成年後見制度 中條レポートNo178

後見人の不祥事が相次いでいます。

後見人に対する監督を怠ったとして、家庭裁判所が訴えられ家裁の過失を認める判決も出ています。
後見人の監督は今後間違いなく強化されていくでしょう。

後見制度の利用が必要な人は今後も増え続けます。それに合わせ家裁の後見を監督する人員を増やすことは限界があります。当事者で対策を立てざるを得ません。

既に一定以上の資産がある場合、親族後見人は選任されづらくなっています。親族はナァナァな関係になりがちで不正が多いからです。弁護士・司法書士等の第三者後見人が選任されます。

一定の金額以上財産を所有している被後見人の場合は第三者後見人でも後見監督人を付けることが検討されています。

また後見制度支援信託(必要なお金以外はあらかじめ信託銀行に預ける。このお金を引出すときは家裁の許可が必要)は既に活用が広がっています。

各士業の団体が独自に会員を監督する動きも広がっています。行政書士で形成されているコスモスの会員も昨年10月より年4回の定期報告を行うようになりました。
このように様々な対策が施されていきます。

後見制度は性善説にたって出来た制度です。
しかし悪いことをしようと思えば出来てしまいます。
後見人は被後見人の財産を自由に処分出来、これを一個人の裁量に任せているからです。家庭裁判所の監督も1年毎です。逆にいうと1年間は監督されません。

但し不正を行っているのはごく一部の人です。しかし、ごく一部でも不正を行うと大問題になるのが後見制度なのです。

制度主旨、効用は素晴らしい制度はたくさんあります。
しかし、その制度を悪用する人が出てきたら取り締まらなければなりません。取り締まる対策が、制度を硬直化させます。

良い制度にすることより、制度を守るためにコストをかける。これが世の常です。
良くすることだけに全力を注げたら素晴らしい制度が出来るのに.。

この矛盾を解消する世の中は、まだまだ先になりそうです。

不動産の売却方法 中條レポートNo177

不動産を相続せずに、不動産を売却したお金を相続人間で分配する遺産分割が増えています。
理由は不動産が面倒くさい財産になっているからです。面倒くさくなった理由は

1価値判断か人によって異なる。(3人いれば3通りの価格が出てくる)
2様々な要因で価格が変動する。(マイナス要因に敏感に反応し価格が下がる)
3保有コストがかかる。(他人に損害を与えると所有者責任を問われるリスクもある)
4将来値上がりの可能性が低い。(不動産が余っている)

それでは、売却するにはどんな方法があるでしょう。相続人が子供2人だとします。①2人の名義にして、2人で共同して売却して売却代金を分ける。
1人の名義にして売却し、売却代金の一部を他の相続人に渡す。

①の方法だと、2人が売買に携わります。何をするときも2人の合意がなければ出来ません。②の方法だと売買手続にかかわるのは1人だけです。
仲が良ければお互いに一番良い方法を選択出来ます。(同じ金額で売却しても手取額が売却方法で異なることもあります)しかし仲が悪いケースでは…….
「あいつに任せたらいいようにされてしまう」と➀を選択するケース。(仲が悪い2人が合意しながら売却を進めていくのは大変なことですが)
「あんなやつと共同で売るなんていやだ」と➁を選択するケース。

売却の相手をどうするかも問題です。不動産業者(以下業者という)か一般人かです。
分譲出来るような広い土地の購入者は業者に限られます。(業者への売却は手続が確実で早い)しかし戸建住宅、マンション等一般人が買えるものは一般人に売却する方が、高く売れます。高く売りたいなら一般人がよいでしょう。
しかし、売りに出し、買手が現れないと価格を下げなければなりません。立場が違う二人の意見が対立することもあります。仲が良かった2人が険悪になることもあります。

兄弟姉妹のフランクな関係に、財産の分配を決めるという特異な状況がやってくるのが遺産分割です。速やかに手続が完了する業者への売却も選択肢の一つです。

どの選択肢が適切かを、総合的視野から見て判断する目を持つことが大切です。

相続を法律問題にしない 中條レポートNo176

相続は「相」(姿)を続けるということです。
命のバトンを引き継ぐときです。

しかし、相続というと財産承継が主になってしまいます。
財産をどのようにわけるかです。

民法には、
相続で財産を引継げる人(相続人)
相続人がどの割合で財産を引継ぐか(相続分)
が書かれています。

しかし、相続人全員が合意すれば民法に関係なく財産を分けることが出来ます。
それでは何故民法に相続分が書かれているのか? 相続分が出てくるのはどんな時か?

話合いの基準として相続分が利用されることは多くあります。
もうひとつ、相続分が重要な役割を果たすときがあります。

それは相続を法律で裁くときです。
話合いで解決がつかず、裁判になったときの裁判官の判断基準です。

「全ての事情を総合考慮して判決を出す」ということになっていますが、この相続分が基本となって判決は出されます。理不尽だと思っても民法が基準になるのです。
裁判官が状況に応じて判断基準を変えていたら「法」が「法」でなくなるからです。一律に判断されるということです。

家族状況はみな違います。
それを法律で一律に判断してしまってよいのでしょうか。
「相続を法律問題にしてはいけない」と言われる所以です。

「子供たちが私たち(夫婦)の遺した財産で争わないことだけが望みです」
相談者の方から聴く真摯な想いです。
この想いがかなわぬことほど不幸なことはありません。
この想いを託される相続アドバイザーの役割の重みを感じます。

自己を忘れる 中條レポートNo175

「自己を忘れる」道元禅師の教えを学ぶ機会がありました。
自己を はこび 万法を修証するを 迷いとす。
万法すすみて 自己を修証するは 悟りなり。

頭で考えて(自己をはこび)答えをだそうとすると、自分の都合のよい答えしか出てこず迷いから抜けられません。
ある程度考えたら、自己を忘れて答えをだす(万法すすみて、自己を修証する)。その答えが、物事を本質的に解決する答え(悟り)であるということです。

頭で考えると自我が邪魔をします。無意識に自分の都合のよい答えを導こうとします。目先の解決にはなるかもしれませんが、本質的な問題は解決しません。

この自我を除いて答えをだす方法が、自己を忘れることです。
自己を忘れるとは、考えることを止めることです。
そのとき、浮かび上がってくる答えこそ、問題を根本から解決するための答えです

しかし考えることを止めるのは簡単なことではありません。人は、年がら年中、頭の中で何かを考える癖がついているからです。
この癖をとる方法が瞑想や座禅です。休みなく働いている「頭」に少し休息をとらせてあげられたらという気持ちで取り組んでみてはいかがでしょうか。

それでは相続争いをしている人の「頭」の中を覗いてみましょう。
自我に執着した考えが、怒涛のように駆け巡っています。答えは必然的に自己中心的になっていきます。一番の問題はそこに気が付いていないことです。

遺産分割をまとめるためには、本人が自我に囚われた考えだということに気が付くことです。そうしないと裁判所のお世話になりかねません。
しかし、相続争いをしているときに上記のようなお話をしても.....。

そんなとき「自我に囚われた考え」だと気が付いてもらう役割を果たすのが相続コンサルタントです。
説得するのではありません。気が付いてもらうのです。
気付いてもらえるかは、コンサルタントの人間力にかかってきます。

暦年贈与 中條レポートNo174

相続税対策には様々なものがあります。
しかし、相続税対策のキーワードは簡単・安心・長続きです。

難しい対策は効果が大きくても、税制改正や親族状況の変化で効果がなくなることが多いからです。(効果が大きいほど、税制改正で蓋をされやすい)

そこで一番使われているのが毎年行う金銭贈与。
「あげます」「もらいます」のお互いの意思が合致したら、銀行へ行って振り込むだけでOKだからです。

年間110万円までは非課税。
500万円贈与しても税金は48.5万円(20歳以上の子・孫への贈与)
複数の子や孫に、何年もかければ、かなりの額が贈与出来、確実に贈与者の財産が減り、相続税対策になります。

しかし……

年老いてくると、銀行に行き手続するのが面倒になってきます。まして最近は振込詐欺防止のため、高齢者が多額のお金を振り込もうとするとチェックが厳しくなります。

そこで登場したのが暦年贈与信託。信託銀行が取り扱っています。
信託銀行にまとまったお金を信託します。あとは毎年いくら誰に贈与するかを信託銀行に依頼するだけです。信託銀行はお金を貰う人から受贈の意思確認をして手続します。
手続が簡単なため需要が増えているようです。

もっと簡単な方法があります。(信託銀行の商品には制約もあります)
お金を信頼出来る親族名義の預金に預けるのです。
そして、いくら・誰に贈与するかを親族に依頼します。親族はお金を貰う人から受贈の意思確認をして手続します。親族名義の預金ですから親族が振込を出来るのです。
注意することは、親族名義の預金に預入れたお金は贈与する人のお金で、親族のお金でないことを他の親族間で明確にしておくことです。
後日、相続が起きたとき、この預金に残高があれば、贈与者の預金として遺産分割の対象となり、相続税の課税財産となることを明確にしておくことです。

暦年贈与を利用した相続税対策も状況に応じて様々な方法が考えられます。
貰う人の資金使途も考慮して総合的な判断のもと実行することが大切です。

女性社会 中條レポートNo173

石川真理子氏 『女子の武士道』より

おなごがでたらめになれば世の中がでたらめになります。
目に見えぬものに振り回されぬように心の目を開きなさい。
自由と身勝手をはき違えてはなりませぬ。
一家の安泰は我が身にかかっているということを識りなさい。
お金も物も、この世での借り物と思えばよろしい。
頂上ばかり眺めずに、まず目の前の一歩をどう歩むかです。
逆境こそが己に与えられた宝と心得るのです。
厳寒の中で咲き誇る梅花のようでありなされ。
明日を案ずるより今日を最期と生きるのです。

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この詩を読んで、ある歴史家のお話()を思い出しました。
社会は女性が創ってきたというお話です。
大昔は現在でいう夫婦という形がありませんでした。
性は自由でしたので、男性が自分の子だと確信出来ない事や、女性が生まれてきた子が誰の子かわからないことが普通にあったのです。

しかし、女性は出産という事実があるため、自分の子だと確定出来ます。
だから財産を引継げるのは女性だけだったのです。男性が引継いでも、子孫に確実に承継させることが出来ないからです。
必然的に女性中心の世の中が形成されていたと想像されます。

このDNAが石川真理子氏の「女子の武士道」にあらわれていると感じました。
冒頭の「おなごがでたらめになれば、世の中がでたらめになります」の言葉が象徴的です。

現在、女性が各分野で活躍しているのは当然のことだと思います。
そして相続が女性中心であることも、より当然なことなのでしょう。

注 この歴史家のお話は私説であって真偽は保証出来ないということです。

不動産 中條レポートNo172

相続財産の中で大きな割合を占める不動産。
同じ不動産は世界中探してもありません。それほど個性的な財産です。
だからその個性を正しく把握する(自分の不動産はよく見える)必要があります。

不動産は捨てられません。
売ることは出来ますが、ただでも売れない不動産が年々増えています。
無価値な不動産でも義務・管理責任を負わされます。

代表的なものが固定資産税・都市計画税の支払い義務。マンションであれば管理費等の支払義務。また維持管理責任があります。自分の所有する不動産で他人に損害を与えたら損害賠償責任が発生します。

これらの義務・責任を逃れるため、お金を出して買ってもらうということが当たり前の時代がくるかもしれません。

そんな不動産とは知らずに相続したら(相続させたら)どうなるでしょうか。

遺言で財産を引継ぐ場合。
「相続させる遺言」はNo156で紹介しましたが、遺贈のように放棄出来ないという東京高裁の判例があります。(最高裁で結論は変わるかもしれませんが)

放棄するには家庭裁判所で相続放棄の手続をする必要があります。しかし、この相続放棄をすると相続人でなかったことになりますから、他の財産も一切もらえません。

争いを防ぐために書いた遺言が、争いを引き起こす元になることもあります。
マイナスの資産は生前に処分するか、プラスの財産と合わせてバランスよく相続させる遺言を作成する配慮が大切です。

遺産分割協議でも相続の特性を知ることが大切です。
無価値な不動産を価値があると思い遺産分割を合意することがあるからです。
「こんな無価値な不動産だと知っていたらあんな遺産分割しなかった」と、遺産分割のやり直しを迫られることもあるかもしれません。
折角円満だった相続が争族になりかねません。

価値を正確に把握することは思っている以上に難しいことです。
しかし相続を円満に行うためには欠かせないことになってきています。

死亡後の財産の所有者 中條レポートNo171

人は必ず亡くなります。亡くなったらその人の財産はどうなるでしょう。
相続人の話し合いで誰が相続するか決まるまで所有者がいない状態になるのでしょうか。

そうではありません。
民法で定められた相続人(1)が法定相続分(2)の割合で所有することになります。
(※1)相続人 その人が亡くなったらその人の財産を取得できる人。
(※2)相続分 個々の相続人が亡くなった人の財産を取得する割合。

母親亡くなった後、暫くして相続人全員(長男・長女)で話合い(遺産分割協議)した結果、長男が甲土地を取得することになりました。
この場合、甲土地は母親が亡くなった後、一旦長男・長女が二分の一ずつ所有してから、その後長男が単独で所有することになるのでしょうか。

そうではありません。
遺産分割協議で話合いが決まると、その効力は母親が亡くなった時に遡って発生します。長男は母親が死亡してからずっと甲土地を所有していたことになります。

それでは、この土地を駐車場に貸していたとします。
遺産分割協議で長男が取得することが決まったら、長男は母親が亡くなった時から所有していることになるから、母親が亡くなった後の賃料は長男が取得するのでしょうか。

そうではありません。
遺産分割協議が終了するまでの賃料は長男・長女に法定相続分の割合(二分の一)で帰属します。(平成179月最高裁)しかし、長男・長女で話合い長男が賃料全てもらうことを決めれば話合いが優先します。

「長男に甲土地を相続させる」という遺言があった場合はどうなるでしょう。
この場合、母親が亡くなった瞬間に長男が甲土地を相続し、賃料も長男が相続開始時より取得することになります。遺言が死後、しばらくしてから発見されても同様です。

このように法律では相続開始後の所有者を定めています。このようなことを考えて財産分けをすることはないでしょうが、知っておくと知識の整理になります。

軽減措置半減 中條レポートNo170

介護・医療に関する赤字幅拡大による国民への負担増対策が行われています。
その一つが介護保険3施設(特養・老健・介護療養型)やショートスティでの食費代・部屋代の負担軽減措置の改正です。

所得が少ない人には軽減措置がありますが以下の点が今年8月から変わります。
・預貯金等が1,000万円(配偶者無)2,000万円(配偶者有)を超えている場合は、所得に関係なく軽減措置がなくなります。
・本人及び同一世帯の方の前年の所得を基に軽減措置を判断していましたが、世帯が別でも配偶者が住民税課税所得者ならば原則軽減措置がなくなります。

妻が個室の特養に入所(所得区分第2段階)しているケースで夫に相続発生。
相続人が妻と長男・長女。相続財産 預貯金1,000万円。
妻が預貯金を相続し妻固有の預貯金と合わせて1,000万円以上になると軽減措置がなくなります。
軽減措置がなくなると月額89万円、年間100万円位の負担増になります。預金を取り崩していき1,000万円を下回れば再び軽減措置が受けられますが相当な負担増です。

上記ケースで預金でなく不動産があり共有にして売却した代金を取得した場合、妻に譲渡税が発生します。発生するのは税だけではありません。所得が145万円を超えると(他に収入基準も有)この軽減措置がなくなります。(影響は譲渡年の翌年1年間)

これらに対処する方法は
・預貯金の残額が1,000万円以上ならないように遺産分割する。
・不動産を売却する場合は、共有にして売却するのでなく、子(妻と別世帯)が不動産を相続し売却した代金から代償金で妻に支払う。(代償金は相続税の対象ですが、譲渡所得の対象とならないため軽減措置に影響がない)

負担増を避けることを重視して遺産分割をするのは本末転倒ですが、分割に支障がなければ手取り額は多い方がよいです。
介護・医療制度の財政が厳しい中、負担増は上記だけではありません。保険料の増加、70歳以上の医療費の窓口負担の増加、高額療養費・高額介護サービスの基準の引上げ等々です。負担能力がある人には相応な負担が求められます。
大切なのはこれらのことをしっかりと把握して対処していくことです。

遺産分割協議書の心得 中條レポートNo168

 遺産分割協議書に決まった雛形はありません。個々の遺産分割に応じて書面を作成します。
ポイントは手続に支障をきたさないことです。
遺産分割協議書は相続人全員で合意したことを取り決める書面ですが、その書面で手続が出来ないと、合意事項が絵に描いた餅になってしまいます。
相続人全員から再び印鑑を貰わないと手続が出来ないような状況が一番危惧することです。相続という特殊な状況下では2度目の判は貰えないと心して取組むべきです。

 不動産の場合、遺産の記載漏れがよくあります。
主たる土地の記載はあるが、前面道路の私道持ち分が書かれていない。登記されていない建物が書かれていない。
このような場合は未記載の不動産を再度、相続人全員で遺産分割しなければなりません。遺産分割協議書の末尾に「本書面に記載されている以外の財産はA」にと書かれていれば、上記の不動産はAに相続されます。Aが取得すべき不動産であればよいですが、Bが取得すべきものであったらさらに面倒です。
記載漏れを防ぐには名寄帳の確認や周辺土地の所有者の調査、現地での建物調査等が必要になります。

相続人を確定するためには戸籍が必要ですが、古い戸籍は保存期間徒過により廃棄され取れないこともあります。遺産分割協議書に「相続人は私たちだけです」という文言入れておけば、戸籍が揃わなくても手続が出来ます。この文言が分割協議書にないと、相続人全員から再度署名・印を貰う必要が出てきます。
被相続人所有の不動産登記簿に記載されている住所が古く、亡くなった時の住所と異なり住民票の除票や戸籍の附票では関係がつながらない場合があります。登記簿の人物と被相続人が同一人だと法務局に認めてもらうためには、権利証等が必要です。遺産分割協議書に「登記簿上の人物が被相続人である」とする文言があれば、権利証等が紛失していても手続が出来ます。

遺産分割協議書で相続手続をスムーズにすすめるためには、支障になりそうなことを事前に専門家にチェックしてもらい書面に織り込ことです。
「段取り8割」の格言はどんな仕事でも大切です。