驕りは蟻の一穴 野口レポートNo287

謙虚さがなくなる14の兆候

○ 時間に遅れがちになる 

○ 約束を自分の方から破りだす 

○ 挨拶が雑になりだす

○ 他人の批判や会社の批判が多くなる

○ すぐに怒りだす(寛容さがなくなる)

○ 他人の話を上調子で聞き流す

○ 仕事に自信が出て来て、勉強をしなくなる

○ 物事への対応が緩慢になる

○ 何事も理論で解決しようとする

○ 打算的になりだす(損得勘定が先になる)

○ 自分が偉く思えて、他人がバカに見えてくる

○ 立場の弱い人に対して、強くものを言いがちになる

○ 言い訳が多くなる

○ 「ありがとう」という言葉が少なくなる(感謝の気持ちがなくなる)

◎北九州で素心塾を主宰されている池田繁美塾長の「謙虚さがなくなる14の兆候」です。実に的を射ている14項目です。私は机の正面に貼り、いつも自分をチェックしています。 

相続の仕事は士業(先生と呼ばれる職業)と接する機会が多くありまます。資格に人格を具えた素晴らしい先生もいます。が、「傲慢や我がまま」をプライドだと取り違えている先生もいます。

プライドとはそんな薄いものではありません。苦労を正しく消化し、今まで得てきた知識や経験を、お客様の幸せのために使うことのできる「崇高な精神」です。

謙虚さがなくなる兆候は驕りが生まれる前ぶれです。不祥事が発覚する度に、深々と頭を下げる企業のトップや幹部役員、売上は減少、株価は下落、時には命とりにもなります。

いつもシワ寄せを受けるのは、会社のために一所懸命に働いてきた一般社員やその家族です。利益を優先し、お客様や社会への責任を忘れてしまったトップや幹部の驕りの結果です。

驕りは気がつかないうちに偲び寄ってきます。立場が高いほど資産があるほど、他人は何も言ってはくれません。驕りは自分で気づくしかありません。

いくら立場が高くとも、お金持ちでも、時間に遅れる人、いつも損得を計算してうごく人、不満や悪口や文句ばかり言っている人、感謝できない人はそこまでです。

「謙虚さがなくなる兆候」は驕りの前兆です。堅固な堤防も「蟻の一穴」で破れてしまいます。驕りは蟻の一穴です。企業や資産家もトップや相続人の驕りで崩壊します。

驕りを防ぐには自分を下座に置いてみることです。

平等と公平の難しさ野口レポートNo286

平等と公平はよく使われる言葉です。似ていますが意味は違います。どう違うかと聞かれてもよくわかりません。

辞書を引いてみました。平等⇒ 差別がなく等しいこと。公平⇒ 偏らず中正なこととあります。

これでは違いがよくわかりません。単純に考えてみると答えが出てくることがあります。

適切かどうかは別として、身近なところでお正月のお年玉を例に平等と公平の違いを考えてみましょう。

平等⇒ 袋のなかに、小学生が1万円、中学生が1万円、高校生が1万円入っていたら平等です。が、そんな親はいないでしょう。

公平⇒ 袋のなかに、小学生が3000円、中学生が5000円、高校生が1万円入っていました。一般の親が共通し持っている知識と分別であり、これが公平だと思います。

ある相続を例にとってみます。相続人は長男・二男・長女の3人です。長男が親の世話をし、親戚付き合いも引き受け、墓守もしています。また3年にわたり親を在宅介護し最後を看取りました。介護は肉体的に精神的に大きな負担を強いられ、介護した者でなければその苦労はわかりません。状況をふまえ考えれば、長男が厚めに相続するのは自然ではないかと思います。

ところが現在の法律は「均分相続」です。親戚付き合いや墓守はもちろん、介護にしても特別な寄与(壮絶な介護)以外、通常の介護では寄与分として相続分に反映しません。

「均分相続」は「公平相続」ではなく「平等相続」です。この認識は重要です。他の兄弟が譲らず権利を主張したら、長男の相続分は3分の1です。理不尽と思っても常識は法律に勝てません。

法律で決まっている相続分を変えられる人が1人だけいます。それは被相続人になる人です。方法もひとつしかありません。それが遺言です。平等と公平のすき間を埋めるのは遺言しかありません。もし公平を求めるなら遺言の作成は必須です。

◎次は遺産の価値と公平を考えてみましょう。5000万円の預貯金は、相続人の誰がみても財産価値は5000万円です。

これが不動産となるとやっかいです。時価1憶円の不動産はお金に換えて初めて現金や預貯金と公平に比べることができます。

売却すると、譲渡所得税(取得費不明)、仲介料、確定測量、建物解体など、費用を引くと手元に残るお金は7000万円です。

時価1億円の不動産ですが、遺産分割において現金預貯金と公平に比べるなら、実際には7000万円の価値であると、相続人に理解していただくことも必要です。

財産は預貯金だけでなく、不動産、動産、株式、美術品など、多岐にわたり、価値観は相続人により違ってきます。これも遺産分割を難しくします。公平な財産分けは至難の業です。

相続と生命保険受取金 野口レポートNo285

生命保険受取金は契約形態により、税法上や民法上での扱いが異なってくるので注意が必要です。

パターン(A) ①契約者(保険料を払った人)⇒父 ②被保険者(保険に入った人)⇒父 ③受取人(保険金を受け取る人)⇒子。

ここでお金の流れを見てみましょう。保険料を払ったのは父です。保険会社を通していますが、亡くなった父から子がお金を受け取ったことになるので「相続税」の課税です。

パターン(B) ①契約者⇒子 ②被保険者⇒父 ③受取人⇒子。子が保険料を払い、自分が受け取るので「所得税」の課税です。

パターン(C) ①契約者⇒母 ②被保険者⇒父 ③受取人⇒子。

保険料は母が払っています。存命している母からお金を受け取ったことになるので「贈与税」の課税です。

また、パターン(A)で受け取った保険金は民法上の相続財産にはなりません。指定された受取人が固有の財産として受け取れます。相続放棄した相続人でも受け取ることができます。

◎新型コロナウイルスの感染拡大で、世の中えらいことになっています。コロナの影響で廃業や倒産に追い込まれてしまう個人商店や零細企業もあります。心労で亡くなる人もいるかも知れません。また感染し命を落とす人もいます。

 多くの個人商店や零細企業は金融機関から借入れをしています。そして配偶者や子が連帯保証人になっていることもあります。

パターン(A)の生命保険に入っており、受取人が保証人になっていたら、受け取った保険金は債権者に差し押さえられてしまいます。契約者が元気なうちに受取人を変更してください。

保証人でない子を受取人にし、相続放棄すれば債権者は手が出せません。保険金は残された家族の大切な糧になります。

◎ある母親が亡くなりました。相続人は兄と妹の2人です。母親には生前に某銀行に1500万円の預金がありました。

銀行員に言われるがまま、一時払いの生命保険に加入しました。1500万円の銀行預金が長男を受取人とした生命保険に入れ替わりました。高齢の母親には何の意図もありません。

パターン(A)の契約です。法律ではこの受取金は民法上の相続財産にはなりません。指定されている長男が受け取れます。しかし、2年前までは銀行預金です。常識で考えると本来なら兄が750万円、妹が750万円を相続することができたはずです。

このまま遺産分割をしたら妹は納得しないでしょう、兄には受け取った保険金を考慮し、財産分けすることをアドバイスしました。妹も納得し遺産分割は無事に終了しました。

法律と常識は一致するとは限りません。そして常識は法律には勝てません。また多くの争いは常識のなかで生じます。時には法律にとらわれず、常識で考えることも必要です。

先ず理解者になる 野口レポートNo283

相続や身の上で悩んで相談に見える人は、解決者ではなく理解者の存在を求めています。ここを認識し対応しないと問題の本質が見えてきません。

行政や社会福祉協議会などの後援を得てNPO法人:相続アドバイザー協議会が全国展開している相続フォーラムがあります。基調講演や複数のミニセミナーも行われます。「心の相続」をテーマに基調講演も何回か務めさせていただきました。

同時に複数の相続相談会も行います。相続アドバイザー養成講座(40時間)を修了し、一定の研修を受けた会員が相談員を務めています。毎回多くの市民が相談に訪れます。

経験の浅い相談員は専門家として解決者になってしまいます。答えを出してしまったらそこで話は止まってしまいます。

話を十分傾聴し、相手から「この人は自分の気持ちを分かってくれる」と思ってもらうことです。極まって泣かれてしまうこともあります。そして本音が出てきます。本音が出れば問題の本質が見えてきます。本質が見えたら理解者から解決者の立場になり、専門家として問題の解決を考えていきます。

資産家の父親が亡くなりました。相続人は母親と長女とAさん(長男)です。跡取り息子のAさんはそれなりの不動産を相続しまた。

残念なことにAさん夫婦は子宝に恵まれませんでした。そして不幸にも55才の若さで急逝してしまいました。

相続人はBさん(奥様)と母親です。長女が「弟の固有の財産は相続してもよい。が、先の相続で父から相続した不動産は全て母に相続させなさい。」と遺産分割に口をはさんできました。

長女は連日のように遺産分割協議書にハンコを押せとせまってきます。Bさんは精神的に追い詰められ相談に見えました。話を十分に傾聴し胸のつかえを全部吐き出してもらいました。

法律を頭から外しBさんの幸せを考えてみました。争えば2/3は取れるでしょう。が、同じ敷地に住んでいる長女一家と、いやな思いをしながら10年20年と過ごさなければなりません。ご主人の固有の財産があれば、独り身のBさんには足りる財産です。

Bさんはまだ50才です。「ここは譲ってしまい、10年20年と明るく楽しく過ごしましょう。財産でなく自分の幸せを取りましょう。」これが私の答えでした。Bさんはこの一言でハッとし、大事なことに気づき、あとは号泣でした。

 数日後Bさんから別人のような声で電話が入りました。「遺産分割協議書にハンコを押しました。」Bさんはその後、実家の近くに移り充実した日々を過ごしています。

今でも毎年欠かさず季節の品を送ってくれます。お礼の電話を入れると明るい声がかえってきます。13年前の相続案件ですが、あの時のアドバイスは間違っていなかったと思っています。

3ケ月過ぎてもあきらめない 野口レポートNo282

相続が開始すると相続人には三つの選択肢があります。

①単純承認⇒権利義務を包括的に引き継ぎます。
②限定承認⇒借金や保証債務があっても、相続した財産を限度として返済義務を持ち、相続人固有の財産には及びません。実務ではかなり難度の高い承認の仕方で扱える専門家はあまりいません。

③相続放棄⇒自分が相続人であることを知った時から3ケ月以内に家庭裁判所に放棄を申述し、受理されたら最初から相続人でなくなり、プラスの財産もマイナスの財産も相続しません。

気をつけてほしいのは、遺産をもらわないで遺産分割協議書に署名押印した場合です。これは相続放棄でなく相続分の放棄(財産放棄)です。ゼロの財産を相続したことになり、相続人の地位は残ってしまい、借金や保証債務があったら法定相続分で相続してしまいます。

建築業を営んでいる社長の父親が亡くなりました。相続人は長男と長女の2人です。長男が家業と財産を相続しました。長女は300万円の代償金を受け取り遺産分割は成立しました。だが、跡取り息子の経営能力には不安があります。

案の定、長男が引き継いだ家業の会社は経営が悪化し破綻しました。ほとんどの零細企業は銀行の借入金を社長が個人保証をしています。

前社長(父親)の個人保証は相続人が法定相続分で相続しています。銀行は長女に保証債務の2分の1を請求してきました。長女にすれば晴天の霹靂です。長男の経営能力の不安や、父親が個人保証をしているなど、このような事情がある場合は、最悪の事態も予想されます。扱った税理士が長女には相続放棄させ、贈与で300万円を渡す配慮をしておけば、このような悲劇は防げたはずです。

知人を介し相続人Aさん夫婦が見えました。父親が数千万円の連帯保証人になっていることを、亡くなってから1年後に知りました。この事実を知ってから夜もよく寝られません。

行政の法律相談に行ったら3ケ月を過ぎたから相続放棄は無理だと言われました。法律事務所へ行っても同じことを言われました。

ワラをもつかむ思いで私のところへ相談に見えたのです。遺産を一切受け取っていなければ(第1のポイント)、家庭裁判所も最近は「借金や保証債務があったことを知った時から3ケ月」と緩やかな解釈をしてくれ、相続放棄を認めてくれることもあります。

相続の専門家は多くいますが、負債相続を扱える専門家は少ないです。第2のポイントは相続放棄の専門家に依頼することです。大阪に私のパートナーで相続放棄と限定承認の実務家で司法書士のS氏がいます。

連絡を取りAさん夫婦に大阪へ行ってもらいました。彼に依頼し駄目ならば誰に頼んでも駄目でしょう。

しばらくしてAさんから相続放棄が認められたとの連絡をいただきました。あきらめてしまい、もし主たる債務者が破綻し保証債務を弁済できなければ、Aさんは自宅を差し押えられてしまいます。

3ケ月過ぎてもあきらめない、この気持ちが大切です。穏やかな日々を過ごしているご夫婦を見るにつけ本当によかったと思っています。

相続とセカンドオピニオン 野口レポートNo281

ある大地主の二男から相談を受けました。父親が亡くなり5ケ月が過ぎたのに、本家の長男から何も言ってきません。危機感を持った二男が長男のところへ私を連れていってくれました。

話を聞くと遺産は15億円あります。7億円もの相続税を納付しなければなりません。土地はあるが現金がありません。このままではとても相続税が納税できません。税理士の動きを見ると大地主の相続ができるレベルではありません。

長男を説得し税理士を代えてもらうことにしました。限られた時間は5ケ月しかありません。すぐに概算納税額を算出し納税のため売却する土地の選択に着手しました。幸いなことに1700㎡の広大地を駐車場にしており、これが相続税の原資の要となりました。

この土地をとりあえず遺産分割協議から外し他の財産を遺産分割します。取得する財産が決まれば各相続人の納税額が出てきます。遺産分割協議から外してあった土地を各相続人の納税額で按分し、その割合で共有相続しデベロッパーに売却すれば、各人に納税額相当分の資金が入り、相続人全員が現金一括払いで相続税の納付ができます。

相続税には「連帯納付義務」この時代遅れの理不尽な制度がまだ残っています。払えない相続人がいたら、すでに自分の相続税を払い終えている他の相続人に税務署は納付を求めてきます。相続税納税は個人プレーでなく全体で考える必要があります。

次は行きつけの寿司屋の大将からの紹介です。常連客の地主Aさんの相談に乗ってやってほしいとのことです。

3ケ月前にAさんの父親が亡くなりました。確定申告をお願いしている会計事務所に相続をお願いしました。が、進ちょく状況の報告もなく不安な日々を過ごしており、寿司屋にきては酔った勢いでグチを言っていました。それを聞いた大将が私に振ってくれたのです。

Aさんを通し会計事務所に進ちょく状況を確認したところ、進展がなく相続人の確定作業すらしていません。税理士を代えることをアドバイスしました。残された時間は7ケ月しかありません。

父親は公正証書遺言を残していました。が、不動産の特性を全く考慮していません。遺言を執行してしまったら多くの不具合が生じてしまい相続人全員の不利益になってしまいます。

1000㎡の一団の土地があります。遺言どおりに分割してしまうと筆と利用実態が一致しません。道はあるが建築基準法上の道路ではありません。一度1000㎡の土地を未分割共有状態で一筆に合筆し、中央に位置指定道路を入れ、他は利用の実態に合わせ分筆し、各相続人が相続する必要があります。遺言を使わないで遺産分割協議で分割することを提案し了解を得ました。

 普通の税理士は相続税の計算をして申告をすることが自分の仕事だと思っています。相続の税理士はいかに10ケ月以内に相続税を一括納付させるかを考えています。今やセカンドオピニオンは医療の世界では普通に行われています。もし相続税申告で疑問や不安を感じたら、「第2の意見」を聞いてみることも必要ではないかと思います。

25年に感謝です 野口レポートNo280

前職から180度の転身をして25年をむかえました。石油業界の先行きも見えてしまい、続けていても将来はありません。

私も当時48才でした、歳からしても転業するにはラストチャンスと思いGS(ガソリンスタンド)の閉店を決断しました。

最大の悩みは次にどんな仕事をするかです。しかし、新たな仕事を見つけてからでは機を逃してしまいます。現在の石油業界の現状を見ると、この時の決断は正しかったと思っています。

お客様へ閉店のあいさつに伺うと2通りの反応がありました。

①閉店を惜しみ本当に残念がってくれたお客様。

②つぶれたのだと思い気の毒そうな顔をしてくれたお客様。

また、世間からは親が始めた商売を息子がつぶしたなど陰口も言われました。が、つぶれるのと閉めるのでは意味が違います。

長く続けてきた商売を、後を濁さずして終わらせる、それはそれで立派なことだと思います。

閉店をむかえた平成5年の大晦日、事務所はお客様からいただいた花束で一杯になりました。一生懸命やってきたことをお客様が認めてくれたのです。30年間の苦労と思いが走馬灯のように浮かびます。

「GS跡地に借金をして賃貸マンションを建てると相続対策になりますよ」と専門家から提案を受けました。当時は相続に関しては全くの素人です。専門家の話を聞いても判断ができません。

専門家の説明を聞いていて、相続には専門家と素人の間をコーディネートする人が必要であると気付きました。これが自分の仕事だ!

そしてすぐ壁にあたりました。税理士でもない、弁護士でもない、そんな自分がどこで報酬をいただけばよいか、相続を冷静に見てみると不動産が動くことに気がつきました。そうだ!不動産屋になればいい、そして相続に特化すれば飯が食えると確信しました。

宅建試験は合格率14%の狭き門でした。酒を断ち人生をかけた受験勉強が始まりました。無事合格し宅建業を開業することができました。

そして相続を徹底的に勉強しました。当時は相続に特化した不動産業者など誰もいません。努力の甲斐あって周りも一目置いてくれるようになりました。あれから25年、多くの経験と精進を重ね、街の不動産業者では相続の第一人者と言われるまでになりました。

私も今年で74歳になります。この歳になり人間としてようやく出来上がってきた気がします。人間力が求められる相続ビジネスでは色々な意味で今が「旬」だと思っています。

相続で悩んでいる人、困っている人、私を必要としている人はまだいます。この人達のためにも、あと10年は現役でいくつもりです。

また、相続アドバイザー養成講座や野口塾を通し、相続の実務家を育てることも課せられた役目だと思っています。

「相続コーデイネート」この難しい仕事を四半世紀続けてこられたのは、信頼してくれたお客様、一緒に取り組んでくれた税理士・弁護士・司法書士などのパートナー、勉強仲間、ファンの皆様、友人、家族など、これらの支えがあったからです。心から感謝したいと思います。

小規模宅地の特例 野口レポートNo279

集客を目的にしたバーゲンセールはデパートや商店などではよく行われる催し物です。が、せいぜい50%引きがいいとこです。80%引きなどまずないでしょう。

ところが相続税の世界ではこの80%引きが存在するのです。「小規模宅地の特例」です。330㎡を限度として自宅敷地の評価を80%引きにする特例です。正に相続税の大バーゲンです。

平成27年から相続税基礎控除が改正されました。改正前は遺産が自宅と預貯金2000万円位なら相続税の心配はありませんでした。

改正後はこれらの層でも安心できません。私の住んでいる川崎市中原区では自宅を所有していたらほとんどが相続税の対象となります。ただし、小規模宅地特例の要件を満たせば相続税は課税されないでしょう。

また、この層は争いが起きる可能性があります。小規模宅地の特例を考慮しながら、誰に家を相続させるのか、他の財産をどう振り分けるか、遺言は作っておいた方がいいと思います。

《小規模宅地特例の要件》 (注)要件の委細に関しては税理士に確認
◎被相続人の住居に同居し、その敷地を相続し申告期限まで住んでいること。◎1階に両親、2階に息子夫婦が住み外階段。真ん中で仕切り玄関は別々、これら完全分離型2世帯住宅でも適用可能です(区分所有と共有では扱いが異なるので登記に注意)。◎親が老人ホームに入所しもう自宅に戻らない、これも適用可能です。

◎その敷地を相続し、申告期限まで引き続き所有し住むこととあります。相続開始10ケ月以内に売却してしまったら特例が取り消されてしまうので注意が必要です。◎配偶者が相続した場合は、無条件で特例を受けることができます。これら小規模宅地の特例を受けるには、相続税の申告が必要となり税理士の費用がかかります。 

《家なき子》
◎同居人がいない親が亡くなった場合、別居していても相続開始時において、自分が住む家を過去に所有していなかった者(俗にいう家なき子)が相続した場合は80%評価減が適用されます。

《ある夫婦の自殺》
だいぶ前の話しになりますが、田園調布に住んでいる夫婦がいました。親が亡くなりました。自宅敷地の評価は数億円です。億単位の相続税が払えません。夫婦は悩み苦しみ、最後は自分達の命を絶ちました。

生前に田園調布の自宅を売り地価の低いとこへ移る、こんなシンプルな相続対策をしておけば、相続税など楽々払え老後の生活費も十分確保でき、この夫婦も残りの人生を幸せに過ごすことができたはずです。

《相続対策の目的は相続人の幸せである》
長年別居していた息子夫婦が小規模宅地特例の要件を満たすために親と同居しました。ところがお嫁さんと姑がうまくいきません。このまま同居していたらストレスで身がほそります。

こんな相続対策は本末転倒です。息子夫婦にしても相続税を取られても、同居しないで明るく楽しく暮らしていたほうがはるかに幸せです。相続対策の目的は節税ではなく相続人の幸せにあるべきです。

遺言書あれば天国、なければ地獄 野口レポートNo278

今回は遺言が必須の3例です。①子どものいない夫婦がいます。夫は自分が亡くなったら、全財産は妻へいくと思っています。まさか自分の兄弟姉妹が相続人になるなどとは夢にも思っていませんでした。

夫が亡くなりました。相続人は妻のAさんと夫の兄弟姉妹です。兄弟姉妹は高齢なので1人を残し他は亡くなっており、代襲相続人の甥・姪が16人もいます。遺産は自宅の土地建物と預貯金です。Aさんは相続手続きを先送りにし、3年間も放っておいたので手持ちのお金が底をつきこのままでは生活できません。預貯金は凍結され引き下ろすことができません。状況が複雑なので遺産分割は難航し時間がかかりそうです。

最高裁の判例変更の前(可分債権で遺産分割不要)であり、弁護士に依頼し銀行を相手に預貯金返還請求の訴訟を起こし法定相続分の3/4を引き下ろし、取りあえずAさんの老後の生活費を確保しました。

遺言さえあればこんな苦労をすることはなかったのです。全財産を妻へ相続させる自筆証書遺言は5分あればできます。

(全文自筆で書く)
私は次の通り遺言します。
1、私の有する一切の財産を妻の山田花子に相続させます。
2、遺言執行者には上記山田花子を指定します。
令和〇年〇月〇日(書いた日付)
川崎市川崎区川崎町111番地
遺言者 山田太郎 ㊞

 

兄弟姉妹とその代襲者には遺留分の権利がありません。夫がこんな簡単な自筆証書遺言を残しておけば、手間暇や弁護士の費用もかからず、Aさんは簡単に相続手続きができたはずです。

②ある姪が高齢の叔父の世話をしています。叔父は独身で全財産を姪へ遺贈したいと希望しています。私がサポートすれば遺言は速やかに作れます。が、叔父は直接公証役場に行くと私への報酬を渋りました。

遺言者本人が公証役場に行き、遺言の作成を依頼すると、公証人から次のものを用意し、再度きてくださいと言われます。

〇不動産登記簿謄本 〇戸籍謄本 〇固定資産税評価証明書 〇預貯金等の概算額。これだけの資料を揃えるのは高齢者にとってハードルが高く、この段階で多くの人は挫折してしまい、公証役場を再度訪れ目的を達成する人は少ないそうです。

それから2ケ月、先送りしているうちに叔父は脳卒中で倒れ、遺言が作れる状態ではなくなりました。姪は叔父を説得してでも私に依頼すればよかったと大後悔しています。が、すでに手遅れです。

③子どものいないT男氏夫婦がいます。夫は遊び癖のある人で、奥様は苦労しながら耐えてきました。

最近は歳をとりさすがにおとなしくなりました。さんざん苦労をかけた奥様へ、せめてもの罪滅ぼしに自筆でよいから遺言書を作っておくことをアドバイスしました。このままでは奥様は、T男氏の兄弟姉妹と遺産分割の話し合いをしなければなりません。

費用もかからず簡単だから印をもって来てくださいと言いました。が、何度言っても来る気配がありません。こんな思いやりのない人のところへ嫁いでしまい苦労し、相続でまた苦労する奥様が気の毒です。

弁護士との連携 野口レポートNo277

 骨肉を争うような本当の相続争いは世間の人が思っているほど多くありません。多くは兄弟喧嘩のレベルです。この段階なら身近にいる相続アドバイザーなどがサポートして差し上げれば、まだ相続人が自分達の力で解決することができるでしょう。

 だが、テーマが「相続」なので相続争いと思い込んでしまい弁護士事務所へ行ってしまうことがあります。弁護士のところへ行けば法律問題になってしまい、本当の相続争いに進展してしまう可能性があります。

 常識と法律は一致するとは限りません。そして常識は法律には勝てません。円満相続のポイントは相続を法律問題にしないことです。

 ただし相続問題で弁護士に依頼しなければならないことはあります。

 ◎遺留分減殺請求に関する問題、◎相手が弁護士をたててきた、 ◎感情がこじれお金の問題ではなくなってしまっている、◎生前に預貯金を下ろされ不当利得されてしまった、◎何度連絡をしても一切何の連絡もこない、これらの問題は迷うことなく弁護士へ依頼します。ここは法律で裁いてもらうしかありません。

 ただし弁護士に丸投げでなく、アドバイザーが潤滑油として間に入り、弁護士が仕事のしやすくなる環境作りや、依頼者の不安を和らげるなどサポートしていく必要があります。

 なかには弁護士に頼めば何でも思い通りになると誤解している人もいます。いくら弁護士でも理不尽なことは通りません。 

 時として弁護士が苦労するのは相手方より依頼者のほうです。依頼者に弁護士に対し正しい認識を持っていただくことも必要です。

 ある大地主がいます。奥様と離婚し再婚しました。先妻との間には娘Aさんがいます。後妻との間には息子がいます。

年月がたちAさんも40代になりました。父親が亡くなりました。相続人は、Aさん、後妻、その息子です。

 父親は信託銀行で公正証書の遺言を作っていました。内容はひどいものでAさんの遺留分を全く考慮していません。まるで遺留分減殺請求(現遺留分侵害額請求)をしてくれと言っているようなものです。

 遺産の8分の1がAさんの遺留分になります。収益物件を含め多くの不動産があり、8分の1とはいえ半端な額ではありません。

 信託銀行は「うちは遺言を執行していきます。遺留分減殺請求にはタッチしないから、そちらでやってください。」との冷たい対応です。

 幼い頃に両親が離婚しAさんは父親を知りません。父の子である証に遺産の一部をいただければとの思いだけです。預貯金の一部のみを減殺請求することをアドバイスし、後は弁護士に託しました。

 Aさんが譲ったことで、この相続問題は一切もめることなく早期に解決しAさんはもとより後妻側からも感謝されました。

 弁護士は法律のプロ中のプロです。弁護士と素人ではどうしてもギャップがあります。弁護士との面談には必ず同席し依頼者をサポートします。ただし資格に人格を兼ねそなえ、アドバイザーと信頼関係が確立している弁護士を選ぶことが重要です。