遺留分制度 中條レポートNo232

遺言によっても侵されない最低限主張出来る遺産の取り分が遺留分です。
民法改正により遺留分制度が大きく変わりました。その内の一つを解説します。

 母親が亡くなり相続人が長男、二男の二人だとします。(債務はないとします)
「全ての財産を長男に相続させる」
という遺言があっても二男は次の金額を請求出来ます。

遺産総額×遺留分率(4分の1)①二男が生前に受けた贈与(特別受益)
を主張出来ます。そして、この遺産総額とは次のように計算します。
「亡くなった時に持っていた財産+➁長男・二男が生前に受けた贈与(特別受益)

 ➁の長男・次男が受けた贈与が民法改正で変わりました。
「亡くなる10年前までの贈与」という期間の制限が出来たのです。10年より前の贈与は、遺留分額を計算する上での価格に含まれないことになりました。

 早く贈与すれば遺留分計算に含まれないため早期贈与を促すことになりそうです。
そのため10年過ぎたことを証明するための贈与の日付が大切になります。
不動産であれば登記されるため日付は明かですが、金銭は不明確になりがちです。銀行振込にする等で贈与の日付を明確にすることが必要になります。

但し、10年以上前でも明らかに遺留分を侵害するとわかって行った贈与は遺産総額に含まれます。例えば、「年金等の収入が少なく今後金銭を蓄えることが難しい母親の唯一の財産である不動産の贈与を受ける」等です。注意が必要です。

 遺留分請求金額を算出するうえで、もうひとつ注意点があります。
それは上記計算式で差し引く➀の二男が受けた贈与には10年より前のものも含まれることです。請求金額から差し引く請求者が受けた贈与には期間制限がないのです。

上記の改正点は遺留分を請求する人にとって不利な改正です。
昔、行った贈与は確かな証拠がないことが多く、いたずらに争いを長引かせることになるためではないでしょうか。遺留分の争いを減らしたい意図を感じます。

今回の民法改正で遺留分問題には適切なアドバイスが欠かせなくなります。

遺言書保管制度 中條レポートNo231

今年の710日から新しく遺言書保管制度が始まりました。遺言作成を検討されている方にとって選択肢が増えたことになります。

この制度、自筆で書いた遺言を法務局(不動産登記、法人登記を行う役所)で保管してもらう制度です。公的機関に預かってもらうので、遺言書の紛失、遺言者以外の人による遺言の破棄、改ざん等のリスクがなくなります。

今までも公証役場に遺言書を預かってもらう公正証書遺言という方法がありました。公正証書遺言とくらべどんな点が違うのでしょうか。

 ・公正証書遺言と比べたメリット。
1、費用が安い。預かってもらうための手数料は一律3.900円です。公証役場の場合は案件により異なりますが数万円~(財産額、内容により加算)かかります。

2、公正証書作成に比べ手間がかからない。公正証書で必要な証人(二人)は不要。自身で作成した遺言を法務局に持って行くだけです。昨年113日に民法改正により財産目録は自筆でなくてもよくなったため、書く負担が軽減されました。(但し、物権目録以外は自筆が用件ですので、字が書けない人は利用出来ません) 

・公正証書遺言と比べたデメリット。
1、法務局では内容まではチェックしません。(日付、署名捺印等の形式的要件はチェックしてくれます)専門家のチェクが入らない遺言は、手続上に支障が出ることがあります。せっかく作った遺言が機能しないリスクがあります。

2、法務局に預けても、遺言が有効であることを証しているわけではありません。筆跡が違う、意思能力があったのか等、後日の紛争を防ぐことは出来ません。公正証書であっても意思能力に関しては争われることがありますが、公証人・証人2人が遺言作成に立ち会いますので、遺言が無効になる可能性は少ないです。

3、遺言者本人が法務局に出向かなければなりません。公正証書のように公証人が出張してくれることはありません。車いすででも行かなければなりません。

どちらの制度が良いと言う事ではありません。遺言を書く人を増やしたいとの想いで、国が新たな選択肢を作ったのです。
遺言が必要な人に遺言作成の動機付けになればよいと思います。

配偶者居住権 中條レポートNo230

配偶者居住権とは、夫(妻)死亡により、残された妻(夫)が自宅で亡くなるまで無償で住み続けられる権利です。

何故このような権利を作ったのか。法務省の見解です。
「家族の在り方に関する国民意識の変化により、夫(妻)の死亡により残され妻(夫)の生活の配慮から創設」

 事例でみてみましょう。
夫が死亡しました。自宅2000万円、預貯金2000万円。相続人妻と子一人の場合。
法定相続分の二分の一ずつで遺産分割をするとします。
妻が自宅を相続すると預貯金をもらえず生活資金に困ります。
配偶者居住権を1000万円とします。(この価格は夫死亡時の妻の年齢等によって変わります。妻の年齢が低いほど高くなります)妻が配偶者居住権を相続すると預金を1000万円相続出来、生活資金を確保できます。

 法務省がいう「家族の在り方の国民意識の変化」とは、親の生活を顧みず法定相続分を子が要求することを想定しているのでしょうか。しかしこのように法定相続分を要求する親不孝な子がどれだけいるでしょうか。
それとも、後妻と先妻の子が相続人の場合を想定しているのでしょうか。(後妻と先妻の子は仲が悪いことが多いため)
不思議な権利を創設したものだという印象はぬぐえません。

 税法上も不思議なことがあります。
上記の例で妻が夫の死亡後すぐに亡くなったとします。
妻が無くなった瞬間、配偶者居住権は消滅します。
消滅すると、子は配偶者居住権が付いてない(何の権利もついてない)完全な不動産を取得することになります。
このとき子は配偶者居住権が消滅したことにより税金はかかりません。相続税の対象にも贈与税の対象にも、所得税の対象にもならないのです。

 配偶者居住権は法務省が言う「残された妻の生活の配慮」ではなく、税金対策での利用が増えるのではないでしょうか。

中核機関 中條レポートNo229

認知症等で意思能力が衰えた方がその人らしく生活するための成年後見制度。
この制度が、皆に役立つ制度だと感じてもらい、使いやすくするために各市町村に設置を進めているのが中核機関です。(小田原市を含む2市8町は現在未設置です)

 中核機関の役割は
➀後見制度を知ってもらう。➁必要な人に制度を利用してもらう。➂その人に適した後見人を探し結ぶ。➃後見人の支援。➄市民後見人の育成。等々。

大切なのは➁の必要な人に制度を利用してもらう役割だと思います。

原状は次のような方が多く利用しています。
「父の定期を解約したいが銀行に認知症だから後見人を付けてくれと言われた」
「認知症が進み自宅で生活を続けるのが困難である。頼るべき身寄りもない」
困ってどうしようもなくなった時に切羽詰まり利用されているのが実態です。

中核機関では、次のような人にも制度を利用してもらいたいと考えます。「まだまだ自宅で暮らせるけど、少し認知症が出てきて思うようにならない」生活が立ち行かなくなる前に、より本人らしく暮らすために利用するのです。(認知機能低下の初期段階の人が対象の後見類型の補助・保佐制度を利用)

認知症の方が500~600万人いるのに制度の利用者は約22万人です。制度を利用すればより豊かな生活が出来る方が多数いることは間違いありません。また早期に制度につながれば孤独死のような悲惨な事故は防げます。

 しかし利用者を増やすのは簡単なことではありません。
一番の原因は地域社会とつながっていない人が多いということです。つながっていれば本人の変化を周囲の人に知らせることが出来ます。(変化をキャッチする役割は地域が担います)そうすれば必要なときに必要な支援が受けられます。(つながっていること自体が支援になります)

後見制度は社会全体で担っていかなければならないと思います。地域が制度に結びつけてくれるからです。(これが出来るのが「共生社会」です)
そのために地域が連携していくためのネットワーク創りも中核機関の役割です。

コロナウイルス 中條レポートNo227

コロナウイルス騒動。様々な憶測がニュース、ネットで流れ人の心を混乱させます。見えない存在に対する不安が不安をあおります。

危惧するのは不安により猜疑心・恐怖心が膨らみ、個々人が暴走することです。
心の中から湧き出る猜疑心・恐怖心は際限がなく、抑制が効かなくなるからです。(相続の現場でも不安・猜疑心が争いを助長させます。肌で感じることです)

暴走しないためにはどのようなことが必要か。
もちろん、国や行政の施策が大切になります。正確な情報の基、正しい方法を国民に周知し徹底させる役割は大きいです。

しかし、それよりも大切なのは我々国民の一人一人の心の持ち方です。
コロナにかかったかもしれないと、皆が病院へ行ったら医療崩壊します。必要な人に必要な医療が施せなくなります。
買占めも同様です。必要以上にものを購入すると品物は亡くなるのは必然です。

個々の満足を満たそうとすることが、社会全体にとって悪影響を及ぼす結果になるのです。個々の行動が、これほど社会に影響する事象はないかもしれません。

心得ておくべきことは、コロナウイルスが最後ではないということです。今後、致死率が高い強力なウイルスが発生することは十分にありえます。(コロナウイルスが変化し強力になる可能性もあります)ウイルスがこれほど社会に影響を与えることがわかると、細菌兵器の開発も進むかもしれません。

 それ故、今回のコロナウイルスを教訓とし学ばなければなりません。正しい知識・情報は現場から得られます。
繰り返しますが、大切なのは、正確な情報のもと、個々人が秩序ある行動を行うことです。(個々人が暴走すると正確な情報が伝わらなくなります)

日本人は理性が働く秩序ある国民です。
世界の模範となる行動が出来るかどうか。
日本人のように行動することがウイルス対策で一番効果があることを世界に知らしめることを期待したいです。

遺言 中條レポートNo226

相続対策で一番難しいことは、亡くなる時期がわからないことです。
そして亡くなる時の、自身の一族の状況がわからないことです。

この影響を大きく受けるのが遺言です。
「遺言は元気な内に書きましょう
よく聞く言葉です。元気がなくなり、意思能力が衰え低下すると遺言を書けなくなるからです。

しかし、元気な内に書くということは、亡くなるまでの時間も長いということです。時間が長ければ長いほど、先述したことが問題になります。

「遺言は修正することが出来る。状況が変わったら書き変えればよい」
これは言うは易し、行うは難しです。遺言をつくるのにはエネルギーがいります。そのエネルギーがいつまで続かが問題です。逆もあります。エネルギーが亡くなり、意思能力が衰え、遺言の書き変えを強要され書き変えてしまうことも……。

では遺言は役に立たないのか。そんなことはありません。

遺言者の一族にとって、望ましい資産の承継方法があるはずです。しかし、その承継方法は決して法律通り(法定相続分)ではないはずです。そうであれば、法律を変える手段を選択しなければなりません。何故ならば、一族にとって最善な分割方法も、法律(法定相続分で分割)には勝てないからです。(だから争いになるのです)

この法律を変える手段が遺言です。法律で定められた法定相続分を修正出来るのです。
但しこの方法を実行できる人は1人しかいません。それは亡くなる予定の被相続人の方です。そして出来るのは意思能力がしっかりしている間です。

遺言は万能な手段ではないことは事実です。しかし、正しい資産承継をするための重要な手段であることは間違いありません。
肝心なのは、遺言者自身が資産承継方法を正しく選択すること。そして、その選択方法を遂行することが財産を遺していく者の責任だと自覚することです。

遺産分割協議書 中條レポートNo225

遺産分割協議書とは、亡くなった方の預貯金や不動産をどう分けるのかを決めるものです。そして決めた通りに手続をしていくための指示書になります。

この遺産分割協議書を有効に成立させるための絶対的条件があります。
それは、亡くなられた方の相続人が全員納得して、証明捺印(実印)することです。一人でも反対者がいたら成立しません。(その遺産分割協議書で手続出来ません)

多数決ではないということです。
相続人はそれぞれ、考えが違います。生まれてからの歴史も違います。

それ故、意見が異なることは当たり前にあります。そして、それぞれの相続人は自分に正義がある(正しい)と考えがちです。(それゆえ争いになります)

それでは、遺産の分け方に「正解」はあるのでしょうか。
答えは「NO」です。
「正解は、相続人の皆様の心の中にある」としか言えません。
皆が合意した内容が正解なのです。

相続手続を担う人は、相続人の意見に対して正否を決めることはしません。また相続人に対して説得・交渉・指示は出来ません。

但し、間違った知識を元に意見が出ているのであれば、知識の修正はします。

間違った知識で多いのは、不動産の財産価値です。(借地権・貸地、広大地、賃貸アパート、農地、山林、等の特殊な不動産)もちろ価格は売却してみないと解りません。但し、価格の決まり方や市場性は客観的に説明出来ます。

 又、争うことの不利益は相続人全員にしっかりと説明します。
相続税の申告が必要な場合は申告期限までに遺産分割が成立しない場合。遺産分割が話合いでまとまらず家庭裁判所へいって協議する(争う)場合。等々です。

相続手続を行う人は、上記のことを根気よく行うことが大切です。
“相続争いをさせずに相続手続を進めていく”
この役割は大きいです。

ソーシャルワーク 中條レポートNo224

ソーシャルワークとは、何らかの要因で「当たり前な生活」が脅かされた方(認知症、病気、障害、貧困、等々)を、社会的資源(公的支援、介護、医療、ボランティア、自治会、近隣住民支援、等々)に繋げ、本人に寄り添い支援していくことです。その担い手のひとつが社会福祉士です。

人の生活上起こる様々な困難は、その人と環境との接点で起こります。単にその人に問題があるとか、周囲の側だけに問題があるとかではありません。
ですから、医療や心理などの分野のように、その人そのものを治療したり改善させたりするものとは異なります。また、環境だけを改善させようとするものとも異なります。
ソーシャルワークでは、この接点を改善していきます。

後見業務を行っているとこのことがよくわかります。
身寄りのない独居の方は、意思能力が少しずつ衰えていき、生活が困難になっていくことがあります。社会との関りを拒否している方や、「面倒みてやってる」と思われるのを嫌う方等、社会から距離を置いていると周囲も気が付きません。気が付いたときは取り返しのつかない状態になっているということもあります。

このようなケースで、問題が本人あると捉えたり、環境が悪いと捉え、一方だけを改善させようとしても状況は変わりません。
どのような生活状況にいるのかを出発点とし、本人をとりまく環境との接点はどこか。その接点はどのように働いているのか、改善出来るのか。そのために本人が出来ること、環境をマッチアップする方法何かを考え実行していくことが求められます。

人と環境との接点は人それぞれ異なります。そして個人や家族、集団、地域の接点を単体で見るのではなく、繋がりで見ていくことが重要になります。援助者が、マニュアル通りに特定の方向に導いていくものではありません。

本人に寄り添い、ここを調整する専門家がソーシャルワーカーです。
「当たり前な生活」が脅かされている人が増えています。
ソーシャルワークはどのような役割を果たすのか。何故社会に必要なのか。
これらの重要性を社会が理解し、ここをケアできる専門家を増やすことが、この問題を改善させるために欠かせません。

寄与分 中條レポートNo223

寄与分とは亡くなった方に尽くした相続人にはその分、多くの財産を与える制度です。

母親が亡くなった時の財産が5,000万円。相続人は長男・次男の二人。長男が母親に尽くした分(これを寄与分という)が1,000万円とします。遺産分割の対象は寄与分1,000万円を外し4,000万円となります。長男は寄与分1,000万円と法定相続分(二分の一)2,000万円の合計3,000万円を相続出来るという制度です。

問題はこの寄与分の金額をどのようにして決めるかです。
相続人間の話し合いか、話合いがつかなければ裁判所で決めることになります。

 この寄与分の金額が話合いで決まるでしょうか。
上記の例で、寝たきりの母親の面倒を一切みなかった次男が、献身的に介護した長男に財産の二分の一を要求していたとします。そんな次男が長男に
「兄貴がお母さんを一生懸命介護したんだからその分多くもらいなよ」
と言うでしょうか。(言ったとして、長男が満足する金額を提示するでしょうか)

兄が法定相続分では納得いかず争いになった時、相続分を増やすため寄与分は持ち出されます。だから、多くの場合、話合いで決まらず裁判所で決まるのです。

但し裁判で決まる金額は苦労が報われる金額とはなりません。子が親に尽くすのは当たり前だというのが法律の考え方だからです。特別に尽くした事でなければ寄与分の金額に反映されないのです。

相続法の改正で特別の寄与制度が創設されました。(令和元年7月施行)
相続人でない親族でも尽くした分、財産を貰える制度です。想定しているのは、両親の面倒を見た、長男の嫁ということなのでしょう。

しかし、寄与分以上に面倒です。話合いで決まらなければ、裁判所に請求しなければならず、請求出来る期間制限⦅相続開始を知ってから6か月(相続開始後1年)以内⦆があります。貰える金額は通常の寄与分と同様、苦労が報われる金額とはなりません。

「寄与分」も「特別の寄与制度」も使いにくく、貰える金額も実態を反映されていません。だから、これらの制度を当てにすることなく「尽くしてくれた人にはその分しっかりと遺言を書いておく」ということが重要となります。

ケアパス 中條レポートNo222

ケアパスとは、認知症になっても、住み慣れた地域でくらすための目安を示したもので、認知症の状態に合わせた生活方法、自治体の相談窓口、利用できる医療機関や施設を分かりやすく記したパンフレットです。(小田原市でも配布しています)

ケアパスの目的は「自分らしく、安心して、暮らしていくために」です。
ケアパスには認知症の段階別の症状が以下のように記載されています。

認知症の初期。
・物忘れが多くなってきた。・財布の中に小銭が増える。・会話の中に「あれ」「それ」など代名詞がよく出てくる。・片付けが苦手になる。・物がなくなる。

見守りが必要になってくる段階。
・金銭管理が難しくなる。・探しものをする時間が増える。・必要な物を必要なだけ買うことができない。・同じことを繰返し聞く。

 手助けが必要になる段階。
・薬を間違えて飲む・たびたび道に迷う・季節にあった服が選べない・家電の操作が難しくなる・生活リズムが乱れる。

 常に手助けが必要な段階。
・トイレの場所がわからない・道に迷って帰ってこられない・日にちは季節がわからなくなる・洋服の着方がわからない・食べ物でないものを口に入れる。

キーワードは「抱え込まずに、まず相談」です。
抱え込んで一人で悩むと迷路に入っていきます。地域には資源がたくさんあります。そこにつながることです。

高齢者のよろず相談所である地域包括支援センターや、かかりつけ医からは専門的なアドバイスがもらえ、本人にあった調整方法を知ることできます。

相談することで家族が気持ちを落ち着かせることが出来ます。家族の理解が本人を安心させ症状の変化にも影響してきます。

ケアパスは認知症全体を把握出来るマップになります。
是非活用してください。