穏やかな死のために 中條レポートNo216

「食べないから死ぬんじゃないんだよ。死が近づいているから食べないんだよ」
老衰という症状では、自然の麻酔がかかります。徐々に食べられなくなって、最後は水分も栄養も全く受け付けなくなり、眠って眠って、苦痛もなく旅立たれます。 

石飛幸三さんの「穏やかな死のために」(さくら舎)という著書からです。
石飛さんは約半世紀の外科医を経て特別養護老人ホーム(以下特養という)の常勤医となり、医療・介護という両面から人生の終末期の在り方を提言されている方です。

「医療というのは、必要なときに行われるべきものである」と言われています。
老衰という症状で病院へ行くと、治療が行われ、下っていく命を伸ばそうとします。それが必要なことなのでしょうか。

胃瘻を付けて延命措置をすることが当たり前だった時代。医療を受けず、死を迎えることがタブ―視されていました。しかし、延命はされますが、本人にとって幸せかどうか皆が疑問に思っていました。今でこそ、胃瘻を付ける人は少なくなりましたが、老衰で下っていく命に、延命のための医療は続いています。

石飛さんは特養の常勤医の役割を「この人に医療は必要か、医療はこの人のためになるか」を判断することだと言われています。

これ以上の医療は本人を苦しめるだけだと見極め、医療の差し控えや中止を切り出す役割です。その方の生活を毎日みていて、医療がわかる常勤医だから出来ることです。

眠っている人を、食事の時間だからと起こし、必要な量を無理に食べさせるのでなく、起きた時に、お腹がすいていれば食べてもらう。空腹が食欲の最大のスパイスになります。食べなくなることは体の中を片付け、余計なものを捨てて身を軽くしていくことなのです。老衰に約束されている穏やかな「死」を迎えるための準備なのです。

特養で見取りをされる方が増えています。
病院は病気を治す場所であり、その人らしい最期を迎える場所とは違うことの理解が広がってきているからだと思います。

死を先に延ばすことでなく、その人の「今」を穏やかに生かしてあげる。
それが「命」を看取る者の役割だと思いました。

相続は専門家の選択できまる 野口レポートNo272

相続税には次の三つのパターンがあります。

(1)遺産が相続税基礎控除のなかに収まり相続税の課税されない人。

◎この層への対応⇒ 相続税の申告義務はありません。遺産分割には期限がありません。が、先送りすると相続人が枝分かれし、相続が複雑になる可能性があります。速やかに手続きすることが望ましいです。

◎対応する専門家⇒ 相続人確定と相続登記の司法書士。

(2)申告をすることで、小規模宅地や配偶者の税額軽減などの特例が受けられ相続税が課税されない人。 

◎この層への対応⇒ 自宅に同居しその敷地を相続し、申告期限までに引き続き住めば、その敷地330㎡までは80%評価減となります。正に相続税の大バーゲンです。また配偶者が相続する遺産の法定相続分もしくは1憶6000万円までは配偶者の税額軽減で課税なし、要件を満たし、これらの特例を使うことで相続税の課税はありません。

◎対応する専門家⇒ 相続人確定と相続登記の司法書士、特例の相続税申告をする税理士。

(3)遺産が多く特例を受けても相続税の納税が必要な人。

◎この層への対応⇒ 相続開始後10ケ月までに相続税の申告と現金一括納付が求められます。①遅くとも2ケ月以内に相続税の概算を出す。②土地の換金で納税資金を調達する場合は、売却土地の速やかな遺産分割、確定測量、土地売買契約の締結。

特に納税額が数億円単位の地主さんは、コーディネーターが、税理士、土地家屋調査士、司法書士、不動産業者をリードし、いかに10ケ月以内に相続税を現金一括納付させるかに全力を尽くします。

◎対応する専門家⇒ 税理士、司法書士、土地家屋調査士、不動産業者、絶対条件として相続に精通した人でなければなりません。特に要となる税理士の選択は重要です。遺産分割の司会進行ができるか、減価要因を見逃さず適切な土地評価ができるか、税務調査に耐えられる申告ができるか、確定申告や法人決算が内科医なら、地主相続は外科手術のようなもの、資産税に特化した外科医が必要です。

次に重要なポストは土地家屋調査士です。期限内に土地を売却し納税資金を確保しなければなりません。相続での土地家屋調査士の役割は測量だけでなく、隣接地主からすみやかに境界確定や越境物解消の覚書のハンコをもらえるか、人間力が求められる仕事になります。

不動産業者もお客様の事情を理解し、単に価格だけでなく10ケ月の期限内に確実に残金決済ができる買主を選ぶことが大切です。

このように相続にかかわる専門家の選択は非常に重要です。一般人には、税理士、司法書士、弁護士など、士業と呼ばれる人の能力や人間力に差があることなど分かりません。

相続人に代わり、適切な専門家を選んで差し上げることも、相続コーディネーターの大事な役目です。

相続は相続人の人生すら変えてしまう責任の重い仕事です。何を知っているかでなく、誰を知っているかで決まります。そんな専門家に出会えるか、それはもう「運」の世界です。

心願

われわれ人間は「生」をこの世にうけた以上、
それぞれ分に応じて、一つの「心願」を抱き、
最後のひと呼吸までそれを貫きたいものです。
[ 森信三 一日一語 ] より

最後のひと呼吸まで。
それがこの世に生まれた役割を果たすことなのでしょう。

大地に立つ

すべて宙ぶらりではダメです。多くの人が宙ぶらりんだからフラつくのです。
ストーンと底に落ちて、はじめて大地に立つことができて、
安泰この上なしです。
[ 森信三 一日一語 ] より

大地に立つ。
そうなりたいです。

謙虚

人間が謙虚になるための、手近な、そして着実な道は、
まず紙屑をひろうことからでしょう。
[ 森信三 一日一語 ] より

難しいことではないのですね。
普段の心がけが謙虚の第一歩です。

退歩

人間は、進歩か退歩の何れかであって、その中間はない。
現状維持と思うのは、実は退歩している証拠である。

森信三「一日一語」 より

現状維持はないんですね。

検認 中條レポートNo215

自筆証書遺言で行う死後手続が面倒な原因として検認があります。

検認とは、相続人全員を家庭裁判所に集め、開封する作業です。そして検認を受けた遺言書でなければ、預金の引出しや、不動産の名義変更等の相続手続が出来ません。

何故、検認が面倒なのか。

相続人全員を集めるため、相続人が確定出来る戸籍等を全部揃えてから家裁に「検認お願いします」と申し出なければなりません。戸籍等を揃えるのに時間がかかるし、家裁から各相続人に連絡が行く時間も必要ですから、手続を始めるまで時間がかかります。

子供・親がいない人の相続人は兄弟姉妹・甥姪です。兄弟姉妹は縁遠くなりがちです。まして、甥姪になると、会ったこともないということも珍しくはありません。また兄弟姉妹・甥姪は、遺言で何も貰えない場合でも、最低限もらえる権利である遺留分がありません。

会ったこともなく、財産をまったく貰えない人にまで通知はいきます。
そして、開封するときに、会いたくもない親族と顔を合わせることもあります。(開封の場所(家裁)に出席する、しないは相続人の自由です)

公正証書遺言は上記の検認手続が不要です。公証役場から相続人に通知が行くことはありません。亡くなったらすぐに、相続手続をすることも可能です。(遺言執行者がいれば、執行者は相続人全員に連絡する義務はあります)

来年の7月から、自筆証書遺言でもこの検認を回避する制度が出来ます。
法務局で行う、「自筆証書遺言の保管制度」を利用するのです。自筆証書遺言を法務局で保管してもらえば、死亡後、検認の手続をする必要がなくなります。

しかし、上記で説明した全ての手続が不要になるわけではありません。
法務局に保管されている遺言書の内容を相続人・受遺者・遺言執行者が閲覧・交付請求をするとき、検認と同様、法務局から全ての相続人・受遺者等に遺言がある旨、通知がいきます。そして相続人確定するための戸籍等を揃えるのは相続人等の役割です。(戸籍を揃える手続を簡素化する法改正が行われる予定です)
検認は不要でも公正証書遺言のようには手続出来ません。

遺言をつくる方法は一つではありません。
制度をよく理解し、状況を総合的に判断して決めていかなければなりません。

相続対策の優先順位を誤らない 野口レポートNo271

相続対策には大きく分けて次の三つがあります。

(1)遺産分割対策 ①市街地山林、貸地、古アパートなどの不良資産を生前に整理整頓し分けやすい財産にしておく。②公正証書遺言や付言事項の作成により、財産分けが円滑に進むよう準備をしておく。

(2)相続税納税対策 ①生命保険の活用で納税資金の確保。②生前に相続税を試算し、納税のため売却する土地を選別し、確定測量などを済ませ、10ケ月以内に換金し、現金一括納付ができるようにしておく。

(3)相続税節税対策 ①アパート建築等で不動産の評価を下げる。②資産を相続税評価の低い財産に組み替える。③養子縁組で相続人の数を増やす。④生命保険の非課税の枠を使う。

この三つの対策が同じ方向を向くなら、相続対策を失敗する人はいないでしょう。時には真逆の方向に進むので注意が必要です。

仮の話です。極端な例になりますが説明してみましょう。

◎4億円の土地に4億円の借金をして賃貸マンションを建てました。建築費4億円のマンションの相続税評価は約半分の2億円になります。 だが借金は4億円のままで価値は変わりません。この差に節税効果が生じます。とりあえず節税対策としては成功しました。

◎相続税を減らすことばかりを考え、納税対策をなおざりにしてしまいました。いざ相続が開始し相続税が払えません。しかたなくこのマンションを売却し納税することにしました。 

借金を清算したら残ったお金だけでは相続税が払えません。納税対策を優先し、土地を駐車場にしておけば4億円で売却でき相続税は余裕で払えました。かつ手元にお金が残り遺産分割の原資になったはずです。状況を考えず節税対策を優先してしまった結果です。

◎何とかお金をかき集め相続税は納付できました。大きな財産はこのマンションです。相続人は子が3人です。しかたなく1/3の共有となりました。相続での不動産共有はやってはいけません。後の不動産共憂となります。節税対策を優先してしまい遺産分割は失敗です。

このようにこの三つの対策は同じ方向を向くとは限りません。ならばどの対策を優先しなければならないか見極めることが大切です。

未だに、相続対策=節税対策と思い込んでいる人、借金すると相続税が減ると思っている人もたくさんいます。

先般の相続税基礎控除の改正で、今までは相続税の心配が全くなかった層に納税義務者が続出しています。これらの層に課税される相続税は約50万円~300万円位です。庶民にとっては大金かも知れません。だが、払えない金額ではありません。払ったらそれで終わりです。

税制改正でハウスメーカーなどが、節税対策として二世帯住宅や賃貸併用住宅の建築をすすめています。賃貸併用住宅など自宅部分は生涯空室を抱えるのと一緒です。35年のローンは辛いものがあります。返済が滞り抵当権を実行されたら自宅を失うことになります。

節税対策で300万円の相続税は払わなくて済みました。しかし、多額の借金を背負いこまされ、減った相続税の何倍もの金利を払わなければならないか、冷静に考えれば分かるはずです。