心に残る相続案件《1》 野口レポートNo331

この仕事を30年もやっていると、良い悪いは別として、いつまでも心のなかに残る相続案件があります。

祖母、父母、長女、長男、二男が同居している家族がいます。長女のA子さんが小学生の時に両親が離婚しました。母親は2人の男の子を連れて家を出ていきました。父親も再婚し家を出ていってしまいました。祖母は残された小学生のA子さん(孫)を自分の養子にし、立派に育てあげました。

やがて成長したA子さんは、祖母の食事の世話や家事、病院への送り迎え、散歩の付き添いなど、かいがいしく世話をしました。

20歳になったA子さんは、祖母の晩年を介護し、最後を看取りました。父親や伯母は母親の介護をA子さんへ押しつけ、自分達は一切かかわりませんでした。

縁あってこの相続のお手伝いをすることになりました。祖母は自筆の遺言を残していました。遺言の検認で相続人全員が家庭裁判所(家裁)に呼ばれ、私もA子さんに付き添いました。

開封した遺言の大まかな内容です。「あまり財産は残らないと思いますが、幾らかでも残りましたら孫のA子にあげてください。A子は私の食事から家事、お医者さんへの送りむかえ、散歩など、本当に良くしてくれました。何より一緒に暮らしてくれて寂しい思いをしないですみました。もし財産が残ったら全部A子にあげたい。

長女のB子は遺留分として取るでしょうが、贅沢もせず旅行にもいかず、一所懸命働いて貯めたお金です。私につくしてくれた者にあげたい。長男のC男はもう十分お金をかけたつもりです。」自筆で書いた遺言からは祖母の心情が切々と伝わってきます。

祖母が思いを込め一生懸命に書いた自筆証書遺言です。が、不備があり法的要件を満たしておらず無効と思われます。

しばらくしてC男さんとB子さんの代理人を名乗る弁護士(O先生)から、A子さんへ遺留分減殺請求(現在は遺留分侵害額請求)の内容証明が届きました。弁護士は遺言が無効であろうが、有効であろうが、時効を止めるため取りあえず減殺請求をしてきます。

A子さんには弁護士に依頼するお金がありません。私は相続で代理人にはなれません。相手方のO先生に会いにいきました。当方の事情を説明し、私がA子さんのメッセンジャー(使者役)としてO先生との間を取りもつことはできるかと聞きました。当時のことです、使者ならいいでしょうと受け入れてくれました。

3年が経過し何とか決着にこぎつけました。祖母(実母)の切なる願いを踏みつぶし、義務を果たさず権利だけは満額主張する父親や伯母からは、人として思いやりを感じることはありませんでした。

数年後、試練をのりこえ頑張っているA子さんから、うれしい知らせをいただきました。結婚をするとのことです。A子さんの人生の一部に、ほんの少しお付き合いさせていただいた一人として、幸せを願わずにはいられません。

心願

われわれ人間は「生」をこの世にうけた以上、
それぞれ分に応じて、一つの「心願」を抱き、
最後のひと呼吸までそれを貫きたいものです。
[ 森信三 一日一語 ] より

寂光

この地上には、真に絶対なものは一つもない。
在るのはみな相対有限なもののみ。
だが、如上の実相を照破する寂光のみは絶対的といえよう。
それ故この地上では、絶対の光は常に否定を通してのみ閃めくといえる。
[ 森信三 一日一語 ] より

信頼

友情とは、年齢がほぼ等しい人間関係において、
たがいに相手に対して、親愛の情を抱くことであるが、
友情ほどこの世の人間関係の内で、味わい深いものはない。
そして友情において大事なことは、常に相手に対して、
「その信頼をうら切らない」という一事に尽きる。
[ 森信三 一日一語 ] より

流儀

暗室に入ったように、周囲の様子が見え出すまでは、じっとして動かない。・・・
これが新たな環境に移った場合のわたくしの流儀です。
[ 森信三 一日一語 ] より

コトバ

古来傑出せる人ほど、コトバの慎しみは特に重視せしものなり。
良寛には「戒語」が四通りもあり、
その内最大なるものは、八十箇条にものぼれど、
そのすべてが言葉に関する戒めなり。
また葛城の慈雲尊者は、「十善法語」の十戒中、
言葉の戒めが、四箇条を占める。
以って古人の言葉に対する慎しみのいかに深きかを知るに足らん。
道元も曰く「愛語よく回天の力あるを知るべきなり」と。
(注※四箇条とは(一)不妄語(二)不綺語(三)不悪口(四)不両舌)
[ 森信三 一日一語 ] より