重さは同じ 野口レポートNo335

10年ほど前に相続税基礎控除が大幅に引き下げられました。庶民にとって相続税など無縁でしたが、この改正により首都圏ではサラリーマンの相続でも自宅があれば課税の可能性があります。

しかし、相続税には「小規模宅地の特例」という大バーゲンがあります。厳格ですが要件を満たせば自宅敷地330㎡までは20%評価となり80%の評価減が受けられます。この特例で相続税はセーフなんて人も結構います。ただし相続税の申告が必要です。

最近はこの層からの相談や依頼が多く身の上相談まであります。

《案件1》Aさんから「実はガンで、医師からは余命1年と言われている」と相談を受けました。公正証書遺言を作ってほしいと頼まれました。家族が揉めることのない相続を望んでいます。

Aさんが悔いなく旅立てるようお手伝いをしてあげたい、そんな気持ちで取り組みました。遺言を作成してから1年半で亡くなりました。相続も円満に完了しAさんの願いはかなえられました。

《案件2》ご主人が急逝されました。相続人は奥様とご主人の兄弟姉妹(代襲者を含む)が9人です。相手には夫に先立たれた奥様の気持ちと経済事情を丁寧に伝え、相続を辞退してくださるようお願いしました。8人が譲ってくれました。権利を主張していた最後の1人も他の8人が辞退したことを知り譲ってくれました。

《案件3》あと1人というところで、最後の相続人が重度の認知症でした。私では認知症に対応できません。士業へつなぎ無事完了しました。成功報酬なので交通費(実費)のみを請求しました。労多くても成功しなければ実になりません。「お疲れ様」と言葉をかけられると思いきや、先生・先生と言っていた依頼者の言葉づかいと態度がガラリと変わりました。相続いろいろ、人間もいろいろです。めったにないケースですがくやしい思いをしました。

《案件4》親と同居しているBさん夫婦がいます。両親から大きなストレスを受けています。何回か面談し私の答えです。「親を捨てろ」それしかない、それで全てが解決する。Bさんは「長男だし親を捨てることなどできない」でした。私も長男なので気持ちは分かります。が、このままでは心を壊されてしまいます。

その後、事態が一変し家を出なければならなくなりました。本人はアパート住まいになりました。親と顔を合わすことがない、干渉されることも一切なくなった、親の呪縛からやっと解放され、ストレスも解消し心にも余裕ができました。趣味を見つけたり、夫婦で旅行に行ったり、充実した日々を過ごしています。「アパート住まいだが前と比べたら天国だよ」と言っていました。結果として「親を捨てる」ことになったBさんは人生を取り戻しました。

人は生きている限り、誰でも悩みや苦しみを持っています。荷物の大きさは違ってもその重みは同じです。ここを理解して差し上げることは相続アドバイザーとして大切です。