを消耗するので多くはできません。川崎、九州、今回の武蔵小杉で、まだ3回です。会場は満席で学ぶ意欲と熱気につつまれます。

「出汁昆布は人の幸せのために、自分の全てを出し尽くし最後は空っぽになります。」相続の現場で苦労しながら培ってきた、経験・知識・ノウハウなど、6時間かけて出し尽くしました。

人には寿命があります。もし自分が死んでしまったら、これまでに蓄積してきたノウハウを伝える術はありません。あの世には相続などありませんから、持っていっても役に立ちません。

23年にわたり、学んできた知識、現場での体験、身についたノウハウ、本質の見抜き方など、自分が元気なうちに「世のため人のために出し尽くす。」天から課せられた最後の役目だと気付きました。出汁昆布セミナーを始めたきっかけです。

参加した皆様が学んだものを役立て、「相続を争い不幸になってしまう人」を、一人でも減らしてくれたならうれしい限りです。

6時間立ちっぱなし、しゃべりっぱなし、話すも方も聞く方も真剣そのもの、寝ている人は誰もいません。終わったあとは精根尽き果てます。だが、本気で伝えることができた満足感と、出し尽くした充実感、止まぬ拍手が疲れた身体を癒してくれます。

足らぬ幸せ 足りる不幸せ 野口レポートNo252

昭和39年は、夢の超特急東海道新幹線の開通、ビルの谷間を高速道路がかけめぐり、東京オリンピックが開催された年です。車社会の幕開けでもあり、ガソリンスタンド(GS)は花形産業でした。

そんな時に1本の計画道路が畑を横切り、自分の人生を変えてしまいました。何を思ったか半農で役所勤めの父が、退職しGSを開業すると言い出しました。

跡取り息子は家業を継がなければなりません。正直で素直さだけが取り柄の自分には、商売人としての才覚がないことは分かっていたのでGS開業に「大反対」をしました。

押し切られ父は開業に踏み切りました。だが、慣れぬ仕事のストレスで体調を崩し長期入院、家族会議が開かれGSを売却するか、他に貸すかの話になりました。華々しく開業し、わずか半年でやめてしまったら世間の笑い者です。ここで2度目の「大反対」です。大学を中途退学し家業の立て直しを決意しました。

遊びまわっている同年代を横目に、朝7時から夜9時まで身を粉にして働きました。自分の時間などありません。わずか20歳の青年の肩に責任の全てが伸し掛かってきました。家業の立て直しが青春の全てでした。この時の様々な試練や苦労が人間形成の根幹となり、今日の自分があります。振り返れば足らぬ幸せでした。

私が生まれた昭和20年代は食糧も豊富でなく、食べたいものも食べられぬ時代でした。遠足の朝、母がそっとリュックに入れてくれた1本のバナナの味は今でも忘れません。メタボや生活習慣病など誰もいませんでした。足らぬから幸せだったのです。

腕にチクリと違和感をおぼえました。見ると一匹の蚊がとまっています。腹いっぱい血を吸ったと見え、まるまると膨らんでいます。重くて飛ぶことができません。下にポトリと落ち、つぶされてしまいました。腹8分目で満足しておけば助かったものを……。足りたがための不幸せです。

 美しくなりたい、女性なら誰もが思う願望です。しかし、美人が幸せになれるとは限りません。美しさは少しばかり足らぬほうが、女性は幸せになるような気がします。

もらうのはあたりまえ、親の遺産に感謝など一切なし、「足るを知らず」双方一歩も譲らない、相続争いは勝っても負けても不幸になります。ご先祖様が汗して残してくれた尊い財産を分捕り合うわけですから、天罰こそ当たれ幸せになれるはずがありません。

「幸せのなかに住む人は幸せが分らない。幸せは手に入れるものでなく、感じるもの気付くもの。」小林正観さんの言葉です。 

「素直」な人は「謙虚」になれます。謙虚な人は「感謝」に気付きます。感謝があれば「譲る」ことができます。譲り合う相続は感動し、こちらまでが幸せな気持ちになります。

「足るを知る」人は「足らぬ幸せ」に気付きます。

認知症と成年後見制度 野口レポートNo251

ある息子さんから電話を頂きました。母親は認知症で施設に入所し判断能力がありません。息子さんが銀行の融資を受け、母親の土地を使用貸借(無償)し、その上に家を建てています。母親の土地には銀行の抵当権(物上保証)が設定されています。

息子さんはローンを完済し、この土地に設定されている抵当権を外したいと銀行に相談しました。ここまでは普通の話です。

腹が立つのはこの相談を受けた銀行員の対応です。「分かりました。お母さんは認知症なので抵当権を外すには、成年後見人(以下後見人)をつける必要があります。明日、当行の系列の弁護士を向けるから、後見人になってもらって下さい。」この行員は後見人がつくとどうなるか、お客様にリスクを全く説明していません。

電話を受けて「チョッと待った!」とストップをかけました。すぐに銀行に断ってくださいと言いました。土地売買などの事情があるならば抵当権を外さなければなりません。だが目的はその土地の使用貸借です。抵当権など何の問題もありません。急いで外す必要はなく、母親が亡くなってから外せば足りることです。

 もし、電話をくれなかったら、息子さんは行員の言うことを真に受け、母親に後見人をつけてしまったことでしょう。

一度後見人をつけてしまったら、生涯外すことができません。母親の一切の財産は後見人が管理し、今まで息子さんが容易にできたことが何もできなくなります。

後見に対し正しい知識を欠き、安易に後見人をつけてしまい、失敗したと後悔している人もいます。よほどの事情が無い限り、つけなくて済むならば、後見人はつけないほうが良いと思います。

最近は相続で多くぶつかるのが認知症の問題です。被相続人が高齢なら配偶者も高齢です。認知症を発症している可能性があります。

認知症の発症や、重度の精神上の障害など、相続人に判断能力に欠ける人いる場合は、後見人をつけなければ遺産分割がでません。

後見人は原則として遺産分割で、被後見人の法定相続分を確保しなければなりません。また、相続手続きが終わったからといって、後見人を外すことができません。認知症の母親に渡った財産は生涯にわたり、後見人が管理することになります。

あちらでも信託、こちらでも信託、巷では民事信託が流行っています。認知症対策にも使われています。だが、民法で可能なことはできる限り民法で対応したいものです。手短に確実にできる方法として遺言による認知症対策があります。

全財産を遺言で相続人に指定しておけば、遺産分割協議は必要なく後見人も不要です。ただし、信託も遺言も被相続人になる人が認知症になってしまってからではできません。認知症対策は手遅れにならぬよう早めの対応が必要です。

相続の開始と銀行手続き 野口レポートNo250

動物は死んだらそれで終わりです。植物も枯れたらそれで終わりです。人間は亡くなると相続が開始します。やらねばならぬことが山積します。そのなかのひとつに銀行手続きがあります。

預貯金の取り崩しには「代償分割」の方法を使います。取りあえず代表相続人(長男)が全ての預貯金を一人で相続し、預貯金の解約など銀行手続きをします。次は遺産分割で「代償金」として合意している金額を各相続人へ振り込みます。

各相続人が銀行窓口に行って個々に手続きを取るより、合理的でスムーズに事が運びます。

遺産分割協議書は、全ての財産が記載されている原本、不動産登記用、銀行用(各銀行)の3通りを作成します。

原本は、その家のトップシークレットです。不動産や銀行の手続きに全財産をさらけ出す必要はありません。

相続人に高齢のおばあちゃんがいます。分割協議書に全部自書を求めるのは無理です。自書は原本のみにいただき、不動産登記用や銀行用の分割協議書は印字の記名にし、相続人様と一緒に銀行手続きに行きました。都市銀行や地方銀行はOKです。ゆうちょ銀行もすんなり通りました。最後に地元の某○○金庫へ行きました。

窓口や担当者に相続の知識が乏しく、いつも手続きが円滑に進まないところです。やはり、クレームをつけられました。

行員「記名の遺産分割協議書では手続きができません。」 私「実印が押してあり、印鑑証明も添付してある、他の銀行はこれで通っている、自書してあるのは原本しかありません。」 行員「それでは原本を持ってきてください。」 私「原本は〇〇家のトップシークレットなので出せません。本部の担当者に確かめてください。」 行員「他行は知りませんが、うちはそういう決まりになっています。」

サービスより保身を優先するか……。敏速な相続手続も大事なお客様サービスではないでしょうか。相続税の納付期限も迫っており時間がありません。結局は要求をのみました。

相続の銀行手続きは書類や方法など各銀行まちまちです。手続きの簡素化、書式や方法も統一願いたいものです。

借金などの債務も銀行手続きが必要です。被相続人に3,000万円の借金(アパート建築資金)があります。アパートは長男が相続しました。この借金は相続人全員が法定相続分で相続します。ただし、長男が借金を相続することを銀行が承諾(免責的債務引受契約)してくれたなら、他の相続人はこの借金から離脱できます。

借金の銀行手続きは専門家の支援がほとんどありません。相続人(素人)対 銀行(プロ)で行われます。言われるがまま判子を押してしまう人もいます。借金の相続手続きの怖いところです。

銭勘定と人感情の借地問題 野口レポートNo249

借地人「ここに住まなくなったので、借地権を買い取ってくれませんか。」地主「買えだと、とんでもんない。使わなければ無償で返すのが当たりまえだろう。」 

借地人「ならば仕方ありません。他の人に売ります。」地主「売れるものなら売ってみろ、裁判でも何でもやってやろうじゃないか。」

地主と借地人がこんなやりとりをしたあと、借地人さんが私のところへ相談に見えました。

旧法借地権が難しいのは度重なる改正で、本来は債権である土地賃借権を、物権である所有権に限りなく近づけてしまったことにあります。日本で唯一、借りたものを返さなくていい法律です。

借地権の譲渡は、地主の承諾が得られなければ、借地非訟手続きで裁判所が代諾許可を出してくれます。だが、地主と揉めている借地をあえて買う人がいるかどうかは疑問です。

また、買主が銀行から融資を受けるには地主のハンコが必要となります。揉めていたらハンコなど押す地主はいません。代諾許可での借地権譲渡は現実には難しいものがあります。

借地人さんの相談を受け、取りあえず地主さんのところへ行きました。地主さんは借地人さんに対し怒り心頭です。

そんな折、ある住宅メーカーが提案してきました。借地権を買い取りたいとのことでした。投資家からお金を集めアパートを建て、家賃収入を配当するとのことです。ファンドを組めば銀行から融資を受ける必要はなく、地主さんのハンコもいりません。

しかし、このまま住宅メーカーに借地権を譲渡してしまったら、その道のプロが容赦なく入ってきます。地主さんはいやな思いをするでしょう。借地人さんにしても後味の悪さが残ります。

借地人さんを説得し譲渡価格を下げていただきました。地主さんの奥様にも状況を説明し、ご主人の説得をお願いしました。地主さんも一歩譲ってくれ借地権を買い戻してくれることになりました。

ここで予期せぬことが起こりました。借地人さんに止むを得ぬ事情が生じ、引っ越しが延びてしまったのです。せっかく合意したのに借地を引き渡すことができなくなりました。

少ない脳ミソと知恵を絞り、ある提案をさせていただきました。

(1)地主さんが借地権付建物を借地人さんから買い取る。(2)地主さんの所有になった建物を、借地人さんが更新のない定期借家契約で借り、払っていた地代相当額を家賃として払い、引っ越し準備が整うまで引き続き住む。(3)この二つの契約を同時に行う。

1年後、無事に引き渡しは終了し、双方から感謝されました。犬猿の仲であった2人でしたが、最後は互いが譲ってくれました。

銭勘定に人の感情が絡んでくる借地問題は、相続問題とよく似ています。相続ができる人なら借地問題も解決できるでしょう。無益な争いを防ぎ、社会に貢献するところでは共通しています。

遺留分と減殺(げんさい)請求権 野口レポートNo248

遺留分とは相続人に残された最低限の財産分のことを言います。配偶者と子は法定相続分の半分が遺留分です。遺留分減殺請求をして初めて効力が生じます。遺留分を侵害されていると知った時から1年、知らなくても10年で時効により消滅します。

遺言で不動産を取得した人は、相手の減殺請求に対し、現金で払えば足りる「価格弁済の抗弁」があります。相続放棄は生前にはできませんが、遺留分放棄は生前に可能です。また、第3相続順位の兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。

あるご主人(Aさん)が亡くなりました。遺産は自宅の土地・建物のみで、Aさんは再婚です。後妻さん(Bさん)は、幼い先妻の子どもたちを、我が子のように育て立派に成人させました。Aさんは公正証書の遺言を残しておりました。

49日の法要を終えホッとしていると、弁護士から1通の内容証明が届きました。先妻の子(Cさん)から、よもやの「遺留分減殺請求」です。Bさんとしては、恩を仇で返されたような気持ちです。

原因は、全財産を妻へとの包括遺贈であったこと、他にも財産があると思われてしまった。ご主人の気持ちを添えておく「付言」がなかった。あとはCさんの経済事情などが考えられます。 

一度上げてしまった手は下ろせません。家庭裁判所の調停で決着がつきましたが、弁護士費用などを差引くと、減殺請求をしたCさんの手元に残るお金はわずかです。継母から受けた愛情と恩を仇で返してしまったCさんは生涯後悔することでしょう。

 全く同じパターンの事例です。こちらの後妻さんは遺留分減殺請求をされませんでした。遺産はわずかな預貯金と借地権付建物です。葬儀を済ますと、先妻の子どもたちから「私たちにも権利があるんですよね」と度々電話が入ります。

 公正証書遺言がありました。財産が全部明記(少ないと分かる)されており、「妻へ」との内容です。なぜ、このような遺言を残したのか、ご主人の心情が見事に綴られた「付言」があり、最後はみんな仲良く暮らしてほしいと結ばれています。

遺言を公開してから電話はピタリと止まりました。遺言は、法律効果のある本文と、遺言者の気持ちを伝える「付言事項」があります。付言は法的効果こそありませんが、相続人の心に響き無益な争いを防ぐ予防効果があります。

もし父に好きな女性ができ、全財産を遺贈するなどの遺言を書かれたら、残された妻子は路頭に迷います。こんな時には「遺留分減殺請求権」この法律が光り輝くことでしょう。

だが、その多くは一族の崩壊につながります。減殺請求の内容証明は相続争いの宣戦布告です。内容証明が届いた瞬間に相続人は、一族の「和」この何にも勝る大切な財産を失います。