遺言 中條レポートNo226

相続対策で一番難しいことは、亡くなる時期がわからないことです。
そして亡くなる時の、自身の一族の状況がわからないことです。

この影響を大きく受けるのが遺言です。
「遺言は元気な内に書きましょう
よく聞く言葉です。元気がなくなり、意思能力が衰え低下すると遺言を書けなくなるからです。

しかし、元気な内に書くということは、亡くなるまでの時間も長いということです。時間が長ければ長いほど、先述したことが問題になります。

「遺言は修正することが出来る。状況が変わったら書き変えればよい」
これは言うは易し、行うは難しです。遺言をつくるのにはエネルギーがいります。そのエネルギーがいつまで続かが問題です。逆もあります。エネルギーが亡くなり、意思能力が衰え、遺言の書き変えを強要され書き変えてしまうことも……。

では遺言は役に立たないのか。そんなことはありません。

遺言者の一族にとって、望ましい資産の承継方法があるはずです。しかし、その承継方法は決して法律通り(法定相続分)ではないはずです。そうであれば、法律を変える手段を選択しなければなりません。何故ならば、一族にとって最善な分割方法も、法律(法定相続分で分割)には勝てないからです。(だから争いになるのです)

この法律を変える手段が遺言です。法律で定められた法定相続分を修正出来るのです。
但しこの方法を実行できる人は1人しかいません。それは亡くなる予定の被相続人の方です。そして出来るのは意思能力がしっかりしている間です。

遺言は万能な手段ではないことは事実です。しかし、正しい資産承継をするための重要な手段であることは間違いありません。
肝心なのは、遺言者自身が資産承継方法を正しく選択すること。そして、その選択方法を遂行することが財産を遺していく者の責任だと自覚することです。

3ケ月過ぎてもあきらめない 野口レポートNo282

相続が開始すると相続人には三つの選択肢があります。

①単純承認⇒権利義務を包括的に引き継ぎます。
②限定承認⇒借金や保証債務があっても、相続した財産を限度として返済義務を持ち、相続人固有の財産には及びません。実務ではかなり難度の高い承認の仕方で扱える専門家はあまりいません。

③相続放棄⇒自分が相続人であることを知った時から3ケ月以内に家庭裁判所に放棄を申述し、受理されたら最初から相続人でなくなり、プラスの財産もマイナスの財産も相続しません。

気をつけてほしいのは、遺産をもらわないで遺産分割協議書に署名押印した場合です。これは相続放棄でなく相続分の放棄(財産放棄)です。ゼロの財産を相続したことになり、相続人の地位は残ってしまい、借金や保証債務があったら法定相続分で相続してしまいます。

建築業を営んでいる社長の父親が亡くなりました。相続人は長男と長女の2人です。長男が家業と財産を相続しました。長女は300万円の代償金を受け取り遺産分割は成立しました。だが、跡取り息子の経営能力には不安があります。

案の定、長男が引き継いだ家業の会社は経営が悪化し破綻しました。ほとんどの零細企業は銀行の借入金を社長が個人保証をしています。

前社長(父親)の個人保証は相続人が法定相続分で相続しています。銀行は長女に保証債務の2分の1を請求してきました。長女にすれば晴天の霹靂です。長男の経営能力の不安や、父親が個人保証をしているなど、このような事情がある場合は、最悪の事態も予想されます。扱った税理士が長女には相続放棄させ、贈与で300万円を渡す配慮をしておけば、このような悲劇は防げたはずです。

知人を介し相続人Aさん夫婦が見えました。父親が数千万円の連帯保証人になっていることを、亡くなってから1年後に知りました。この事実を知ってから夜もよく寝られません。

行政の法律相談に行ったら3ケ月を過ぎたから相続放棄は無理だと言われました。法律事務所へ行っても同じことを言われました。

ワラをもつかむ思いで私のところへ相談に見えたのです。遺産を一切受け取っていなければ(第1のポイント)、家庭裁判所も最近は「借金や保証債務があったことを知った時から3ケ月」と緩やかな解釈をしてくれ、相続放棄を認めてくれることもあります。

相続の専門家は多くいますが、負債相続を扱える専門家は少ないです。第2のポイントは相続放棄の専門家に依頼することです。大阪に私のパートナーで相続放棄と限定承認の実務家で司法書士のS氏がいます。

連絡を取りAさん夫婦に大阪へ行ってもらいました。彼に依頼し駄目ならば誰に頼んでも駄目でしょう。

しばらくしてAさんから相続放棄が認められたとの連絡をいただきました。あきらめてしまい、もし主たる債務者が破綻し保証債務を弁済できなければ、Aさんは自宅を差し押えられてしまいます。

3ケ月過ぎてもあきらめない、この気持ちが大切です。穏やかな日々を過ごしているご夫婦を見るにつけ本当によかったと思っています。

縁は求めざるには生ぜず。
うちに求める心なくんば、
たとえその人の面前にありとも、
ついに縁を生ずるに到らずと知るべし。
[ 森信三 一日一語 ] より

縁なくして、何事もなしとげられません。

信とは、いかに苦しい境遇でも、
これで己の業が果たせるゆえんだと、
甘受できる心的態度をいう。
[ 森信三 一日一語 ] より

信じるものがあるから成就できます。

遺産分割協議書 中條レポートNo225

遺産分割協議書とは、亡くなった方の預貯金や不動産をどう分けるのかを決めるものです。そして決めた通りに手続をしていくための指示書になります。

この遺産分割協議書を有効に成立させるための絶対的条件があります。
それは、亡くなられた方の相続人が全員納得して、証明捺印(実印)することです。一人でも反対者がいたら成立しません。(その遺産分割協議書で手続出来ません)

多数決ではないということです。
相続人はそれぞれ、考えが違います。生まれてからの歴史も違います。

それ故、意見が異なることは当たり前にあります。そして、それぞれの相続人は自分に正義がある(正しい)と考えがちです。(それゆえ争いになります)

それでは、遺産の分け方に「正解」はあるのでしょうか。
答えは「NO」です。
「正解は、相続人の皆様の心の中にある」としか言えません。
皆が合意した内容が正解なのです。

相続手続を担う人は、相続人の意見に対して正否を決めることはしません。また相続人に対して説得・交渉・指示は出来ません。

但し、間違った知識を元に意見が出ているのであれば、知識の修正はします。

間違った知識で多いのは、不動産の財産価値です。(借地権・貸地、広大地、賃貸アパート、農地、山林、等の特殊な不動産)もちろ価格は売却してみないと解りません。但し、価格の決まり方や市場性は客観的に説明出来ます。

 又、争うことの不利益は相続人全員にしっかりと説明します。
相続税の申告が必要な場合は申告期限までに遺産分割が成立しない場合。遺産分割が話合いでまとまらず家庭裁判所へいって協議する(争う)場合。等々です。

相続手続を行う人は、上記のことを根気よく行うことが大切です。
“相続争いをさせずに相続手続を進めていく”
この役割は大きいです。

相続とセカンドオピニオン 野口レポートNo281

ある大地主の二男から相談を受けました。父親が亡くなり5ケ月が過ぎたのに、本家の長男から何も言ってきません。危機感を持った二男が長男のところへ私を連れていってくれました。

話を聞くと遺産は15億円あります。7億円もの相続税を納付しなければなりません。土地はあるが現金がありません。このままではとても相続税が納税できません。税理士の動きを見ると大地主の相続ができるレベルではありません。

長男を説得し税理士を代えてもらうことにしました。限られた時間は5ケ月しかありません。すぐに概算納税額を算出し納税のため売却する土地の選択に着手しました。幸いなことに1700㎡の広大地を駐車場にしており、これが相続税の原資の要となりました。

この土地をとりあえず遺産分割協議から外し他の財産を遺産分割します。取得する財産が決まれば各相続人の納税額が出てきます。遺産分割協議から外してあった土地を各相続人の納税額で按分し、その割合で共有相続しデベロッパーに売却すれば、各人に納税額相当分の資金が入り、相続人全員が現金一括払いで相続税の納付ができます。

相続税には「連帯納付義務」この時代遅れの理不尽な制度がまだ残っています。払えない相続人がいたら、すでに自分の相続税を払い終えている他の相続人に税務署は納付を求めてきます。相続税納税は個人プレーでなく全体で考える必要があります。

次は行きつけの寿司屋の大将からの紹介です。常連客の地主Aさんの相談に乗ってやってほしいとのことです。

3ケ月前にAさんの父親が亡くなりました。確定申告をお願いしている会計事務所に相続をお願いしました。が、進ちょく状況の報告もなく不安な日々を過ごしており、寿司屋にきては酔った勢いでグチを言っていました。それを聞いた大将が私に振ってくれたのです。

Aさんを通し会計事務所に進ちょく状況を確認したところ、進展がなく相続人の確定作業すらしていません。税理士を代えることをアドバイスしました。残された時間は7ケ月しかありません。

父親は公正証書遺言を残していました。が、不動産の特性を全く考慮していません。遺言を執行してしまったら多くの不具合が生じてしまい相続人全員の不利益になってしまいます。

1000㎡の一団の土地があります。遺言どおりに分割してしまうと筆と利用実態が一致しません。道はあるが建築基準法上の道路ではありません。一度1000㎡の土地を未分割共有状態で一筆に合筆し、中央に位置指定道路を入れ、他は利用の実態に合わせ分筆し、各相続人が相続する必要があります。遺言を使わないで遺産分割協議で分割することを提案し了解を得ました。

 普通の税理士は相続税の計算をして申告をすることが自分の仕事だと思っています。相続の税理士はいかに10ケ月以内に相続税を一括納付させるかを考えています。今やセカンドオピニオンは医療の世界では普通に行われています。もし相続税申告で疑問や不安を感じたら、「第2の意見」を聞いてみることも必要ではないかと思います。

電話

電話ほど恐ろしいものはない。
というのも聞こえるのはただ声だけで、
先方の表情や顔つきは一切分からぬからである。
[ 森信三 一日一語 ] より

ましてやメールはもっと怖いですね。