天職と恩返しのできる幸せ 野口レポートNo210

石油業界に見切りをつけ、相続特化の不動産屋を目指し、宅建試験に挑戦したのが平成6年でした。もう20年も前の話です。

世は高齢化から高齢社会に突入し、相続は増え続けています。全ての業種は相続を避けて通ることはできません。苦手だからと避けてしまったら、本来の仕事も逃すことになります。この巨大な相続マーケットを前に不動産業界も認識を変えてきました。

中小不動産業者も相続部門の立ち上げや、相続相談、自社セミナーの開催など、活発な動きを見せています。

相続も一頃昔は税理士や弁護士の独占業務の感があり、不動産業者の参入などありませんでした。まして町の零細不動産屋が相続に特化するなど考えられない時代でした。

当時は勉強するにしても横断的相続講座など皆無です。数少ない相続セミナーを渡り歩き、ひたすら独学で相続を学びました。

実務で一貫して徹してきたのは、兄弟姉妹の縁を切らせないことです。相続が原因で切れた縁は二度とつながることはありません。

相続は奥が深く最後は人の心に行き着きます。心のコンサルティングゆえに実務家には高い人間力が求められます。最近は相続特化から相続徳化へと、さらなる進化を目指しています。

人間は亡くなると必ず相続が開始します。ほとんどの人が初めて経験する出来事です。悲しみに浸る暇もなく、遺産分けの話し合いや各種手続きなど、やらねばならぬことが山積します。

ご近所の奥様(Aさん)が相談に見えました。ながく連れ添ってきたご主人が他界されました。葬儀、49日の法要も終え、そのあとはどこへ何を相談して良いのか分からず、ご自分で戸籍謄本を集めたり、銀行へ行ったりしています。

あれが足りない、これが足りないと言われ、役所と銀行を何度も往復し、切なくて涙が出てきたそうです。

亡きご主人は給油所時代のお客様です。相談にみえたAさんに言葉をかけました。「お任せください。もう大丈夫ですよ。」すぐにパートナーの税理士と司法書士に指示し、相続税の有無、相続人の確定、不動産の名義変更、そしてAさんと銀行を回り、預貯金の取り崩しなど、恩返しのつもりで仕事をさせていただきました。

「もっと早くお願いすればよかった。」安堵の表情をうかべ、つぶやいたAさんの言葉でした。

素人には相続は闇夜の世界でよく見えません。相続のプロは相続人様の提灯となって差し上げることが必要です。

思い起こせば、給油所、PTA、地域など、多くの皆様にお世話になってきました。もし20年前の決断(転業)がなかったら、今の自分はありません。天職に出会えた幸せと、お世話になった皆様へ、相続を通し恩返しができる幸せを感じます。

相続土地売却と取得費加算 野口レポートNo209

芝居やドラマでも主役がいれば必ず脇役がいます。スポットライトを浴びる主役に対し脇役は陰にかくれ目立ちません。

相続税の基礎控除が改正され、平成27年1月1日以降の相続から適用となります。相続人は母(配偶者)と子が2人とします。今まで8,000万円だった基礎控除が4,800万円に引き下げられます。基礎控除を超えた財産は相続税課税の対象となります。

上記の家族構成で私の住んでいる武蔵小杉駅徒歩20分圏内を例にとってみましょう。財産は自宅敷地35坪、預貯金3,000万円、生命保険2,000万円(みなし相続財産500万円)とします。改正前は楽々セーフ(課税なし)でした。

改正後は相続税が約130万円課税されます。しかし、自宅の敷地を配偶者もしくは同居の子が相続すれば、申告することによって小規模宅地の特例が使え相続税は課税なしです。

もし改正前の非課税層(相続人3人)に課税された場合、特例不可の場合でも相続税は100万円~300万円位です。庶民には大金ですが払えないお金ではありません。相続対策の名のもとに不要な借金をしてまでも、賃貸併用住宅やアパートを建てる必要があるのかどうか、ここは冷静に判断する必要があります。

この相続税基礎控除改正の陰にかくれ目立たない改正がありました。相続税取得費加算の改正です。

その昔、2,000万円で買った土地があります。現在は値上がりし1億円で売れます。単純に考えてみましょう、この土地を売ると1億円(売値)-2,000万円(買った価格)となり、8,000万円の差が生じます。この差額が土地を売った時の利益となります。

8,000万円の利益に対し、5年以上所有していた土地であれば税金が1,600万円(利益に対し20%)課税されます。

ご先祖様代々の土地や、買った価格が不明の土地は売値の5%を買った価格とみなされ、大きな利益が出てしまいます。

相続開始後3年10か月以内に相続土地を売る場合(目的問わず)、売り主が相続した全ての土地に課せられた相続税を、買った価格に加えることができ利益を減らせます。これが相続税取得費加算です。

ところが、ここに改正が入りました。平成27年1月1日以降の相続から、取得価格に加えることのできる相続税は、売る土地に課せられた相続税のみとなります。

地主さんの財産構成は土地が占める割合が圧倒的です。相続税は10か月以内に現金一括払いが原則です。物納も平成18年の大改正で難しくなりました。億単位の延納も途中で行き詰まります。

地主さんが相続税を現金一括納付するためには土地を売るしかありません。相続税基礎控除の改正にかくれていますが、相続税取得費加算の改正は地主相続に大きな影響を与えます。

御慶(ぎょけい) 野口レポートNo208

ある新聞の元日のコラムに目がとまりました。正月落語でおなじみの「御慶」の話が載っています。以下は抜粋です。

『元日はおめでたい言葉で始めたい。落語の「御慶」が正月の一席として好まれるのは八五郎が富くじを当てる縁起のよさもあるが、それを知った仲間の誰もが八五郎を祝福する優しさではないか。

大金を手にした八五郎は年始回りに歩きたいという。「御慶」とは大家が教えた、最も短い正月の祝詞である。元日の朝、「御慶」「御慶」と騒ぐ八五郎に、周囲は実に温かい。「大層立派になったじゃないか。良かったじゃないか。おめでとう」「みちがえたよ」。ねたみも、そねみもない。青空が広がる。』

78号で紹介した話です。1890年(明治13年)和歌山県串本町沖で、トルコの軍艦エルトゥール号が暴風に巻き込まれて難破しました。近くの島の住人は、避難した68人の乗組員たちを、自らの貧しい生活にも顧みず、わずかに蓄えていた自分たちの大切な食べ物まで分け与え、親身になって看護や世話をしました。

トルコではエルトゥール号の海難事故と、かつての日本人がしてくれた献身的な救助活動のことは、小学校の歴史教科書で学び国民の誰もが知っているそうです。

1985年、イラン・イラク戦争が勃発しました。フセイン大統領は、「今から40時間後に、イラクの上を飛ぶ飛行機は撃ち落とす」といいました。日本政府は対応が遅れ、250人もの日本人が空港に取り残されパニックになりました。タイムリミットぎりぎりで、一機のトルコ航空機が到着し、日本人全員を救出してくれました。

日本人救出にトルコ航空機が飛んだのは、かつての日本人に対するトルコの恩返しだったのです。

金持ちの相続争いほど他人がよろこぶことはありません。まして自分は全く痛みを感じない他人ごとです。「他人の不幸は蜜の味」高みの見物を決め込み、今か今かと争いを期待しています。揉めてしまったらおおよろこびです。

昔の日本人は、他人の幸せを素直によろこべる心の広さがありました。また、他人の痛みを自分の痛みとする思いやり優しさがありました。日本の風土や長い歴史のなかで築かれてきた文化です。

昨今の世相は様変わりしています。「自分さえよければ」この風潮が随所で見られるようになりました。「売り手よし」のみで走る商売人、ルールを守らず平気で非回収日に生ごみを出す人、他の相続人のことを一切考えず、ひたすら自分の権利だけを主張する人。

「自分さえよければ」この我欲が人と人を争わせます。ひいては国の我欲となり、国と国との争いの芽生えになります。

「感謝の気持ちと譲る心の大切さ」この言葉は相続に限らず、世界に通じる幸せの根幹ではないかと思います。

 

遺言の検索と検認 野口レポートNo207

自筆証書遺言のいいところは、いつでもどこでも簡単に作ることができ費用もかかりません。そして、遺言を作ったことや内容を知られることもありません。

だが、素人がつくるので法的要件の不備や遺言の内容が不明確なため、せっかく作ったのに使えない遺言も数多くあります。そして、紛失や改ざんの危険性もでてきます。

また、自筆証書遺言は要件を満たし法的に有効な遺言であっても、家裁(家庭裁判所)の検認を受け、遺言書に検認証明書を添えなければ相続手続きができません。

ご主人が亡くなり高齢の奥様(Aさん)からご相談を受けました。Aさん夫婦には子がおりません。愛妻家のご主人は自筆証書の遺言を残していました。

遺言の相続で一番先にすることは、公正証書遺言の検索です。遺言は複数出てきた場合は、日付が新しいものが有効です。日付のないものや確定できない遺言が無効になるのはこのためです。

相続人様から、遺言検索と遺言検索システム照会結果通知書受領の委任状をとり、近くの公証役場に出向きます。平成元年以降に作成した公正証書遺言なら日本公証人連合会に登録されています。

検索し遺言があれば、遺言作成日、証書番号、遺言作成役場、公証役場の所在地と電話番号、作成公証人が出てきます。

後付けの公正証書遺言が無いことが確認できたら、自筆証書遺言の検認の申し立てをします。相続人様から遺言書を預かれば、保管者として申し立てができ、検認の場へ同席することができます。

相続人は配偶者のAさん、ご主人の兄弟姉妹と代襲相続人の甥姪達です。家裁の待合室で顔を合わすと「おばちゃん!ご無沙汰しています。お元気ですか!」など、なごやかな雰囲気でした。

時間になると全員が審判廷に案内されます。審判官から「検認は証拠保全作業で、有効無効を判断するものではありません」との説明があり、そのあと開封します。

遺言を取り出し内容を確認し、相続人へ内容の確認を促します。書記官が本人の字かどうか形式的に聞いてきます。そして審判官は退席し検認作業は終了します。開封した遺言は「全財産を妻に相続させる」との内容でした。待合室での雰囲気とは打って変わり、審判廷を出た時は誰も口をききませんでした。

この時の空気はAさんにとって辛いものがあります。このような場合は検認の必要のない公正証書遺言の作成をすすめます。

また、審判廷とはいえ雰囲気は法廷です。なれない依頼者(相続人)は緊張し心細いと思います。相続アドバイザーなどが遺言保管者として申立人となり、同席し傍に寄り添って差し上げれば依頼者も心強いのではないかと思います。

法律を頭から外してみる 野口レポートNo206

法律は社会秩序を維持するために国が定めた規範です。常識は普通の一般人が持っている通常の知識と感覚です。万人に平等であるべき法律ですが、知ると知らないでは大きな不平等が生じます。また、法律が常識や幸せと一致するとは限りません。

相続の実務やアドバイスでは、法律を一度頭から外し、相続人様の人生や幸せを考えてみることも必要となります。

知人の紹介でご相談者Aさんが見えました。ご主人のBさんは一流商社に勤めているエリートサラリーマンです。だが、不幸にして急逝されました。

Bさんは土地資産家の跡取り息子です。女系の母親が早く亡くなり、長男のBさんが広大な自宅敷地と多くの不動産を相続しました。

ところがAさん夫婦は子宝に恵まれませんでした。Bさんの相続人は配偶者のAさんとBさんの父親です。Bさんが母親から相続した不動産は全部父親に相続させろと、義兄弟姉妹が連日のようにハンコを押せと迫ってきます。

もしAさんが亡くなったら相続人はAさんの両親もしくは兄弟姉妹になります。つまり相続した不動産は全部A家へ行ってしまいます。これを防ぎたいのはB家の心情です。

Aさんは法律相談や弁護士のところを点々としました。「3分の2の権利がありますよ。」出てくる答えはどこも同じでした。

義父母に仕えながらご主人を支えてきた想い。連日ハンコを迫る義兄弟姉妹。法律相談にいけば3分の2の権利があると言われる。Aさんは精神的に追い詰められ、眠むれない日が続いています。

Aさんにお話しさせていただきました。法律を前面に出し戦えば勝てるでしょう、だがB家とは生涯いがみあうことになる。財産(不動産)のルーツをたどればB家が代々引き継いできたものである。相手はそれ以外の財産は相続してよいと言っている、ひとり身のAさんが暮らしていくには足りる財産である。

50歳になったAさんの人生はこれからです。「目に見える財産でなく自分の幸せを取りましょう。」とアドバイスしました。この一言でAさんは我に返りました。

「ハンコを押しました。」数日後、吹っ切れた明るい声が電話の向こうから聞こえてきました。

私がお会いした時には、Aさんはウツの扉を開け、すでに片足を突っ込んでいる状態でした。一度ウツの世界に入ってしまったら、いくら財産を使っても元に戻れる保証はありません。ここは背中を掴みグッと引き戻して差し上げることが大事です。

法律で頭が固まってしまったら、目に見えない財産を見落としてしまいます。相続人様の大切な人生(幸せ)を守って差し上げるためには、法律を頭から外してみることも必要です。

相続と不動産業者のポジション 野口レポートNo205

五十路を前に家業(ガソリンスタンド)の廃業を決断し、宅建の資格を取り相続特化の不動産屋として再出発したのが昨日のように思い出されます。GS廃業からあっという間の20年でした。

他人からは華麗なる転身と言われました。だが、本人は人生をかけた死にもの狂いの転身でした。当時は相続ビジネスに係わっていたのは税理士など一部の専門家で、町の不動産屋が相続に特化するなど考えられない時代でした。

不動産業に転業し最初の仕事は、元付業者(貸主側)の賃貸マンションへ客付業者(借主側)としてお客様を仲介し、賃料の1か月分(97,000円)を報酬としていただいた仕事でした。

GSで97,000円の利益を稼ぐには、給油の間に、窓ふき、灰皿清掃、ゴミの回収、タイヤの洗浄、最後は危険をおかし道路に出て車の誘導です。250台の車に同じサービスをして初めて得ることのできる利益です。

同じ97,000円でもGSで得た利益と、不動産屋として得た利益ではお金の重さが違いました。不動産業に慣れることは大事です。だが、染まってしまったら駄目になってしまう。この時の気持ちは今も忘れず心のなかに留め置いています。

土地が数十筆もある地主さんの相続は、難度の高い心臓外科手術のようなものです。いかに相続に精通した税理士(少ないです)に依頼するかが最大のポイントになります。

多くの税理士は相続税の計算をして申告をすることが自分の仕事だと思っています。相続の専門税理士は土地評価にも精通し「分割協議をサポートし、億単位の相続税を10か月以内に現金一括納付させる。」これが仕事だと思っています。

次は土地家屋調査士です。相続での調査士の仕事は測ることではありません。機器も発達し図面を作ること自体は難しい作業ではありません。土地売買契約の決済日までに、隣接地主全員から境界確定や越境物解消承諾書等の判子をもらい土地を商品化することです。残金決済ができ初めて相続税現金一括納付が可能となります。相続税納税は調査士の力量が大きく影響してきます。

次は相続登記の司法書士です。最後は倫理ある不動産業者です。地主さんの財産構成は不動産が圧倒的です。不動産の動かし方で勝負が決まります。つまり不動産業者は相続のコーディネートができる最適のポジションにいるのです。

最近は不動産業者も二極化しています。ネットワークを作り勉強を怠らず時代を先取りしていく人、手垢のついた知識や経験に胡坐をかいている人。時代は相続に強い不動産業者を求めています。海千山千の世界で零細業者が生き残るには、特化しその分野では地域オンリーワンになってしまうのもひとつの方法です。

「相続税制改正」恐れることなかれ 野口レポートNo204

「相続税大増税時代到来」「相続税大衆課税に」「相続大増税と節税対策」「相続税節税のおさえどころ」等々……。

これらを謳い文句に、ハウスメーカー、建築会社、金融機関などが主催する無料の相続セミナーが盛んです。なかには国産牛肉のプレゼント付セミナーもあります。なぜ無料か疑問を持たない参加者で会場は満員です。高い牛肉につかなければよいのですが……。

「資産が4,200万円以上あれば課税対象に」「一般サラリーマンを狙う増税」「せまる大増税から大切な資産を守れ」等々……。新聞、テレビ、経済誌、週刊誌などのメディアも、相続税制改正による増税不安(書けば売れる)をあおっています。

ねじれ国会と大震災で先送りになっていた相続税制改正案が国会を通り決定し、平成27年1月1日の相続から適用されることになりました。今回の改正のなかで注目されているのは、相続税基礎控除の40%引き下げです。

相続人は子が3人とします。現行では定額控除5,000万円、相続人控除1人に付1,000万円で合計8,000万円です。

改正後の控除は定額3,000万円、相続人1人に付600万円で、合計4,800万円です。これを超えると課税の対象となります。

お客様「大変だ、大変だ!改正後は我が家も課税対象になってしまう。」 私「ちょっと待った!相続税がいくら課税されるか調べたのですか?」 お客様「そんなの調べてないよ。とにかく大変だ!我が家の財産は7,000万円だ。基礎控除を2,200万円も超えてしまう。」 私「心配いりませんよ。仮に課税(小規模宅地の特例不可の場合)されても220万円です。節税対策は必要ありません。」

庶民にとって220万円は大金です。だが、払えないお金ではありません。節税対策でなく遺言の作成などによる遺産分割対策を優先し相続争いを予防しておきましょう。

また、億単位の相続税を納める大地主さんは、基礎控除の40%引き下げなど大勢には影響しません。10か月以内に相続税を現金一括納付できるよう、こちらも納税対策を優先いたしましょう。

完全分離型二世帯住宅も要件を満たせば、来年以降は小規模宅地特例の対象となり節税効果が生じます。だが、分離と言っても屋根はひとつ。こんなはずでは……、嫁姑など新な問題も出てきます。

賃貸併用住宅も先の小規模宅地特例の改正で節税効果は減りました。また、今は全室賃貸でも苦戦する時代です。併用住宅は生涯空室(住居部分)をかかえるということです。3O年一括借り上げも3O年固定の家賃保証ではありません。

相続対策の目的は「相続人の幸せ」でなければいけません。はたして借金してまでも節税対策をする必要があるのか、目をつむり、耳をふさぎ、今一度冷静に考える必要があります。

相続コンサルの健全な発展を願う 野口レポートNo203

副理事長を務めている相続アドバイザー協議会(現NPO法人)を立ち上げたのは平成12年でした。当時は相続を横断的に系統づけた研修講座や相続団体はありませんでした。

あれから13年、世は高齢社会に突入し相続は増え続けています。今や相続を避けてしまったら、自分の仕事も逃すことになります。このことに気づいた、不動産業・建築業・生命保険・金融機関・各士業など、あらゆる分野が相続に参入してきています。

右を見ても左を見ても相続、この巨大市場に注目し、ここ数年で相続団体や研修団体が「雨後の筍」のごとく発足し、相続戦国時代の様相を呈しています。また、一定の研修終了や試験のもと、資格(国家資格ではない)を認定し名称を与えているところもあります。

素人がこれらの名称を見れば、この人は相続のプロ中のプロだと思ってしまうでしょう。今後、これらの団体が与える資格者が増えてきます。相続の実務は法律や財産に人の心が複雑に絡んでくる難しい分野です。またコンプライアンスの問題も十分見据えなければなりません。相続実務は資格を得たからと、一朝一夕にできるものではありません。求められるのは学歴と経験です。ここで言う学歴は早稲田や慶応のような学校歴ではありません。

これまでに相続に関し、どのくらい勉強をしてきたのか、これからも学び続けることができるかです。相続コンサルタントは生涯勉強です。学ぶ意欲が無くなったら廃業を意味します。勉強はお客様に対する、コンサルタントとしての最低限のエチケットです。

もうひとつ相続のプロとして大事なことがあります。それは現場での経験です。1の実務は100の勉強に勝ります。難度の高い仕事、手間暇ばかりで報酬に反映しない仕事もあります。だが仕事を選んでしまったら、プロとしての力はつきません。コンサルタントはお客様や相談者様に育てられることを忘れてはなりません。

今、セカンドオピニオンとして悩める相続人様のご相談を受けています。このコンサル会社の対応には「心」がありません。建築会社や不動産会社にも同じことが言えます。いくら一流に見えても仕事に「心」がなければ三流です。

今後、各研修団体が認定した資格者が続々と世に送り出されてきます。これらの名称を単に商売の道具として使ってほしくはありません。相続コンサルはお客様の人生をも預かる重い仕事です。このことを認識し、心して取り組んでほしいと思います。

相続団体が増えることは相続コンサル発展のためには悪いことではありません。だが、「資格はあるが実力がない」これは一番恥ずかしいことです。資格を取得したならば、一人でも多くの人が研鑚を重ね、名称に相応しいプロとして育ち、相続で不幸になる人を減らし、少しでも社会のお役に立ってほしいと願っています。

子供の目で本質をつかむ 野口レポートNo202

4コマ漫画の「コボちゃん」は毎回楽しく読んでいます。作者の「植田まさし」さんは、自分の感性を2人の子供(コボちゃん・ミホちゃん)に置き換え、物事の本質を見事につかんでいます。相続問題の本質をつかむには固定観念のない目を持つことです。

40歳独身の長女Aさんからの相談です。父親が亡くなり、相続人はAさんと配偶者の母親との2人です。遺産は家族が同居している自宅の土地建物です。母親は認知症を発症し施設に入っています。基礎控除の範囲なので相続税の課税はありません。

10か月以内に手続きをしなければと言われ、どこへ行ったらよいのか、誰に相談したらよいのか分からず悩んでいました。まわりの人にあそこへ行ってみたらと言われたそうです。Aさんは相続税申告期限と相続手続きとを混同しているようです。

相続税は相続開始後10か月以内に申告し、現金一括納付が原則です。相続税が課税されないAさんには申告義務はなく、遺産分割や不動産などの相続手続きに期限はありません。

固定観念を持った大人の目で見てしまったら、「認知症の母親に成年後見人を立て遺産分割をし、相続手続きを進めましょう。」とアドバイスしてしまいます。

固定観念を捨てると、相談の本質が見えてきます。「このまま放っておきましょう」これが私のアドバイスでした。Aさんの目的はこの家に住み続けることだと分かったからです。

何もしなければ2人の遺産未分割共有状態です。だが、Aさんが住み続ける分には何の影響もありません。このままでもAさんの目的は十分達成できます。母親が亡くなれば相続人はAさん一人です。その時に相続手続をし、自宅をAさん名義に移せば済むことです。

なぜ相続は苦労するのか、これも純な目で見ると本質(日本人の財産構成が民法と税法に合っていない)が分かってきます。

民法は相続分を決めています。遺産が現金なら多少揉めても何とかなります。民法通りに分けることもできます。ところが亡くなる人の財産構成は不動産などの分けにくい財産が多くを占めています。これが遺産分割を難しくし揉める原因にもなっています。

それでは税法はどうなのか、相続開始後10か月以内に現金一括払いが原則です。物納も今は難しくなりました。遺産が現金なら相続税など怖くありません。即、現金一括払いです。現在の最高税率は50%です。いくら取られても半分は残ります。

民法や税法は財産構成に合わせてはくれません。ならば財産構成を民法や税法に合わせるしかありません。つまり相続対策の基本は「お金(現金)持ち」になることです。「簡単なことを完璧にやる」相続対策はシンプルであるべきことに気付きます。物事は子供の目で本質をつかみ、大人の目で進めていくことが大切です。
(平成25年7月)

借金と保証債務の怖さを知る 野口レポートNo201

ある弁護士さんから届いた通知を持ってAさんが相談に見えました。「あなたはBの相続人です。別紙の通りBはあきらかに債務超過です。つきましては相続放棄をするか、もしくは事実上の放棄をしてください。事実上の放棄をされる方は同封の書類に実印を押し印鑑証明をつけ返送してください。」このような書面と一緒に相続分皆無証明書が同封されていました。

素人には相続放棄と事実上の放棄の違いなど分かりません。事実上の放棄は相続分の放棄です。ゼロの財産を相続したことになり、相続人の地位は残ります。もし、Bさんに新たな借金や保証債務があれば、Aさんは法定相続分で相続してしまいます。

相続放棄は最初から相続人でなくなります。不動産や預貯金などプラスの財産も相続できませんが、借金や保債務などマイナスの財産も一切相続しません。

この通知でAさんは自分が相続人であることを知りました。相続放棄は知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述が必要です。

相続対策のほとんどはプラスの財産に対するものです。借金をかかえたまま相続が開始したらどうなるか、借金にも相続対策が必要であると、内藤雄氏(故人)はいつも警鐘をならしていました。

「財産いらない」と、遺産分割協議書にハンコを押し、自分は相続放棄したと言っている人がいます。これも相続放棄ではなく相続分の放棄です。相続人の地位は残り、借金や保証債務があれば法定相続分で相続してしまいます。

怖いのは連帯保証人です。保証人は主たる債務者(借りた本人)が返済しなければ、先ず本人に請求しろ、本人の財産を調査し差し押さえろと言えます。しかし、連帯保証人にはこの催告と検索の抗弁権がありません。自分が借りているのと同じです。

保証のほとんどは連帯保証人です。相続人はこの連帯保証を法定相続分の割合で相続してしまいます。借金は相続が開始した時点で判明し放棄か承認か判断できます。だが、保証債務は主たる債務者の破たんや返済不能で初めて表に出てきます。相続開始3か月後に大きな保証先が破たんしたら、もう相続放棄はできません。

地主さんは借金相続のことをあまり考えていません。相続対策と言われ大きな借金を平気でしてしまいます。そして、家族が連帯保証を取られます。この借金で破綻したら、連帯保証している相続人は相続放棄しても借金から逃げることはできません。

土地有効活用で現金を得ることは大切です。健全な借金は時には必要です。だが、借金は相続の時にはゼロになっていることが理想です。相続税対策として借りた借金を、生前に返してしまうことも立派な相続対策であると思ってください。ちなみに借金を全額返済してしまっても、相続税が増えることはありません。