認知症と成年後見制度 野口レポートNo251

ある息子さんから電話を頂きました。母親は認知症で施設に入所し判断能力がありません。息子さんが銀行の融資を受け、母親の土地を使用貸借(無償)し、その上に家を建てています。母親の土地には銀行の抵当権(物上保証)が設定されています。

息子さんはローンを完済し、この土地に設定されている抵当権を外したいと銀行に相談しました。ここまでは普通の話です。

腹が立つのはこの相談を受けた銀行員の対応です。「分かりました。お母さんは認知症なので抵当権を外すには、成年後見人(以下後見人)をつける必要があります。明日、当行の系列の弁護士を向けるから、後見人になってもらって下さい。」この行員は後見人がつくとどうなるか、お客様にリスクを全く説明していません。

電話を受けて「チョッと待った!」とストップをかけました。すぐに銀行に断ってくださいと言いました。土地売買などの事情があるならば抵当権を外さなければなりません。だが目的はその土地の使用貸借です。抵当権など何の問題もありません。急いで外す必要はなく、母親が亡くなってから外せば足りることです。

 もし、電話をくれなかったら、息子さんは行員の言うことを真に受け、母親に後見人をつけてしまったことでしょう。

一度後見人をつけてしまったら、生涯外すことができません。母親の一切の財産は後見人が管理し、今まで息子さんが容易にできたことが何もできなくなります。

後見に対し正しい知識を欠き、安易に後見人をつけてしまい、失敗したと後悔している人もいます。よほどの事情が無い限り、つけなくて済むならば、後見人はつけないほうが良いと思います。

最近は相続で多くぶつかるのが認知症の問題です。被相続人が高齢なら配偶者も高齢です。認知症を発症している可能性があります。

認知症の発症や、重度の精神上の障害など、相続人に判断能力に欠ける人いる場合は、後見人をつけなければ遺産分割がでません。

後見人は原則として遺産分割で、被後見人の法定相続分を確保しなければなりません。また、相続手続きが終わったからといって、後見人を外すことができません。認知症の母親に渡った財産は生涯にわたり、後見人が管理することになります。

あちらでも信託、こちらでも信託、巷では民事信託が流行っています。認知症対策にも使われています。だが、民法で可能なことはできる限り民法で対応したいものです。手短に確実にできる方法として遺言による認知症対策があります。

全財産を遺言で相続人に指定しておけば、遺産分割協議は必要なく後見人も不要です。ただし、信託も遺言も被相続人になる人が認知症になってしまってからではできません。認知症対策は手遅れにならぬよう早めの対応が必要です。

相続の開始と銀行手続き 野口レポートNo250

動物は死んだらそれで終わりです。植物も枯れたらそれで終わりです。人間は亡くなると相続が開始します。やらねばならぬことが山積します。そのなかのひとつに銀行手続きがあります。

預貯金の取り崩しには「代償分割」の方法を使います。取りあえず代表相続人(長男)が全ての預貯金を一人で相続し、預貯金の解約など銀行手続きをします。次は遺産分割で「代償金」として合意している金額を各相続人へ振り込みます。

各相続人が銀行窓口に行って個々に手続きを取るより、合理的でスムーズに事が運びます。

遺産分割協議書は、全ての財産が記載されている原本、不動産登記用、銀行用(各銀行)の3通りを作成します。

原本は、その家のトップシークレットです。不動産や銀行の手続きに全財産をさらけ出す必要はありません。

相続人に高齢のおばあちゃんがいます。分割協議書に全部自書を求めるのは無理です。自書は原本のみにいただき、不動産登記用や銀行用の分割協議書は印字の記名にし、相続人様と一緒に銀行手続きに行きました。都市銀行や地方銀行はOKです。ゆうちょ銀行もすんなり通りました。最後に地元の某○○金庫へ行きました。

窓口や担当者に相続の知識が乏しく、いつも手続きが円滑に進まないところです。やはり、クレームをつけられました。

行員「記名の遺産分割協議書では手続きができません。」 私「実印が押してあり、印鑑証明も添付してある、他の銀行はこれで通っている、自書してあるのは原本しかありません。」 行員「それでは原本を持ってきてください。」 私「原本は〇〇家のトップシークレットなので出せません。本部の担当者に確かめてください。」 行員「他行は知りませんが、うちはそういう決まりになっています。」

サービスより保身を優先するか……。敏速な相続手続も大事なお客様サービスではないでしょうか。相続税の納付期限も迫っており時間がありません。結局は要求をのみました。

相続の銀行手続きは書類や方法など各銀行まちまちです。手続きの簡素化、書式や方法も統一願いたいものです。

借金などの債務も銀行手続きが必要です。被相続人に3,000万円の借金(アパート建築資金)があります。アパートは長男が相続しました。この借金は相続人全員が法定相続分で相続します。ただし、長男が借金を相続することを銀行が承諾(免責的債務引受契約)してくれたなら、他の相続人はこの借金から離脱できます。

借金の銀行手続きは専門家の支援がほとんどありません。相続人(素人)対 銀行(プロ)で行われます。言われるがまま判子を押してしまう人もいます。借金の相続手続きの怖いところです。

銭勘定と人感情の借地問題 野口レポートNo249

借地人「ここに住まなくなったので、借地権を買い取ってくれませんか。」地主「買えだと、とんでもんない。使わなければ無償で返すのが当たりまえだろう。」 

借地人「ならば仕方ありません。他の人に売ります。」地主「売れるものなら売ってみろ、裁判でも何でもやってやろうじゃないか。」

地主と借地人がこんなやりとりをしたあと、借地人さんが私のところへ相談に見えました。

旧法借地権が難しいのは度重なる改正で、本来は債権である土地賃借権を、物権である所有権に限りなく近づけてしまったことにあります。日本で唯一、借りたものを返さなくていい法律です。

借地権の譲渡は、地主の承諾が得られなければ、借地非訟手続きで裁判所が代諾許可を出してくれます。だが、地主と揉めている借地をあえて買う人がいるかどうかは疑問です。

また、買主が銀行から融資を受けるには地主のハンコが必要となります。揉めていたらハンコなど押す地主はいません。代諾許可での借地権譲渡は現実には難しいものがあります。

借地人さんの相談を受け、取りあえず地主さんのところへ行きました。地主さんは借地人さんに対し怒り心頭です。

そんな折、ある住宅メーカーが提案してきました。借地権を買い取りたいとのことでした。投資家からお金を集めアパートを建て、家賃収入を配当するとのことです。ファンドを組めば銀行から融資を受ける必要はなく、地主さんのハンコもいりません。

しかし、このまま住宅メーカーに借地権を譲渡してしまったら、その道のプロが容赦なく入ってきます。地主さんはいやな思いをするでしょう。借地人さんにしても後味の悪さが残ります。

借地人さんを説得し譲渡価格を下げていただきました。地主さんの奥様にも状況を説明し、ご主人の説得をお願いしました。地主さんも一歩譲ってくれ借地権を買い戻してくれることになりました。

ここで予期せぬことが起こりました。借地人さんに止むを得ぬ事情が生じ、引っ越しが延びてしまったのです。せっかく合意したのに借地を引き渡すことができなくなりました。

少ない脳ミソと知恵を絞り、ある提案をさせていただきました。

(1)地主さんが借地権付建物を借地人さんから買い取る。(2)地主さんの所有になった建物を、借地人さんが更新のない定期借家契約で借り、払っていた地代相当額を家賃として払い、引っ越し準備が整うまで引き続き住む。(3)この二つの契約を同時に行う。

1年後、無事に引き渡しは終了し、双方から感謝されました。犬猿の仲であった2人でしたが、最後は互いが譲ってくれました。

銭勘定に人の感情が絡んでくる借地問題は、相続問題とよく似ています。相続ができる人なら借地問題も解決できるでしょう。無益な争いを防ぎ、社会に貢献するところでは共通しています。

遺留分と減殺(げんさい)請求権 野口レポートNo248

遺留分とは相続人に残された最低限の財産分のことを言います。配偶者と子は法定相続分の半分が遺留分です。遺留分減殺請求をして初めて効力が生じます。遺留分を侵害されていると知った時から1年、知らなくても10年で時効により消滅します。

遺言で不動産を取得した人は、相手の減殺請求に対し、現金で払えば足りる「価格弁済の抗弁」があります。相続放棄は生前にはできませんが、遺留分放棄は生前に可能です。また、第3相続順位の兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。

あるご主人(Aさん)が亡くなりました。遺産は自宅の土地・建物のみで、Aさんは再婚です。後妻さん(Bさん)は、幼い先妻の子どもたちを、我が子のように育て立派に成人させました。Aさんは公正証書の遺言を残しておりました。

49日の法要を終えホッとしていると、弁護士から1通の内容証明が届きました。先妻の子(Cさん)から、よもやの「遺留分減殺請求」です。Bさんとしては、恩を仇で返されたような気持ちです。

原因は、全財産を妻へとの包括遺贈であったこと、他にも財産があると思われてしまった。ご主人の気持ちを添えておく「付言」がなかった。あとはCさんの経済事情などが考えられます。 

一度上げてしまった手は下ろせません。家庭裁判所の調停で決着がつきましたが、弁護士費用などを差引くと、減殺請求をしたCさんの手元に残るお金はわずかです。継母から受けた愛情と恩を仇で返してしまったCさんは生涯後悔することでしょう。

 全く同じパターンの事例です。こちらの後妻さんは遺留分減殺請求をされませんでした。遺産はわずかな預貯金と借地権付建物です。葬儀を済ますと、先妻の子どもたちから「私たちにも権利があるんですよね」と度々電話が入ります。

 公正証書遺言がありました。財産が全部明記(少ないと分かる)されており、「妻へ」との内容です。なぜ、このような遺言を残したのか、ご主人の心情が見事に綴られた「付言」があり、最後はみんな仲良く暮らしてほしいと結ばれています。

遺言を公開してから電話はピタリと止まりました。遺言は、法律効果のある本文と、遺言者の気持ちを伝える「付言事項」があります。付言は法的効果こそありませんが、相続人の心に響き無益な争いを防ぐ予防効果があります。

もし父に好きな女性ができ、全財産を遺贈するなどの遺言を書かれたら、残された妻子は路頭に迷います。こんな時には「遺留分減殺請求権」この法律が光り輝くことでしょう。

だが、その多くは一族の崩壊につながります。減殺請求の内容証明は相続争いの宣戦布告です。内容証明が届いた瞬間に相続人は、一族の「和」この何にも勝る大切な財産を失います。

遺産分割と預貯金債権の扱い 野口レポートNo247

相続での預貯金は法律では当然分割として扱います。当然分割とは遺産分割が不要であるという意味です。預貯金は相続人が法定相続分で当然に取得できる「可分債権」だからです。

しかし、銀行は可分債権だからと言って、「ハイそうですか」と応じてくれません。銀行実務では相続人全員の同意を求めてきます。同意が得られず、可分債権として引き下ろすには、銀行を相手に預貯金返還請求の訴訟を起こさなければなりません。

平成16年の最高裁判決で、原則預貯金は法定相続分で相続人に当然に分割されて、遺産分割の対象とならないとされていました。

ところが、平成28年12月19日の最高裁大法廷で「預貯金債権は遺産分割の対象財産とする」との判例変更が決定されました。

この判例変更で法定相続分での預貯金返還請求ができなくなり、以下のような相続人は救われません。

事例①⇒「奥様に先立たれたBさんは、1人で寂しい日々を過ごしていました。10歳年下で独身のCさんとご縁があり後妻にむかえることができました。生活は一転し充実した日々に変わりしました。自分が先に逝くと思ったBさんは、後妻さんが困らないようにと自分の預金を全て後妻名義の通帳に移しました。

 予期せぬことに自分より年下の後妻さんが先に逝ってしまいました。だが悲しんでいる暇はありません。Bさんのお金は全部後妻さんの遺産になってしまいました。相続人はBさんと後妻さんの兄弟姉妹です。遺産分割がまとまりません。預金を全て移してしまったBさんに生活費がありません。弁護士にお願いし法定相続分での払戻請求をかけ、何とか生活費を取り戻すことができました。

事例②⇒「Cさんはそれなりの資産家です。相続争いを起こし遺産分割が成立しません。10ヶ月以内に成立しなければ、法定相続分で相続したとし、未分割申告をしなければなりません。

各相続人はその割合で相続税を納めなければなりません。預貯金は凍結されているので納税ができません。納税が遅れると高利貸しのような利息を取られます。法定相続分で払戻請求をかけ、何とか納税資金を調達しました。」遺産分割が成立した後は、修正申告や更生の請求で税額の差額を精算することになります。

この2つの事例は、預貯金が当然分割であることから、可能となった事例です。だが、最高裁の判例変更でこれから銀行は応じてくれないでしょう。このような相続人は救済できなくなります。

現在審議中の相続法改正にも、この可分債権が盛り込まれています。従来通り可分債権を前提として扱う案と、最高裁の判例変更と同じく遺産分割の対象に含めるとの2案が中間試案で出ています。

預貯金が凍結されると困る人はたくさんいます。はたして救済処置が設けられるのか、法制審議会の結論が待たれるところです。

56年目の橋渡し 野口レポートNo246

「お産に耐えた母のお腹から生まれてくる。そして誰もがスッポンポン。」だから兄弟姉妹なのです。

まして2人姉妹なら、姉と呼べるのも妹と呼べるのも、この広い世界にたった1人だけです。もし、親が残した財産をめぐり2人が争ってしまったら、これほどの不幸はありません。

知人を介し相談を受けました。相談者は女性のAさん(83歳)です。18年前に母親が亡くなり、まだ相続手続をしていません。

遺産は老朽マンション1室(1K風呂なし)だけです。相続人は56年間疎遠で、父親の異なる妹Bさん1人とのことでした。

調べてみるとBさんの最後の住所は山形県になっていました。連絡を乞う手紙を出しました。ダイレクトメールと間違えられゴミ箱へ捨てられないように、《○○様相続の件》と明記します。最初に出す手紙は大事です。書き方次第でその後に影響します。

1週間ほどでBさんから電話が入りました。事情の説明にお伺いしたい旨を伝え、山形へ出向きました。Bさんは71歳です、姉が56年間連絡をくれなかったこと、母親が亡くなったのを知らせてくれなかったこと、誤解も重なり何を今更と立腹しています。

このまま放っておいたら、子どもや孫の代まで憂いが残ってしまうと、Bさんに重ねて協力をお願いしました。 

Bさんに代償金を払いAさんがマンションを相続することで合意しました。だが、その後がまとまりません。

地方から見れば東京の不動産です。価値の認識にズレが生じ、代償金の額で意見が合いません。しかたなく時間を置くことにしました。半年後(適切な間)にBさんに電話を入れてみました。このままでは母親が成仏できないからと、一歩譲ってくれました。

だが、姉には会いたくない、ハンコは押すから野口さん1人で来て欲しいとのことでした。この相続問題の本質は、56年も疎遠であった異父姉妹の縁を戻して差し上げることです。この機を逃してしまったら二度とチャンスはないでしょう。

ようやくBさんに理解いただき、Aさんと一緒に山形に行きました。タクシーを降りると、Bさんが門前に打ち水をしていました。こちらが姉さんですよ、こちらが妹さんですよ、と紹介しました。

何といっても血のつながりです。戸惑いながらも嬉しそうなBさんの表情が印象的でした。56年振りに感動の再会です。

相談を受けてから終わるまで1年かかりました。わずかな財産でしたが、母親が残してくれたから、56年目にして姉妹の縁が戻ったのです。天国の母親も喜んでいることでしょう。

手間暇を考えたらできない仕事でした。だが、見えない報酬が「徳」となり天に蓄えられ、神様は帳尻を合わせにやってきてくれます。

やってよかった、いってよかった、小さな相続案件でしたが、大きな仕事を成し遂げた気分で山形を後にしました。

セミナー講師の新たな役割 野口レポートNo245

NPO法人相続アドバイザー協議会に相続のプロを養成する「相続アドバイザー養成講座」があります。2時間1講座で20講座、延べ40時間です。相続のあらゆる分野を網羅した内容です。

平成12年に第1期相続アドバイザー養成講座がはじまりました。この第1講座の講師を17年間務めています。4月からは週1回(水)コースで第40期が開講します。

受講生は、税理士・弁護士・司法書士・行政書士などの士業をはじめ、不動産・建築・生保・FP・金融など、多くの分野の方が参加されています。受講料も20万円と決して安くありません。

第1講座にはプレッシャーがかかります。受講生は貴重な時間と高い受講料を払って参加しています。価値を試されるのが第1講座です。こんな程度かと思われたら意欲が下がり、続く講座の期待感も薄れてしまいます。よかったと思えば受講の意欲とテンションが上がります。そんな意味でも第1講座は責任の重い講座です。

法律編・税務編に続き、相続での多くの誤解や、円満相続のポイントなど、実例を交え相続で一番大切な「心の部分」を話します。相続の講座に「心」を取り入れたのはこの講座が初めです。ここで受講生の集中力が一気に高まります。

最後は「相続は心のコンサルティング」と題し、相続アドバイザーの心構えを話します。第1講座で私が一番伝えたいことです。

◎資格と人格は車の両輪である

バランスが取れていれば前へ進む。資格⇒知識・経験・ノウハウ=学ぶことで得られる。人格⇒感謝・謙虚・強さ優しさ・人間力=気付くことで得られる。人格のない資格は人を不幸にしてしまう。例⇒耐震偽装の一級建築士。人格が具わった資格には品格が出てくる。

 ◎相続実務に必要な三つのセンス 

(1)相続問題の本質を見抜く目と心を持つ。一度法律と財産を頭から外し、無の世界から依頼者の幸せを考えると本質が見えてくる。本質が見えれば何をしなければならないのかが分かる。

(2)ほんの少しのお節介をやく、単なる相続手続では「モノ」を売っているだけ、そこにほんの少しのお節介が入ることで「価値」を売ることになる。

(3)まずは人間として接すること、次に専門家として接すること。専門家として、専門性への信頼だけでは足らず、人間への信頼も伴って初めて依頼者から頼られる。

経済的利益だけでなく、精神的利益も守って差し上げるのが本当のプロです。目的は依頼者の「幸せ」です。相続は幸せになって意味があります。それができるのが相続アドバイザーです。

これからは専門家を養成するセミナー講師も、知識だけではなくもっと大事な部分も併せ伝えていく必要があると思います。 

親の財産は親のために使う 野口レポートNo244

家族の状況や財産構成によっては「子供に財産を残さないで、親のために使う」これが最善のアドバイスと思うことがあります。

相続の適切なアドバイスには、遺産がどのような経過で築かれてきたのか、相続財産のルーツを知ることも大切です。

80代のAさん夫婦が相談に見えました。働き者のご主人と内助の奥様と素晴らしいご夫婦で、私も昔からよく存知あげています。

Aさんは、相続など金持ちの問題で自分には関係ないと思っていました。ところがテレビを見て財産が少ない人ほど、相続争いを起こすことを知り心配になりました。自分も高齢になったし、遺言を作りたいとの相談でした。

遺言の目的は子供達に円満に財産を相続してもらいたいとのことでした。話を傾聴してみると財産は自宅とそれなりの預貯金です。Aさんと奥様が力を合わせ築いた財産です。子供2人は遠隔地に住んでおり、状況から親の世話をするのは無理です。

相続相談は問題の本質を見抜くことが大切です。当事者は問題の本質など分かりません。法律と財産を一度頭から全部外し、無の世界から、相手の幸せを考えてみると本質が見えてきます。本質が見えれば何をすればよいのかが分かります。

この問題の本質は子供達の円満相続ではありません。高齢のAさん夫婦の老後です。Aさん夫婦に「私の有する一切の財産を〇〇(配偶者)に相続させる」との遺言を互いに作成していただきました。

互いが元気のうちは現在の自宅に住んでいればよし、一人になったら自宅を売却し、老人ホーム入居の費用に当てること、預貯金は老後の糧とすることを提案しました。

Aさん夫婦は子供達を立派に育てあげ、親の役目は十分果たしました。「子供に財産を残そうと思わないでください。自分達のために使うことを考えてください。」これが私のアドバイスです。もし最後にお金が残ったら子供達が法律通りに分ければいい話しです。

相続が難しいのは、日本人の財産構成が現在の民法と税法に合ってないところにあります。

民法は「均分相続」です。遺産が全部現金なら分けるのは簡単です。ところが多くの財産は分けにくい不動産です。

税法は「10ケ月までに現金一括納付」が原則です。これも全部現金なら即一括払いです。いくら取られても半分近くも残ります。

お上が財産構成に合わせ民法や税法を変えてくれるのか? そんなことは間違ってもありません。なら、財産構成を民法と税法に合わせていく必要があります。これも大事な相続対策です。

今は親が子に頼れる時代ではありません。子供を育てあげた後は「子に残すのではなく自分達のために使う」、もし残ったら子供達がありがたく相続させてもらう、そんな時代がきています。  

ツイてる ツイてる 野口レポートNo243

「結婚とは自分と一番相性の悪い人が一緒になることです。だから永平寺に3年いくよりよっぽど修行になりますよ。相性の悪い人にめぐりあったら、この人と結婚するんだなあ~、俺は修行をするんだと思えばいいのです。」これは斉藤一人さんの名言です。

私も修行を始めて46年になりました。修行に耐えかね途中でやめてしまう人がいます。が、この修行は一度始めたら生涯続ける覚悟が必要です。自分で選んだ道だからなおさらです!

一人さんは全国長者番付で、金メダル、銀メダル、銅メダル、を始め、多くの実績をお持ちです。しかもすべて事業所得です。イチローもすごいが、一人さんもすごいです。

今は個人情報の関係で公表されていませんが、長者番付1位とは、言いかえれば日本で一番多く税金を払っている人、ある意味では社会に貢献している人にもなります。税務署が表彰しても、国民栄誉賞をもらってもおかしくありません。

利益があがると、やたら節税対策を指導する先生や、税金を払いたがらない経営者がいます。税金に取られる位ならと、不相応の社員旅行をしたり、まだ使える車を買い換えるなど、目先の節税に走る人は少なくありません。

不必要な経費を使い利益を圧縮したら会社にお金は残っていきません。税金を払うからこそ会社にお金が残るのです。この内部留保が会社の底力となり、イザのときの兵糧となるのです。

「ツイてる ツイてる」は、一人さんがいつも口にしている言葉です。何ごとも必要があって起こること、だからありがたいこと、何があっても「ツイてる ツイてる」です。

ながい人生には運の悪いできごとや、不幸なできごとは必ずやってきます。一人さんはそんなときでも「ツイてる ツイてる」気がつけば億万長者、「ツイてる ツイてる」はマイナスをプラス思考にかえてしまう幸福の言葉、心の「おまじない」です。

不平不満、グチ・泣きごと、悪口・文句、これらマイナス思考の言葉には貧乏神が寄ってきます。そして人は幸せになれません。

恨み辛みは生きていれば誰にも生じます。辛い思いをしたからと相手を恨みたくなるのは人情です。が、恨み辛みは自ら断ち切らねば、また自分のところへ還ってきます。

相続で相手を恨んでいる人がいます。お会いする度に「恨むな恨むな」と言い続けます。1年が過ぎたころ、「野口さんにいつも言われるので、そう思えるようになりました」とお礼を言われました。恨み辛みが消えたとき不運が幸運に転じツキに恵まれます。

ありがとうおじさん、森 信三、鍵山秀三郎、坂田道信、斉藤一人、この方々に一貫して通じるものがあります。その源は、ありがとうございます。この「感謝の心」です。  

自筆証書遺言を生前に開封する 野口レポートNo242

相続コーディネーターとして相続のお手伝いを始めて21年になります。この間に多くの自筆証書遺言を見てきました。

遺言は無いより、有ったほうが良いのは言うまでもありません。仕事の展開が円滑(円満とは別)に進むことは確かです。

しかし、欧米の60%~80%に比べ、日本人の遺言作成率は亡くなる方のわずか10%弱と圧倒的に少ないのが現状です。

「ウチの子に限って」親ならば誰もが思う親心。しかし、親の思いや願いが子に通じるとは限りません。こればかりはフタが開いてみなければ分かりません。

相続人層の移り変わりに伴い権利意識は増すばかりです。「法定相続分」この言葉が当たり前に出てきます。特別受益、寄与分、遺留分など、法律用語も飛び出してきます。

インターネットで相続情報はいくらも入ってきます。自分に都合の良い付け焼刃の知識だけが頭に残り、相続での話し合いを一層難しくしています。相続に対する子(相続人)の権利意識や時代の変化を見据え、親も遺言の必要性を認識すべきだと思います。

遺言は法的に厳格な要件があります。公正証書なら法律の専門家が作るので法的不備が原因で無効になることはないでしょう。

それに対し自筆証書は法的要件を満たさずに無効となるものや、法的要件を満たしていても内容が不備で使えない遺言など、経験値からすると全体の40%近くもあります。

《無効の遺言の典型》◎日付が何月吉日 ◎何月までしかない ◎押印がない ◎遺言者が連名 ◎一部がスタンプ。 

《法的要件を満たしていても使えない遺言》◎自宅裏の土地(裏には複数の土地がある。) ◎地番しか記載されてない(同じ地番は全国にいくつあるか分からない。) ◎土地が住居表示 ◎預貯金の口座が特定できない ◎受遺者が特定できない(良子に相続させる。)全国に良子さんは何人いるか、妻良子とあれば特定できる。

「半分近くが不備や無効」この現実を知りながら、「プロとして何もしなくてもよいのか!」私はできる限り生前に開封するようにしています。相続後に開封すると5万円の過料を取られます。だが、生前にご本人(遺言者)に開けてもらう分には問題ありません。

チェックし無効であれば作り直すことができます。有効であってもこの機会に公正証書にするとか、公証役場に行くのが面倒なら新たな封筒に入れ直しておけば済むことです。

封印した自筆証書遺言を後生大事に保管し、家庭裁判所の検認でいざ開封し、無効の遺言が出てきたら目もあてられません。自筆証書遺言は専門家の指導を受け作ることをすすめます。

分割が難しい日本人の財産構成や、子の権利意識の変化を考えると、現代では遺言作成は親の義務のような気がしてなりません。