親の財産は親のために使う 野口レポートNo244

家族の状況や財産構成によっては「子供に財産を残さないで、親のために使う」これが最善のアドバイスと思うことがあります。

相続の適切なアドバイスには、遺産がどのような経過で築かれてきたのか、相続財産のルーツを知ることも大切です。

80代のAさん夫婦が相談に見えました。働き者のご主人と内助の奥様と素晴らしいご夫婦で、私も昔からよく存知あげています。

Aさんは、相続など金持ちの問題で自分には関係ないと思っていました。ところがテレビを見て財産が少ない人ほど、相続争いを起こすことを知り心配になりました。自分も高齢になったし、遺言を作りたいとの相談でした。

遺言の目的は子供達に円満に財産を相続してもらいたいとのことでした。話を傾聴してみると財産は自宅とそれなりの預貯金です。Aさんと奥様が力を合わせ築いた財産です。子供2人は遠隔地に住んでおり、状況から親の世話をするのは無理です。

相続相談は問題の本質を見抜くことが大切です。当事者は問題の本質など分かりません。法律と財産を一度頭から全部外し、無の世界から、相手の幸せを考えてみると本質が見えてきます。本質が見えれば何をすればよいのかが分かります。

この問題の本質は子供達の円満相続ではありません。高齢のAさん夫婦の老後です。Aさん夫婦に「私の有する一切の財産を〇〇(配偶者)に相続させる」との遺言を互いに作成していただきました。

互いが元気のうちは現在の自宅に住んでいればよし、一人になったら自宅を売却し、老人ホーム入居の費用に当てること、預貯金は老後の糧とすることを提案しました。

Aさん夫婦は子供達を立派に育てあげ、親の役目は十分果たしました。「子供に財産を残そうと思わないでください。自分達のために使うことを考えてください。」これが私のアドバイスです。もし最後にお金が残ったら子供達が法律通りに分ければいい話しです。

相続が難しいのは、日本人の財産構成が現在の民法と税法に合ってないところにあります。

民法は「均分相続」です。遺産が全部現金なら分けるのは簡単です。ところが多くの財産は分けにくい不動産です。

税法は「10ケ月までに現金一括納付」が原則です。これも全部現金なら即一括払いです。いくら取られても半分近くも残ります。

お上が財産構成に合わせ民法や税法を変えてくれるのか? そんなことは間違ってもありません。なら、財産構成を民法と税法に合わせていく必要があります。これも大事な相続対策です。

今は親が子に頼れる時代ではありません。子供を育てあげた後は「子に残すのではなく自分達のために使う」、もし残ったら子供達がありがたく相続させてもらう、そんな時代がきています。  

ツイてる ツイてる 野口レポートNo243

「結婚とは自分と一番相性の悪い人が一緒になることです。だから永平寺に3年いくよりよっぽど修行になりますよ。相性の悪い人にめぐりあったら、この人と結婚するんだなあ~、俺は修行をするんだと思えばいいのです。」これは斉藤一人さんの名言です。

私も修行を始めて46年になりました。修行に耐えかね途中でやめてしまう人がいます。が、この修行は一度始めたら生涯続ける覚悟が必要です。自分で選んだ道だからなおさらです!

一人さんは全国長者番付で、金メダル、銀メダル、銅メダル、を始め、多くの実績をお持ちです。しかもすべて事業所得です。イチローもすごいが、一人さんもすごいです。

今は個人情報の関係で公表されていませんが、長者番付1位とは、言いかえれば日本で一番多く税金を払っている人、ある意味では社会に貢献している人にもなります。税務署が表彰しても、国民栄誉賞をもらってもおかしくありません。

利益があがると、やたら節税対策を指導する先生や、税金を払いたがらない経営者がいます。税金に取られる位ならと、不相応の社員旅行をしたり、まだ使える車を買い換えるなど、目先の節税に走る人は少なくありません。

不必要な経費を使い利益を圧縮したら会社にお金は残っていきません。税金を払うからこそ会社にお金が残るのです。この内部留保が会社の底力となり、イザのときの兵糧となるのです。

「ツイてる ツイてる」は、一人さんがいつも口にしている言葉です。何ごとも必要があって起こること、だからありがたいこと、何があっても「ツイてる ツイてる」です。

ながい人生には運の悪いできごとや、不幸なできごとは必ずやってきます。一人さんはそんなときでも「ツイてる ツイてる」気がつけば億万長者、「ツイてる ツイてる」はマイナスをプラス思考にかえてしまう幸福の言葉、心の「おまじない」です。

不平不満、グチ・泣きごと、悪口・文句、これらマイナス思考の言葉には貧乏神が寄ってきます。そして人は幸せになれません。

恨み辛みは生きていれば誰にも生じます。辛い思いをしたからと相手を恨みたくなるのは人情です。が、恨み辛みは自ら断ち切らねば、また自分のところへ還ってきます。

相続で相手を恨んでいる人がいます。お会いする度に「恨むな恨むな」と言い続けます。1年が過ぎたころ、「野口さんにいつも言われるので、そう思えるようになりました」とお礼を言われました。恨み辛みが消えたとき不運が幸運に転じツキに恵まれます。

ありがとうおじさん、森 信三、鍵山秀三郎、坂田道信、斉藤一人、この方々に一貫して通じるものがあります。その源は、ありがとうございます。この「感謝の心」です。  

自筆証書遺言を生前に開封する 野口レポートNo242

相続コーディネーターとして相続のお手伝いを始めて21年になります。この間に多くの自筆証書遺言を見てきました。

遺言は無いより、有ったほうが良いのは言うまでもありません。仕事の展開が円滑(円満とは別)に進むことは確かです。

しかし、欧米の60%~80%に比べ、日本人の遺言作成率は亡くなる方のわずか10%弱と圧倒的に少ないのが現状です。

「ウチの子に限って」親ならば誰もが思う親心。しかし、親の思いや願いが子に通じるとは限りません。こればかりはフタが開いてみなければ分かりません。

相続人層の移り変わりに伴い権利意識は増すばかりです。「法定相続分」この言葉が当たり前に出てきます。特別受益、寄与分、遺留分など、法律用語も飛び出してきます。

インターネットで相続情報はいくらも入ってきます。自分に都合の良い付け焼刃の知識だけが頭に残り、相続での話し合いを一層難しくしています。相続に対する子(相続人)の権利意識や時代の変化を見据え、親も遺言の必要性を認識すべきだと思います。

遺言は法的に厳格な要件があります。公正証書なら法律の専門家が作るので法的不備が原因で無効になることはないでしょう。

それに対し自筆証書は法的要件を満たさずに無効となるものや、法的要件を満たしていても内容が不備で使えない遺言など、経験値からすると全体の40%近くもあります。

《無効の遺言の典型》◎日付が何月吉日 ◎何月までしかない ◎押印がない ◎遺言者が連名 ◎一部がスタンプ。 

《法的要件を満たしていても使えない遺言》◎自宅裏の土地(裏には複数の土地がある。) ◎地番しか記載されてない(同じ地番は全国にいくつあるか分からない。) ◎土地が住居表示 ◎預貯金の口座が特定できない ◎受遺者が特定できない(良子に相続させる。)全国に良子さんは何人いるか、妻良子とあれば特定できる。

「半分近くが不備や無効」この現実を知りながら、「プロとして何もしなくてもよいのか!」私はできる限り生前に開封するようにしています。相続後に開封すると5万円の過料を取られます。だが、生前にご本人(遺言者)に開けてもらう分には問題ありません。

チェックし無効であれば作り直すことができます。有効であってもこの機会に公正証書にするとか、公証役場に行くのが面倒なら新たな封筒に入れ直しておけば済むことです。

封印した自筆証書遺言を後生大事に保管し、家庭裁判所の検認でいざ開封し、無効の遺言が出てきたら目もあてられません。自筆証書遺言は専門家の指導を受け作ることをすすめます。

分割が難しい日本人の財産構成や、子の権利意識の変化を考えると、現代では遺言作成は親の義務のような気がしてなりません。

借金から子の人生と親の財産を守る 野口レポートNo241

ハウスメカーなどの相続セミナーが盛んです。借金すれば相続税が減ると誤解している人もいます。借金しても相続税は減りません。アパートやマンションを建てるから減るのです。

目的を節税にした賃貸経営は本末転倒です。目的は賃貸経営でなければなりません。結果として相続税が減る、これが正しい賃貸経営のありかたです。ここを取り違えると賃貸経営は失敗します。

節税対策を目的に駅から30分のところへ複数の賃貸マンションを建てたAさんが亡くなりました。多額の借金、空室増加、賃料下落、加え金利が上昇すれば債務超過になる可能性があります。

子は父親の相続を放棄(父親の兄弟と調整が必要)し、連帯保証人の母親が全財産を相続することを提案しました。2次相続で時代の変化や状況を見極め、子は承認か放棄かを再度選ぶことができます。債務超過なら相続を放棄し、親の借金から子の人生を守ることができます。ただし、子が連帯保証人でないことが絶対条件です。だが、子ども達は決断できず父親の財産を相続しました。

 ある母親から相談を受けました。息子(50代)が多重債務におちいり、金融業者の対応や息子へのお金の工面で疲れ切っています。息子さんに会いましたが働く意欲がありません。

親は不動産を所有しています。金融業者は本人に返済能力がないことなど承知です。相続を見込んで貸しています。相続が開始したら本人に代位し、不動産を法定相続分で登記し差し押さえます。

息子の借金から親の財産を守る必要があります。息子以外の相続人に財産を相続させる公正証書遺言を作成しました。

母親と3つの約束をしました。親は保証人になっていないので金融業者に絶対払わないこと、息子にはお金を渡さないこと、何かあったらすぐ電話をくれること、とりあえず一安心と思ったら予期せぬことが起こってしまいました。

高齢の両親より息子が先に亡くなってしまったのです。住んでいたアパートのポストは複数の金融業者の督促状でいっぱいです。

息子は独身なので、相続人は両親になります。息子の借金は親が相続します。金融業者は相続放棄ができる3ヶ月以内は請求してきません。司法書士をコーディネートして家庭裁判所へ両親の相続放棄を申し述べました。親の放棄が確定すると相続順位が変わり、兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹に相続放棄させ、息子の借金から親の財産を守ることができました。

正の財産の相続は支援してくれる専門家はたくさんいます。だが、借金や保証債務など、この影の部分(負)の相続は専門家の支援がありません。泣き寝入りを余儀なくされている人もいます。

親の借金から子どもの人生を守る。子どもの借金から親の財産を守る。置き去りになりがちですが相続での重要なテーマです。

書き続けて20年になりました 野口レポートNo240


平成5年12月、親の代から続けてきたGSの廃業を決断しました。歳(48歳)からも転業するにはラストチャンスでした。

借金をしてGS跡地に賃貸マンションを建てると相続対策になるからと、以前から建築会社とお抱え税理士に提案されていました。

素人には相続など専門的なことはわかりません。素人側に寄り添い、専門家との間をコーディネートしてくれる人がいたならどんなにか心強いか、このような仕事を社会が求めてくる時代が必ずやってくる。これが自分の仕事だ! 直感的に感じました。

だが、壁に当たりました。士業でない自分がどこで報酬を頂戴できるのか? 冷静に見てみると、相続の時には必ず不動産が動くことに気付きました。そうだ!「不動産屋になればいい、不動産をベースに相続に特化すれば飯が食える」2年後の開業を目指し宅建試験に挑戦、相続も徹底的に勉強し、平成7年(50歳)不動産業を開業することができました。人生をかけた180度の転身でした。

「10年偉大なり 20年畏るべし 30年歴史なる」中国の格言です。野口レポートも書き続けて20年になりました。

ある資産情報誌に著名な女性税理士が、「子どものいない夫婦と遺言」をテーマにコラムを書いていました。しかし、法律と税務に終始し、素人にはわかりづらく、文面からは暖かさや思いやりが伝わってきません。自分だったらこう書くだろう、目線を下げて心を込め書いたのが野口レポート第1号(全財産を妻に渡したい)です。以来240号まで続けることができました。

この野口レポートですが、たった一度だけ挫折しそうになったことがありました。元気だった父親が急逝した時です。集中できず書けないのです。ここで止めてしまったら今まで続けてきたことが無意味になってしまいます。気力を振り絞り、やっとの思いで書いたのがNO、52号でした。

父親の突然の他界は色々な意味で多くの試練を与えてくれました。あの踏ん張りがなかったら、野口レポートも相続コーディネーターとしての今の自分もなかったかもしれません。

「感謝の気持ちと譲る心の大切さ」この言葉の意味を多くの人に知っていただきたい、楽しく読みながら相続の正しい知識を身につけていただきたい、相続を失敗し不幸になってしまう人を少しでも減らしたい、そんな想いで20年間書き続けてまいりました。

野口レポートは自分の生き様そのものです。あと10年「30年歴史なる」までは続けたいと思っています。

古稀を迎えましたが、気持ちと心はまだ青年です。相続で自分を必要としている人がいる限り、天からいただいた寿命がある限り、生涯現役で仕事を続け、世と人のお役に立ちたいと思います。

どうぞこれからもよろしくお願いします。

相続での預貯金は可分債権 野口レポートNo239

相続での預貯金は遺産分割協議をすることなく、相続人が法定相続分で取得できる「可分債権」です。

しかし、実際には遺産分割協議で取得しているのがほとんどです。また、銀行も可分債権だからと言って、ハイそうですかと応じてくれません。相続人全員の同意を求めてきます。

可分債権として引き下ろすには、銀行や、ゆうちょ銀行を相手に預貯金返還請求の訴訟を裁判所に起こさなければなりません。

知人からある老婦人の相続の相談を受けました。第3順位の相続です。相続人は残された奥様Aさん(82歳)と、ご主人の兄弟姉妹です。Aさんとは全く面識のない代襲相続人や、音沙汰のない行方不明者など、20名近い相続人が関東一円に散らばっています。

自分の手にはおえないと丁寧にお断りしました。数日後Aさんが直接お見えになり、頼る人が誰もいないので何とかお願いできないかと嘆願されてしまいました。すでに某司法書士事務所へ依頼しているが、2年間何の動きも連絡も無くそのままとのことでした。

預貯金は凍結されており、生活費も底をついてきたとのことです。事情を聞いてしまったので断るわけにはいきません。先ずは司法書士の依頼を取り下げ、預けてある書類を戻してもらいました。 

遺産は借地権付建物とそれなりの預貯金です。Aさんの法定相続分は4分の3です。Aさんの今後の生活費を確保することが優先です。遺産分割の話し合いで取得するのが理想ですが、この状況で全員からはんこをもらうには何年かかるか分かりません。生活費もすでに底をついてきています。

可分債権である預貯金を法定相続分(4分の3)で取得するしかないと判断し、弁護士をコーディネートすることになりました。

銀行と、ゆうちょ銀行を相手に預貯金の返還請求の訴訟を起こしました。銀行は某メガバンクでしたがなかなか応じてくれず、判決まで求めてきました。判決は当方の主張が入れられ払戻請求が認められ、Aさんの老後の生活費を確保することができました。

借地権は未分割のままです。だが、Aさんが住む分には差しつかえありません。気の毒なのは地主です。借地人が20数名に枝分かれしてしまい、Aさんが他界すればその兄弟姉妹(代襲者を含む)が更に借地人となります。借地は塩漬け状態となり何もできません。

ご主人が生前に専門家に相談し遺言を作成していたら何の問題も起きませんでした。兄弟姉妹には遺留分の権利がありません。遺言があれば全財産はAさんに渡ります。地主にしても借地人が枝分かれせず、借地の交渉事が可能となったはずです。

昨今、相続での可分債権(預貯金)については、遺産分割の対象に含めるとの民法改正の動きや、最高裁大法廷でも争いがあり、相続での預貯金債権の扱いが今後どうなるかは不透明です。

相続放棄と相続分の放棄 野口レポートNo238

相続には多くの誤解があります。代表的なものは「借金をすれば相続税が減る」です。借金そのものに相続税を減らす節税効果は生じません。借金で得た現金でアパートを建てるから減るのです。

もうひとつは「相続放棄」と「相続分の放棄」の混同です。これは負の財産(借金・保証債務)の状況によっては誤解では済みません。特に突然に表に出てくる保証債務は怖いものがあります。

それではその違いを説明してみましょう。

相続放棄⇒相続人であることを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し述べます。放棄が受理されたら最初から相続人ではなくなります。被相続人との間に一切の相続関係は生じません。不動産や預貯金など正の財産は相続できません。当然に借金や連帯保証人の地位(保証債務)など、負の財産も相続しなくて済みます。

相続分の放棄⇒財産はいらないと、遺産分割協議書に判子を押し、相続を放棄したと言っている人がいます。これは相続放棄でなく相続分の放棄です。ゼロの財産を相続したことになり、相続人の地位は残ります。借金や保証債務は相続人全員が法定相続分の割合で相続する「可分債務」です。一切財産はいらないと相続分の放棄をしても、これらの債務は相続してしまいます。

子どものいない夫婦がいました。不幸にもご主人が急逝してしまいました。相続人は奥様とご主人(長男)の父母です。義父母から見ると奥様は出来た嫁です。実の娘のように可愛がっていました。息子の財産は全部お嫁さんが相続できるよう、相続放棄の手続きを司法書士へお願いしました。司法書士も義父母の話を傾聴せず、言われるまま相続放棄の手続きをとり、受理されてしまいました。

 受理されると最初から相続人でなくなります。相続に関し直系尊属が存在しないことになり、相続順位が第3順位に移ります。

相続人は奥様と、ご主人の兄弟姉妹に変わります。義兄弟姉妹と遺産分割の話し合いをしなければなりません。残された奥様にとってこれは辛いものがあります。この場合は、遺産分割協議で義父母が「相続分の放棄」をすれば、相続人の地位は残るので相続順位は変わらず、奥様はご主人の全財産を円滑に相続できたのです。

負債相続は専門家の支援がありません。予想しなかった借金が出てきた。放棄したいが3ヶ月は過ぎてしまった。相談者はワラをもつかむ思いです。が、ここであきらめてはいけません。1年が経過した後の相談でも、負債相続の専門家(希少)につなぎ、相続放棄が受理されたケースもありました。

また承認か放棄か3ヶ月で判断できない時は、相続放棄の期間伸長や再伸長の手続きをすることで時間を稼ぐことができます。

万民に公平であるべき法律ですが、知ると知らぬでは大きな不公平が生じます。そして「法律を知らなかった」は通用しません。

養子縁組と相続 野口レポートNo237

 相続人になれる人は民法で決められています。血族相続人と配偶者相続人の二通りです。配偶者は相続順位が変わっても常に相続人となります。養子も法律で血がつながった法定血族として実子と同等の相続権を持ちます。お腹の胎児にも相続権があり、オギャ~と生まれたら立派な相続人です。

今回は養子縁組と相続についてお話してみましょう。

《税法》実子がいる場合は1人まで、いない場合は2人までが税法上の「相続人の数」としてカウントされ、相続税基礎控除の相続人控除1人600万円が受けられます。また、生命保険受取金や、死亡退職金の非課税枠が増え節税効果が得られます。

孫を養子にすれば祖父や祖母の相続人となり、子を飛び越えて孫へと一代飛ばして財産を渡すことが可能となります。ただし、孫養子は相続税が2割加算されます。それらを考慮しても状況によっては大きな節税効果が期待できる場合もあります。

ここで問題になるのは孫養子を遺産分割のテーブルに着かせるかどうかです。他の兄弟姉妹にとって孫養子の存在は自分達の相続分に影響するので決してよろこべるものではありません。同じ土俵にのせてしまったら遺産分割が円滑にいくとは限りません。

このような場合は孫養子を遺産分割から外しておきます。孫養子を除いた相続人の間で遺産分割が合意したなら、長男が「自分の相続分の何割かを子(孫養子)に相続させてほしい。」と兄弟姉妹にお願いします。これならば他の相続人の相続分に影響しません。ほとんどが承諾してくれるでしょう。

《民法》民法では養子が何人いようが全員が実子と同等の相続権を持ちます。普通養子は実親と養親の双方から相続を受けられます。母親が再婚した場合、連れ子は新たな父親の相続人にはなれません。養子縁組をすることで初めて義父の相続人となります。連れ子養子は税法上も「相続人の数」としてカウントされます。

 養子縁組後にできた養子の子は養親の代襲相続人になれますが、養子縁組前の養子の子は代襲相続ができません。何らかの対策が必要となります。また養子は遺留分を引き下げる法務対策としても使われることがあります。

 養子縁組届は証人2人がいれば受理する市町村区長が形式的な審査権を持つだけで、実質的な内容に立ち入ることはありません。これは日本の戸籍制度の脇腹の甘いところで、悪用されたら怖いと思います。婚姻や養子縁組は「不受理届」を出しておくことで虚偽の届け出を防ぐことができます。

養子縁組は相続に深く関係してきます。税務上や民法上の相続対策としてもよく使われますが、養子になる本人の気持ちも十分考えて差し上げる配慮も必要です

弁護士 大胡田誠さん 野口レポートNo236

主宰している野口塾に、弁護士の大胡田 誠さんにお越しいただき、特別研修をさせていただきました。多くの刑事・民事事件を手掛けている普通の弁護士さんです。ただ、他の弁護士と違うところは大胡田さんが全盲であるということです。

透き通った声から大胡田さんの想いが伝わってきます。研修後は懇親会場へ。途中の公園でプチ花見をし、桜にも触れていただきました。満開の香りが心のなかに広がったことと思います。懇親会にもお付合いくださり、懇親を深めていただきました。塾生たちも大胡田さんから多くの気づきをいただいたことでしょう。

大胡田さんは先天性の緑内障のため12歳の時に両目の視力を失いました。全盲では日本で3人目の司法試験合格者です。普通に考えれば司法試験に挑戦すること自体が無謀です。合格するまでにどんな苦労があったかは計り知れません。

著書「全盲の僕が弁護士になった理由(ワケ)」を読ませていただきました。2度読んだ後は付箋だらけになっていました。講演とあわせ、感じたところをいくつか紹介したいと思います。

◎「見えないからやめておこう」ではなく「見えないなら、どうやったらできるだろう」そんな風に考える癖がいつの間にか身についていた。◎「もう無理だ」と思った時が一番夢に近づいたとき。◎4回目の受験に失敗し、もう辞めるべきかと心が折れかけた時、母は良いとも悪いとも言わず、ただ一言「人生で迷ったときには、『自分の心が温かい』と思う方を選びなさい。」と言ってくれた。自分の心が何を本当に欲しているのか。答えはそこにしかないんだと教えられた。◎全盲の先輩弁護士の言葉です。「弁護士の仕事は、法律に『人格』を載せて売る商売なんだ。」だから君もいろいろな経験をして自分を磨きなさい。

ご両親が偉大だったのは特別扱いしないで、ごく普通の子として扱ったことです。家庭には笑いが絶えなかったそうです。このご両親なくして弁護士大胡田 誠は誕生しなかったと思います。

大胡田さんは結婚され(奥様も全盲)2人の子供さんがいます。盲目の夫婦が子供を育てることは並大抵のことではありません。

ご夫婦が子供たちに残したいのが、自分たちの生き方です。「子供たちにとって我が家は特殊な環境かもしれない。将来苦労をかけるかもしれない。でも僕たち夫婦だからこそ見せてやれるものがあると信じている。『だから無理だ』と逃げるより、『じゃあどうするか』と考えるほうが人生は面白くなる。このことを自分たちの生き方を通じて子供たちに見せてあげたい。」素晴らしいですね。

長女は5歳となり、お父さんの手を引いて歩いてくれるそうです。子供たちはご両親の生き方をしっかりと見て、何にも勝る財産を引き継いでいくことでしょう。

三つの相続対策 野口レポートNo235

相続対策には大きく分けて三つの対策があります。

①遺産分割対策⇒ 遺言で相続紛争を事前に防止し、かつ資産を整理し、分けやすい財産にしておく対策です。相続税納税対策にもリンクしてきます。

②相続税納税対策⇒ 相続開始後10か月以内に相続税を現金で一括納付できるよう納税資金調達の準備をしておく対策です。

③相続税節税対策⇒ 課税価格を下げ相続税を減らす対策です。代表的なものがアパート建築です。

この三つの対策のうち①②と③は性質が違い同じ方向を向いてくれません。時には反対の方向に向かってしまうこともあります。借金による節税対策が裏目に出て、相続税納税に支障をきたしてしまう人も少なくありません。

◎極端ではありますが例を取ってみましょう。
1億円の更地に1億円の借金をして1億円のアパートを建てました。出来上がったアパートは本来1億円の価値があります。ところが相続での評価は半分以下に下がります。債務控除できる借金は1億円のままで下がりません。この差に節税効果が生じます。つまり相続税が減るのは借金ではなくアパートを建てるからです。

◎節税対策としては大成功です。だが、納税対策を怠ったゆえに納税資金が調達できません。しかたなく、アパートを売却することになりました。土地の上にアパートが建ってしまったら、土地と建物は一体(収益還元価格⇒その物件が年間どのくらいの家賃を稼ぐかの利回り)で価格が決まります。売却し残りの借金を精算したら、手元にお金はあまり残らないでしょう。

大局の視野に立ち納税対策を優先し、更地の駐車場にしておけば1億円で売却し、相続税は楽々と納付でき、かつ手元にお金が残ったはずです。節税対策は成功しましたが納税は失敗です。

◎相続税は何とか払えました。複数の相続人でこのアパートを分けることになりました。切って分けるわけにはいきません。持分の共有となります。相続での兄弟の共有(特に収益物件)は、遺産分割の先送りと同じです。後々の不動産の「共憂」となってしまいます。節税対策は成功ですが、遺産分割は失敗です。

このように節税対策と、納税・分割対策は同じ方向を向くとは限りません。大事なことは三つの対策のうち、我が家はどの対策を一番必要としているかを見極め、その対策を優先することです。

銀行やハウスメーカーはそんなこと考えていません。提案してくるのは、ほとんどが節税対策です。ここは安易に口車に乗らず冷静な判断が必要です。相続は森を見ずして木を見てしまうと失敗します。提案者は後の責任など取ってくれません。あくまで相続税節税対策は自己責任であることを忘れてはいけません。