平成27年度税制改正 中條レポートNo165

平成27年度税制改正大綱が昨年1230日に決まりました。基礎控除の縮小による相続税の増税等、既に改正されていて、施行が平成2711日からというものもありますので頭を整理していかなければなりません。

今年、新たに出来た結婚・子育て資金1,000万円の一括贈与の非課税措置は注意が必要です。既にある教育資金の一括贈与と大きく違うところがあります。
それは贈与者が亡くなった時の取り扱いです。

教育資金の一括贈与は贈与者が亡くなった時に受贈者(子・孫)が贈与を受けた資金が使いきれていなくても相続税には戻しません。(受贈者が30歳のときに使いきれていないお金があると、その時残額が贈与されたとして贈与税が課税されます)

結婚・子育て資金一括贈与は違います。贈与者が亡くなった時、使い切れていないお金は相続財産に元戻して相続税が課税されます。結婚せず、結婚資金にも子育て資金にも充てられず、贈与を受けたお金がそのまま相続税の対象にということもありそうです。
親・祖父母が亡くならないうちに結婚して、子供を産んで贈与資金を使いなさいという、少子化対策の意図があるのかもしれません。

生命保険の契約者変更をした場合は、保険金支払い時に税務署に提出する支払調書に変更内容を記載しなさいということになりました。
今までは、保険料支払途中で契約者変更しても税務署は知る術がありませんでした。契約者=保険料支払者 がほとんどですので、実際は贈与課税等されるのですがお目こぼしがあったのです。このお目こぼしがなくなります。
しかし変更の記載が義務付けられるのは平成30年の11日以後の変更からです。何故3年後なのか? 「H30年までに変更する人はしてしまいなさい」ということなのか? 保険会社からの圧力がかかったのでしょうか。

個人・法人毎の預金を識別するため、預金者を番号で検索できるようにすることを、銀行等に義務付けることも書かれています。マイナンバー法が改正されると実施されます。名義預金等、お金の所在をごまかせない時代がもうそこまできています。

目立たないけれど重要な項目が税制改正大綱にはたくさん書かれています。

歴史 中條レポートNo164

先日、日本の歴史について学びました。
講師は歴史家ではありません。しかし何が真実かを肌で感じとる才能が有る方です。
「あくまでも私の私説として聴いてください」という前置きからお話が始まりました。

私たちが知っている日本の歴史は勝者の歴史です。
勝者とは
貴族・氏族・百姓(地主)
敗者とは
農民・庶民・良民

勝者が占める割合は一割です。この一割の歴史を学んできたのです
財産をもっていたのは勝者だけです。そして財産を承継していきます。
相続は分割相続、単独相続と時代、地位によって異なります。
勝者は敗者を従えるため血統を大切にしてきました。
血統を重んじることで権利が主張出来るからです。

敗者の人々は財産がありませんので相続がありません。
子孫をどう残すかが重要になります。
生き残っていくため共存共栄の社会です。

勝者・敗者の観点で見ると、今までと違った歴史・文化を知ることが出来ます。

講義を聴いて現在の日本はどうなのかを考えました。
血を重んじ(権利を主張し)、財産を承継していくという点では、国民皆勝者です。
しかし、9割以上の人は勝者だと思っていません。
だから責任感なく、国や政治が悪いと不平を言う人が多いのでしょうか。
(この講義が正しければ)今の社会形態は、歴史上無かったことです。
普通だと思っていたことが、特異な状態だったのです。
良いことなのかどうか・・・。考えさせられる講義でした。

相続アドバイザー養成講座 中條レポートNo163

11月24日、相続のプロを養成する第32期相続アドバイザー養成講座全20講座が終了しました。
1講座で相続に携わる者の理念「相続人の幸せを守る」を学びます。そしてこの共通理念を持った17人の各分野の専門家のお話を実務で活かす講座が最終2講座です。
この2講座では、相続アドバイザー(SA)として「実務で注意する点は何か」「SAは何が出来るのか」を学びます。 

19講座
題目/「相続アドバイザーとしてできること、できないこと、注意すべきこと」
争いの気配があるなか、遺産分割協議書等の法律事務に安易にかかわることの怖さを学びます。争いになると法律は武器になります。その武器を使うプロが弁護士です。
弁護士法72条があるから、注意するのではなく武器の使い方を知らない者が戦場に出ることが危ないのです。相談者の利益を害し、SA自身も危険にさらされます。
法律紛争性がある場合は弁護士をコーディネートすることが肝要です。しかし法律争いに勝つことが相談者の幸せになるとは限りません。総合的な判断のもと相談者を幸せに導くのがSAの役割です。

20講座
題目/「相続アドバイザーの役割と留意点」
相談者は相続という闇夜の世界で不安がいっぱいです。そんな相談者によりそい、心の支えとなり手続をすすめていく仕事がSAです。
遺産分割で指示、説得、交渉は出来ません。
SAの役割は
「争うことの愚かさ」「本当に大切なものは何か」を相談者自身に気が付いてもらうことです。
相続を人生の通過点と考え、人生設計までかかわるお話は心に響きます。

 SAは自分の役割をしっかりと認識し(理念をもち)、実務を行うことが大切です。SAは相談者が進むべき道を共に歩む道案内人です。
SA養成講座はこの道案内人を養成するための厳選20講座です。

認定死亡 中條レポートNo162

 年々被害が大きくなる自然災害。死亡・行方不明者が多数になることも多くなってきました。
 死亡した可能性は高くても、行方不明で遺体が確認できないこともあります。遺体を発見できない以上,死亡診断書等を作成できませんから,戸籍に死亡の記載をすることができません。
しかし死亡したことが確実であるのに,戸籍に反映できないと、相続手続が出来ず不都合を生じることがあります。

 こういう場合に死亡したことにする制度として、失踪宣告と認定死亡という制度があります。
 前者は民法の制度(第30条)、で後者は戸籍法の制度(第89条)です。
 失踪宣告は家庭裁判所の審判によります。通常の失踪宣告は7年間音信不通の場合に行われますが、危難があった場合の失踪宣告は危難が去ってから1年経過すれば失踪宣告可能です。
 認定死亡は災害等の事変によって死亡したと判断される場合にその取り調べをした行政官庁が市町村長に死亡の報告をすることによって死亡を推定する制度です。
 こちらは、失踪宣告と異なり死亡認定まで1年以上待つ必要はないので、相続や保険金の支払いで迅速な対応ができます。

 後から本人が死亡していないことが判明したときはどうなるでしょうか。
 認定死亡は、死亡が推定されているだけですから、生存が確認できれば死亡の取り扱いはなくなります。しかし、失踪宣告は死亡と見なされていますので、改めて家庭裁判所から失踪宣告の取り消しの審判を発令してもらう必要があります。

 もう一つ、死亡したことにする制度として高齢者消除というものがあります。
100歳以上の所在不明な高齢者 の戸籍を職権で抹消する制度です。
この制度はあくまでも行政上の 便宜的措置であるため、相続は開始されないと言われています。相続を開始するためには上記失踪宣告によらなければなりません。

※但しこれは一般的に言われていることで、状況次第で相続手続に応じてもらえることもあるようです。詳しくは専門家にご相談ください。

遺言の無効 中條レポートNo161

自筆証書遺言で怖いのは、遺言の内容に不満を持つ相続人から、遺言が「無効」だと言われる事です。無効理由で多いのは
➀「お父さんが書いた字じゃない」
②「あの時、遺言を書く意思能力はなかったはずだ」

このように言われたとき、「有効である」とする証拠が必要です。
➀に備え被相続人が生前(出来れば遺言作成近時)に書いたものが必要です。
手紙・ハガキは消印がありますから、書いた日を推定でき有用です。(但し、お正月の年賀状は消印がありませんから注意が必要) 文字は体の具合や、姿勢等によって異なりますから数個の自筆の書を集めておくとよいでしょう。

自筆の書を相手方から、本人が書いた証拠があるのかと言われることもあります。保険契約、銀行借入の銀行員等の面前で本人に記入を求められる書類は貴重な証拠となります。

しかし字を書く事が少なくなった時代です。自筆の書を収集するのも簡単ではありません。自筆だと証明出来る書類が、自筆証書遺言をつくるときの必要書類だと言っても過言ではないでしょう。

②に備え、病院での医療記録や、介護施設での介護記録が役立つことがあります。
遺言作成時の本人の生活状況、家族の関わりかた等の周辺状況も判断材料になります。
ビデオで遺言書作成風景を撮る、遺言作成時の会話を録音することも証拠には役立ちます。
また遺言の内容がシンプルな程、意思能力に関して有効性が認められやすいでしょう。

筆跡鑑定も確実な証拠ではない(鑑定する人によって結果が異なることもある)ように確かな証拠を集めるのは困難なことです。
状況証拠でも数多く集める事が大切です。
裁判官になるほどと思わせることが肝要です。

このように考えると、お勧めはやはり公正証書遺言です。
無効になる心配はなく(確率は0ではありませんが)安心出来ます。
遺言は、そもそも安心するために作るものだからです。

DNA 中條レポートNo160

人の細胞の核にあるDNA

人それぞれの髪の毛の質、目の色、体つき、体質、等々両親から受け継いだ遺伝子情報を詰め込んだ生命の設計図です。

かつては人のDNAを読み取ることは夢のようでした。
それがスーパーコンピューターで時間をかければ読み取れるようになり、2003年、13年がかりで3千億円かけ読み取りが完了しました。
それが現在は、約10万円、1日で読み取れるまで技術がすすんでいます。

ビジネス目的でこの技術の利用がすすんでいます。
そのひとつが「デザイナーベビー」。

・精子バンクの精子提供者のDNAと、利用する女性のDNAを調べ、重い遺伝子病が出る組み合わせを排除します。
・精子と卵子が受精した体外受精卵のうち、染色体の異常が最も少ない一つを子宮に戻して着床させます。
DNAに異常がある受精卵そのものを改変する技術が近い将来実現しそうです。詳しい方法は省略しますが、この方法だと両親と提供者の女性の3人のDNAを持つ子供が生まれます。

「完璧なあかちゃん」を求める動きは加速されるでしょう。
倫理的に問題があっても、生殖技術の許容範囲は国際規制がなく、各国が法律などを独自に定めているため、自国でだめでも海外で生むことを止められないからです。

お金で、好みの子供を手にいれることが出来る時代がくるかもしれません。
体に障害がなく、頭が良く、運動神経がよい子が人工的につくられる。そうでない人間との格差社会が形成されるかもしれません。
恐ろしいことです。

親子関係も複雑になります。それでなくても離婚・再婚・未婚の母と家族関係が複雑化しているところです。
相続問題も複雑化することは間違いありません。

父子関係 中條レポートNo159

DNA鑑定で血縁関係が否定された場合、法律上の父子関係が取消せるか。
婚姻期間中に生まれた子だけれど、事実は他の男性との子でした。

母親が子を代理して、法律上の父子関係を取り消す訴えを起こしました。
最高裁は、民法の「嫡出推定」の規定は、DNA鑑定の規定より優先されると判断しました。

第772条(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

この推定を覆すには、嫡出否認の訴えによらなければなりません。(民法775)
しかしこの訴えを出来るのは父親だけです。

では、婚姻期間中に生まれた子供は、父親が訴えなければ父子関係を取り消せないのか。
そうではありません。

「夫が外国にいた、監獄にいた等の場合等は推定が働かず、親子関係不存在確認の訴えが出来る」と最高裁は言っています。
(親子関係不存在確認の訴えとは民法772条の推定がされない子に対して父子関係を否認するもので誰からでも訴えることが出来る)

しかし、この事例は夫が出張中だったが月に2~3度家に帰っていて夫婦関係が保たれていたから父子関係の推定が働くため親子関係不存在の訴えが出来ないということです。

なんだか違和感がある判決です。
但し、5人の裁判官の内、2人の反対意見がありました。
また「社会の実情に沿わなくなれば、立法政策の問題として検討すべきだ」と補足意見もありました。

非嫡出子の相続分に関する最高裁の判決が覆り、嫡出子と同等になったように、社会情勢の変化で今後変わることもあるかもしれません。

遺言と死因贈与 中條レポートNo158

死後、財産を渡す方法に死因贈与があります。実際どのような場合に利用するのでしょうか。

遺言と死因贈与の違い

どちらも効果があらわれるのは死後です。遺贈は財産が遺言者から受遺者に移転することを遺言者が決める単独行為です。死因贈与は、贈与者から受贈者が無償で財産を貰う事を約束するお互いの契約です。
死因贈与を選ぶ場面は、お互いの意思を確認し合い財産を承継していきたい場合です。

死因贈与の問題点。

死因贈与は双方の契約ですが、贈与者の単独の意思で契約を取消せる特殊な契約です。不動産の場合、死亡を始期とする所有権移転仮登記をすることが出来ますが、仮登記をしてもこのことは変わりません。(但し、仮登記を抹消するためには双方の合意か裁判の判決が必要になりますので、取消す抑止力にはなります)

このように特殊な契約ですから利用は限られたケースになるでしょう。死因贈与を選択するのは次のような場合が考えられます。

  1. 自分の死後に財産を与える見返りに、生前に受贈者の世話になりたい場合。「Aが死んだら、Bに自宅を贈与する。但し、Aが生きている間、Bは生活・療養費として月額〇〇円をAに仕送りすることを条件とする」

    これを負担付死因贈与といいます。生前に面倒を見てもらいたい場合に利用が考えられます。(受贈者が負担をある程度行えば死因贈与は取り消せないとした裁判例があります。上記の場合、仕送りをある程度すれば贈与者の撤回も制限されるでしょう)

  2. 確実に財産を承継したい場合。遺贈では、遺言者死亡後、受遺者はいつでも、遺贈の放棄が出来ます。(民法986)しかし死因贈与は双方の契約ですから、受贈者は当然には贈与を取り消す事は出来ません。贈与者が死亡後に受取らない(契約を履行しない)と、受贈者の債務不履行としての責任が生じてくるからです。

    財産価値がないけれど引継いで欲しい財産がある場合、財産を受けることを拒まれにくくするために利用が考えられます。

預貯金の遺言書 中條レポートNo157

遺言書の書き方は大きくわけて二通り。

一番目は銀行毎・支店毎・銀行口座毎に相続する人を指定する方法です。
文例
遺言者は死亡時に有する下記口座の預金を長男 山田太郎に相続させる。
○○銀行××支店 普通預金 口座番号 123456
遺言者は死亡時に有する下記口座預金を長女 山田花子に相続させる。
○○銀行××支店 普通預金 口座番号 789012

 この方法の利点は遺言を書いた後も、銀行口座の残高を調整し、長男と長女に相続させる金額を変更出来ることです。遺言を書き変える必要がありません。
問題点は遺言者の意思能力が衰えた場合、老後費用(介護費用、老人ホーム入所費用等)をどの銀行口座から引出すか自分で決められず(法定後見の場合、後見人が決めます)、遺言者の意図に反した口座残高になる可能性があることです。「被相続人の意図したことではない」と争いの元にもなりかねません。

二番目は預貯金全部を合計した金額を割合で相続する人を決める方法です。
文例
遺言者が死亡時に有する全ての預貯金の合計額の○分の△を長男山田太郎に○分の×を長女鈴木花子に相続させる。

この方法だと、死亡時までにどうように預貯金を使っても相続させる割合は変わりません。しかし文例○○のように預金残高を調整して残す金額を変える事は出来ません。残額が減っても長男に最低相続させる金額を確保したいときは次のようになります。

文例
遺言者が死亡時に有する全ての預貯金の合計額の○分の△を長男山田太郎に○分の×を長女鈴木花子に相続させる。
但し、上記計算により長男が相続する預貯金が○○万円以下の場合は、△△万円を長男に相続させ、残額を長女に相続させる。死亡時に有する全ての預貯金が△△万円以下の場合は、全ての預貯金を長男に相続させる。

相続させる遺言 中條レポートNo156

民法986条に「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることが出来る」と書かれています。

それでは相続人に「相続させる」という遺言でも、
・遺贈と同様に放棄できるのか。
・放棄した後、相続人全員で他の財産を含め遺産分割出来るのか。

☆このことに関して参考になるH21年東京高裁の判例をご紹介します。
被相続人A 相続人X Y 乙 の3名。
相続財産 不動産(以下本件不動産という)、現金、貯金。

Aは本件不動産をYに相続させる遺言を書き亡くなりました。他の財産については遺言書に記載されていませんでした。Yは本件不動産所在地に居住していなかったため、本件不動産を相続することを望まず、現金・貯金の取得を望んだため、遺言の利益を放棄し遺産分割を行うことを望みました。しかしYZも本件不動産の取得を望まなかったため裁判になりました。

決定内容
Yは本件遺言の利益を放棄することは出来ない」としYが本件不動産を相続しました。

上記決定がなされた理由
・本件相続させる遺言は、本件不動産を何らの行為を要しないでYが確定的に取得したことになるため。
・相続人全員で本件不動産を遺産分割の対象財産とすれば、遺産分割の対象となるが、その旨の合意が成立していると認められないため。

この判例から学ぶこと
 「相続させる」と書かれた遺言の利益が放棄出来るかどうかは賛成説・否定説に分かれます。最高裁の判断が待たれます。
この判例が教えてくれる事は、相続人が誰も望まない資産を「相続させる」遺言に書くと、争いの原因になりかねないということです。
不動産は個性が強い財産です。その個性がマイナス方向に働くと売却も困難になることがあります。やっかいな不動産を相続したい人はいません。このことを頭に入れて遺言を書かなければなりません。

不動産の特性をよく知る事が大切です。