正直に生きる 野口レポートNo212

   女優でタレントの磯野貴理子さんが、小学生時代の社会見学の様子をエッセーに書いています。

   訪問先のゴミ処理場見学に先立ち、先生から注意がありました。「皆さん、静かに見学しましょう。汚くても臭くても決して臭いなどと言ってはいけません。」当時のゴミ処理のことです。現場に入ったら臭いのは当たり前です。

   そこへ、通りかかった処理場のおじさんが声をかけてくれました。

    「どうや、臭くてたまらんやろ?」子供達は一斉に臭くないといいました。「こんなに臭いのに、おまえらの鼻アホとちゃうか!」と言って、おじさんは行ってしまいました。それ以来、磯野さんは自分に正直に生きようと心に決めたそうです。

 15年ほど前の話になります。中学時代の同級生が甥の結婚式で上京してきました。バスの運転手になるとの夢を捨てきれず、郷里の秋田に帰り、地元バス会社の運転手を勤めています。

 結婚式が終わった翌日に私のオフイスを訪ねてきてくれました。25年ぶりの再会です。お腹も出てきて頭も薄くなっています。言葉もすっかり訛っていました。久しく会う同級生との再会はうれしいもので、環境の違いなど瞬時にふっとび昔話に夢中です。

    ひと段落し、ダム建設で収用された農家の話をしてくれました。「とても売れねえ畑さが1億円で国に売れたんだべさ、大金がへえり門も電気で開くすげえ屋敷を建てただ。んだば1年もたたねえうちに潰れただ。銭は魔物だ、使い方が分かんねえのが普段持ったことがねえ銭を持ってすまったのがいけねえだ。」と彼は言いました。

    なれないお金(相続も一緒です)を持った時や、うますぎる話があった時は、目をつむり耳をふさぎ一度外へ出で深呼吸をしてみましょう。見えなかったものが見えてきます。

   その夜、彼と酒杯を交わしました。昔は控えめだった彼が東北弁で語ってくれました。「俺もな、ズブン(自分)で出けることをズブンなりに一生懸命正直にやってけてな、家も持てたす、子供達も独立し、銭さも少し余裕ができただ、だから勘定は俺にもたせてけろ。おがげさんでな、俺もこなして銭払えるようになったんだべえ、ありがてえことだ。」誘ったのにご馳走になってしまいました。

   経済的には大きな余裕はないと思うが、心は金持ちなんだな~あ……。何だかうれしくなりそっと拍手です。

   中学時代から目的を持ち、他人に迷惑もかけず、見栄もはらず、正直に生きている彼の姿から多くを学ばせていただきました。

朴訥として語る彼の話を聞いていて、東北弁とは何と美しい日本語であるか初めて気がつきました。

 背伸びせず見栄もはらず、自分の道を堂々と一直線に歩いていく、「正直に生きる」こんな楽ちんな生き方はありません。

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