相続コンサルの健全な発展を願う 野口レポートNo203

副理事長を務めている相続アドバイザー協議会(現NPO法人)を立ち上げたのは平成12年でした。当時は相続を横断的に系統づけた研修講座や相続団体はありませんでした。

あれから13年、世は高齢社会に突入し相続は増え続けています。今や相続を避けてしまったら、自分の仕事も逃すことになります。このことに気づいた、不動産業・建築業・生命保険・金融機関・各士業など、あらゆる分野が相続に参入してきています。

右を見ても左を見ても相続、この巨大市場に注目し、ここ数年で相続団体や研修団体が「雨後の筍」のごとく発足し、相続戦国時代の様相を呈しています。また、一定の研修終了や試験のもと、資格(国家資格ではない)を認定し名称を与えているところもあります。

素人がこれらの名称を見れば、この人は相続のプロ中のプロだと思ってしまうでしょう。今後、これらの団体が与える資格者が増えてきます。相続の実務は法律や財産に人の心が複雑に絡んでくる難しい分野です。またコンプライアンスの問題も十分見据えなければなりません。相続実務は資格を得たからと、一朝一夕にできるものではありません。求められるのは学歴と経験です。ここで言う学歴は早稲田や慶応のような学校歴ではありません。

これまでに相続に関し、どのくらい勉強をしてきたのか、これからも学び続けることができるかです。相続コンサルタントは生涯勉強です。学ぶ意欲が無くなったら廃業を意味します。勉強はお客様に対する、コンサルタントとしての最低限のエチケットです。

もうひとつ相続のプロとして大事なことがあります。それは現場での経験です。1の実務は100の勉強に勝ります。難度の高い仕事、手間暇ばかりで報酬に反映しない仕事もあります。だが仕事を選んでしまったら、プロとしての力はつきません。コンサルタントはお客様や相談者様に育てられることを忘れてはなりません。

今、セカンドオピニオンとして悩める相続人様のご相談を受けています。このコンサル会社の対応には「心」がありません。建築会社や不動産会社にも同じことが言えます。いくら一流に見えても仕事に「心」がなければ三流です。

今後、各研修団体が認定した資格者が続々と世に送り出されてきます。これらの名称を単に商売の道具として使ってほしくはありません。相続コンサルはお客様の人生をも預かる重い仕事です。このことを認識し、心して取り組んでほしいと思います。

相続団体が増えることは相続コンサル発展のためには悪いことではありません。だが、「資格はあるが実力がない」これは一番恥ずかしいことです。資格を取得したならば、一人でも多くの人が研鑚を重ね、名称に相応しいプロとして育ち、相続で不幸になる人を減らし、少しでも社会のお役に立ってほしいと願っています。

子供の目で本質をつかむ 野口レポートNo202

4コマ漫画の「コボちゃん」は毎回楽しく読んでいます。作者の「植田まさし」さんは、自分の感性を2人の子供(コボちゃん・ミホちゃん)に置き換え、物事の本質を見事につかんでいます。相続問題の本質をつかむには固定観念のない目を持つことです。

40歳独身の長女Aさんからの相談です。父親が亡くなり、相続人はAさんと配偶者の母親との2人です。遺産は家族が同居している自宅の土地建物です。母親は認知症を発症し施設に入っています。基礎控除の範囲なので相続税の課税はありません。

10か月以内に手続きをしなければと言われ、どこへ行ったらよいのか、誰に相談したらよいのか分からず悩んでいました。まわりの人にあそこへ行ってみたらと言われたそうです。Aさんは相続税申告期限と相続手続きとを混同しているようです。

相続税は相続開始後10か月以内に申告し、現金一括納付が原則です。相続税が課税されないAさんには申告義務はなく、遺産分割や不動産などの相続手続きに期限はありません。

固定観念を持った大人の目で見てしまったら、「認知症の母親に成年後見人を立て遺産分割をし、相続手続きを進めましょう。」とアドバイスしてしまいます。

固定観念を捨てると、相談の本質が見えてきます。「このまま放っておきましょう」これが私のアドバイスでした。Aさんの目的はこの家に住み続けることだと分かったからです。

何もしなければ2人の遺産未分割共有状態です。だが、Aさんが住み続ける分には何の影響もありません。このままでもAさんの目的は十分達成できます。母親が亡くなれば相続人はAさん一人です。その時に相続手続をし、自宅をAさん名義に移せば済むことです。

なぜ相続は苦労するのか、これも純な目で見ると本質(日本人の財産構成が民法と税法に合っていない)が分かってきます。

民法は相続分を決めています。遺産が現金なら多少揉めても何とかなります。民法通りに分けることもできます。ところが亡くなる人の財産構成は不動産などの分けにくい財産が多くを占めています。これが遺産分割を難しくし揉める原因にもなっています。

それでは税法はどうなのか、相続開始後10か月以内に現金一括払いが原則です。物納も今は難しくなりました。遺産が現金なら相続税など怖くありません。即、現金一括払いです。現在の最高税率は50%です。いくら取られても半分は残ります。

民法や税法は財産構成に合わせてはくれません。ならば財産構成を民法や税法に合わせるしかありません。つまり相続対策の基本は「お金(現金)持ち」になることです。「簡単なことを完璧にやる」相続対策はシンプルであるべきことに気付きます。物事は子供の目で本質をつかみ、大人の目で進めていくことが大切です。
(平成25年7月)

借金と保証債務の怖さを知る 野口レポートNo201

ある弁護士さんから届いた通知を持ってAさんが相談に見えました。「あなたはBの相続人です。別紙の通りBはあきらかに債務超過です。つきましては相続放棄をするか、もしくは事実上の放棄をしてください。事実上の放棄をされる方は同封の書類に実印を押し印鑑証明をつけ返送してください。」このような書面と一緒に相続分皆無証明書が同封されていました。

素人には相続放棄と事実上の放棄の違いなど分かりません。事実上の放棄は相続分の放棄です。ゼロの財産を相続したことになり、相続人の地位は残ります。もし、Bさんに新たな借金や保証債務があれば、Aさんは法定相続分で相続してしまいます。

相続放棄は最初から相続人でなくなります。不動産や預貯金などプラスの財産も相続できませんが、借金や保債務などマイナスの財産も一切相続しません。

この通知でAさんは自分が相続人であることを知りました。相続放棄は知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述が必要です。

相続対策のほとんどはプラスの財産に対するものです。借金をかかえたまま相続が開始したらどうなるか、借金にも相続対策が必要であると、内藤雄氏(故人)はいつも警鐘をならしていました。

「財産いらない」と、遺産分割協議書にハンコを押し、自分は相続放棄したと言っている人がいます。これも相続放棄ではなく相続分の放棄です。相続人の地位は残り、借金や保証債務があれば法定相続分で相続してしまいます。

怖いのは連帯保証人です。保証人は主たる債務者(借りた本人)が返済しなければ、先ず本人に請求しろ、本人の財産を調査し差し押さえろと言えます。しかし、連帯保証人にはこの催告と検索の抗弁権がありません。自分が借りているのと同じです。

保証のほとんどは連帯保証人です。相続人はこの連帯保証を法定相続分の割合で相続してしまいます。借金は相続が開始した時点で判明し放棄か承認か判断できます。だが、保証債務は主たる債務者の破たんや返済不能で初めて表に出てきます。相続開始3か月後に大きな保証先が破たんしたら、もう相続放棄はできません。

地主さんは借金相続のことをあまり考えていません。相続対策と言われ大きな借金を平気でしてしまいます。そして、家族が連帯保証を取られます。この借金で破綻したら、連帯保証している相続人は相続放棄しても借金から逃げることはできません。

土地有効活用で現金を得ることは大切です。健全な借金は時には必要です。だが、借金は相続の時にはゼロになっていることが理想です。相続税対策として借りた借金を、生前に返してしまうことも立派な相続対策であると思ってください。ちなみに借金を全額返済してしまっても、相続税が増えることはありません。

相続対策の目的は相続人の幸せ 野口レポートNo200

相続対策には、争いの予防や財産を分けやすくしておく「遺産分割対策」、納税資金捻出の準備をしておく「相続税納税対策」、どう分けてどう納めるか、この二つは優先すべき最も重要な対策です。そして一番最後が相続税を減らす「相続税節税対策」です。

単に節税ありきではなく、「分割と納税」この二つの対策の結果として節税効果も生じる。これが理想の相続対策です。

相続税を減らそうと、安易に借金し賃貸マンションを建てる節税対策を優先したがために、相続税が払えなくなってしまう。これでは本末転倒で相続対策の意味がありません。更地の駐車場にしておけば、売却し相続税は十分払えたはずです。

いまだに借金すれば相続税が減ると誤解している人がいます。借金しても相続税は減りません。借金で得た現金を相続税評価額の低い固定資産(賃貸建物は建築費の半分以下)に換えるところに相続税を減らす節税効果が生じるのです。

バブルの時代には相続対策の名のもとに、借金コンクリートの賃貸マンションがさかんに建てられました。「相続対策になりますよ」と、営業マン。「いくらでもお貸ししますよ」と、銀行マン。「このままでは土地を失いますよ」と、ひも付き税理士。

そしてバブル崩壊。デフレする(価値が下がる)不動産、デフレしない(価値が下がらない)借金。後に残ったのは資産価値が激減した不動産と膨大な借金。貸し込んだ銀行は手のひらを返すように態度が変わり、資産家が債務超過の悲惨家へ。

いったい「あの営業マン、あの銀行マン、あの先生は何だったんだ!」だが、この人達を恨んではいけません。最後に決めたのは自分です。これが自己責任というものです。

相続対策の目的は、相続後の「相続人の幸せ」です。建物建築は手段であり目的ではありません。目的を実現したいなら、その手段が間違いないのか、ここを見極めることが肝要です。

得ることは捨てることだと心得てくさい。相続税は減らしたい。土地(財産)は減らしたくない。人の欲は大きな落とし穴になります。今回の相続税制改正をチャンスとばかり、相続税対策と称し己の利益を優先しようとする輩も出てきます。

ご先祖様や親そして自分が汗して築いてきた財産は次代に承継させるべき大切な財産です。しかし、その財産に振り回されてしまったら意味がありません。一番大切なことは財産を受け継ぐべき相続人の人生そのものです。

たとえ相続税を取られても残った財産に感謝して、自分の人生観や価値観に基づいて心にゆとりある人生を楽しんでいく。その相(すがた)を次の代に伝えていく。こうした考え方こそが本来の正しい相続の姿ではないかと思う次第です。