相続はAKB48であれ! 野口レポートNo231

謙虚⇒傲慢、発展⇒衰退、肯定⇒否定、成功⇒失敗、言葉には反対語があります。さて、「ありがとう」の反対語は何でしょうか。

健康⇒あたりまえ、女房が炊事洗濯してくれる⇒あたりまえ、亭主が毎日働きに出ていく⇒あたりまえ、本当はどれも有難いことなのです。だが、あたりまえと思ってしまうから感謝できません。

つまり、ありがとう(感謝)の反対語は「あたりまえ」です。

この世に生まれでるには父母、祖父母、曾祖父母の14人がいます。10代遡れば1024人、20代遡れば、なんと100万人を超えるご先祖様が必要です。一人でも欠ければ自分はいません。

この世に存在していること自体が奇跡なのです。天から頂戴した「いのち」はそれだけ尊く有難いものです。感謝しなければなりません。天にツバ吐く相続争いなどもってのほかです。

「ありがとう」⇒「有難う」⇒「有難し」⇒「有る」ことが難しい⇒めったにないこと、まれである。すなわち、普段あたりまえと思っているほとんどのことは有難いことなのです。

私達は日々多くの「有難し」のなかで、生きていることを忘れています。有難いことだと気が付かなければなりません。気が付けば「あたりまえ」に感謝することができます。

AKB48」安定した人気を保っているアイドルグループです。

私は芸能界音痴ですが、さすがにこのグループは知っています。このAKB48を相続に置き換えてみました。

A ⇒ 有難い
K ⇒ 感謝
B ⇒ 美徳
48 ⇒  幸せ

親の財産は自分の財産ではありません。もらえるだけで『有難い』のです。『感謝』の気持ちで相続できる人には『美徳』があります。徳を持った人は譲ることができます。譲った人は必ず『幸せ』になります。この不思議な事象は何度も見てきました。

自分のやった(発した)ことは、そのまま自分に還ってきます。これは「発顕還元⇒振り子の原理」であると知りました。原理とは一定の条件のもとで変わらず成立する関係です。譲れば幸せとなり還ってきます。奪えばいつか大切なものを奪われます。

あたりまえだと思って相続する人には感謝の気持ちがありません。徳がないから譲れません。だから幸せになれないのです。

家族は国の最少単位です。そして国を支えている根幹でもあります。相続争いは家族を崩壊させ、しいては国の力を弱めます。

争ったら何のための相続かわかりません。親の財産は「あたりまえ」でなく「有難い」と気付き、誰もがAKB48の気持ちで受け入れたなら、家族の絆も深まり皆が幸せになります。

借金や連帯保証も相続財産です 野口レポートNo230

不動産や預貯金などは「正の財産」です。借金や保証債務は「負の財産」です。当然に負の財産も相続財産になります。だが、「負の相続」を理解した上で、借金や連帯保証をする人はいません。

借金の遺産分割は銀行に対抗できません。相続人全員が法定相続分の割合で相続します。相続対策として父親が借金でマンションを建てました。5年後に亡なり3億円の残債があります。相続人は3人です。遺産分割で長男がマンションと借金を相続しました。

もし長男が返済不能になったら、銀行は他の相続人に法定相続分での返済を求めてきます。ただし、長男が1人で借金を相続することを銀行が同意してくれたなら、他の相続人はこの借金から離脱(免責的債務引き受け)することができます。

だが、銀行が同意してくれるとは限りません。また、状況によっては相続人全員が連帯し3億円を引き受ける(重畳“ちょうじょう”的債務引き受け)を求められることもあります。

怖いのは保証債務です。保証人の地位も法定相続分で相続します。親が3,000万円の連帯保証をしています。相続人は子が3人、親が亡くなった瞬間に1人1,000万円の連帯保証人です。この保証債務は、主たる債務者が破綻し初めて出てくる時限爆弾です。

中小零細企業を営んでいたAさんが亡くなりました。Aさんは現在の会社を一代で築きました。長男は経営能力に乏しく、会社はAさんで成り立っていました。

相続人は長女と長男と二女の3人です。長男が自社株など会社の資産を全て相続し経営を引き継ぎました。姉妹は長男に譲り、遺産分割で100万円の代償金(判子代)を受け取りました。

会社の借金は個人のものではありません。よって姉妹には及びません。しかし、ほとんどの中小零細企業の社長は、会社の借金に対し「個人保証」をしています。この連帯保証は個人のものです。相続人全員が法定相続分で相続してしまいます。

①会社の借金を社長(親)が個人保証している。②会社の経営は親の力で成り立っていた。③後継者の長男は経営能力に乏しい。

相続を主導した会計事務所がこれらを見きわめ、姉妹には家庭裁判所で相続放棄をしてもらい、100万円は遺産分割をしないで、贈与で渡すとの発想があったなら問題は起きなかったと思います。

その後、会社は破綻し経営に無関係な姉妹に保証債務が伸し掛かってきました。遺産分割で100万円を相続してしまった2人は相続放棄はできません。今まで幸せだった二つの家庭が揺らぎます。

先代社長(故人)の個人保証は相続人全員に及びます。経営にタッチしない相続人は保証を引き継がないとの交渉も現実には難しいでしょう。これらを踏まえ後継者選びは私情に流されず、適性を冷静に見定め、経営能力のある人物を選ぶことが大切です。

均分相続は平等相続と心得よ 野口レポートNo.229 

日本の相続制度は昭和22年5月2日以前までは、戸主の死亡により長男が一切の財産を相続する家督相続制度でした。また、戸主の隠居で生前に相続が開始する隠居制度もありました。

昭和22年5月3日~昭和22年12月31日までの応急処置法(家督相続廃止)をはさみ、昭和23年1月1日より新民法が施行され、子が複数いれば同等で分ける均分相続となりました。

そして、昭和37年の改正、昭和55年の改正を経て現在に至ります。直近では非嫡出子の相続分が嫡出子と同等の相続分となったことは周知の通りです。

相続は相続開始時の法律が遡って適用されます。昭和22年4月に亡くなった曾祖父(ひいおじいちゃん)の手続きをしていませんでした。土地の名義は曾祖父のままです。このような場合は曾祖父に子が何人いようが、家督相続が適用され長男(祖父)が1人でその土地を相続することになります。

新民法の下、新たな相続制度が適用され67年が経過しました。今や均分相続は国民の意識のなかに定着した感があります。義務を果たさない人ほど権利意識が強く、「法定相続分」という言葉があたりまえに出てくるようになりました。

「均分相続」は「平等相続」です。決して「公平相続」ではありません。お正月のお年玉を、高校生・中学生・小学生に一律1万円を渡せば平等です。そんな親はいないでしょう。1万円・5千円・3千円と、歳に相応した金額が入っています。これが公平です。

長男夫婦が同居の母をみとり父の介護をし、家業の板金屋を手伝っています。姉はすでに嫁ぎ弟は独立し家をかまえています。

父親が亡くなりました。遺産は作業場兼居宅です。2人が均分相続を主張したら、長男は代償金を払わなければなりません。調達できなければ、家を売りカネに変えて3分の1で分けろと言われます。事業承継は吹っ飛び、長男は仕事と住むところを失います。

裁判をしても判決は法律(法定相続分)通りです。裁判官は法定相続分を変えることはできません。民法は寄与分制度を設けていますが親の介護や、家業の手伝いが寄与分として長男の相続分に反映することはほとんどありません。下の世話など、一番苦労したお嫁さんは相続人ではないので、寄与分の適用はありません。

素人の長男にはこんなこと予測できません。相続が開始しまさかの展開です。こんな悲劇を防ぐためにも、生前に遺言で長男の相続分を増やし、平等を不平等(公平)にしておく必要があります。

均分相続は平等相続です。相続が開始してからでは何もできません。このまま相続に突入したらどうなるのか、平等のなかに不平等(遺言)を持ち込んでおく必要があるのか、均分は平等であると心得、適切な対応をしておくことが大切です。

不動産が負動産になる時代 野口レポートNo.228 

 不動産を英語でリアルエステートと言います。リアル(実在)エステート(地所)は、消滅も移動もしません。消費することもありません。だから土地には消費税が課税されないのです。土地は常に実在する最も安定した資産でした。

 今この不動産に新たな問題が起きています。土地を捨てたいのだが何とかならないか、誰かもらってくれる人はいないか、市に寄付したいのだが、近年こんな相談を受けるようになりました。

◎「地方にある実家の田畑山林」都会に出ている子どもたちは、誰も相続したくありません。 

◎「温泉付き中古マンション」200万円でも売れません。タダでもらっても、所有しているだけで高額な管理費を取られてしまいます。管理費で温泉旅館やホテルに何回いけるでしょうか。

◎「原野商法で買わされた遠隔地の土地」登記簿に所有者として名前は載っているが、現場に行っても場所の特定すらできません。

◎「貸宅地」雨漏りなし、修理も必要なし、適正地代なら悪い商売ではありません。ただし、相続税が課税されなければの話です。税率50%の地主さんが貸宅地の相続税を、地代から取り戻すには30年もかかります。次の相続でまた同じことを繰り返します。

◎「空き家」社会問題にもなっています。流通しにくい土地上に存する空き家です。売れない、借りてくれない、取り壊せば敷地の固定資産税が6倍に跳ね上がる、まさに三重苦です。火災や落下物など事故が起きれば所有者の責任が問われます。

 これらは不動産(資産)のように見えますが、実態は負動産(負債)です。しかも捨てることができないリスクを背負っています。

 相続税は実態課税です。ならば負動産を負債(マイナスの財産)として資産から引いてくれてもいいのでは………。だが、お上は負動産にも容赦なく相続税を課税してきます。

 土地を捨てるには、所有権を他に移さなければなりません。負動産だと思ったら、その時点で思い切って処分してしまうことです。ババ(ジョーカー)だと気づけば誰も引いてくれません。

 最後の手段として「相続放棄」があります。相続人全員が相続放棄してしまったら、相続人不存在となり、利害関係人が相続財産管理人を選任し、債権者、特別縁故者、最後は国へ移します。

 ただし、子が全員放棄すると相続順位が変わり、子の伯父や叔母や従兄妹(代襲者)が相続人となってしまいます。これらも考慮し専門家と十分な打ち合せが必要です。

また、相続放棄したからといって、それで解放されるわけではありません。次へ引き継ぐまでは、放棄した相続人は管理責任を負います。そして相続財産管理人への費用の負担も出てきます。いずれにしても土地を捨てるのは容易なことではありません。 

相続税制改正から7カ月 野口レポートNo226

相続税制改正を受け平成27年1月1日の相続から相続税基礎控除(以下基礎控除)が引き下げられました。昨年までは、テレビ・新聞・経済誌・週刊誌等が大見出しで取り上げ、知識の乏しい一般市民の不安を必要以上にあおりました。

ビジネスチャンスとばかり、ハウスメーカーなども盛んに相続税対策セミナーを開催しました。借金の怖さが分からず、提案されるがまま節税対策をしてしまった人もいます。

あれから半年が過ぎました。実際に相続現場での影響はどうでしょうか。この7カ月で相談を受けた相続案件の分析です。

①相続税の課税されない人→ 45%
②特例(申告が必要)が受けられ相続税の課税されない人→ 15%
③100万円前後の相続税の課税される人→ 15%
④300万円以上の相続税が課税される人→ 20%
⑤1億円以上の相続税が課税される人→ 5%
②の層は昨年(改正前)までは、基礎控除以下で、何もしなくても相続税が課税されなかった人です。

③の層は昨年(改正前)までは、小規模宅地の特例等の要件を満たし、相続税申告をすれば課税されなかった人です。 

この分析はあくまで今年に入りアルファ野口が受けた相談や、受託した相続案件が対象です。地域性などで割合は異なってくることを承知の上、参考にしてくださればと思います。

今回の基礎控除の改正で影響を受けるのは②と③と④で、⑤は大勢に影響しません。また、小規模宅地の特例も240㎡から330㎡に拡大されました。要件を満たせば基礎控除の引き下げを吸収してしまう相続もあるでしょう。

注目していただきたいのは、大変だとさかんに言われていた、自宅と預貯金2000万円前後の③の層の納税額です。払えないお金ではありません。この③や④の前半の層の人たちに、借金を背負わせてまで、相続税節税対策をすすめる必要があるのかどうかです。

むしろ節税対策より、必要なのは遺言などで争いを防ぐ遺産分割対策ではないかと思います。相続の現場で起きる相続争いのほとんどが財産の少ない①~③の層で発生しています。

バブル期には相続税対策の名の下に大きな借金をした人が沢山いました。バブルが崩壊し、価値が急落する不動産に対し、価値が下がらない借金、気がつけば資産と借金が逆転し債務超過です。資産家が悲惨家となり、相続放棄せざるを得ない地主さんもいました。

地主さんは大きなお金に無防備です。そして小さなお金にはシビアです。メーカー主催の無料相続セミナーでは限界があります。有料の相続セミナーは偏らず公平です。目先の費用を惜しまず、正しい知識を得ておくことも自己防衛ではないかと思います。

業務独占と弁護士法 野口レポートNo226

動物や他の生き物は死ねばそれで終わりです。だが人間は亡くなると相続が開始するからやっかいです。
葬儀を済ませると悲しみに浸る暇もなく、やらねばならないことが山積します。借金取立人(税務署)も容赦なくやってきます。なかでも一番の難題は遺産をどう分けるかの分割協議です。

遺産分割の仕方には次の三つの方法があります。
①指定分割 ⇒ 遺言で誰に何を相続させるのか、遺産や相続割合を指定しておく。法定相続に優先します。
②協議分割 ⇒ 相続人全員の話し合いでどう分けるか決める。全員(多数決は無)が合意すればどんな分け方をしても有効です。
③調停・審判による分割 ⇒ 遺言もない、話し合いでも決まらない ⇒ 家庭裁判所の調停 ⇒ 調停不成立 ⇒ 審判 ⇒ 審判官は法定相続分を変えることはできません。判決は法律どおりです。

近年の相続は相続人層の推移とともに権利意識が強くなってきています。また、自分に都合のよい付け焼刃の知識(インターネット)だけが頭に残り、相続問題をより複雑にしてしまいます。
私はできる限り、遺産分割の話し合いにオブザーバー(潤滑油)として立ち会うようにしています。

ただし、相続アドバイザーは弁護士ではありませんので、やってはいけないことがあります。
①説得すること、②指示すること、③交渉すること、④誘導すること。また、遺産分割の立ち会いで報酬は頂戴できません。
弁護士以外の者がかかわる場合は、ここは十分に慎重を期し、俗にいう「非弁」にならないよう対応することが肝要です。

グレーゾーンにどこまで踏み込んでよいのか悩ましいのが業際問題です。弁護士法や税理士法は士業の利益を保護するためにあるのではなく、国民の人権や財産が無資格者の無知や悪意によって侵されることのないようにするのが目的です。ゆえに、弁護士業務や税理士業務は資格を保有している者しか行うことのできない「業務独占」になっています。

しかし、弁護士法に必要以上に怯えてしまったら、相続のお手伝いなどできません。弁護士法を正しく理解し、信念を持ってお客様をサポートし、結果として不動産など本来の業務につながり、そこでしっかり報酬を頂戴する、これが理想の形です。
また、相続は法律だけでは解決できない部分もあります。弁護士先生だけではそこまで手がまわりません。相続アドバイザーだからできることもあります。弁護士法の本来の趣旨を理解し、相互が補い協力し、円満かつ円滑な相続を実現し、お客様の経済的利益だけでなく、精神的利益も守って差し上げる、そんな理想の相続ができる時代が来ることを願っています。

ITの落とし穴 野口レポートNo224

「相続の研修と実務を通じて、自分を磨き、人の役に立ち、社会に貢献する」これは副理事長を務めている相続アドバイザー協議会の理念です。15年間この理念は一度もブレたことがありません。今では会員様も全国で1,000名を超える相続団体となりました。

SA協議会本部のある山手線高田馬場駅に降りると、鉄碗アトムのテーマ曲が発車メロディーとなってホームに流れてきます。

未来都市をバックに、飛び立っていく鉄腕アトムは永遠のヒーローです。手塚治虫の作品にはロマンがありました。少年達は競って手塚漫画を読み空想の世界に浸りました。

そのなかに人間がロボットに征服されてしまう話がありました。人間がロボットに征服される!?馬鹿な!とお思いでしょうが、今まさに人間はロボット(電子頭脳)に征服されようとしています。

どこを見ても一心不乱にスマートフォン、電車内の光景は異様な感じさえします。携帯やスマホを使っているつもりが、使われてしまっています。このことに気付いている人は少ないです。

地図や人間の勘はもう必要ありません。カーナビがどこへでも連れて行ってくれます。大事な電話番号も自分では思い出せません。難しい漢字もスマホが瞬時に変換してくれます。会計ソフトもどんどん進化、経理の人は不要になってしまいます。

昭和の時代はレジにお釣りを計算する機能はありませんでした。だが、お釣りの計算は誰もが当たりまえにできました。今はレジが至れり尽くせりです。人間は頭を使う必要がありません。大人でもお釣りの計算ができない人がいるそうです。

「メール脳」聞きなれない言葉です。長時間に亘り、ゲームやメールを使っている人の脳を見ると、認知症の人と同じような現象が出ているというショッキングなものです。

ITが進化し頼るほど、人間の脳は退化していきます。このままでは、人間は電子頭脳(ロボット)に征服されてしまいます。

今から半世紀以上も前、すでにこのことを察し、警鐘を鳴らしていた手塚治虫の鋭い洞察力には驚きます。

私は年賀状の宛名は手書きです。便利な時代に不便を選んでいる理由は、相手の名前を書くことで、年に一度は心のなかでお会いできます。積み重ね(一枚一枚)の大切さを実感できます。

ハガキ道の坂田道信先生、トイレ掃除の鍵山秀三郎先生、お二人にお会いすると桁外れの人間力を感じます。

坂田先生は、1日に30枚以上のハガキを書きます。鍵山先生のトイレ掃除は哲学の域に達し、掃除を通し人の心を磨いています。お二人とも、あえて不便を選んでおられます。

人間が作ったものに、人間が使われてしまう。ITの落とし穴です。この落とし穴にはまらないためにも、原点に戻り、時には意識して不便を選んでみることも必要ではないでしょうか。

相続税対策は自己責任ですよ 野口レポートNo223

エボラ出血熱・デング熱などのウイルスは肉眼では見えません。見えないものは不安です。不安が募ると恐怖になります。

今年1月1日より新相続税制がスタートしました。メディアが必要以上に不安をあおっています。ビジネスチャンスとばかり、無料の相続セミナーも盛んに開かれています。なぜ無料なのか、なんの疑問も持たない無防備の人たちでどの会場も満員です。

素人には相続税がいくら課税されるのかわかりません。見えないから不安です。見えたら不安は遠のきます。

仮に遺産が7,000万円で相続人は子が3人とします。改正前は課税なしでした。今年から相続税は約220万円課税されます。

たしかに庶民にとっては「大金」です。しかし、前もってわかれば算段できないお金ではありません。220万円の相続税を減らすために、数千万円の借金をして、二世帯住宅や賃貸併用住宅を建てる必要があるのか、ここを冷静に考えてほしいのです。

外階段で2階は長男夫婦が、1階は両親が住んでいる完全分離型の二世帯住宅は、昨年までは同居とみなされず、相続税小規模宅地の特例(一定要件下、自宅敷地は240㎡までは更地評価から80%引き、今年からは330㎡に拡大)の適用が受けられませんでした。

今では同居とみなし、特例が受けられるようになりました。ここが相続税節税対策として提案してくる理由です。

この対策には落とし穴があります。建築費を親が半分、長男が半分出しました。1階は親の名義にし、2階は子の名義にしました。これを「区分登記」と言います。区分登記をしてしまうと小規模宅地の特例が親の区分割合しか受けられません。

親と子が建物全体を出資割合で「共有登記」にしておけばこの特例を全て受けることができます。登記の仕方で相続税が大きく変わってきます。また、土地は親の名義です。二世帯住宅は将来の相続で同居の子が円滑に取得できるよう、遺言の作成が必要です。

賃貸部分の家賃収入で建築費を返済していく、賃貸併用住宅の提案もさかんに行われています。だが、賃貸併用住宅は生涯空室(自宅)をかかえるということです。全室賃貸でも苦戦する時代です。借金での賃貸経営は素人が考えるほど甘くありません。

銀行は土地と建物を担保に取ります。もし返済ができなくなったなら、容赦なく差し押さえ最後は競売にかけられます。

地主さんのように複数の物件があれば、1棟が赤字でも他の物件で何とか補えます。だが、賃貸併用住宅は1棟です。借金返済に行き詰まったら自宅を失うことになります。本末転倒の相続税対策による悲劇(破綻)は、これから少なからず出てくるでしょう。

提案してくれた人たちは後の責任など取ってくれません。相続税対策は「自己責任」であることを忘れてはいけません。

ニューヨーク研修の思い出(4)野口レポートNo22

   最近は電車に乗る機会が多くあります。日本でも若者の身長や会話はすでにグローバルスタンダードの感があります。だが、私を含めオジさん達はグローバルではありません。

 米国では不動産は金融商品であると位置づけられており、金融ビッグバンに続き不動産ビッグバンでの不動産グローバルスタンダードはもはや避けて通れません。

 だが、ハード面のみにとらわれ、ソフトの部分の研究がなされておりません。米国では自分の意思を形で表さなければ相手に通じません。「どうもどうも」と「YES NO」、この文化の違いがビッグバンやグローバルスタンダードの落とし穴にならぬよう気をつけたいところです。

 米国はとてつもなく広い国です。おどろくべき穀物の供給力を持ち、言葉はすでに世界を征し(国際語)、次はお金(ドル)?……。

 米国は一見バブルのようですが、浮かれることなく賃金の安易な上昇をきちんと押さえ経済のバランスが偏ることを防いでいます。

 米国人は合理的で底抜けに明るく見えます。だが「したたかさ」を持っています。米国の「戦略国家」としての根元がここにあるような気がしました。 

   グローバルスタンダードはアメリカンスタンダードでもあります。日本がむかえ入れるには米国文化と米国人を理解することが重要です。日本流にアレンジし、心して対応すれば沈没しそうな日本経済の一助になるのではないかと思います。  1998年10月

《追記》

16年前に自分の「目と耳」で、見たまま感じたままの当時の米国レポートです。しばし相続を離れ一服の清涼剤として発信させていただきました。楽しく読んでいただけたなら幸いです。

米国ではお客様の高額財産を扱う不動産業者には高い倫理観が求められています。不動産業者が一番先に学ぶのは倫理教育です。

この度、宅地建物取引主任者が宅地建物取引士と名称が変わり士業の仲間入りをします。これを機に倫理の重要性を認識し、米国のように倫理教育を優先課題とし、業界全体で取り組むことができたなら、日本の不動産業界も変わると思います。

また、当時の米国と同じことが今の日本でも起きています。不動産証券化や定期借家契約は当たり前、空中権売買も珍しくはありません。弁護士業界(就職難)にしてもしかりです。

今の米国では、法律(白黒)や税務(数字)の世界は、人口知能が人間に取って代わってきています。10年後の日本の姿を知るには今の米国を知ることが大切です。

近年、時代の変化がすさまじく、なかなか心がついていきません。心にも「老眼鏡」をかけ、社会の変化をしっかり見据え、変化に応じ転換を図れる体質を作っておきたいものです。  おわり

ニューヨーク研修の思い出(3)野口レポートNo221

    日本でも外資が不動産を積極的に買っているのが話題になっています。現地企業を訪問し、物件(東京都心の高級ビル)の販売カタログを目前に見せられたときは、さすがに衝撃をおぼえました。

 不動産売買は先ず仮契約をし、守秘義務を条件に売主は細部まで物件情報を開示します。買主にも自己責任の意識があり、自分の費用で不動産の人間ドックともいえるデューデリジェンス(精密検査)を実施します。買主が納得したなら本契約締結となります。

 通訳を介してですが相続対策や相続を専門に扱っている弁護士の話を聞けました。米国人は合理的で日本人のように土地や財産の所有権に固執しません。お金を生まない土地はどんどん手放します。

財産もバランスよく所有しています。彼らには日本の資産家(地主)が、現金を持ってないことは信じられないそうです。

 相続対策もおのずと違ってきます。所有権を財団や各種トラスト(一種の信託)に移し、元本を含め子々孫々が取り崩していく、言い換えると相続税を所得税に振り替える方法が基本のようです。

    資産を開示することが財産を守ることだと知っています。専門家も自分の立場は十分承知しています。クライアントは専門家を信頼し、これで全部だ「さあ~何とかしろ」です。

    多民族国家の米国では相続関係が複雑です。遺言を作成しておくことは常識です。遺言書式はコンビニで当たり前に販売しています。 

    財産は自分の意志でどう使おうが誰に渡そうが自由との考えです。日本のように遺留分制度もありません。遺言があれば「ハイそれまでよ」です。ちなみに遺言を意志(will)と呼んでいます。

       資産家は離婚時に財産分与でもめないよう、ほとんどが契約結婚とのことです。また、相続人どうしの遺産相続争いもあり、こればかりは万国共通のようです。

    日本の相続税は最高税率70%です。根こそぎ刈り取られてしまいます。米国人は賢い!一部だけ刈り取り(税率が低い)残しておけば、再び実り末永い収穫ができることを知っています。

 消費税は10%に近いのですが、他の税金は日本に比べかなりゆるやかです。金融ビッグバンでお金の垣根が外された現在、税制のグローバルスタンダード(国際レベルに合わす)は急務です。モタモタしていると日本のお金が外国に逃げてしまいます。

 最終日を前に、首都移転事業視察にワシントンに行きました。ホワイトハウスの庭ではイベントが行われており、主(大統領)がいるとみえ、ライフルを持った警備の警官の姿が屋根にありました。沿道等はかなりオープンで警備も日本と比べ手薄です。

 セックススキャンダルにもかかわらずクリントン大統領の支持率が依然高いのは、経済政策等の評価とプライベートとは別に考える米国人の合理性を思えば不思議ではありません。 次号へつづく