香厳上樹 中條レポートNo180

禅問答 香厳上樹 (無門関 第5)

「お坊さんが、木の上に登って、口で枝をくわえ、手は枝をつかまず、脚は枝を踏まず、口だけでぶら下がっている状態のところに、木の下に人がやってきて、仏教とはなんですか、と質問します。

答えなければ、その人はよそに行ってしまう。しかし答えれば口をひらかなければなりません。落ちて死んでしまいます。といって、答えなければ、お坊さんとしての使命が果たせません。ではどうすればよいか」

「生命なんかどうでもいい。口を開いて落ちるまで、一心不乱に仏教を説く」
「答えないでぶらさがっている」
等々の答えが考えられますが、果たして落ちるまでに仏教が説けるのか? ぶらさがっているだけで仏教徒の使命が果たせるのか? それに、ぶらさがっているだけではそのうち疲れ果てて落ちてしまいます。

「手足を使って木から降りて、降りてから仏教を説く」
答えの一つです。

手足は使わないと決めたのは、この問答を投げかけた香厳という偉いお坊さんです。しかし、偉いからと言って、そこにとらわれる必要はありません。
私たちには手もあり、足もあります。

とらわれると、こんな簡単なことに気が付きません。いや、わかっていても縛られて行動出来ないのです。

私たちは普段の生活で同じことをやっています。とれわれた範囲内で問題解決策を探し、見つからないと悩んでいないでしょうか。

それでは、私たちを縛っているのは何でしょうか。
法律、規則、組織、社会、親、目上の人、等々、様々なものが考えられます。
しかし一番は自身が生まれたときから積み重ねて造ってきた「価値観」「我」ではないでしょうか。このとらわれが、気付かなくし、わかっていても動けなくします。

頭の中を空にし、自由になってください。
問題解決方法を見つけ、行動するのに役立つと思います。

その人らしく 中條レポートNo179

平成2831日の最高裁判決(列車事故で認知症の父親の監督責任を問われ損害賠償請求されていた裁判)で勝訴の長男のインタビュー記事です。

『一審二審では「認知症の人が社会に面倒を起こさないようにどう監督するか」が協調され認知症の人の生き方に寄り添う視点がなかったと感じました。
最高裁判決で嬉しかったことは「認知症の人が行動制限されないことも重要だ」と木内裁判官が判決文の補足意見に書いてくれたことです。
面倒恐れて何かを奪うのではなく、父親らしく過ごさせてやりたかったという思いが認めてもらった気がしました』

介護する者が、責任を負わされたら必然的に本人の行動制限を行います。行動制限は本人にその人らしく”生きてもらうための障害になります。

成年後見制度の理念です。
自己決定の尊重 「自分のことは自分で決め、そのことをみんなが尊重していこう」現有能力の活用 「現に有する能力を最大限に活用して自分らしく生きていこう」
ノーマライゼーション 「社会の中で普通に生活できるように社会の仕組みを変えていこう」

「認知症だからどうせわからないんだから」これは間違いです。
しっかりと感情があります。注意するのではなく共感していく。そして上記の三つの理念に基づいて接していくことが成年後見制度では求められています。

しかし100の内1つが事故につながると残りの99も規制されていく。
これが世の常です。上記の理念より行動制限が優先されていくでしょう。

今回の判決で介護者に過度な行動制限を取らせることにはならないでしょう。その意味では評価出来ると思います。しかし、家族の身体の状況や介護実態などによっては責任が生じる場合があるとも言っています。

このことから「介護に積極的に関与すれば、賠償責任を負うリスクが高まる面はある」「なるべく介護を引き受けないということになれば、在宅介護を推進する国の方針に反する」という意見も出ています。

「その人らしく」と「事故防止」そして「お金」。
この三つを解決する方法は…….
対策が有るとしたら「地域社会の活用」。
ひと世代前の日本に戻ることだと思います。

成年後見制度 中條レポートNo178

後見人の不祥事が相次いでいます。

後見人に対する監督を怠ったとして、家庭裁判所が訴えられ家裁の過失を認める判決も出ています。
後見人の監督は今後間違いなく強化されていくでしょう。

後見制度の利用が必要な人は今後も増え続けます。それに合わせ家裁の後見を監督する人員を増やすことは限界があります。当事者で対策を立てざるを得ません。

既に一定以上の資産がある場合、親族後見人は選任されづらくなっています。親族はナァナァな関係になりがちで不正が多いからです。弁護士・司法書士等の第三者後見人が選任されます。

一定の金額以上財産を所有している被後見人の場合は第三者後見人でも後見監督人を付けることが検討されています。

また後見制度支援信託(必要なお金以外はあらかじめ信託銀行に預ける。このお金を引出すときは家裁の許可が必要)は既に活用が広がっています。

各士業の団体が独自に会員を監督する動きも広がっています。行政書士で形成されているコスモスの会員も昨年10月より年4回の定期報告を行うようになりました。
このように様々な対策が施されていきます。

後見制度は性善説にたって出来た制度です。
しかし悪いことをしようと思えば出来てしまいます。
後見人は被後見人の財産を自由に処分出来、これを一個人の裁量に任せているからです。家庭裁判所の監督も1年毎です。逆にいうと1年間は監督されません。

但し不正を行っているのはごく一部の人です。しかし、ごく一部でも不正を行うと大問題になるのが後見制度なのです。

制度主旨、効用は素晴らしい制度はたくさんあります。
しかし、その制度を悪用する人が出てきたら取り締まらなければなりません。取り締まる対策が、制度を硬直化させます。

良い制度にすることより、制度を守るためにコストをかける。これが世の常です。
良くすることだけに全力を注げたら素晴らしい制度が出来るのに.。

この矛盾を解消する世の中は、まだまだ先になりそうです。

不動産の売却方法 中條レポートNo177

不動産を相続せずに、不動産を売却したお金を相続人間で分配する遺産分割が増えています。
理由は不動産が面倒くさい財産になっているからです。面倒くさくなった理由は

1価値判断か人によって異なる。(3人いれば3通りの価格が出てくる)
2様々な要因で価格が変動する。(マイナス要因に敏感に反応し価格が下がる)
3保有コストがかかる。(他人に損害を与えると所有者責任を問われるリスクもある)
4将来値上がりの可能性が低い。(不動産が余っている)

それでは、売却するにはどんな方法があるでしょう。相続人が子供2人だとします。①2人の名義にして、2人で共同して売却して売却代金を分ける。
1人の名義にして売却し、売却代金の一部を他の相続人に渡す。

①の方法だと、2人が売買に携わります。何をするときも2人の合意がなければ出来ません。②の方法だと売買手続にかかわるのは1人だけです。
仲が良ければお互いに一番良い方法を選択出来ます。(同じ金額で売却しても手取額が売却方法で異なることもあります)しかし仲が悪いケースでは…….
「あいつに任せたらいいようにされてしまう」と➀を選択するケース。(仲が悪い2人が合意しながら売却を進めていくのは大変なことですが)
「あんなやつと共同で売るなんていやだ」と➁を選択するケース。

売却の相手をどうするかも問題です。不動産業者(以下業者という)か一般人かです。
分譲出来るような広い土地の購入者は業者に限られます。(業者への売却は手続が確実で早い)しかし戸建住宅、マンション等一般人が買えるものは一般人に売却する方が、高く売れます。高く売りたいなら一般人がよいでしょう。
しかし、売りに出し、買手が現れないと価格を下げなければなりません。立場が違う二人の意見が対立することもあります。仲が良かった2人が険悪になることもあります。

兄弟姉妹のフランクな関係に、財産の分配を決めるという特異な状況がやってくるのが遺産分割です。速やかに手続が完了する業者への売却も選択肢の一つです。

どの選択肢が適切かを、総合的視野から見て判断する目を持つことが大切です。

相続を法律問題にしない 中條レポートNo176

相続は「相」(姿)を続けるということです。
命のバトンを引き継ぐときです。

しかし、相続というと財産承継が主になってしまいます。
財産をどのようにわけるかです。

民法には、
相続で財産を引継げる人(相続人)
相続人がどの割合で財産を引継ぐか(相続分)
が書かれています。

しかし、相続人全員が合意すれば民法に関係なく財産を分けることが出来ます。
それでは何故民法に相続分が書かれているのか? 相続分が出てくるのはどんな時か?

話合いの基準として相続分が利用されることは多くあります。
もうひとつ、相続分が重要な役割を果たすときがあります。

それは相続を法律で裁くときです。
話合いで解決がつかず、裁判になったときの裁判官の判断基準です。

「全ての事情を総合考慮して判決を出す」ということになっていますが、この相続分が基本となって判決は出されます。理不尽だと思っても民法が基準になるのです。
裁判官が状況に応じて判断基準を変えていたら「法」が「法」でなくなるからです。一律に判断されるということです。

家族状況はみな違います。
それを法律で一律に判断してしまってよいのでしょうか。
「相続を法律問題にしてはいけない」と言われる所以です。

「子供たちが私たち(夫婦)の遺した財産で争わないことだけが望みです」
相談者の方から聴く真摯な想いです。
この想いがかなわぬことほど不幸なことはありません。
この想いを託される相続アドバイザーの役割の重みを感じます。

自己を忘れる 中條レポートNo175

「自己を忘れる」道元禅師の教えを学ぶ機会がありました。
自己を はこび 万法を修証するを 迷いとす。
万法すすみて 自己を修証するは 悟りなり。

頭で考えて(自己をはこび)答えをだそうとすると、自分の都合のよい答えしか出てこず迷いから抜けられません。
ある程度考えたら、自己を忘れて答えをだす(万法すすみて、自己を修証する)。その答えが、物事を本質的に解決する答え(悟り)であるということです。

頭で考えると自我が邪魔をします。無意識に自分の都合のよい答えを導こうとします。目先の解決にはなるかもしれませんが、本質的な問題は解決しません。

この自我を除いて答えをだす方法が、自己を忘れることです。
自己を忘れるとは、考えることを止めることです。
そのとき、浮かび上がってくる答えこそ、問題を根本から解決するための答えです

しかし考えることを止めるのは簡単なことではありません。人は、年がら年中、頭の中で何かを考える癖がついているからです。
この癖をとる方法が瞑想や座禅です。休みなく働いている「頭」に少し休息をとらせてあげられたらという気持ちで取り組んでみてはいかがでしょうか。

それでは相続争いをしている人の「頭」の中を覗いてみましょう。
自我に執着した考えが、怒涛のように駆け巡っています。答えは必然的に自己中心的になっていきます。一番の問題はそこに気が付いていないことです。

遺産分割をまとめるためには、本人が自我に囚われた考えだということに気が付くことです。そうしないと裁判所のお世話になりかねません。
しかし、相続争いをしているときに上記のようなお話をしても.....。

そんなとき「自我に囚われた考え」だと気が付いてもらう役割を果たすのが相続コンサルタントです。
説得するのではありません。気が付いてもらうのです。
気付いてもらえるかは、コンサルタントの人間力にかかってきます。

暦年贈与 中條レポートNo174

相続税対策には様々なものがあります。
しかし、相続税対策のキーワードは簡単・安心・長続きです。

難しい対策は効果が大きくても、税制改正や親族状況の変化で効果がなくなることが多いからです。(効果が大きいほど、税制改正で蓋をされやすい)

そこで一番使われているのが毎年行う金銭贈与。
「あげます」「もらいます」のお互いの意思が合致したら、銀行へ行って振り込むだけでOKだからです。

年間110万円までは非課税。
500万円贈与しても税金は48.5万円(20歳以上の子・孫への贈与)
複数の子や孫に、何年もかければ、かなりの額が贈与出来、確実に贈与者の財産が減り、相続税対策になります。

しかし……

年老いてくると、銀行に行き手続するのが面倒になってきます。まして最近は振込詐欺防止のため、高齢者が多額のお金を振り込もうとするとチェックが厳しくなります。

そこで登場したのが暦年贈与信託。信託銀行が取り扱っています。
信託銀行にまとまったお金を信託します。あとは毎年いくら誰に贈与するかを信託銀行に依頼するだけです。信託銀行はお金を貰う人から受贈の意思確認をして手続します。
手続が簡単なため需要が増えているようです。

もっと簡単な方法があります。(信託銀行の商品には制約もあります)
お金を信頼出来る親族名義の預金に預けるのです。
そして、いくら・誰に贈与するかを親族に依頼します。親族はお金を貰う人から受贈の意思確認をして手続します。親族名義の預金ですから親族が振込を出来るのです。
注意することは、親族名義の預金に預入れたお金は贈与する人のお金で、親族のお金でないことを他の親族間で明確にしておくことです。
後日、相続が起きたとき、この預金に残高があれば、贈与者の預金として遺産分割の対象となり、相続税の課税財産となることを明確にしておくことです。

暦年贈与を利用した相続税対策も状況に応じて様々な方法が考えられます。
貰う人の資金使途も考慮して総合的な判断のもと実行することが大切です。

女性社会 中條レポートNo173

石川真理子氏 『女子の武士道』より

おなごがでたらめになれば世の中がでたらめになります。
目に見えぬものに振り回されぬように心の目を開きなさい。
自由と身勝手をはき違えてはなりませぬ。
一家の安泰は我が身にかかっているということを識りなさい。
お金も物も、この世での借り物と思えばよろしい。
頂上ばかり眺めずに、まず目の前の一歩をどう歩むかです。
逆境こそが己に与えられた宝と心得るのです。
厳寒の中で咲き誇る梅花のようでありなされ。
明日を案ずるより今日を最期と生きるのです。

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この詩を読んで、ある歴史家のお話()を思い出しました。
社会は女性が創ってきたというお話です。
大昔は現在でいう夫婦という形がありませんでした。
性は自由でしたので、男性が自分の子だと確信出来ない事や、女性が生まれてきた子が誰の子かわからないことが普通にあったのです。

しかし、女性は出産という事実があるため、自分の子だと確定出来ます。
だから財産を引継げるのは女性だけだったのです。男性が引継いでも、子孫に確実に承継させることが出来ないからです。
必然的に女性中心の世の中が形成されていたと想像されます。

このDNAが石川真理子氏の「女子の武士道」にあらわれていると感じました。
冒頭の「おなごがでたらめになれば、世の中がでたらめになります」の言葉が象徴的です。

現在、女性が各分野で活躍しているのは当然のことだと思います。
そして相続が女性中心であることも、より当然なことなのでしょう。

注 この歴史家のお話は私説であって真偽は保証出来ないということです。

不動産 中條レポートNo172

相続財産の中で大きな割合を占める不動産。
同じ不動産は世界中探してもありません。それほど個性的な財産です。
だからその個性を正しく把握する(自分の不動産はよく見える)必要があります。

不動産は捨てられません。
売ることは出来ますが、ただでも売れない不動産が年々増えています。
無価値な不動産でも義務・管理責任を負わされます。

代表的なものが固定資産税・都市計画税の支払い義務。マンションであれば管理費等の支払義務。また維持管理責任があります。自分の所有する不動産で他人に損害を与えたら損害賠償責任が発生します。

これらの義務・責任を逃れるため、お金を出して買ってもらうということが当たり前の時代がくるかもしれません。

そんな不動産とは知らずに相続したら(相続させたら)どうなるでしょうか。

遺言で財産を引継ぐ場合。
「相続させる遺言」はNo156で紹介しましたが、遺贈のように放棄出来ないという東京高裁の判例があります。(最高裁で結論は変わるかもしれませんが)

放棄するには家庭裁判所で相続放棄の手続をする必要があります。しかし、この相続放棄をすると相続人でなかったことになりますから、他の財産も一切もらえません。

争いを防ぐために書いた遺言が、争いを引き起こす元になることもあります。
マイナスの資産は生前に処分するか、プラスの財産と合わせてバランスよく相続させる遺言を作成する配慮が大切です。

遺産分割協議でも相続の特性を知ることが大切です。
無価値な不動産を価値があると思い遺産分割を合意することがあるからです。
「こんな無価値な不動産だと知っていたらあんな遺産分割しなかった」と、遺産分割のやり直しを迫られることもあるかもしれません。
折角円満だった相続が争族になりかねません。

価値を正確に把握することは思っている以上に難しいことです。
しかし相続を円満に行うためには欠かせないことになってきています。

死亡後の財産の所有者 中條レポートNo171

人は必ず亡くなります。亡くなったらその人の財産はどうなるでしょう。
相続人の話し合いで誰が相続するか決まるまで所有者がいない状態になるのでしょうか。

そうではありません。
民法で定められた相続人(1)が法定相続分(2)の割合で所有することになります。
(※1)相続人 その人が亡くなったらその人の財産を取得できる人。
(※2)相続分 個々の相続人が亡くなった人の財産を取得する割合。

母親亡くなった後、暫くして相続人全員(長男・長女)で話合い(遺産分割協議)した結果、長男が甲土地を取得することになりました。
この場合、甲土地は母親が亡くなった後、一旦長男・長女が二分の一ずつ所有してから、その後長男が単独で所有することになるのでしょうか。

そうではありません。
遺産分割協議で話合いが決まると、その効力は母親が亡くなった時に遡って発生します。長男は母親が死亡してからずっと甲土地を所有していたことになります。

それでは、この土地を駐車場に貸していたとします。
遺産分割協議で長男が取得することが決まったら、長男は母親が亡くなった時から所有していることになるから、母親が亡くなった後の賃料は長男が取得するのでしょうか。

そうではありません。
遺産分割協議が終了するまでの賃料は長男・長女に法定相続分の割合(二分の一)で帰属します。(平成179月最高裁)しかし、長男・長女で話合い長男が賃料全てもらうことを決めれば話合いが優先します。

「長男に甲土地を相続させる」という遺言があった場合はどうなるでしょう。
この場合、母親が亡くなった瞬間に長男が甲土地を相続し、賃料も長男が相続開始時より取得することになります。遺言が死後、しばらくしてから発見されても同様です。

このように法律では相続開始後の所有者を定めています。このようなことを考えて財産分けをすることはないでしょうが、知っておくと知識の整理になります。