相続プラザ小田原店 − 行政書士中條尚事務所 −
相続プラザ小田原


春に咲くおじいちゃん

―出会いは夏―

茶の間は南側を向いていて、たくさんの光を家の中に運んでくれる。
その茶の間の、一番テレビに近い場所がおばあちゃんの特別シート。
背中に受ける太陽の光が痛いくらい、暑い夏だった。

まずは仏壇の前で、亡きおじいちゃんにお経を唱えさせていただいた。

少しだけ空気が軽くなる。

そして、気持ちも軽くなるといいな、と思いながら
遺族の話に耳を傾けていた。

おばあちゃんと長男夫婦は一緒に住んでいる。
おばあちゃんは穏やかでお客さまを快く迎えてくれる感じの人なので、とても話しやすい。
お嫁さんもまた面倒見の良い優しい人だ。
息子はちょっとやんちゃな雰囲気を持っていて親しみやすい。空手の先生をやっている。
そして孫2人が一緒に暮らしているそうだ。

おばあちゃんが、亡くなったおじいちゃんの話をしてくれた。

お嫁に来てからの事、戦争に行っていたころの事、楽しかった思い出、そして看病生活から最後の姿まで。
70年近い夫婦生活の日記は、色あせずにページがめくられていく。

葬儀の写真も見せてくれた。

たくさんの花で飾られた祭壇に眠っているおじいちゃん。
外にもたくさんの花輪が並び、少しだけ雪が残っていた。
3月の寒い日だったという。

―始動―

申告の資料収集にとりかかる。
法務局や役所で資料を集めながら、全体像が見えてきたところで報告。
いくつかの質問と要望を聞き、だんだんと詰めていく。

パートナーの税理士とも打ち合わせを重ねながら
財産評価の問題点を洗い出していく。

この案件での財産評価では

○前方と後方が道路に接している3,000uの土地が広大地評価できるか

○長男名義の建物でおじいちゃんが暮らしていた事実をどう証明するか(小規模宅地の減額を受けるために)

○市街化/調整区域の区別のない無指定地域なのだが倍率方式に不整形補正できるか

という問題点があったが、税務署との協議の結果、すべてOK

舞台は分割協議へと移る。

―秋色のテーブル―

お盆以来、おばあちゃんと3人の子供が顔を合わせる。
次男は1キロほど離れた場所に住んでいるサラリーマン。
これまた温和な感じで人が良さそうだ。
長女は、遠くへお嫁に行ったが、ちょくちょく戻ってくるらしい。
話好きなのは母親ゆずりなのだろう。

色塗りをした図面で、難しい言葉を使わないように説明する。

たまにみんなの顔色もうかがってみる。

天気にたとえると、「晴れ ときどき 曇り」

にこやかに兄弟が顔を合わせているけど、
ときおり、相手の様子を探るような素振りが見えたりする。

でも、やっぱり古い家。
基本的には長男が相続する方向で話が進んでいる。

次男と長女は家を出たものなので、かなり遠慮をしているが
でも、かすかな望みを期待しているようにも見える。

長男は後を継いだ立場だけど、それに固執するわけでなく、
『欲しいところを持って行っていいよ。』と優しく言う。

そして次男が、
自分が住んでいるところの父親名義の土地が欲しいと切り出した。

・・・全員納得・・・

その後も次男と長男が主導で話し合いが進められたが
結局、最後までおばあちゃんと長女は、どこもいらないと口を揃えた。

遺産分割協議を椅子取りゲームにたとえるなら
今回は椅子が余っていることになる。

このゲームの勝者は
「最後まで椅子を確保し続けたもの」
ではない。

それはみんな分かっていた。

だから円満に決着を迎えられた。

ふたを開けてみれば
二次相続で相続税額が0になる分岐点のすぐ近く。

税金が一番安くなるように分割が行われたことになる。

長女は、今回の相続では何も取得しなかったけど、
おばあちゃんの相続の際には、自分の生家である土地屋敷を相続する、という約束が取り付けられた。

非常に円満な遺産分割協議。
実写版「サザエさん」を見ているようだった。

―記念撮影―

こうして無事に申告と納税を済ませ、全員の顔から緊張感が消えていった。
おばあちゃんを囲んで、3人の子供が仲良く愉快に会話をしている。

外には白い雪が少し残っていたが
茶の間で背中に受ける、温かい太陽の光がとても心地よく感じた。

僕とパートナーの税理士が今までの報告と感謝の挨拶をして帰ろうとすると、やんちゃな長男がカメラを持って駆け寄ってきた。

「記念撮影しようよ」

なんだか有名人になった気分である。
嬉しさがこみ上げてきたが、なんとなく恥ずかしい。

おばあちゃんの日記には、この日の思い出も追加されているのかな。

―贈り物―

2ヶ月後、おじいちゃんの1周忌を迎えた。
やっぱり白い雪の残る寒い日だった。

パートナーの税理士は、相続の申告が終わったお客様に
入浴剤かお香をプレゼントしているらしい。

緊張が続いていたから、『ほっ』としてもらいたい、
そういう贈り物だそうだ。

「僕もおばあちゃんに何か贈ろう!」

命日は3月11日。

いろいろ考えたけど形に残るものがいいな、
ということで、
梅の木をプレゼント。

茶の間の窓から見える庭に
紅梅を植えてもらった。

毎年、おじいちゃんの命日の頃には
綺麗な紅色の梅の花が咲く。

その梅の花を茶の間から眺めながら
「おじいちゃん、今年も咲いたね」と
毎年花が咲くのを楽しみにしてもらいたい。

「おじいちゃんの花が咲いたよ」と
喜んでもらいたい。

梅におじいちゃんの姿を重ねて
毎年の成長を楽しみにしながら

おばあちゃん
これからも長生きしてくださいね!

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作者 河村 照円さん
 
住職をされている異色の税理士さんです。
照円さんは、この作品そのものの人柄です。
照円さんのホームページをご覧下さい。
ブログもあります。





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