近年の相続法の改正により、「10年」という期間が重要な意味を持つようになりました。相続に関係する制度は複雑に見えますが、基本的なルールを理解することで、将来のトラブルを防ぐことができます。今回は、この「10年ルール」のポイントを分かりやすくご説明します。
■ 相続法の改正で「10年」が分かれ目に
令和元年の民法改正により、相続開始後10年が経過すると「寄与分」や「特別受益」の主張ができなくなりました。
たとえば、長年、親の介護をしてきた相続人が、「自分には寄与分がある」と主張する場合。
生前に他の相続人が多額の贈与(特別受益)を受けていたことを考慮して、遺産を公平に分けたい場合
これらはいずれも、相続開始から10年以内に主張しなければなりません。10年を過ぎると、こうした公平調整の請求は法律上認められなくなります。
■ 遺留分請求でも「10年前」までが限界
遺留分とは、相続人の最低限の取り分です。遺言などによって不公平な分け方がされた場合でも、遺留分を侵害された相続人は一定の金額を請求できます。
しかし、このとき相手の受けた「特別受益」(生前贈与)を主張して取り分の調整を求めるには、原則その贈与が相続開始前10年以内のものでなければなりません。
つまり、「10年以上前に渡された贈与」については、他人の特別受益としては考慮されないのです。
■ 自分が受けた特別受益は10年を超えても対象に
一方で、自分自身が受けた贈与については、何年前であっても「特別受益」として持ち戻して計算される可能性があります。たとえば、20年前に親から住宅購入資金をもらっていた場合、これも遺産分割の際に考慮されることがあります。
つまり、他人の贈与には期限があるのに、自分の贈与には期限がないという、少し不公平に感じるかもしれませんが、これが現在のルールです。
■ 相続税では「7年」が持ち戻し期間
税法上も注意が必要です。令和6年の相続税法改正により、生前贈与が相続税の課税対象に戻される期間が延長されました。以前は「3年以内」でしたが、現在は**「7年以内」**の贈与について、相続財産に加算されることになりました。
したがって、贈与によって相続税を軽くしようと考えても、7年以内の贈与は原則として相続税の計算対象となります。
■ おわりに
このように、民法と税法でそれぞれ異なる「年数のルール」が存在します。
民法:10年で権利主張に制限
税法:7年で課税対象に持ち戻し
贈与や相続に関しては、「いつ」「誰に」「どのような目的で」行ったかを記録しておくことが重要です。制度の理解と早めの対策が、将来の相続トラブルを未然に防ぐ鍵になります。