相続税の計算方法 中條レポートNo251

日本の相続税の計算方法はちょっと変わっています。

変わっているのは、誰がどれだけ財産を取得したかにかかわらず、相続税の総額を計算するところです。
総額が計算出来ると、その税額を各相続人が取得した財産の割合で按分します。

具体的に計算してみましょう。
ご主人が亡くなり、相続人が妻と子供長男、長女の二人。相続課税価格1億円。
妻が6,000万円(6/10)、長男が3,000万円(3/10)、長女が1,000万円(1/10)取得したとします。

まず、1億円を誰がどれだけ取得したかに関係なく、法定相続分で取得したとして相続税を計算します。
法定相続分は 妻1/2 長男1/4 長女1/4
相続税は1億円-基礎控除4800万円(3000万円+600万円×3)=5200万円
に対して課税されます。

この5200万円を妻が1/2の2,600万円 長男長女が1/4の1,300万円取得したと仮定し各々の相続税を計算します。(ここが変わっているポイントです)
それぞれの税額は妻が340万円 長男長女は各々145万円。(計算省略)

上記の合計額630万円の相続税を各々が相続した割合で按分します・
妻 630万円×6/10=378万円
(妻には税額の特例がありますので相続税は0円となります。(計算省略))長男 630万円×3/10=189万円
長女 630万円×1/10=63万円

ドイツやフランスのように相続人がどれだけ財産を取得したかで、それぞれの相続人に課税する国と、アメリカやイギリスのように亡くなった方の遺産の総額で相続税を課税する国があります。

日本は二つの方法の折衷ともいえる、仮に法定相続分で分けたと仮定して相続税を計算しています。
それぞれ一長一短です。大切なのは特徴を正確に把握し遺産分割をすることです。

成年後見制度の今後 中條レポートNo250

令和4年4月から第二期成年後見制度利用促進基本計画が始まります。

普及が進んでいない現状を踏まえ、成年後見制度利用促進専門家会議から下記のような提言がされています。

➀本人が必要とする身上保護や意思決定支援の内容や変化に応じ後見人等を円滑に後退出来るようにすべきである。
➁必要な範囲・期間で利用できるようにするため、終身ではなく有期(更新)の制度とする見直しの機会をつくるべきである。

 ➀について。
原状では後見制度を利用すると、家庭裁判所が最初に選任した後見人が亡くなるまで、本人(以下意思能力が衰えて支援が必要な人を「本人」という)の後見業務を行うケースがほとんどです。

しかし、本人の状況は変化します。その時々の状況により誰が後見人として適任かも変わってくることもあるはずです。

例えば、後見開始時に法律的な問題があり解決しなければならない場合。
最初は弁護士がなり、法律問題が解決したら親族、市民後見人というような本人と関わる度合いが多く身上保護(本人が本人らしく暮らすためにどのように出来るか)がしっかり出来る者に交代することです。

但し、交代時期や交代する者が適任かどうか見極めるためどうするか等の問題も多くあります。この役割は現場がよくわかっている、促進計画の要となる中核機関が担うのでしょう。

➁について。
後見人制度は使いにくい制度だとよく言われます。
その一番の要因は一度使うと、本人が亡くなるまで使い続けなければならないことです。

例えば、お母さん(判断能力がない)の施設費用の支払いのためお母さん所有の不動産を売却するために後見制度を利用した場合。

不動産売却手続が終わったら後見が終了するわけではありません。利用目的(不動産売却)が終了してもお母さんの認知症が治るか、亡くなるまで家庭裁判所の監督下で後見制度を使い続けなえればなりません。親族が後見人になれば、後見業務の負担、専門職後見人が付けば費用の支払い負担が重くなるためです。
終身でなく有期になれば、この負担が少なくなります。

 ➀は制度の運用で対応出来るでしょう。(実際に今でも後見人交代をするケースはああります)但し、普及させていくためには運用基準を明確にするひつようがあります。例えば交代ありきで後見開始の審判をする。等々です。

➁に関しては私の私見ですが➀より導入のハードルは高いと思います。本人のための制度ですから、一時的に利用することが本人にメリットがあるかどうか(家族にメリットがあるかどうかでなく)後見制度の根幹にかかわる部分だと思うからです。
しかし一時利用が制度化出来たら、後見制度の利用は大幅に増えることは間違いないと思います。

専門家会議からの提言を元に後見制度が変化・普及し社会に役立つ制度となるこが望まれます。そのためには、制度運用の核となる中核機関の動向を市民が注目し市民目線で意見が出るようになることが大切だと思います。

常識と法律 中條レポートNo249

遺言とは
「相続人の間に不平等を持ち込む仕事」
と先月号で書かせて頂きました。その理由の補足です。

 相続実務に携わるとき戒めている言葉です。
「法律と常識が一致するとは限らない。そして常識は法律に勝てない。
法律のなかで生じたもめ事は法律で解決すればよし。
ところが多くのもめ事や問題は常識の中で生じている。
常識の中で生じたものを法律で解決すると心にシコリが生じる。
この認識を持つことは実務家として大切」

「常識の中で生じたもの」とは下記のようなことです。
親の面倒を献身的にみた長男と、そうでない次男がいる。
親は長男に多く財産を相続させたいと思う。

次男が「お兄ちゃんは親の面倒をみたのだから、財産さくさん相続しなよ」
と言えば、常識の中で解決するのでシコリは残りません。しかし次男が二分の一欲しいと主張すれば、法律が勝ちますので次男の言う通りとなります。

上記の問題を「法律で解決する」とは、
生前に親が長男に多くの財産を相続させる遺言書を書くことです。
遺言を作成すると「心にシコリが生じる」ことがあります。

だから、我々アドバイザーは
「相続人の間に不平等を持ち込むが不公平であってはならない」※
こと常に念頭にいれ、公平な遺言書作成のお手伝いを心がける必要があるのです。それが「心のしこり」を少しでも和らげることになるからです。
アドバイザーの役割が重い所以です。

※平等と公平の違い:お年玉をあげる場合、小学生、高校生、大学生に同じ金額を渡すのが平等。年齢に応じて金額を変えて渡すのが公平。

不平等を持ち込む 中條レポートNo248

遺言とは
「相続人の間に不平等を持ち込む仕事」

遺言の作成のお手伝いをするとき、常にこのことを念頭にいれています。

平等に分けられる財産(例えば現金・預貯金)で、平等に分けるのでよければ遺言は必要ありません。
何故ならば法律(民法)は分け方を平等に定めているからです。(相続争いを行い、裁判所の判決で分け方が決まる場合は民法通りとなります)

不動産のように分割するのが難しい財産がある。
介護や家業の手伝を行った相続人とそうでない者がいる。
このような場合、遺言を使い相続人間に不平等を持ち込むことが必要になります。

けれども「不公平であってはならない」
「不平等」を持ち込むが、「不公平」であってはならないということです。

お年玉をあげる場合、小学生、高校生、大学生に同じ金額を渡すのが平等です。
年齢に応じて金額を変えて渡すのが公平です。

何が公平なのかは概念的なことになるので非常に難しいことではあります。
しかし、遺言書の作成する際、常に念頭にいれておくべきことだと思います。

森信三先生の一日一語(右記参照)によれば「職」は天から与えられたものです。「遺言書があれば争いを防げたのに」と思うことが多くあります。
私たちは生前に遺言作成のアドバイスが出来る立ち位置にいます。
「職」が天から与えられたものであるならば、天から与えられた役割を果たせるよう精進していきたいです。

10年 中條レポートNo247

所有者不明土地の対策として今年4月に法改正、新法作成が行われました。これらの法の施行は成立後3年以内とされています。

この改正は相続に関する法律にも影響しました。

相続したとき不動産の名義を相続人に変えずほったらかしていることが、所有者不明土地を発生させる要因だと考えられたからです。

テレビ等で報道されている相続登記が義務になるというのもその一つです。
その他にも相続実務に影響する改正が行われています。

相続開始後「10年」を経過した場合は特別受益や寄与分が法律争いの場で主張出来なくなります。(特別受益;故人の生前に住宅資金等のお金を贈与してもらった。等々 寄与分:故人に対して生前に金銭に換算できる恩恵を与えた。相続の財産分けをするとき、亡くなった時点の財産だけでなく、特別受益や寄与分を考量出来る)

相続が起こってから年数が経過すると、これらを主張する証拠が揃えにくくなり、争いが長引く要因になるからです。このことが、所有者不明土地を創出する原因にもなると考えられたからです。

令和2年7月に施行された相続法改正にも「10年」というキーワードがあります。
遺留分に関するものです。
「死亡する10年以上前に故人が行った贈与(特別受益)は遺留分を計算するときの財産の価額から外す」

10年以上前の贈与は証拠もあいまいになり、無用に争いを長引かせるというのが理由です。これは遺留分を請求するものにしては不利な改正です。逆に贈与を受けた者にとっては有利となるため、今後は早めの贈与が推奨されるようになるでしょう。(但し、遺留分が発生ることを知って行った贈与はこれに該当しません)

「10年」ひと昔。
10年はあっという間ですが、一区切りでもあるのでしょう。法改正は、ここを区切りにして争いを簡素化し早期解決を図る主旨なのでしょう。

前段のお話は相続時点では未来の「10年」。後段のお話は過去の「10年」。
相続は長期的な視点で関わっていくことが大切だと感じます。

仕事の効率 中條レポートNo246

コロナで世の中が大きく変わりました。

ネットで会議、面談をするようになり、遠方への出かけることはめっきりへりました。コロナが終息しても効率を考えると、ネットで出来ることはネットで行いコロナ前の状態には戻れないのでしょう。

しかし、面談することの重要性が再認識されたことも事実です。
ネット上ではわかりえない、人間の機微が面談では感じることが出来るからです。効率だけを優先することが良い結果になるとは限りません。

 日本の平均賃金が20年前と変わらない。先進国の中でも圧倒的に低い伸び率となっています。様々な原因が考えられ、対策が講じられようとしています。

でも日本人は不幸でしょうか。
安全な環境。四季がある、豊かな自然に恵まれた環境。規律正しい気風。

賃金だけでは計れないことがたくさんあると思います。
先述した効率だけでは計れないことと通ずるところがあると思います。

私は主に相続、成年後見の仕事をしております。
どちらも効率だけを求めても良い結果は出てきません。

正解がない場面も多くあり、日々迷い悩み仕事をしています。効率的に解決しようとすると間違うことも多々あります。

「こんなに〇〇〇してあげているのに」
対人関係で非効率的な事をしているときに出てくる感情です。このとき効率的にしようとしても良い結果になりません。

なぜなら自分中心の思いで行っていて、相手の想いとは違うことが多いからです。そしてこの感情は相手に伝わります。そのため心を開いてくれません。
効率ではなく「やってあげている」という気持ちの修正が必要です。

 もちろん効率を求めることは経済活動をしていくうえでは欠かせないことです。
お伝えしたかったのは、効率だけを重視して活動すると大切なものを見失う危険があることです。この危険に気が付けるよう日々精進していきたいと思います。

対人援助 中條レポートNo245

福祉の世界では対人援助が重要です。(以下援助される人を「本人」と言います)

援助で大切なのは、本人と援助者が対等関係になることです。〇〇してあげるというものではありません。援助者は本人と二人三脚で目標に向けて歩んでいきます。(目標は本人にとって「幸福」につながるものであることが必要です)

 そして本人が問題解決の主体者となります。
援助は目標を達成するため、本人が決めたプロセスに徹底的に付き合い共に歩んでいく事です。

本人に決めてもらうためには、気が付いてもらうことが重要となります。
そのため援助者は本人が自ら問題を解決していけるよう側面から働きかけます。援助者は主体でなく「本人のいるところ」から伴走車として出発します。

 伴走者になるためには、現在の本人の様子を理解するだけでなく、本人の育ってきた歴史を知ることも重要です。援助者から見た本人ではなく、本人から見える風景にどう接近していくかが大切となります。

問題解決者である前に本人のよき理解者となることです。「自分のことをわかってくれている」と思ってもらえることが大切です。

援助の現場では、目標と手段を混同しないことに注意が必要です。援助することが「目的」でなく、援助は目標を達成するための「手段」だからです。
例えば、
歩くことが困難になった人に、ただ歩くことのリハビリを強いるのが本人の幸福につながるでしょうか。
しかし、孫と散歩する楽しみを実現するためにリハビリをするということであれば、幸福を達成するための手段となります。
現場では援助することが目的になりがちです。注意しないとこの間違いに陥ってしまいます。

 どのような考えで本人に接するかで行動の一歩目から変わってきます。理念をしっかり持って取り組んでいく事が大切です。

「有効」「無効」 中條レポートNo244

「法」は不思議です。
当事者同士がお互いに納得して合意しても効力が無い場合があります。
相続に関する合意が有効になる場合とならない場合をみてみましょう。

〇「有効になる」場合。
本人死亡後の相続人全員での遺産分割協議書。
これは有効です。
たとえ法律(民法)で定められた相続分(法定相続分)でない分け方でも、相続人全員が合意し署名捺印すれば有効に成立します。

〇「効力がない」場合。
本人死亡前の推定相続人全員での遺産分割合意書。
お父様が自分の死後の財産分けを子供たちの了解のもとに行いたいと考えました。
そこで、子供たちを集め、自分が亡くなった後の遺産分割合意書に署名・捺印(実印)してもらいました。

お父様が死亡後、合意書の通りに分割できるでしょうか?
子供たちが全員、生前に合意した内容で了解すれば可能です。
しかし、一人でも反対者が出たら合意した通りにはなりません。
合意した効果をもたせたいのなら、子供たちが了解した内容で、お父様が遺言書を作成しておくことが必要です。

本人死亡前の相続放棄も効力はありません。
本人の「財産を受取らない」「負債も負わない」ことを有効に成立させるためには、相続人は本人死亡後に家庭裁判所に相続放棄の申立てを行い認めてもらうことが必要です。(本人死亡後でも家裁の審判がないものは負債に関する効力はありません)

一方、本人死亡前でも、遺留分の放棄は認められます。
遺留分の放棄とは、本人が全ての財産を長男に相続させると遺言をし、二男には遺留分を請求しないと約束させることです。但し、家庭裁判証の許可が必要になりますので、相続人間で合意しただけでは効力はありません。

このように、法律や判例をもとにケース毎に「有効」「無効」が変わってきます。「これで大丈夫」自分だけの判断で安易に実行しないことが大切です。

遺産分割(納税)スケジュール 中條レポートNo243

遺産分割協議書を作成して行う(遺言書が無い)場合の相続手続のスケジュールです。まずは相続税がかかるかどうか。
3,000万円+600万円×法定相続人の数の金額以上財産があるか否か。

相続人が奥様と子供二人の場合は4,800万円以上あれば相続税が課税されます。(各種特例を適用し相続税が課税されない場合もありますが、申告は必要になります)

相続税が課税されれば、10カ月以内に相続税の申告、納税が必要になります。
手続に期限が出来るということです。
期限を超え納税すると、利子税、延滞税が課せられます。

相続で得る財産で納税する場合は、相続人全員で遺産分割を成立させることが必要になります。(遺産分割がまとまらない場合は、法定相続分で相続したと仮定し、各相続人が相続税を支払います。この場合、各種特例が使えない、手持ちの財産で相続税を支払う、等々のデメリットが生じます)

次に相続税を、相続した預貯金や手持ちの資金で支払えるかが重要になります。
支払えない場合は、相続した財産(不動産や株式(手持ちを含む)等)を売却して納税しなければなりません。

売却するための時間を考量しなければなりません。特に不動産は時間を要します。
期限内にやることが増えることは、スケジュールがタイトになるということです。

また、相続税の支払いは相続人間の連帯納付義務がありあすので、個別に考えるのではなく、相続人全員で支払う計画をたてることが大切です。全員が納税するための必要資金を確保することが重要になります。

ですから相続手続を行うコンサルタントには「いつまでに何をするか」、相続手続の全体像を把握しスケジュールをしっかり立てることが求められます。

スケジュールを立てるうえで一番の気がかりは相続が争族になってしまい、話合いがまとまらず期限切れになってしまうことです。
ですから、手続の最初に相続人全員に遺産分割協議がまとまらない場合の不利益の危機意識を共有してもらうことが大切になります。

ここを認識してもらい、相続手続のゴール(納税)に向けて手続を開始していきます。

法定後見制度利用概況 中條レポートNo242

令和2年の法定後見関係の統計からです。(「成年後見関係事件の概況」HP検索)

法定後見制度を利用する場合、本人の親族が後見人等になっている割合が令和2年は19.7%と20%を割りました。

この数字が親族は後見人等に選ばれないという根拠にされることがあります。
これは正しいでしょうか。

後見人等を付けてくださいと家庭裁判所(以下「家裁」という)にお願いするとき、通常は後見人等の候補者を立てて申請します。(最終的には誰を後見人等に選ぶかを決めるのは家裁ですが、家裁は候補者を重視します)

この候補者の内、親族の割合が公表されました。
令和2年は23.6%です。
そもそも、親族を候補者として申請している割合が低いのです。

 また、申立人(家裁に申請する人。原則は本人の親族)の一番は、市区町村長です。身寄りがなく申立てる親族がいない場合にとられる手段です。二番目が本人の子、三番目が本人です。(意思能力の低下が低い場合、本人が申立て出来ます。身寄りがない人が利用することが多いです)

 これらのデータから「身寄りのない人の後見利用が増えている」ということがわかります。独居高齢者が急増しているという、世の中の状況が、親族割合の低下の大きな要因だと思われます。

ですから、親族の割合が低下していることが、家庭裁判所が親族を後見人等に選ばれないことにはならないと思います。(親族間に争いがなく、財産が複雑でなければ、親族が選ばれるというのが私の実感です)

一方、法定後見制度を使うと面倒だから、利用しなくて済むよう、事前に対策を講じている人が増えていることも、親族割合の低下の要因になっていることも確かだと思います。

後見制度の利用・運用状況は日々変化しています。状況を正確に把握し制度の利用を検討することが大切です。