「有効」「無効」 中條レポートNo244

「法」は不思議です。
当事者同士がお互いに納得して合意しても効力が無い場合があります。
相続に関する合意が有効になる場合とならない場合をみてみましょう。

〇「有効になる」場合。
本人死亡後の相続人全員での遺産分割協議書。
これは有効です。
たとえ法律(民法)で定められた相続分(法定相続分)でない分け方でも、相続人全員が合意し署名捺印すれば有効に成立します。

〇「効力がない」場合。
本人死亡前の推定相続人全員での遺産分割合意書。
お父様が自分の死後の財産分けを子供たちの了解のもとに行いたいと考えました。
そこで、子供たちを集め、自分が亡くなった後の遺産分割合意書に署名・捺印(実印)してもらいました。

お父様が死亡後、合意書の通りに分割できるでしょうか?
子供たちが全員、生前に合意した内容で了解すれば可能です。
しかし、一人でも反対者が出たら合意した通りにはなりません。
合意した効果をもたせたいのなら、子供たちが了解した内容で、お父様が遺言書を作成しておくことが必要です。

本人死亡前の相続放棄も効力はありません。
本人の「財産を受取らない」「負債も負わない」ことを有効に成立させるためには、相続人は本人死亡後に家庭裁判所に相続放棄の申立てを行い認めてもらうことが必要です。(本人死亡後でも家裁の審判がないものは負債に関する効力はありません)

一方、本人死亡前でも、遺留分の放棄は認められます。
遺留分の放棄とは、本人が全ての財産を長男に相続させると遺言をし、二男には遺留分を請求しないと約束させることです。但し、家庭裁判証の許可が必要になりますので、相続人間で合意しただけでは効力はありません。

このように、法律や判例をもとにケース毎に「有効」「無効」が変わってきます。「これで大丈夫」自分だけの判断で安易に実行しないことが大切です。

正義と腹八分目 野口レポートNo300

「腹八分に医者いらず」満腹まで食べず、八分目、七分目ぐらいにしておくと、健康を保ち医者の世話にならないとの話です。

腕に違和感をおぼえました。見ると一匹の蚊がとまっています。腹いっぱい血を吸ったとみえ、まるまると膨らんでいます。重くて飛ぶことができません。ポトリと下に落ちつぶされてしまいました。満腹でなく腹八分目にしておけば助かったものを……。

相続問題や借地借家問題は話がこじれてしまうと、弁護士に依頼し法律で裁かなければ解決できない場合があります。弁護士にお客様を紹介するときは次のことを考えます。

◎飛び込みや、知らない人には地域の弁護士会の電話番号を教えてあげます。パートナーの弁護士は私を信用し、どんな案件でも断わらずに引き受けてくれます。人を紹介することは自分が保証していることを意味します。案件とお客様をよく吟味し紹介します。

◎依頼者側に正義があるのか、弁護士を紹介する前に一番大切なことは、ここを見極めることだと思っています。

◎丸投げをしない。弁護士は法律のプロ中のプロです。依頼者は素人です。どうしても段差が生じます。面談の時は必ず同席しサポートします。依頼者も安心し話が円滑に進み、弁護士も仕事がやりやすくなります。結果として依頼者の利益につながります。

依頼者側に正義があるか、満腹でなく腹八分目でよしとできるか、ここは大事なところです。あとは長年の経験と雰囲気で勝てるかどうか分かります。敗戦処理は別として、ここを判断し弁護士に紹介すれば依頼者が勝利する確率は高いでしょう。

飲食店を35年続けているAさん夫婦がいます。夫婦も高齢となりました。建物も老朽化してきており、家主は建替えを考えています。建築会社の営業マンが来て立退きを迫られました。

相手は立退きのプロです。夜討ち朝駆けで迫ってきます。夫婦は精神的に追い込まれ相談に見えました。素人のAさんでは対応は無理です。弁護士にお願いするのがベストと判断しました。お客様を弁護士に紹介した時は、丸投げでなく最後までサポートします。

Aさんは35年間一度も家賃を滞納したことはありません。家主には立退きの「正当事由」がありません。正義はAさんにあります。夫婦は私のアドバイスを聞いてくださり、立退料も腹七分目でよしとし短期間に立退きを合意することができました。

それから2年が過ぎコロナ禍です。飲食店は時短を強いられお酒の提供もできません。立退料を満額取ろうと欲を出し、営業を続けていたら、コロナで廃業せざるをえなかったと思います。借主から賃貸借契約の解除を申し出たら一銭も要求できません。

正義はAさんにあったこと、早い決断と腹七分目でよしとしたことが勝因でした。コロナになる前でよかったです。立退料はAさん夫婦にとって老後の貴重な糧となるでしょう。

人間関係・・・与えられた人と人との縁・・・をよく噛みしめたら、
必ずやそこには謝念がわいてくる。
これこの世を幸せに生きる最大の秘訣といってよい。
[ 森信三 一日一語 ] より

ご縁。
大切にしたいです。

学問

世の中には、
いかに多くのすぐれた人がいることか・・・それが分かりかけて、
その人の学問もようやく現実に根ざし初めたと云えよう。
[ 森信三 一日一語 ] より

すぐれた人は多いです。

最上

「すべて最上なるものは、一歩を誤ると中間には留まり得ないで最下に転落する・・・」とは、
げに至深の真理というべし。
[ 森信三 一日一語 ] より

そうですね。
このことを感じる事柄がたくさんあります。

信用

すべて物事には基礎蓄積が大切である。
そしてそれは、ひとり金銭上の事柄のみでなく、
信用に関しても同じことが言えます。
否、この方がはるかに重大です。
[ 森信三 一日一語 ] より

信用は蓄積です。
だから、ありのままが大切だと思います。

バランス

人間の智慧とは、
(一)先の見通しがどれほど利くか
(二)又どれほど他人の気持ちの察しがつくか
(三)その上何事についても、どれほどバランスを心得ているか
ということでしょう。
[ 森信三 一日一語 ] より

バランス感覚。
一長一短に養えるものではありません。

遺産分割(納税)スケジュール 中條レポートNo243

遺産分割協議書を作成して行う(遺言書が無い)場合の相続手続のスケジュールです。まずは相続税がかかるかどうか。
3,000万円+600万円×法定相続人の数の金額以上財産があるか否か。

相続人が奥様と子供二人の場合は4,800万円以上あれば相続税が課税されます。(各種特例を適用し相続税が課税されない場合もありますが、申告は必要になります)

相続税が課税されれば、10カ月以内に相続税の申告、納税が必要になります。
手続に期限が出来るということです。
期限を超え納税すると、利子税、延滞税が課せられます。

相続で得る財産で納税する場合は、相続人全員で遺産分割を成立させることが必要になります。(遺産分割がまとまらない場合は、法定相続分で相続したと仮定し、各相続人が相続税を支払います。この場合、各種特例が使えない、手持ちの財産で相続税を支払う、等々のデメリットが生じます)

次に相続税を、相続した預貯金や手持ちの資金で支払えるかが重要になります。
支払えない場合は、相続した財産(不動産や株式(手持ちを含む)等)を売却して納税しなければなりません。

売却するための時間を考量しなければなりません。特に不動産は時間を要します。
期限内にやることが増えることは、スケジュールがタイトになるということです。

また、相続税の支払いは相続人間の連帯納付義務がありあすので、個別に考えるのではなく、相続人全員で支払う計画をたてることが大切です。全員が納税するための必要資金を確保することが重要になります。

ですから相続手続を行うコンサルタントには「いつまでに何をするか」、相続手続の全体像を把握しスケジュールをしっかり立てることが求められます。

スケジュールを立てるうえで一番の気がかりは相続が争族になってしまい、話合いがまとまらず期限切れになってしまうことです。
ですから、手続の最初に相続人全員に遺産分割協議がまとまらない場合の不利益の危機意識を共有してもらうことが大切になります。

ここを認識してもらい、相続手続のゴール(納税)に向けて手続を開始していきます。

ちょっと待った!その賃貸併用住宅 野口レポートNo299

借金をしてアパートを建てると相続対策になると多くの人は思っています。たしかに1億円の借金をしたなら、資産から1億円が債務控除されます。これで相続税が安くなると誤解してしまいます。

借金は返済しなければなりません。ひとくちに35年といっても気が遠くなる時間です。相続税が安くなったと錯覚しますが、相続税が借金と入れ替わったことに気がつく人はいるでしょうか。

借金しても相続税を減らす節税効果は生じません。仮に、資産が2億円で負債が0円とします。2億円―0円=2億円(課税価格)です。この課税価格に対し相続税が課税されます。

銀行から1億円の借金をします。手元にあるうちは資産が1億円増えます。が、借金も1億円あるので、資産と負債が行って来いで借金しても課税価格は変わらず相続税も変わりません。

ならば、借金で得た1億円でアパートを建てたならどうなるか、建築費1億円のアパートの相続税評価額は約70%です。さらに借家権割合が減額され、約5,000万円の評価となります。1億円の借金に対し、資産は5,000万円しか増えません。この差に節税効果が生じます。相続税が安くなるのは借金ではなく、借金で得た現金でアパートを建てるからです。借金しないで手持ち資金でアパートを建てれば、シンプルで確実な相続税対策になるでしょう。

築する建物を区分所有登記にしたいと、顔見知りのAさんが相談に見えました。この登記のメリット・デメリットを話しました。

Aさんの賃貸併用住宅の事業プランを聞いて耳を疑いました。

◎1階フロアが自宅部分(自分達の居住エリア) ◎2階3階が賃貸部分で4室(1室賃料12万円) ◎キャシュフロー(返済後の手取り)10万円 ◎建築費8,000万円、全額借入35年返済。

あまりにも無謀な事業計画です。手漕ぎボートに家族全員を乗せ外洋に出ていくようなもので、転覆したら万事休すです。

新築物件なので取りあえず満室になるでしょう。が、新築の雰囲気など5年がいいところです。キャシュフローが10万円しかありません。もし、1室でも空室が発生したら「持ち出し」です。2室空いたらさらに持ち出しです。手持資金が底をついたら返済不能、銀行に抵当権を実行(競売)され自宅まで失うことになります。

相手は建てることしか考えていません。途中で行き詰まっても助けてくれません。最後は全て自己責任です。

冷静に考えれば賃貸併用住宅の居住部分は、生涯において空室をかかえるのと同じです。仮に全部が賃貸だとしても、全額借入35年返済のアパート経営など綱渡りをするようなものです。

その気になっていたAさんですが、私の話を聞いて冷静さを取り戻し、家族会議をひらきこの事業計画を白紙に戻しました。

 登記の相談に見えたおかげで間一髪セーフ、Aさんと家族の人生を守ることができました。