借金と保証債務の怖さを知る 野口レポートNo201

ある弁護士さんから届いた通知を持ってAさんが相談に見えました。「あなたはBの相続人です。別紙の通りBはあきらかに債務超過です。つきましては相続放棄をするか、もしくは事実上の放棄をしてください。事実上の放棄をされる方は同封の書類に実印を押し印鑑証明をつけ返送してください。」このような書面と一緒に相続分皆無証明書が同封されていました。

素人には相続放棄と事実上の放棄の違いなど分かりません。事実上の放棄は相続分の放棄です。ゼロの財産を相続したことになり、相続人の地位は残ります。もし、Bさんに新たな借金や保証債務があれば、Aさんは法定相続分で相続してしまいます。

相続放棄は最初から相続人でなくなります。不動産や預貯金などプラスの財産も相続できませんが、借金や保債務などマイナスの財産も一切相続しません。

この通知でAさんは自分が相続人であることを知りました。相続放棄は知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述が必要です。

相続対策のほとんどはプラスの財産に対するものです。借金をかかえたまま相続が開始したらどうなるか、借金にも相続対策が必要であると、内藤雄氏(故人)はいつも警鐘をならしていました。

「財産いらない」と、遺産分割協議書にハンコを押し、自分は相続放棄したと言っている人がいます。これも相続放棄ではなく相続分の放棄です。相続人の地位は残り、借金や保証債務があれば法定相続分で相続してしまいます。

怖いのは連帯保証人です。保証人は主たる債務者(借りた本人)が返済しなければ、先ず本人に請求しろ、本人の財産を調査し差し押さえろと言えます。しかし、連帯保証人にはこの催告と検索の抗弁権がありません。自分が借りているのと同じです。

保証のほとんどは連帯保証人です。相続人はこの連帯保証を法定相続分の割合で相続してしまいます。借金は相続が開始した時点で判明し放棄か承認か判断できます。だが、保証債務は主たる債務者の破たんや返済不能で初めて表に出てきます。相続開始3か月後に大きな保証先が破たんしたら、もう相続放棄はできません。

地主さんは借金相続のことをあまり考えていません。相続対策と言われ大きな借金を平気でしてしまいます。そして、家族が連帯保証を取られます。この借金で破綻したら、連帯保証している相続人は相続放棄しても借金から逃げることはできません。

土地有効活用で現金を得ることは大切です。健全な借金は時には必要です。だが、借金は相続の時にはゼロになっていることが理想です。相続税対策として借りた借金を、生前に返してしまうことも立派な相続対策であると思ってください。ちなみに借金を全額返済してしまっても、相続税が増えることはありません。

相続対策の目的は相続人の幸せ 野口レポートNo200

相続対策には、争いの予防や財産を分けやすくしておく「遺産分割対策」、納税資金捻出の準備をしておく「相続税納税対策」、どう分けてどう納めるか、この二つは優先すべき最も重要な対策です。そして一番最後が相続税を減らす「相続税節税対策」です。

単に節税ありきではなく、「分割と納税」この二つの対策の結果として節税効果も生じる。これが理想の相続対策です。

相続税を減らそうと、安易に借金し賃貸マンションを建てる節税対策を優先したがために、相続税が払えなくなってしまう。これでは本末転倒で相続対策の意味がありません。更地の駐車場にしておけば、売却し相続税は十分払えたはずです。

いまだに借金すれば相続税が減ると誤解している人がいます。借金しても相続税は減りません。借金で得た現金を相続税評価額の低い固定資産(賃貸建物は建築費の半分以下)に換えるところに相続税を減らす節税効果が生じるのです。

バブルの時代には相続対策の名のもとに、借金コンクリートの賃貸マンションがさかんに建てられました。「相続対策になりますよ」と、営業マン。「いくらでもお貸ししますよ」と、銀行マン。「このままでは土地を失いますよ」と、ひも付き税理士。

そしてバブル崩壊。デフレする(価値が下がる)不動産、デフレしない(価値が下がらない)借金。後に残ったのは資産価値が激減した不動産と膨大な借金。貸し込んだ銀行は手のひらを返すように態度が変わり、資産家が債務超過の悲惨家へ。

いったい「あの営業マン、あの銀行マン、あの先生は何だったんだ!」だが、この人達を恨んではいけません。最後に決めたのは自分です。これが自己責任というものです。

相続対策の目的は、相続後の「相続人の幸せ」です。建物建築は手段であり目的ではありません。目的を実現したいなら、その手段が間違いないのか、ここを見極めることが肝要です。

得ることは捨てることだと心得てくさい。相続税は減らしたい。土地(財産)は減らしたくない。人の欲は大きな落とし穴になります。今回の相続税制改正をチャンスとばかり、相続税対策と称し己の利益を優先しようとする輩も出てきます。

ご先祖様や親そして自分が汗して築いてきた財産は次代に承継させるべき大切な財産です。しかし、その財産に振り回されてしまったら意味がありません。一番大切なことは財産を受け継ぐべき相続人の人生そのものです。

たとえ相続税を取られても残った財産に感謝して、自分の人生観や価値観に基づいて心にゆとりある人生を楽しんでいく。その相(すがた)を次の代に伝えていく。こうした考え方こそが本来の正しい相続の姿ではないかと思う次第です。