一本の糸 野口レポートNo323

遺産分割協議は数ある相続手続きのなかでも一番ハードルが高い作業です。親が残してくれた財産に感謝し、互いが尊重し譲り合い、円満に収まるところに収まる、こんな相続は感動します。親は故人なので会うことはできませんが、子供たちを「感謝の気持ちと譲る心」を持った人間に育て上げた素晴らしい人だったと思います。

相手の話に聞く耳を持たず、昔のことをはじから持ち出し、自分のことばかりを主張し、相続を争いにしてしまう相続人もいます。こんな子供に育ててしまったら「親の子育ての失敗」です。相続は人生最後の仕上げ「子育ての集大成」と言えるでしょう。

遺産分割協議の立ち会いは気配り心配りのなか、緊張の糸が張り詰める世界です。終わるごとにエネルギーを消耗します。相続は十件十色、相続人も十人十色です。同じ親から生まれたのに人格が全く異なる兄弟姉妹もいます。遺言があればこの手間は省けます。

売り言葉に買い言葉、最初は口論から始まり争いに発展してしまうこともあります。家庭裁判所の審判になってしまったら兄弟姉妹の縁は切れ元に戻ることはありません。相続争いは家族が音を立て崩れ、相続人は勝っても負けても不幸になります。

私はいつも仕事で心がけていることがあります。例え糸1本でもよいから兄弟姉妹の縁を残しておくことです。

21年前の相続案件です。現場は大磯にあります。近くに勉強仲間のNさんがいます。地元なので土地勘もあり情報にも精通しています。一緒にこの案件を手伝ってほしいとお願いしました。

父親が亡くなり相続人は母親と兄と弟の3人です。知り合いを介し兄からの依頼です。弟夫婦が長年親と同居し世話をしています。兄夫婦はまかせっぱなしで自分達は一切係わっていません。

遺産である土地を分筆し2人で分けることになりました。分筆すると片方は公道に接しますが、もう片方は私道にしか接しません。兄は価値のある公道側の土地を取得したいと主張します。長い間、親の世話をしてきた弟は納得できません。

 激しい相続争いに発展してしまいました。「相続争いなどドラマのなかの話かと思っていた。が、まさか自分が遭遇するなど思ってもみなかった。」兄の言葉です。揉めに揉めましたが、最後は弟が1歩譲ってくれ何とかまとまりました。

 兄には、ある機会を通し弟と縁が戻るようにと1本の糸を残しておきました。その後この兄弟がどうなったかわかりません。

 突然、兄から電話がありました。相談があるとのことです。21年ぶりの再会です。最初に聞いたのは弟のことでした。「たぶん生きていると思うよ」でした。「一度こうなったら元には戻らないよ」とも言っていました。託しておいた1本の糸は切れていました。

寂しい話です。が、これが現実かも知れません。21年目にして相続の難しさを改めて感じさせられました。

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